上方落語協会/彦八まつり「噺家ザ・ムービー大上映会」
9月6日(日)、兵庫芸文でコーラスラインを観た後、彦八まつりへ足を向けた。
彦八まつりは毎年、上方落語協会主催により生國魂神社(いくたまさん)で行われているお祭りで、今年が19回目。桂あやめが実行委員長を務めた。
お天気に恵まれ、まるで真夏のような暑さ。会場内には鶴瓶茶屋、福笑茶屋など落語家達の名前を冠した屋台が並び、そこかしこで生ビールや軽食等を売っている。
ビールで喉を潤し、食べ物もいくつか購入。期待はしていなかったが意外にも文枝茶屋の焼きうどんがいけた。上方落語四天王のひとり、故・桂文枝が唯一、弟子にふるまった手料理だそうだ。細いうどん麺だけを炒め醤油味に仕上げ、その上に目玉焼き(サニーサイドアップをヘラで半分に畳んだもの)を乗せただけの、全く質素で単純なもの。なのに何故かいける。
また、丁稚カフェ(あやめ・遊方・染雀)では落語「青菜」に登場する”柳陰(やなぎかげ)”を出していた。みりんに焼酎を加えて作った飲み物のこと。甘ったるくてそれほど美味しいものではないが、それもまた一興。
屋台では揃いの浴衣を纏った若手落語家達が働き、高座でよく見る落語家達とすれ違う。屋台をひやかしているだけでも、愉しめる。
さて、日が暮れてお目当ての映画を観る。
まずは伝説の無声映画「噺家王アルカリキッド」1・2の上映。桂雀三郎が昔やっていたアルカリ落語の会から立ち上がった企画。1989年製作の8mm無声映画。伊丹映画祭・グリーンリボン賞(自主製作特撮・娯楽フィルムコンテスト)銅賞受賞。主演はもちろん雀三郎でヒーローの助手が桂あやめ。それぞれ1《豚(とん)で火に入る豚の巻》を雀三郎、2《人情うどん玉兄ちゃんの巻》をあやめが活弁を担当。アングラ(underground)なノリで、いかにも手作りな味わいがあり可笑しかった。特に最高だったのは2で登場した笑福亭福笑。シャブ中でシャブ入りうどんを貪り喰う姿に笑い転げた。落語作家・小佐田定雄が女装して登場したのにも意表を突かれた。
その後、桂あやめ脚本・監督の「あなたのためならどこまでも」。8月23日にクランクイン、4日間で撮り終え前日に音入れしたばかりという出来たてのホヤホヤ。その割には非常に丁寧な仕上がりで、出来の良さにびっくりした。評価はB。
主役は月亭八光が演じる噺家。一年に一度くらいしか高座に上がらないその師匠・笑福亭鶴瓶(なんとアフロヘアで登場)を上方落語協会会長にするために奔走する噺。八光の兄弟子がストリートミュージシャンとして糊口を凌ぐ月亭遊方。ギターを抱え橋の上で歌っている立ち姿が妙にはまっている。その"ダブルブッキング"という曲はあやめ作詞、遊方作曲とのこと。
邪ん気(ジャンキー)一門として登場する笑福亭福笑がまたまたアブナイ雰囲気で怪気炎を上げ、麻呂一門の師匠として雅楽を演奏しながら登場する桂米輔の浮世離れした公家言葉とか、横から主人公に嫌みな突っ込みを入れる桂九雀とか、もう大爆笑。適材適所、あやめ監督の絶妙な配役が光る。
そして最後は笑福亭福笑(with ヒロポンズ・ハイ)が歌う「上方ロックンロール」で盛り上がり幕となった。
これは落語ファンならば必見。ただ尺が1時間弱と短いためか尻切れトンボの印象が残ったのは些か残念だった。会長選挙に勝ち、高座に上がり久々に落語を披露する鶴瓶師匠のショットは最後に必要だったのではないだろうか。多分、超多忙な鶴瓶さんだから、スケジュールが取れなかったんだろう。追加撮影とかどうでしょう、あやめ監督?
上の写真は上映後、舞台挨拶をする出演者たち。あやめ、文福、坊枝、生喬、春野恵子(東大出身の浪曲師)らの姿が見える。次回の上映は未定だが、映画上映+落語会といった形で繁昌亭でも披露したいとあやめ監督の弁。
この後、神社中央のステージでフィナーレの挨拶があった。実行委員長の桂あやめ、会長の桂三枝、副会長の笑福亭鶴瓶が登場すると会場は大いに沸いた。なお、鶴瓶さんは主演した映画「ディア・ドクター」がモントリオール国際映画祭で上映され、その舞台挨拶を現地でして帰国後直ぐに駆けつけられたようだ。
来年の実行委員である桂ざこばも片手に酒のコップを持って舞台に上がったのだが、もうベロベロで、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする鶴瓶との絡みが最高に可笑しかった。
ざこばが酒を床に置こうとすると鶴瓶に「にいさん、埃が入りますからそんな所に置くのはやめとき」と言われ「人間も埃みたいなもんや!」と一喝、じゃあと酒を取り上げて他の人に持ってもらうように言うと「お前が持てばええやろ!俺の酒、持ちたないんか!」と言いたい放題。しまいには「俺の事どう思っとるんや」とキスを求める。またそれに律儀に応える鶴瓶も可笑しい。
最後は桂三枝・上方落語協会会長にもキスを強要するざこば。嫌々応じた会長の感想、「意外とざこばさんの唇はやわらかかった」
そんなこんなで、笑いの絶えない愉快な一日であった。
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