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保科洋「風紋」管弦楽版 初演!/保科アカデミー室内管弦楽団

8月15日(土)、保科アカデミー室内管弦楽団”アンサンブル=ハルモニア”創立15周年記念特別演奏会を岡山シンフォニーホールで聴いた。

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作曲家・保科 洋さんは40年以上に渡り、岡山大学交響楽団の常任指揮者としてオーケストラを育ててこられた。その教え子たちが、秋山 隆さんを中心として結成したのが保科アカデミー室内管弦楽団である。殆どが社会人のアマチュア・オーケストラだが、一部現役大学生も参加している。

今回の指揮は秋山 隆さん(プログラム前半)と保科 洋さん(「悲愴」およびアンコール)。お二人とも暗譜であった。

曲目は、

  • 保科 洋/「風紋」(原典版)管弦楽版 初演
  • 保科 洋/管弦楽のための変奏曲
  • チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」
  • (アンコール)保科 洋/管弦楽のための「懐想譜」  

「風紋」は1987年の全日本吹奏楽コンクール課題曲。今でも絶大な人気を誇り、つい先日放送されたテレビ朝日「題名のない音楽会」の吹奏楽曲人気ランキングでは第5位にランクインした(この曲が演奏された故だろうか、岡山シンフォニーホールには中高生らしき集団が20人くらい詰めかけていた)。課題曲なので5分程度に収まるようカットされていたものを、当時のスケッチを元に改訂されたのが1999年の原典版(original version)。それがさらに管弦楽用に書き直されて今回の初演となった。演奏時間は約8分。

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僕は吹奏楽オリジナル版の「風紋」が大好きなのだが、ヴィオラ・チェロ・コントラバスによる風のうねりに乗って、ヴァイオリンがたおやかな主題を奏でる冒頭部からオーケストラ・バージョンも一気に魅了された。何と美しい音楽であろうか!元々オーケストラのために書かれたのではないかと錯覚するくらい耳に馴染み、心に沁みた。これは今後プロのオーケストラの重要なレパートリーとしても定着していくだろう、いや、そうなってもらわなければ困る。

保科 洋という作曲家は日本の楽壇において、今まで不当な評価しか受けてこなかったように想う。その理由を僕なりに考えてみると、

  1. 調性音楽を守ってきたその姿勢が、シェーンベルクの十二音技法発明以降、調性を否定した音楽が主流となった20世紀において「古めかしい作風」と見なされたこと。
  2. 主にアマチュアの学生たちを主体に活動され、しかも岡山という地方都市であったため、日本の文化的中心地=東京にまでその成果が伝わりにくかったこと(ザルツブルクのモーツァルトや、ボン生まれのベートーヴェンだって、大都会のウィーンに出てきた)。

等が挙げられるだろう。しかしエーリッヒ・ウォルフガング・コルンゴルトやニーノ・ロータの音楽が再評価され、調性音楽の復権が顕著になっている現在、保科 洋も”再発見”されるべき作曲家であると僕は確信する。

管弦楽のための変奏曲は1998年に岡山大学交響楽団定期演奏会のために書き下ろされたもの(初演の指揮も秋山 隆さん)。その翌年、大阪市音楽団によるCD「保科洋作品集」のために吹奏楽版も編作された。テーマと5つの変奏、そして終曲から成る(吹奏楽版は第2変奏をカット)。保科さんの親友である兼田 敏さん(現在は原田学園鹿児島情報高等学校を指揮されている屋比久 勲先生が十八番にされている「吹奏楽のためのパッサカリア」が何と言っても有名)への哀歌として作曲された。終曲はあたかも”葬送行進曲"のように荘重に響く。僕はプロコフィエフ/バレエ音楽「ロミオとジュリエット」〜”ティボルトの死”とか、ウォルトン/映画音楽「ハムレット」の葬送行進曲などを連想しながら聴いた。

オーケストラに関しては特に弦の音色が素晴らしかった。秋山さんの指揮も明晰で、特に「風紋」の序奏部ではppからpまで強弱の微妙な違いが鮮明に耳に聞き取れる、繊細な演奏であった。

保科 洋さんが指揮する「悲愴」は昨年末、大阪のザ・シンフォニーホールで岡山大学交響楽団による演奏を聴いたが、その時は正直言って学生オケにこの曲は荷が重すぎると僕には感じられた。特に第4楽章は作曲家の絶望から虚無感に至る”慟哭の音楽”である。死とは無縁の青春まっただ中に生きる若い彼らに、この世界を描くことは到底無理な話であり、これがアマチュア・オーケストラの限界なのかなと想った。

しかし今回、保科アカデミー室内管弦楽団の演奏を聴いて、相当異なる印象を受けたので驚いた。ちゃんと第4楽章で《孤独》、《生きることの哀しみ》、《死の受容》といったもろもろの感情が伝わってきたのである。それは楽員の技術的高さと共に、彼らが今まで培ってきた人生の喜怒哀楽がしっかりとそこに反映されているからではないかという気がした。大変聴き応えのある「悲愴」であった。

保科さんの解釈も岡大オケの時より更に熱を帯び、勢いがあった。特に第1楽章展開部では余りの激しい指揮ぶりにタクトが吹っ飛んでしまうという、微笑ましいハプニングも。学生オケの時は手加減していた音楽表現を、このオーケストラではより自由自在に出来るという歓び、信頼で結ばれた師弟の絆がそこに感じられた。

アンコールの「懐想譜」は兵庫教育大学定年退官に際し、同大学吹奏楽部との懐かしい想い出を振り返りながら作曲されたもの。まるでディーリアスのTone Poem(音詩)のような、優しくてどこか懐かしい音楽である。この曲はYou Tubeで動画が見れる→こちら!指揮は秋山さん。今回アンコールで指揮されたのは作曲家本人である。

また30ページの分厚いプログラムと共に、保科さんが執筆された20ページに及ぶ冊子「楽曲分析と演奏解釈 ~「悲愴」「風紋」を例として~」が付いてきた。

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「のだめカンタービレ」の用語で言えば、《アナリーゼ》といったところだろうか。とても高度なことが書かれていて、含蓄のある音楽論となっている。吹奏楽をする人にとっても「風紋」を演奏する上で、とても参考になるだろう。

今回のコンサートと同一プログラムで、すみだトリフォニーホールにおいて東京公演が8月29日(土)に開催されるとこのこと。東京公演に関する公式サイトは→こちら

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コメント

 こんばんは、拙ブログへリンク頂きありがとうございます。
 雅哉さんの演奏評、そして保科先生の楽壇における位置について、拝見し、思わず膝を打って、同意いたしました。

 岡大オケは京大や早稲田、慶応ワグネルと違って、(保科先生を慕って入団してくるブラスセクションはともかく)まさに楽器を手にしたことも無い素人がどんどん入団してくるような普通の地方大学のオケ。そんな素人を一から鍛え上げ、体系的な理論を授け、卒業前には一人前の演奏に仕上げてくる。腕に覚えのある卒業生は、その後も自主的に集まり、師の作った天下の名曲を、師に見守られながら演奏する・・・
 そうした活動を間近で拝見していると、実は保科先生は本当に幸せな音楽人生を送っておられるのではないかと思ったりします。

 それにしても、『風紋』の管弦楽編曲は素晴らしいものでした。プロフェッショナルな方々も動いているようですから、ぜひ、日本のオーケストラで保科管弦楽作品集を残して欲しいです。

投稿: ヒロノミンV | 2009年8月17日 (月) 23時04分

ヒロノミンVさん、コメントありがとうございます。

保科さんと岡大オケの蜜月が44年。これは丸谷明夫先生と淀工の関係に良く似ています。ただ吹奏楽の場合、全日本吹奏楽コンクールという大舞台がありますが、学生オケにはそういうコンクールが現在なくなってしまい、指導者としての保科さんの成果が正当に評価される場がないということがとても残念に想われます。

投稿: 雅哉 | 2009年8月18日 (火) 00時19分

この記事で貴ブログに出会いました。

 私も同じ時間を共有した者です。
 最近では,LastFMにアップされている当日のライブ録音をダウンロードして,通勤中の車の中で聴いています。
 アマチュアの演奏は,概してその場では感動しても,録音したものを聴いていると,あらばかりに気がつきどんどん色あせてくるものですが,この演奏は違います。何度も聞いています。
 当日感じたあの完成度の高さと演奏のすばらしさが本物だったのだと改めて感じています。

投稿: konbass | 2009年10月20日 (火) 00時03分

konbassさん、はじめまして。

「風紋」管弦楽版がどんどん普及して、色々なオケで(プロもアマも!)演奏されるようになったらいいですね。

これからも、どうぞ宜しく。

投稿: 雅哉 | 2009年10月21日 (水) 01時18分

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