大阪クラシック 2009 開幕!/熱狂の日、4年目へ
大植英次プロデュース「大阪クラシック」は今年で4年目を迎えた。第1回は7日間で50公演。2年目が60公演、3年目が65公演。そして今回何と!100公演へと増殖した。1年目は1日で8公演全部廻るという芸当が出来たものだが、もはやスケジュールも重なっているし、瞬間移動の能力でもない限り物理的に不可能である。
上の写真は朝8時、《第1公演》の整理券を貰うために市役所玄関前までずらっと並ぶ人々の列。先頭の若い女性はなんと、A.M.5時に到着したとか。
その《第1公演》は三菱東京UFJ銀行・大阪東銀ビルで大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバー+大阪音楽大学+相愛大学。大フィルと共演したのは初年と3年目が相愛大学の学生オケで、2年目が大阪音楽大学のみだったから、この2つが合同演奏するのは初めてだろう。
昨年及び一昨年、大植さんは会場を提供した三菱東京UFJ銀行に感謝の言葉を述べた後、「僕もここに口座を開設します!」と仰っていたが、今年は「口座を開きました!」とカードを見せた。
平松市長も登場。
「時々市民の方々から声を掛けられるんです。『平松さん、(財政が破綻した)大阪の市長になって何もいいことがないでしょう』と」ここで会場から笑い。「でもそんなことはありません。この《大阪クラシック》があるじゃないですか!」やんややんやの大喝采。
ここで大植さんから市長へ、恒例となったネクタイのプレゼント。「賄賂じゃありませんから!」今年は《水都大阪2009》プロジェクトにちなみ、水色のネクタイが贈られた。
曲目は、
- メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」
- チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」より”行進曲”、"金平糖の踊り”、”ロシアの踊り(トレパック)”、”あし笛の踊り”、”花のワルツ”
今年のテーマは"B"。まずフェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(Bartholdy)という名前と、大植さんがプロとして初めて聴衆の前で指揮したのがこの序曲で、初心(Beginning)に帰るという意味が込められているのだそう。チャイコフスキーはバレエ(Ballet)音楽ということで。
「フィンガルの洞窟」は冒頭の弦のうねりから海の情景が目に浮かび、しなやかでデリケートな表情が魅力的。色彩豊かなパレットで鮮やかに描かれていく。
スリムになって指揮台での動きが敏捷になった大植さん、「くるみ割り人形」ではまたまたジャンプも飛び出した。強弱のニュアンスを大切にした音楽は生き生きと弾み、軽やかで華やかな舞を舞った。
アンコールはノリノリの”トレパック”が繰り返され、聴衆も手拍子で参加した。
《第5公演》は同じ場所で管楽器の演奏。開場前に並んでいると大植さんが現れて、列の一人ひとりと握手を交わされた。600席の会場は大入り満員。
- ペーツェル/金管五重奏のための「40のソナタ」より4曲
- プーランク/フランス組曲
ペーツェルはTp 2+Tb 3という編成。「今年のテーマとの関連は全員がB管ということで」
プーランクはそれにオーボエ2、バスーン2、パーカッション、チェンバロが加わった。大変珍しい曲で、これを生で聴く機会は今後一生ないかも知れない。16世紀フランスの作曲家クロード・ジェルヴェーズの舞曲を基にプーランクがアレンジしたもの。旋律は古(いにしえ)の味わいがあって、和声は近代20世紀の響き。時代を超えた握手。こういった作品が聴けるもの大阪クラシックの愉しみである。
《第6公演》は相愛学園本町講堂にて。
- フンメル/ピアノ五重奏
フンメルはベートーヴェンと同時代の作曲家。劇的な音楽で、ピアノ(浅川晶子)があたかも協奏曲のように大活躍する。これを聴く機会も滅多にないことなので貴重な体験をさせてもらった。
《第9公演》は三菱東京UFJ銀行に戻り、フルート四重奏。約8割の入り。
- クーラウ/グランド・カルテット
- カステレード/「笛吹(たち)の休日」〜第4楽章「軽快な笛吹き」
クーラウ(1786-1832)はかつてベートーヴェン(ここでBが登場)と会い、即興のカノンを交換したことがあるそうだ。しかし火災に遭い、楽譜は焼失してしまった。第1、2楽章は大フィル主席の野津臣貴博さんが1stで榎田雅祥さんが4th、第3、4楽章はそのパートが交代となった。アンサンブルの愉しさを満喫。
《第10公演》はカフェ・ド・ラ・ペ。満席。
- メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲 第1番
- シューベルト/楽興の時(アンコール)
メンデルスゾーンが書いたメロディアスなこの楽曲は昔からとても好きだ。中西朋子さんのヴァイオリン、石田聖子さんのチェロが力強く雄弁に鳴り、生で聴く醍醐味を味わった。
《第13公演》は相愛学園本町講堂で、
- ベートーヴェン/弦楽四重奏 第6番
佐久間聡一さんのヴァイオリンは切れがあり、畳み掛けるような気迫があって素晴らしい。それをヴェテランのビオラ奏者、岩井英樹さんがしっかりと受け止める。往年のアルバン・ベルク弦楽四重奏団を彷彿とさせる演奏だった。大阪クラシックを機会に結成され今年で3年目。岩井さんによると、同じメンバーで11月にコンサートが企画されているそうだ。
さて、この日唯一の有料(500円)でチケットが即日完売した《第14公演》は長原幸太さんのソロ(無伴奏)ヴァイオリンで会場はザ・フェニックスホール。
- J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第3番
- イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番
- 松下 功/マントラ
- ミルシテイン/パガニーニアーナ
ガット弦を張ったピリオド楽器でバッハを弾くのが当たり前になった現代、スチール弦のモダン楽器でこの大作曲家に挑むのは大変勇気がいる事である。特に問題となるのがヴィブラートをどう掛けるかという難題である。
ロマン派以降の奏法で無自覚に弾いてしまうと、厚化粧の下品なバッハに成り下がる。その典型例が先日、大フィル定期に登場したクリストフ・バラーティである(その時の僕の感想はこちら)。逆にノン・ビブラートを貫くと、スチール弦特有の金属的響きが耳障りとなる。結論から言えば、長原さんのバッハはヴィブラートが過剰になることなく絶妙な匙加減であった。お見事!昔の彼の演奏は攻撃的でギスギスしたところがあったが、最近はその尖った角が取れて丸みを帯びてきた。響きが柔らかくなり、そこに音楽家としての成熟が感じられる。
イザイのソナタはバッハ/パルティータ 第3番の引用から始まる。ここらが今回のプログラムの妙である。そして全楽章にグレゴリオ聖歌「怒りの日」が登場。ダイナミックな熱演だった。
「マントラ」では譜面台が5つ用意され、それが客席方向から見て逆V字に配置される。その頂点からスタートし、ソリストが譜面台をジグザグに移動しながら(最後は中央で)演奏するというユニークなスタイル。移動するごとにリズムが変化し、テンポ・アップする。東洋的響きがあり、すこぶる面白い。
長原さんによると昨冬、大フィル企画営業室長の今田さんと飲んでいて「大阪クラシック初日のトリでフェニックスホールを押さえました。長原さん、是非パガニーニ/24の奇想曲全曲を演って下さい!」と言われ、その時は酒の勢いで「いいよ」と言ってしまったとか。しかし準備が間に合わず、プログラムが変更になったのでその代わり最後に「パガニーニアーナ」をしますと。パガニーニの様々な曲が投入された超絶技巧の小品。実に聴き応えのある演奏会だった。
大植さんがこの《第14公演》を最初から最後まで聴いておられ、長原さんが退場された後、聴衆から温かい拍手を浴びていた。正に大植さんあっての大阪クラシックだから。
こうして熱狂の日、第1日目の夜は更けていった。
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