笑福亭鶴瓶/映画「ディア・ドクター」(Dear Doctor)
評価:B+
西川美和 原案・脚本・監督。これを西川さん本人が小説化した「きのうの神様」は直木賞候補となった。映画公式サイトはこちら。
西川監督の前作「ゆれる」(キネマ旬報ベスト・テン第2位)は日本映画史に永遠に記憶されるであろう大傑作であった(映画公開当時の筆者のレビューはこちら)。はっきり言って「ゆれる」に比べると「ディア・ドクター」の質が多少劣ることは否めない。新作には突出したものがなく、オーソドックスな「良い映画」の範疇に収まっている。それは結局本作が、僻地医療や高齢化、尊厳死などの社会問題を扱っているからだろう。そういうジャンルを掘り下げていって導かれる結論は多くはなく、大方予想出来るからである。しかし今年の日本映画を代表する、丁寧に創られた秀作であることに変わりはなく、是非映画館でご覧になることをお勧めしたい。
笑福亭鶴瓶さんの演技が素晴らしい。特にあの、人なつっこい笑顔が印象的。村の人々が「先生、先生」と慕う姿にリアリティが感じられる。
また「ゆれる」のレビューにも書いたことだが、本作では井川遥の登場シーンで彼女の顔の皺とか肌の弛みをわざと強調し、醜く描いているところに、女性監督らしい、同性への容赦ない悪意を感じとても可笑しかった。
八千草薫が、眠れない夜に夫の遺した落語のテープを聴くシーンで(十代目)金原亭馬生「親子酒」と(八代目)三笑亭可楽の「立ち切れ」が流れる。これは鶴瓶さんのアドバイスを受け西川監督が選んだものだそうだ。古いラジカセのスイッチが突然切れるのと、「立ち切れ」の三味線の音が止まるのが一致しているのがお見事。
映画を観る2日前に、鶴瓶さんによる生の高座でその「立ち切れ」を聴いた直後だっただけに、現実と虚構がシンクロして深い感銘を受けた。
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