大阪クラシック7日目、朝5時45分に起きて大阪市役所へ。最終《第100公演》の整理券を確保するためである。初日よりも列の伸びが早い。それでも指定席券を無事手に入れた。配布開始の8時過ぎには立ち見券を含め予定枚数終了。
《第87公演》@大阪市役所正面玄関ホール、11:00-
この公演は演奏中の撮影、フラッシュも可とアナウンスされ驚いた。
写真左からフルートの榎田雅祥さん、ヴァイオリンの佐久間聡一さん、チューバの川浪浩一さん、クラリネットの金井信之さん、そしてワーグナーテューバ(通常はホルン)の村上哲さん。
まずは皆で記念撮影。
この企画、大阪クラシックの開催2ヶ月前にオケの練習場に張り出された日程表には「川浪さんとデュエットやりたい人、募集中!」とだけ書かれていたそうである。その呼びかけに集まったメンバーが上記面々というわけ。大フィルの楽員は給料が一律なので、たまにはチューバにも頑張ってもらい、機会均等にしようというのがこの「川浪さんを可愛がる会」の趣旨。実は前日にプラウの協奏曲を吹いてスポットライトを浴びた川浪さんは美酒に酔い、明け方の午前5時まで飲んでいたそうである。
まず佐久間さんと川浪さんでなんと!氷川きよしの演歌。演奏が終わると、直ぐに佐久間さんは13時から《第90公演》のあるスターバックス コーヒーへと向かう。
お次は榎田さんが登場し、バッハ/インベンション 第8番とモーツァルトが8歳の時に作曲したピアノ・ソナタを演奏。
そして村上哲さんとのデュオでスコット・ジョップリン風ラグタイムを4曲。
最後は金井さんとピーター・シックリー/Little Suite for Winter(冬のための小さな組曲)。これは全5曲で構成され、
- Fantasia(幻想曲)
- Blues Bounce(跳ねるブルース)
- Lullaby(子守歌)
- Rondo(5拍子の輪舞曲)
- Traveling Music(旅の音楽)
スウィングしてJAZZY、とっても粋な曲だった。シックリーについてはP.D.Q.バッハの記事で触れた→こちら!なんだか愉快な作曲家である。
アンコールは川浪さんが柔軟な肉体を披露しながらの「ラジオ体操」だった。
《第91公演》@大阪弁護士会館エントランス、13:30-
曲目は、
- バーバー/弦楽四重奏曲 第1番
- ハイドリッヒ/《ハッピー・バースデイ》変奏曲
- 秋元康、見岳章/川の流れのように(アンコール)
バーバーは前から生で聴きたかった曲。この第2楽章が後にアレンジされ「弦楽のためのアダージョ」になった。気高く峻厳な音楽。第2楽章は夜のしじまの如く清浄で、哀しみの深淵を静かに覗き込むような佇まいがある。凄く良かった。
そして誰もが知っている"Happy Birthday to You"のメロディを変奏曲に。ハイドン風、モーツァルト風、ドヴォルザーク風、ジョップリンを思わせるラグタイム風、ハンガリー風(チャールダーシュ)など面白い。
《第94公演》@カフェ・ド・ラ・ペ、14:30-
原田愛(ピアノ)、佐久間聡一(ヴァイオリン)、吉田陽子(ヴィオラ)、石田聖子(チェロ)で、
メランコリー漂い、劇的な名曲。
佐久間さんはこの日も全部で4公演に出演。吉田さんが「佐久間君は人気者だからあっちこっちに引っ張りだこで、漸く共演出来ました」と。アンコールはサプライズで9月2日に27歳の誕生日を迎えた佐久間さんに"Happy Birthday to You"。そして吉田さんが佐久間さんにソロで1曲とリクエストし、マスネ/タイスの瞑想曲。最後は譜めくりを担当していたピアニストの林直美さんも連弾に加わり、全員でブラームス/ハンガリー舞曲 第5番。盛り沢山で愉しかった。
《第97公演》@中之島ダイビル、17:00-
邊見亜矢、川瀬礼実子(フルート)、廣澤敦子(メゾ・ソプラノ)、池村佳子(チェロ)で、
- ルーセル/ロンサールの2つの詩(1.私の愛しいうぐいすよ 2.空、大気、風)
- ハイドン/ロンドン・トリオ
- J.S.バッハ/「マタイ受難曲」より(1.レスタティーヴォ 2.アリア)
こんな組み合わせを聴けるのも、大阪クラシックならではだろう。ルーセルなんて、大阪じゃ滅多に聴けない。
《第98公演》@カフェ・ド・ラ・ペ、18:00-
マウロ・イウラート(ヴァイオリン)、ジュゼッペ・マリオッティ(ピアノ)で、
- フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調
- エルガー/愛の挨拶(アンコール)
- シューベルト/アヴェ・マリア(アンコール)
このふたりはイタリア出身。ウィーン国立音楽大学で知り合い、UniDuoを結成した。正直、ピアノは日本人にもっと巧い人が沢山いるんじゃないかと想ったが、ヴァイオリンの腕は確かだった。雄弁で、よく鳴っている。
フランクのソナタは、名ヴァイオリニスト&作曲家であるイザイの結婚祝いとして作曲され、献呈されたもの。第1楽章はエレジー(悲歌)。第2楽章は情熱的(passionate)で、第3楽章は夢の中を漂うよう。そして第4楽章は思う存分、春を謳歌する。何度聴いても胸に沁みるなぁ……。
《第100公演》@三菱東京UFJ銀行 大阪東銀ビル、20:00-
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団(ヴァイオリン・ソロ:長原幸太)で、
- コープランド/リンカーンの肖像
- リムスキー=コルサコフ/シェエラザード
「リンカーンの肖像」は大阪の平松市長が登場。昨年に続きナレーションを担当された。元アナウンサーだけに熟(こな)れたもので、オーケストラとの相性も抜群。コープランドによる如何にもアメリカらしい、明快で都会的、色彩豊かなオーケストレーションも実に魅力的。
「シェエラザード」の第1楽章は音のうねりが大海の波濤を見事に表現。力強い第2楽章を経て、第3楽章は息の長い旋律をじっくりと歌う。まるで王子と王女がゆったりと踊っているかのよう。考えてみればこの曲はジーン・ケリーが監督・振り付け・主演をしたミュージカル映画「舞踏への勧誘」でも使用されていたなぁと想い出した。第4楽章はバグダッドの祭りから激烈な嵐の音楽へ怒濤の展開。そして暴君シャリアール王の怒りがシェラザードの語りで次第に鎮まっていく様子が克明に音で描かれる。大植/大フィルのコンビは万全の表現力。文句なし!
大植さんから今年のテーマが何故"B"であったのか種明かしがあった(上の写真)。公演数の"100"という文字をバラバラにして置き換えると"B"になるというわけ。また大阪クラシック最多出演となった吉田さん(何と18公演!)に大植さんから労(ねぎら)いのBeefが贈られた。
さてアンコール。まずは星空コンサートのリハーサルで演奏されたが、本番は雨のためカットされたジョン・ウィリアムズ/「スター・ウォーズ」のテーマ。そして大阪クラシックや星空コンサートでお馴染み、「夕やけこやけ」「七つの子」「ふるさと」(山本直純 編)を大フィルをバックに会場の人々が大合唱。最後は聴衆の手拍子と共に「八木節」(外山雄三/管弦楽のためのラプソディ より)で〆。
以前聴いた大フィルの「スター・ウォーズ」と比較し、今回の演奏は遥かに上手くなっていたので驚いた。弦の音色は深みを増し、管は輝きを帯びてきた。結局この大阪クラシックというイヴェントは、市民のためのものであると同時に、大フィルの楽員にとって修練の場でもあるということなのだろう。室内楽を演奏するということは個人個人の音がしっかりと聴衆の耳に届く。だから皆、本気で練習する。大勢の人々から喜ばれれば、やる気も出る。ゆえに技術も向上する。大植英次、なかなか侮れない策士である。
大阪クラシックを聴きに来た人々は初年がのべ2万2千人、2年目が2万8千人。3年目が約3万7千人だった。そして4年目の今年、大植さんの発表では5万690人に膨れ上がったそう。公演数は初年の50から倍になり、動員数は2倍をはるかに上回っているのだから凄い。
本当に愉しくて、夢のような一週間であった。大植さん、大フィルの皆さん、ありがとう!
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