それでも恋するバルセロナ
評価:B+
原題は「ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ」(ヴィッキーとクリスティーナはヒロインの名前)。それにしても何で日本の配給会社はタイトルに「恋」を入れたがるの!?そこまでして女性客に媚びたいか。
"Melody"→「小さな恋のメロディ」、"When Harry Met Sally"→「恋人たちの予感」、"Before Sunrise"→「恋人までの距離(ディスタンス)」、"Notting Hill"→「ノッティングヒルの恋人」、"Sweet and Lowdown"→「ギター弾きの恋」
映画公式サイトはこちら。
ウディ・アレンは恋多き映画作家である。かつては女優ダイアン・キートンと公私にわたるパートナーとなり、「ボギー!俺も男だ」「アニー・ホール」「インテリア」「マンハッタン」等を製作した。80年代になるとミア・ファローと共に過ごし、彼女を主演に「カメレオンマン」「ブロードウェイのダニー・ローズ」「カイロの紫のバラ」「ハンナとその姉妹」「ラジオ・デイズ」を撮った。しかしその後、ミアの養子である韓国人スーン・イと関係を持ち、ミアが激怒(ある日ミアが偶然、アレンの自宅でスーン・イのポラロイドのヌード写真を発見。ミアが彼女に「いつからの関係か?」と問い詰めると、「高校3年から」と答えたという)、裁判沙汰となり結局アレンはミアと別れスーン・イと結婚することになる。
そして現在、ウディ・アレンがぞっこんなのがスカーレット・ヨハンソンである。既に彼女を主演に据えて「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」を撮っている。しかし残念ながら現実の世界で彼女と恋に落ちるにはアレンは年を取りすぎた。しかもスカーレットは「世界で最もセクシーな女性」に選ばれた女優である。相手にされるはずもない。その決して肉体を伴うことのない憧憬の眼差し、心の痛みが、むしろ一層スクリーンの中の彼女を輝かせているのではないかと感じるのは、決して僕だけではないだろう。
スカーレットの映画はこれまで沢山観てきたが「マッチポイント」ほど、彼女が神々しいまでに美しく撮られた作品を僕は他に知らない(作品自体も近年のアレン映画の中で最高の出来栄えとなった)。そしてそれは新作でも同様である。その秘訣を探りながら僕は今回この映画を観たのだが、まず基本的にアレンの向けるレンズはスカーレットを正面から捉えない。彼女はそのアングルだと綺麗に見えないのだ。だからカメラは横顔(あるいは、やや斜め)を常に捉える。それだと彼女の豊かな金髪が眩いほどに日の光に映えるのである。
アレン自身が役者として出演していないことも本作にプラスとして作用している(「タロットカード殺人事件」はお粗末だった)。スカーレット演じる”クリスティーナ”のキャラクター設定がいかにも現代娘らしく弾けていて秀逸だし、映画後半になってようやく登場するペネロペ・クルスは強烈な存在感で瞬時に他の役者たちを圧倒する。ペネロペが本役でアカデミー助演女優賞を受賞したのもむべなるかな。女優を生き生きと撮ることにかけては、ウディ・アレンの右に出るものはいないだろう。
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コメント
映画の内容とは関係ありませんが、「恋」以外に気になるのが、「愛と○○の××」ってパターンの邦題です。
「愛と青春の旅立ち」あたりから始まったのかな。あれも原題は"An Officer and a Gentleman"でしたから、結構考えさせられるタイトルだったんですけどね。
映画の題名だけじゃなく「愛と青春の宝塚」なんていうドラマや舞台にまで行き着いちゃいましたね。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年6月27日 (土) 09時36分
ぽんぽこやまさんコメントありがとうございます。なお、「愛と○○の」問題については既に記事「アスミック・エースに物申す」で語っております。
結局、邦題に「愛」だの「恋」だの入れれば、若い女性客が釣れるという浅はかな思考なんですよね。正に《昭和の発想》です。
投稿: 雅哉 | 2009年6月27日 (土) 12時38分
紺野美沙子の実質デビュー作品といっていいのですが、「愛と青春の宝塚」と同時代の戦前から戦後までを生きたタカラジェンヌを描いた物語がNHKの朝ドラ「虹を織る」でした。
こちらのほうが遥かにしゃれた、そして優れたタイトルだと思いませんか。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年6月27日 (土) 23時11分