映画「クララ・シューマン 愛の協奏曲」 ~ブラームスをめぐって
評価:B-
原題は"Geliebte Clara"、「愛しの人、クララ」といったところだろうか。テアトル梅田にて鑑賞(大阪は単館上映)。公式サイトはこちら。
大作曲家ロベルト・シューマンの妻で、名ピアニストでもあったクララを主人公に、ヨハネス・ブラームスとの交流を絡めて描く音楽映画。ドイツ・フランス・ハンガリーの合作。監督・脚本はヘルマ・サンダース=ブラームス(女性)。名前から分かる通り、ブラームス家の末裔である。シナリオ作りにあたり様々な資料を読み、ロベルトとクララのひ孫にも取材したという。
ヨハネス・ブラームスを演じる役者(マリック・ジディ)がイイ男過ぎるのではないかとか、ヨハネスとクララの関係を美化しているのではないかとか、突っ込み所は色々ある。しかしそれはまあ、ご愛嬌。ブラームスは逆立ち歩きが得意だとか、シューマンがアヘン中毒だったとか、交響曲 第3番「ライン」初演時に幻聴に悩んでいたロベルトに代わりクララがリハーサルで指揮、本番でもふたりが二人羽織のようにして指揮するエピソードなど初めて知ることが多く、すこぶる面白い。クラシック音楽(浪漫派)ファンなら必見。
ロベルトがデュッセルドルフの音楽監督に招聘された1950年(その翌年に「ライン」初演)を軸に物語は展開する。ブラームスがシューマン家を訪れるのが1953年。この時、彼は20歳。クララ・シューマンは34歳だった。実際にクララが相当な美人であったことを予備知識として知っておくと、映画をさらに一層愉しめるだろう。
これが結婚当時の肖像画。クララの父フリードリヒ・ヴィークは娘に対する独占欲が強く、ロベルトとの交際を禁止、クララのコンサートでふたりを中傷するビラを配ったりして激しい妨害工作を行った。結局クララとロベルトはフリードリヒを相手取って裁判を起こし、勝訴する(このエピソードは映画には出てこない)。
上の写真が1950年に撮影されたロベルトとクララ・シューマン。
映画はクララが演奏するシューマン/ピアノ協奏曲(1846年初演)を若き日のブラームスが聴いているところから始まり、ロベルトの死後、今度はクララがブラームス/ピアノ協奏曲 第1番(1859年初演)を弾いているのを目に薄っすら涙を浮かべながら聴いているブラームスの姿で幕を閉じる。
ブラームスは生涯独身を通した。僕は本作を観ながら、彼の音楽が(20年掛けて作曲した交響曲 第1番を唯一の例外として)常に憂愁と諦念に彩られているのは、ブラームスが(決して結ばれることはない)クララを愛し続けたことに理由があるのではないかという気が、ふとした。
全体として映画の出来は良いが、時代考証に一部疑問を感じた。まずオーケストラのチェロ全てにエンドピンが付いていたこと。バロック・チェリスト鈴木秀美さんの著書によると、エンドピンが一般化するのは19世紀末とのこと。また、オケの弦楽奏者たちが恒常的ヴィブラート(continuous vibrato)を掛けて演奏しているのも明らかにおかしい。ヴァイオリンにおけるヴィブラート技法を確立したのはイザイ(1858-1931)であると言われており、ロベルト・シューマン(1810-1856)の時代よりも後である。
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