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児玉宏/大阪シンフォニカー《ドイツ・ロマン派の秘密》

バイエルン王ルートヴィヒ2世はリヒャルト・ワーグナーのパトロンだった。そしてワーグナーのためにバイロイト祝祭劇場を建設した。

フランツ・リストの娘で2度目の妻コジマの誕生日に、ワーグナーは密かにオーケストラ・メンバーを自宅に集め、家の階段で「ジークフリート牧歌」を演奏させた(これが実質的初演となった)。コジマが長男ジークフリートを出産した翌年のことである。この情景はイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコン ティ監督の映画「ルートヴィヒ/神々の黄昏」(1973)で印象的に描かれている(余談だがルートヴィヒの親戚である皇后エリザベートも映画に登場する)。

僕がこの映画を観たのが高校生の時(岡山映画鑑賞会の自主上映)。だからワーグナーにジークフリートという息子がいることは知っていたが、作曲家であったという事実は今まで全く知らなかった。

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さて、6月19日(金)に児玉宏/大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会を聴いた。「忘れられた作曲家」をキーワードにプログラムが組まれた。

  • ジークフリート・ワーグナー/歌劇「異教徒の王」間奏曲”信仰”
  • ジークフリート・ワーグナー/交響詩「幸福」
  • マックス・ブルッフ/交響曲第3番

僕が児玉/大阪シンフォニカーの演奏会に足を運ぶのはこれで9回目である。そして1度たりとも期待を裏切られたことはない。打率10割。破竹の快進撃である。今回もブルッフを聴き終えた瞬間、「スゲー!」と想わず感嘆の声を漏らしてしまった。

ききりと引き締まったアンサンブル、緊張感は一瞬たりとも途絶えない。音楽は躍動し、歌うべきところではきっちりと歌う。そしてロマン派の甘美な芳香がザ・シンフォニーホールに立ち込める。パーフェクトとしか言いようがない。

「異教徒の王」は冒頭、弦の美しい音色を聴いた瞬間に虜になった。交響詩「幸福」は「ジークフリート牧歌」に通じる温かさ、優しさがあった。きっとそこには父への想いも込められているのであろう。

ブルッフの交響曲は、シューマン/交響曲第3番「ライン」を彷彿とさせる、のびやかで滔々と流れる音楽。白眉は第2楽章のアダージョ。清冽なコラール風主題が変奏されていく様はまるでベートーヴェン/交響曲第9番 第3楽章のよう。しかし、その響きにはあくまでロマン派の刻印がしっかりと入っている。有名なヴァイオリン協奏曲第1番やスコットランド幻想曲より断然いい。どうしてこんな魅力的な楽曲が、今まで忘れ去られていたのかとても不思議である。

僕は指揮者の大植英次さんもとても好きだ。しかしあの人は当たれば飛ぶホームラン・バッターではあるが、打率は余り高くない(5割くらい)。特に大植さんのベートーヴェンとブルックナーを聴く価値は限りなくゼロに近い。そして最近はテンポの恣意的な操作が顕著になり、外連味(けれんみ)を増し、往年のレオポルド・ストコフスキーにますます似てきた(誤解のないよう書いておくが、ストコフスキーも僕がお気に入りの指揮者である)。だから大植さんのコンサートを聴くのはリスクの高いギャンブルに身を投じるようなスリリングな面白さがあるのだが、万人にお勧めするという訳にはいかない。

一方、児玉シェフがもてなす料理は常に新鮮な食材を使い、「こんなの見たことない!」というディッシュが次々に登場する。しかしそれを食す客は安心して《シェフ おまかせコース》に身を委ねればいい。最後に満足と幸福感が待ち受けているのは間違いなのだから。児玉宏と大阪シンフォニカーがいる所ーそこは正しく「魔法のレストラン」なのである。

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