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2009年8月14日 (金)

桂枝雀生誕70年記念落語会@サンケイホールブリーゼ

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8月13日は故・桂枝雀さんの誕生日。生きていれば70歳になるこの日、サンケイホールブリーゼで落語会があった。

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演目は、《昼の部》

  • 桂 紅雀/七度狐
  • 桂 雀松/マキシム・ド・ぜんざい(小佐田定雄 作)
  • 桂 南光/あくびの稽古
  • 笑福亭松之助/軒づけ
  • 桂 枝雀/道具屋(ビデオ出演)
  • お誕生会(想い出語る座談会)/イーディス・ハンソン、ざこば、南光、雀松、米團治、紅雀

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《夜の部》

  • 桂 紅雀/普請ほめ
  • 桂 雀三郎/ちしゃ医者
  • 桂 ざこば/厩火事
  • 桂 三枝/誕生日(三枝 作)
  • 桂 枝雀/時うどん(ビデオ出演)
  • お誕生会(想い出語る座談会)/三枝、ざこば、南光、雀三郎、米團治、紅雀

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紅雀さんの「七度狐」は《べちょたれ雑炊》の逸話がカットされ、「普請ほめ」は「牛ほめ」に至る手前で簡潔に終了。軽妙で、聴いていて心地良い。

雀松さんは気象予報士の資格を持っておられるそうで、落語会にも客席を笑いで暖かくしようとする高座からの空気と、客席の冷めた空気とが衝突する《前線》が「この辺り(と指し示す)」にあるというマクラが面白かった。会場には「マキシム・ド・ぜんざい」の作者である小佐田定雄さんの姿もあった。なお、小佐田さんは枝雀さんが演じた「ロボットしずかちゃん」(初演は英語落語)「幽霊の辻」「雨乞い源兵衛」「貧乏神」「茶漬えんま」の作者でもある。

雀三郎さんは相変わらず歯切れ、テンポが悪く全く笑えず。どうも僕はこの人の高座を好きになれない。

南光さんは巧みな話術で聴衆を魅了。《欠伸指南》をする先生の飄々とした雰囲気が愉しい。

三枝さんの「誕生日」は以前から聴きたかった噺。落語会の性質上、これが来るんじゃないかと実は期待していた(演目は事前に発表されず)。いやぁ、予想を上回る完成度の高さで大満足。

明石家さんまさんの師匠、松之助さんは今回初めて聴いた。現在84歳。プールに通い、ブログもされている(→楽悟家 松ちゃん「年齢なし記」)。高座への足取りはしっっかりされていて、実に若々しい。人生はまだまだ長い、と僕も元気をもらった。

それにしても出囃子《昼まま》とともに、ビデオで登場した枝雀さんの高座はやはり凄かった。特に「道具屋」はホールが怒涛のような笑いの渦に巻き込まれ、揺れんばかりだった。今まで何百席も落語を生で聴いてきたが、笑いのエネルギーがこれほどまでに沸騰し、爆発する様は正に未曾有の体験。枝雀という人は不世出の天才だったのだなぁと、今更ながら当たり前のことを再認識した次第である。

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座談会では当初、枝雀さんの師匠で人間国宝の桂米朝さんが出演される予定だったが、脳幹梗塞で現在入院中。よって、息子の米團治さんが代役を務められた(米朝さんは病室で会話も可能で、お元気だそうだが、今月一杯は休養されるとのこと)。

《昼の部》では先ず司会の南光さんが和歌山在住で枝雀さんと交流が深かったイーディス・ハンソンさんを紹介。ハンソンさんが椅子に腰掛ける。続いて登場したざこばさんは会場に頭を下げた後、ハンソンさんの後ろを廻って隣に着席。その後から登場した米團治さん、ハンソンさんとざこばさんの前を横切る。すかさずざこばさん、「前を通るか!」と一喝。南光さんが「和気藹々とした雰囲気が漂っています」と絶妙なフォロー??場内は大笑い。これで学習したのか米團治さん、《夜の部》ではざこばさんの後ろを通り着席した。これをジッと見ていたざこばさん、「また前を通ったら、蹴飛ばしたろか!と思てた」と。

ハンソンさんは枝雀落語の魅力について問われると、「吸われてしまう、引き込まれてしまうところ」だと仰り、とても印象的だった。

稽古の虫だった枝雀さん、ざこばさんが「兄ちゃん、何でそないに稽古が好きなんか?」と訊ねると、「稽古は嫌いやけれど、舞台に出るのが怖いから稽古をするねん」と答えが返ってきたそうだ。

三枝さんやざこばさん、そしてお弟子さんたちの証言が続く。客席に落語が受けていなくても、舞台袖で聴いている枝雀さんだけはワッハハと豪快に笑ってくれた。でも時に、「自分とはセンスちゃうなぁ!」と言って、ふといなくなってしまうこともあったという。考えの読めない不思議な人だったようだ。

また南光さんが最近発見されたばかりの”お宝”映像を見せて下さった。枝雀さんが27歳の時(まだ髪の毛がフサフサ!!)、朝日放送「きょうの世紀、あすの世紀」というテレビ番組(白黒)の中で披露した新作落語「20世紀」。舞台となるのは20世紀が始まったばかりの明治34年。「20世紀はどうなるでしょう?」「死なない薬が発明されるだろうな」と会話が続く。「もうこの世が嫌になって死にたくなったらどうします?首を吊りますか?」「そしたら機械が縄をプツンと切ってしまうな」「じゃぁ川に飛び込みますか?」……何だか枝雀さんの最後を連想させるようで、切なくなった。若い頃からこんなことを考えていたんだなぁ。

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会場ロビーには枝雀さんの写真や、《桂枝雀》襲名時の配りものなど貴重な品々が展示されていた。聴き応え、見応えたっぷりの一日であった。

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