《さあ、カイシで~す!》 / 《桂三枝はなしの世界》十回記念リクエスト落語会@繁昌亭
6月22日(月)、天満天神繁昌亭で桂かい枝さんの落語会を聴く。
- 桂ひろば/鉄砲勇助
- 桂かい枝/こんにゃく問答
- 桂 文三/動物園
- 桂かい枝/皿屋敷(米井敬人 改作)
「皿屋敷」の改作は後半部に施されていた。アレンジした米井さんは放送作家(以前は笑福亭たまさんと組んで、勉強会「たまよね」をされていた)。物語は現代に至り、お菊さんは吉本興業とコラボするも事業が上手くいかず吉本は撤退。その後彼女は回転寿司と組み客が食べた皿の枚数を「一ま~い、二ま~い」と数えるが、九枚までしか数えられず寿司屋は倒産するというギャグがあり、そこへ上方落語協会が進出し《播州皿屋敷繁昌亭》を建設するという展開に。これは中々奇想天外で面白かった。途中から照明を落とし怪談の雰囲気を盛り上げる演出も良かったと想う。
つく枝改め、文三さんは襲名を機にダイエットした苦労話をマクラでたっぷりと。まだ肥っていた時、兄弟子の桂文珍さんに、いずれ「たちぎれ線香」をやってみたいと話すと「やめとけ。お前の今の体型だと小糸(芸妓)を演じても似合わないし、(若旦那が蔵に百日間閉じ込められる件では)若旦那がぶくぶく肥えたら蔵から出られんようになる。ええか、体が横に太くなればなるほど、演れるネタは細うなっていくんやで」と文珍さんから言われたそうだ。その言葉で一念発起し、肉体改造に成功した文三さんも偉いし、言いにくいことをズバリ忠告された文珍さんも天晴れなり。
文三さんはかい枝さんに「崇徳院」をやりますと言って高座に上がられたそうだ。しかしダイエット話で盛り上がり時間がなくなったため、予め用意されていた見台と膝隠しを横によけ、急遽短いネタ「動物園」に変更された。これがまた実に機嫌好い主人公で、明るく愉快な高座だったので観客も大喜び。後から登場したかい枝さんが、「お兄さんが継いだ文三は実に八十八年ぶりに復活した大名跡なんです。それに相応しい大ネタでした。天国にいる師匠の文枝も、今頃は『”文三”はかい枝に襲名させればよかった』と後悔していることでしょう」と面白おかしく語り、これも客席に大受けだった。
さて翌23日(火)、同じ繁昌亭で今度は桂三枝さん(文枝一門、筆頭弟子)の落語会。
今回の《桂三枝はなしの世界》は十回目を記念して客席からリクエストを募る特別企画であった。入り口で配布された小冊子には今まで三枝さんが創作した208もの落語のお題がずらりと並ぶ。その中から観客は三つの噺を選び、チェックを入れる。そしてその場で冊子が回収され集計、上位が三枝さんにより演じられるという仕組み。
一位になったのは「ゴルフ夜明け前」の三十票。二位が比較的最近のネタ「じいちゃんホスト」、第三位が「宿題」の十七票であった。また三枝さんの処女作「アイスクリン屋」にも人気が集まった。
- 桂 三枝/じいちゃんホスト(三枝 作)
- 桂 三若/生まれ変わり(三枝 作)
- 桂 三枝/宿題(三枝 作)
- 桂 三枝/ゴルフ夜明け前(三枝 作)
「ゴルフ夜明け前」は1983年文化庁芸術祭大賞を受賞。87年には東宝により映画化もされた(製作協力:吉本興業)。主演は渡瀬恒彦(坂本竜馬)、高橋恵子(おりょう)。三枝さんも近藤勇役で出演されている。
僕はこれを封切り時に地元・岡山の映画館で観ている(同時上映は斉藤由貴主演「さよならの女たち」)。残念ながら映画の出来は芳しいものではなく、退屈だった(殆ど内容は忘れた)。しかし、原作となった落語を生で聴いてみたいという気持ちはずうっと残った。あれから20年以上。感慨もひとしおである。
味わい深い素晴らしい作品であった。人情噺の方向に傾きつつも、そこは上方落語。笑いが沢山あって決して湿っぽくはならず、最後はどこまでも青空が広がっていくような清々しさ。けだし傑作。スケール感といい、やはり三枝さんの代表作はこの「ゴルフ夜明け前」と「大阪レジスタンス」だなと確信した次第である。
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