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秋山和慶/大フィル「ベルシャザールの饗宴」

ザ・シンフォニーホールで大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会を聴いた。指揮台に立ったのは秋山和慶さん。合唱は大阪フィルハーモニー合唱団九響合唱団

20090629194531

曲目は、

  • モーツァルト/交響曲第35番「ハフナー」
  • ディーリアス/音詩「春初めてのカッコウを聞いて」「川面の夏の夜」
  • ウォルトン/オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」

秋山さんは大変実力のある優れた指揮者であるが、音楽評論家とかクラシック愛好家には余り人気がない。その証拠に今回の演奏会について書かれたブログの記事数と、大植英次さんが指揮したときのそれを比較すれば一目瞭然であろう。

秋山さんと大植さんは同じ桐朋学園大学音楽部出身で、齋藤秀雄の門下生である。学生時代にホルンを吹いていたという共通点もある。しかし二人は指揮者の資質という点で全く異なっている。

大植さんは情熱家タイプ(主観的)で自分の感情を音楽にぶつけてゆくが、秋山さんはあくまで冷静で客観性を保つ。大植さんがテンポをかなり動かし自由度が高いのに対して、秋山さんはイン・テンポを守り微動だにしない。精密な体内メトロノームを有しておられる。演奏を通じ大植さんは自分自身を語り、秋山さんは音楽自体に語らせる

大植シェフの濃厚な(コテコテ)ソース味も美味しいが、そればかりだと食傷気味になる。たまには秋山シェフによるあっさり醤油味の和食もいただきたい。だから僕は理路整然として明晰な秋山さんの指揮ぶりもとても好きなのだが、それを多くの聴衆が「物足りない、面白みにかける」と感じる気持ちも分からなくはない。

さて「ベルシャザールの饗宴」である。この曲はカラヤンが「20世紀で最も優れた合唱作品」と賞賛したというエピソードが有名である。しかし、イギリス音楽に対して偏見を持っていた彼が積極的にウォルトンを演奏会で取り上げたとは到底信じられない(エルガーやヴォーン=ウィリアムズの交響曲をカラヤンがレコーディングしたことはない)。そ こで調べてみると、カラヤンがこの「ベルシャザール」を振ったのは生涯にただ一度、1948年6月12-13日ウィーン交響楽団 ・ウィーン国立歌劇場合唱団との演奏会だけであることが判明した。録音は勿論ない。またウォルトンの交響曲第1番も一度だけ振ったことがあり(1958年12月5日、ローマ放送管弦楽団)これは最近、ライヴCDが発売された(資料はこちらのサイトを参考にさせて頂いた)。

それにしてもド迫力のオラトリオだった。演奏時間は35分とコンパクトだが、大合唱団(今回は2団体合同)を要し、サクソフォンやパイプオルガンも加わる。オルガンの左右には7人ずつのバンダ(金管別働隊)。内訳は(トランペット3+トロンボーン3+テューバ1)×2。そのスケールの大きさはマーラー/千人の交響曲に匹敵するといっても過言ではあるまい(1988年9月26日フェスティバルホールで聴いたシノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団による千人の交響曲のことを想い出した)。

内容も大変充実したもので第1部が静かな曲想で嘆きの歌。第2部になるとバンダが大活躍し、飲めや歌えの大宴会!打楽器はどんちゃん騒ぎ、管楽器は豪快に吼えまくり、近代的な和声法を駆使した音のパノラマが目の前に広がってゆく。そして第3部は歓喜の大合唱。輝かしい響きでクライマックスを築き、興奮のうちにフィナーレを迎えた。これは確かにオルフ/世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」に匹敵する、20世紀の傑作中の傑作であろう。

(JAZZの語法も取り入れた)複雑なリズム、華麗なるオーケストレーションを怜悧な目で腑分けし、鮮やかに調理した秋山シェフの手腕、そしてそれに見事に答え潜在能力をフルに発揮した大フィルや合唱団の成果を大いに讃えたい。

LED(発光ダイオード)による日本語字幕付きだったのもありがたかった。是非、今度10月の定期で大植さんが振る「カルミナ・ブラーナ」でもやって欲しい。

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コメント

両記事を読ませて頂き大変勉強になりました。
35分鳴りっぱなしのような楽曲でしたが、大編成の割にはまとまりがあって聴きやすいオラトリオで
雨の中足を運んだ甲斐がありました。
でも聴くのは1年に1回で充分な感じ(笑)

>たまには秋山シェフによるあっさり醤油味の和食もいただきたい

なるほど。
あれだけ金管が頑張ったけど、秋山さんはバンダの皆さん以外個人的にピックアップされなかったような・・・まぁ楽器が多すぎていちいち賞賛してたら
きりがなかったのかもしれませんが。

投稿: jupiter | 2009年7月 2日 (木) 00時55分

jupiterさん、コメントありがとうございます。

>でも聴くのは1年に1回で充分な感じ

いやぁ、「ベルシャザールの饗宴」が大阪で生で聴けるチャンスは、今後20年くらいないのではないでしょうか?採算を度外視して、よくぞこの大曲を取り上げてくれたものだと今はただ大フィルの英断に感謝あるのみです。やはり「定期演奏会」は、こうでなくては。

投稿: 雅哉 | 2009年7月 2日 (木) 02時54分

 1週間前の記事にコメントしましてスミマセン。
僕は大フィルの年間プログラムが発表になったときに、このベルシャザールの饗宴だけは聞き逃すまいと思っていたのですが、事情があり、行けませんでした。
 本当に20年は無い演目ですね・・・惜しいことをしました。
 僕がまだ子供のころは、自分の親父から『朝比奈さんがベートーヴェンやブルックナーに専念できるのも、秋山さんが居ってくれるからや』と聞かされてました。
 年に1回ぐらいは秋山さんに、九響や広響でやっているような革新的なプログラムを引っ提げて大フィルを振って欲しいです。

投稿: ヒロノミンV | 2009年7月 6日 (月) 23時39分

ヒロノミンVさん、コメントありがとうございます。秋山和慶さんが前回、大フィルに登場された時のプログラムはエルガー/チェロ協奏曲とホルスト/組曲「惑星」でした。だから2回連続でイギリス音楽特集になっているのですね。

ところでヒロノミンVさんは保科アカデミー室内管弦楽団の演奏会には何度か足を運ばれていますね?実は指揮をされている秋山隆さんは、僕にとって高校吹奏楽部の先輩なのです。ですから今度8月に岡山シンフォニーホールである保科アカデミーの演奏会には足を運ぶ予定です。吹奏楽の極めつけの名曲、保科洋/「風紋」管弦楽版初演!今からとても愉しみです。

投稿: 雅哉 | 2009年7月 7日 (火) 01時04分

 ヒロノミンVです。
 そうだったのですか。雅哉さんが秋山隆さんの後輩だったとは!保科アカデミーは、毎回非常に楽しみにしています。もちろん今回も行きます!風紋の管弦楽版、本当に楽しみですね。

投稿: ヒロノミンV | 2009年7月 7日 (火) 22時35分

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