吹奏楽の名曲25選が好評だったので、映画音楽篇もやってみたくなった。
2008年は映画音楽が誕生してちょうど100年目だったそうである(詳しくは→こちら)。それを記念して、Hollywood Reporter誌がオールタイム映画音楽ベスト100を選出している→こちら(ブログ「サントラよもやま」)。また、AFI(アメリカ映画協会)が選出したベスト25というのもある→こちら(ブログ「海から始まる!?」)。
そこで僕もベスト50を選んでみた。その際、1人の作曲家につき、1曲という縛りを設けた。そうしなければ例えば極端な話、ジョン・ウィリアムズだけで50本選ぶことだって十分可能だからだ。
赤字は米アカデミー作曲賞受賞作品、青字はノミネートを示す。
- ジョン・ウィリアムズ/スター・ウォーズ 帝国の逆襲('80)
- バーナード・ハーマン/めまい('58)
- E.W.コルンゴルト/シー・ホーク('40)
- マックス・スタイナー/風と共に去りぬ('39)
- モーリス・ジャール/アラビアのロレンス('62)
- ミクロス・ローザ/白い恐怖('45)
- 久石 譲/はるか、ノスタルジィ('92)
- ニーノ・ロータ/カビリアの夜('57)
- エンニオ・モリコーネ/ニュー・シネマ・パラダイス('89)
- ジョン・バリー/ある日どこかで('80)
- アルフレッド・ニューマン/嵐が丘('39)
- ジェリー・ゴールドスミス/カプリコン1('77)
- ハワード・ショア/ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還('03)
- ミッシェル・ルグラン/ロシュフォールの恋人たち('67)
- ダニー・エルフマン/ナイトメア・ビフォア・クリスマス('93)
- ヴァンゲリス/ブレードランナー('82)
- マイケル・ナイマン/ピアノ・レッスン('93)
- デイヴィッド・ラクシン/ローラ殺人事件('44)
- レナード・バーンスタイン/波止場('54)
- ジェイムズ・ホーナー/ビューティフル・マインド('01)
- フランソワ・ド・ルーベ/冒険者たち('67)
- ダリオ・マリアネッリ/つぐない('07)
- アラン・メンケン/ノートルダムの鐘('96)
- 譚盾(タン・ドゥン)/グリーン・デスティニー('00)
- 坂本龍一/ラストエンペラー('87)
- 武満 徹/波の盆('83)
- 川井憲次/イノセンス('04)
- 伊福部昭/ゴジラ('54)
- 芥川也寸志/鬼畜('78)
- 黛 敏郎/天地創造('66)
- ウィリアム・ウォルトン/スピットファイア('42)
- マルコム・アーノルド/六番目の幸福('58)(第六の幸福をもたらす宿)
- フランツ・ワックスマン/フランケンシュタインの花嫁('35)
- マイケル・ジアッチーノ/Mr.インクレディブル('04)
- ハンス・ジマー/バックドラフト('91)
- アントン・カラス/第三の男('49)
- ジョルジュ・ドルリュー/恋のエチュード('71)
- 菅野光亮(音楽監督:芥川也寸志)/砂の器('74)
- エリオット・ゴールデンサール/フリーダ('02)
- ジェローム・モロス/大いなる西部('58)
- アレックス・ノース/欲望という名の電車('51)
- ジョン・コリリアーノ/レッド・バイオリン('99)
- アーロン・コープランド/赤い子馬('49)
- アレクサンドル・デプラ/真珠の耳飾りの少女('03)
- 早坂文雄/七人の侍('54)
- エルマー・バーンスタイン/十戒('56)
- ディミトリー・ティオムキン/ジェニーの肖像('48)
- ハビエル・ナバレテ/パンズ・ラビリンス('06)
- アーネスト・ゴールド/栄光への脱出('60)
- ヒューゴー・フリードホーファー/我らの生涯の最良の年('46)
ジョン・ウイリアムズが20世紀最高の作曲家であるということは紛れもない事実である。E.W.コルンゴルトが編み出したライトモティーフ(示導動機)の手法を現代に蘇らせた「スター・ウォーズ」は画期的作品であった。中でもシリーズ第2作「帝国の逆襲」は《ヨーダのテーマ》、《ダース・ベイダーのマーチ》、《ハンとレイア》など魅力的なライトモティーフに満ちている。
バーナード・ハーマンがヒッチコックとタッグを組んだ一連の作品は傑出したものばかり。弦楽合奏が否応なく恐怖を増す「サイコ」、打楽器が激しく高鳴り弦楽器と管楽器が躍動的に交差する「北北西に進路を取れ」など枚挙に暇がない。前衛的で鋭利な刃物のような感触があるが、その音楽はあくまで美しい。僕は晩年の「愛のメモリー」や「タクシー・ドライバー」(遺作)もとても好きだ。
ナチスを逃れ、ウィーンからハリウッドに亡命してきたユダヤ人の作曲家コルンゴルトはワーグナーからR.シュトラウスへと続くライトモティーフの継承者だった。オペラの手法を大胆に映画に持ち込み、映画音楽に革命をもたらした。
マックス・スタイナーと言えば泣く子も黙る不滅の金字塔「風とともに去りぬ」。これには誰も異存あるまい。「カサブランカ」も良いが、あれは基本的に当時の流行歌"As Time Goes By"のアレンジとなっている。彼はオーストリア出身で名付け親はR.シュトラウス。ブラームスやマーラーから音楽を学んだこともあるそうだ。
本当はジャールで僕が一番好きなのは「ライアンの娘」。「インドへの道」も◎。でも、客観的に考えればやはり「アラビアのロレンス」だろう。特に打楽器の使い方は画期的だった。彼はパリ音楽院でパーカッションを専攻。オーケストラではティンパニー奏者を務めたこともある。
ハンガリー出身のローザの作品で偏愛しているのは実は「針の目」だったりする。でもこれ、現在サントラCDが入手不能なのでもっと一般的なものを選んだ。「白い恐怖」は電子楽器テルミンがとても印象的。「クォ・ヴァディス」「ベン・ハー」「キング・オブ・キングス」「エル・シド」など、一連のスペクタクル史劇も勿論素晴らしい。
久石さんの代表作なら冷静に判断すれば「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」「壬生義士伝」「男たちの大和」「トンマッコルへようこそ」「おくりびと」等を挙げるべきなのだろう。でもここは、わが生涯のベスト・ワン「はるか、ノスタルジイ」に止めを刺す。特に"Tango X.T.C."(タンゴ・エクスタシー)は名曲中の名曲。
アカデミー作曲賞に輝いた「ゴッドファーザー PART II」は確かに傑作だと思うし、後に交響曲として編纂されたヴィスコンティ監督の「山猫」もいい。でもニーノ・ロータの真髄はやはりJAZZやサーカス音楽にあると想う。だからフェリーニ監督の「道」「カビリアの夜」「甘い生活」「8 1/2」等をまず挙げたい。ちなみに晩年の「ナイル殺人事件」も、僕のお気に入りだったりする。
モリコーネは名曲が多すぎて困ってしまう。「ミッション」の”ガブリエルのオーボエ”なんか最高だね!「続・夕陽のガンマン」とか、「夕陽のギャングたち」「ウエスタン」等も外せないし……。
バリーは出世作の007シリーズ(「ゴールドフィンガー」「ロシアより愛を込めて」etc.)を抜きには語れないし、アカデミー賞を受賞した「愛と哀しみの果て」もいい。マニアックなところでは「フォロー・ミー」なんかも好きだなぁ。でもやはり、一つに絞れと言われたら躊躇なく「ある日どこかで」を選ぶ。
アルフレッド・ニューマンではウィリアム・ワイラー監督の「嵐が丘」(《キャッシーのテーマ》!)や「アンネの日記」('59)を僕は偏愛している。遺作「大空港」('70)も悪くない。ちなみに「スター・ウォーズ」で有名になった20世紀フォックスのファンファーレは彼の作曲である。息子のトーマス・ニューマンは「アメリカン・ビューティ」「グリーンマイル」「ファインディング・ニモ」の、そして甥のランディ・ニューマンは「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」「カーズ」の作曲家として知られる音楽一家でもある(バッハ・ファミリーみたい)。
ゴールドスミスなら「スター・トレック」とか、アカデミー作曲賞を受賞した「オーメン」、あるいは前衛的な「猿の惑星」や「エイリアン」を挙げるべきなのかも知れない。でも、打楽器が強烈で鬼気迫る「カプリコン1」が一番のお気に入り。他には「いつか見た青い空」「ブルー・マックス」「風とライオン」「海流のなかの島々」「ブラジルから来た少年」なんかもいいねぇ。
ルグラン・ジャズの代表として「ロシュフォールの恋人たち」を挙げたが、「シェルブールの雨傘」「華麗なる賭け」も捨て難い。それからバーブラ・ストライザンドの《ひとりミュージカル映画》、「愛のイエントル」も密かに好きだったりする。まあ「イエントル」はアカデミー賞の音楽(編曲・歌曲)賞を受賞したのだから、堂々と好きだと公言しても良いのだが……。
「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」は純粋にミュージカルとして傑出している。
「ブレードランナー」はシンセサイザーの音楽、「第三の男」は全篇ツィターという楽器単独で演奏される点がユニーク。後者はヱビスビールのCM曲としてもお馴染みだろう。ヴァンゲリスがアカデミー作曲賞に輝いた「炎のランナー」も勿論○。あとはストリートオルガンを使用した芥川也寸志(龍之介の息子)「鬼畜」もユニーク。そこには狂気と哀しみが混在している。芥川なら「八甲田山」「八つ墓村」などセンチメンタルな楽曲も悪くない。
「ピアノ・レッスン」は激情のピアノが強烈な印象を与える。後にピアノ協奏曲に編纂された。ピアノ協奏曲といえば、「砂の器」のために作曲された「宿命」も忘れがたい。日本映画史に燦然と輝く記念碑である。ミッシェル・ルグランの「恋」(The Go-Between)もピアノ協奏曲の傑作。主題と変奏という構成になっている。
指揮者、そして「ウエストサイド物語」の作曲家として著名なレナード・バーンスタイン(レニー)は生涯で一度だけ、映画音楽を書いた。それが「波止場」である(アカデミー賞ノミネート)。彼に師事した大植英次さんによると、「マーロン・ブラントが台詞を喋る時、音楽の方は音量が絞られてぜんぜん聴こえなくなる。もう、あんな仕事は二度と御免だ!」とレニーは怒っていたそうである。
ホーナーがアカデミー作曲賞を受賞したのは「タイタニック」だが、僕にはエンヤのパクリにしか聴こえず、余り好きにはなれない(実際ジェームズ・キャメロン監督は当初エンヤに作曲を依頼したが、断られている)。だからホーナーなら「ブレイブハート」とか「アポロ13」「フィールド・オブ・ドリームス」なんかの方が好きだ。「ビューティフル・マインド」はミニマル・ミュージック風の響きが耳に心地よい。それからシャルロット・チャーチの澄んだ歌声の美しさ!
「冒険者たち」は口笛で吹かれるレティシアのテーマが最高。映画には登場しないが、サントラにはアラン・ドロンが歌うバージョンも収録されている。一昔前、ホンダ・シビックのCMでこの口笛のテーマが流れた。
「つぐない」はタイプライターの音を音楽に取り込んだ手法が効果的だった。内容も充実している。
アラン・メンケンには名曲が多い。「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「魔法にかけられて」…。何れの作品と置き換えても構わない。しかし「ノートルダムの鐘」こそ最も荘厳で、劇的な音楽だと想う。
譚盾(タン・ドゥン)は中国の作曲家。チャン・イーモウ監督の「HERO」もいい。最近、アジア映画人の台頭は目覚しく、頼もしい限りだ。
武満 徹の代表として「波の盆」を選ぶのは、恐らく反則だろう。何故ならこれは倉本聰の脚本によるテレビドラマだから。しかし胸に染み入るこの音楽の美しさは筆舌に尽くし難い。強いて映画から選ぶなら、弦楽オーケストラでブルース・ジャズ風の雰囲気を醸し出した「ホゼ・トーレス」('59の記録映画)辺りだろうか。そうそう!それから「他人の顔」のワルツも◎。
「天地創造」はアメリカとイタリアの合作映画。黛 敏郎の音楽は見事アカデミー賞にノミネートされた。
ウォルトンは20世紀のイギリスを、コープランドは近代アメリカ音楽を代表する音楽家。レナード・バーンスタインもジョン・ウィリアムズも、コープランドから多大な影響を受けている。ウォルトンの「スピットファイア」は前奏曲およびフーガが演奏会用にまとめられている。華やかで格調高い名曲。
イギリスを代表する作曲家としてもう一人、アーノルドを選出した。彼は生涯に9つの交響曲を書き、映画音楽の方面では「戦場にかける橋」でアカデミー賞を受賞。「第六の幸福をもたらす宿」は日本で吹奏楽用に編曲され、コンクールでしばしば演奏される。テレビ朝日「題名のない音楽会」の吹奏楽曲人気ランキングでも堂々第8位になった。イングリッド・バーグマン主演した映画。
ワックスマンはドイツ生まれのユダヤ人。コルンゴルト同様、ナチスを逃れてハリウッドに移住。世紀のヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのために作曲した「カルメン幻想曲」は最近、神尾真由子がチャイコフスキー国際コンクール第2次予選で演奏した。ワックスマンは「サンセット大通り」('50)と「陽のあたる場所」('51)で2度オスカーに輝いているが、《花嫁のテーマ》がロマンティックな「フランケンシュタインの花嫁」を僕は第1に推す。
ジアッチーノは「ミッション:インポッシブル3」や最新作「スター・トレック」も素晴らしい出来映え。「Mr.インクレディブル」はホーンが唸り、JAZZのビッグバンド的サウンドが超クール!
ドイツ出身の作曲家、ハンス・ジマーの「バックドラフト」はフジテレビ「料理の鉄人」のテーマ曲としてもお馴染みだろう。「クリムゾン・タイド」「ザ・ロック」そして、最近の作品なら「天使と悪魔」も良かった。「ライオンキング」でアカデミー作曲賞受賞。ジマーはRemote Control Productions(RC)という作曲家集団を結成し、そこのリーダーを務めている。RC門
下生には「スピード」のマーク・マンシーナ、「スチーム・ボーイ」「トランスフォーマー」のスティーヴ・ジャブロンスキー、「パイレーツ・オブ・カリビア
ン」のクラウス・バデルト、「シュレック」「ナルニア物語」のハリー・グレッグソン=ウィリアムズらがいる。いずれもどこか似た雰囲気を持つ(僕は「ジマー組」と呼んでいる)作曲家たちである。
「フリーダ」はメキシコ音楽に則し全編が歌に溢れ、メキシカン・ギター、アコーディオン、グラス・ハーモニカなど小編成のアコースティク楽器による演奏が印象的。
「欲望という名の電車」('51)は映画にJAZZを大胆に取り入れたということで画期的作品であった。後にエルマー・バーンスタインの
「黄金の腕」('55)、ヘンリー・マンシーニの「黒い罠」('58)、そしてジョン・バリーの007シリーズ(「ゴールドフィンガー」等)がそのスタイルを踏襲することになる。またノースでは「スパルタクス」愛のテーマも印象深い。ジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスが好んで弾いた曲である。映画「ゴースト ニューヨークの幻」で使用され、一躍有名になった「アンチェインド・メロディ」もノースの作品。
アレクサンドル・デプラはパリ生まれ。父はフランス人で母はギリシャ人。「ラスト、コーション」('07)や「ライラの冒険/黄金の羅針盤」の音楽も良い。アカデミー賞にノミネートされた「クィーン」や「ベンジャミン・バトン」は今ひとつパッとしない。
エルマー・バーンスタインの作品中、世間で評価が高いのは「荒野の七人」('60)と「アラバマ物語」('62)なのだけれど、僕にはどうもピンと来ない。彼の遺作となった「エデンより彼方に」('02)はなかなか美しい旋律に溢れていて好きである(アカデミー賞ノミネート)。
ロシア・ウクライナ出身のディミトリー・ティオムキンはどれを選ぶか迷った。アカデミー賞を受賞した「紅の翼」「老人と海」、あるいは「北京の55日」「アラモ」「ナバロンの要塞」……。逡巡し、最終的に達した結論は「自分が一番好きな音楽を挙げよう」ということだった。「ジェニーの肖像」は《亜麻色の髪の乙女》などドビュッシーの音楽をティオムキンがアレンジしたものが全篇に使用されている。そのオーケストレーションが実に巧みで、後々まで心に残る。幻想映画の大傑作であり、ぜひ多くの人に観てもらいたいと願わずにはいられない。
ヒューゴー・フリードホーファーは古き良き時代、ハリウッド黄金期の懐かしい香りがする。今となっては些か古めかしいかも知れないが、たまにはこういうクラシックな音楽もいい。
最後に落穂拾いをしよう。今回の50選に入れようか散々迷った挙げ句、断腸の想いで外した作品を以下に列挙しておく。
- 岩代太郎/レッドクリフ('08)
香港電影金像賞(香港アカデミー賞)オリジナル映画音楽賞受賞
- 大林宣彦/廃市('84)
- 林 光/秋津温泉('62)
- 加古 隆/「阿弥陀堂だより」('02)
- ブライアン・イースデイル/赤い靴('48)
- ヘンリー・マンシーニ/いつも2人で('67)
- T・ジョーンズ&R・エデルマン/ラスト・オブ・モヒカン('92)
- マイケル・ケイメン/陽のあたる教室('95)
- デイブ・ブルーシン/恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ('89)
- リチャード・ロビンス/日の名残り('93)
- リチャード・ロドニー・ベネット/オリエント急行殺人事件('74)
- ラロ・シフリン/スパイ大作戦 Mission:Impossible('66 TV)
次回は映画主題歌を取り上げる予定。乞うご期待。
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