「崖の上のポニョ」全米公開と、ジョン・ラセターの憂鬱
宮崎 駿監督の「崖の上のポニョ」がディズニーの配給により8月14日に全米公開された。上映館数はこれまでの宮崎アニメで最多となる927館。
英語版の吹き替えは宗介の父親が「ボーン・アルティメイタム」のマット・デイモン、ポニョの母が「エリザベス」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」のケイト・ブランシェット、父親が「シンドラーのリスト」「スター・ウォーズ エピソード1」「バットマン・ビギンズ」のリーアム・ニーソンと超豪華である。はっきり言って日本語版の所ジョージなんか最悪だったから、むしろアメリカ版の方が良いかも。ブルーレイは北米版を買おっと。
アメリカ主要紙の評価は軒並み高い→こちら。ニューヨーク・タイムズがAで、低くてもBまで(ちなみに僕の評価はA+。公開当時のレビューはこちら)。
有名な映画評論家Roger Evertのレビューは手放しの絶賛である。以下一部引用してみよう。
This poetic, visually breathtaking work by the greatest of all animators has such deep charm that adults and children will both be touched.
(全てのアニメーターの中でも最も偉大な人物の手で創作された、この詩的で視覚的に息を呑むような仕事は深い魅力を持ち、大人も子供も感動することだろう)Miyazaki is known as the god of American animators, and Disney has supplied “Ponyo” with an A-list cast of vocal talents.The English-language version has been adapted by John Lasseter and, believe me, he did it for love, not money.
(宮崎駿はアメリカのアニメーターの間で神として崇拝されており、ディズニーは「ポニョ」に対してAクラスの声優陣を配した。英語版はジョン・ラセターの手で製作され…そして僕を信じて欲しい…彼はお金のためではなく、愛ゆえにそれを成し遂げたのである)
「崖の上のポニョ」はきっと来年のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされるだろう。現在、ディズニー(およびピクサー・アニメーション・スタジオ)のチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるジョン・ラセターにとっては頭が痛い話である。なぜならピクサーの新作、「カールじいさんの空飛ぶ家」(公式サイトはこちら)とオスカー対決をしなければならないからである。
ディズニーに復帰する前からピクサーの監督兼、製作チームのトップを長年務めてきたラセターは熱烈な宮崎アニメ・ファンである。最初、完成したばかりの「ルパン三世 カリオストロの城」を観て魅了された彼は1980年代から宮さんと交流を深め、「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」の北米公開に尽力してきた(英語吹き替え版はピクサーが担当)。そしてその友情の記録は「ラセターさん、ありがとう」という一本のDVDとなった。
「カールじいさんの空飛ぶ家」についてのインタビューで、ラセターは「すべてのピクサー作品が宮崎作品へのオマージュ」であると断言し、宮崎アニメを参考にして静かな場面を大切に「カールじいさん」の物語を組み立てたと語っている。
ラセターは「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」がアメリカで公開された年、ピクサーの新作を発表せず、アカデミー賞での直接対決を避けてきた。自ら監督した「カーズ」の時なんか、わざわざ公開を翌年に延期したくらいである。これはピクサーが賞を欲しいからしたことではない。敬愛する宮崎作品と競うということは彼にとって耐え難いからである。
しかし今やディズニーのトップにまでなってしまった以上、もうそういうわけにはいかない。ディズニーは年末に、音楽に溢れたセル画アニメーションの復活を高らかに宣言する新作"The Princess and the Frog"(オフィシャルサイトはこちら、予告編はこちら)の公開を控えている。予告編を観る限り、こちらも大変力の入った素晴らしい作品に仕上がっているようだ。
来年のアカデミー賞は「カールじいさんの空飛ぶ家」、"The Princess and the Frog"そして「崖の上のポニョ」というディズニーが配給する3作品が三つ巴の闘いを繰り広げることになるだろう。どれが受賞してもラセターにとっては嬉しいような、心が痛むような、複雑な心境なのではないだろうか?
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