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2009年6月

2009年6月30日 (火)

秋山和慶/大フィル「ベルシャザールの饗宴」

ザ・シンフォニーホールで大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会を聴いた。指揮台に立ったのは秋山和慶さん。合唱は大阪フィルハーモニー合唱団九響合唱団

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曲目は、

  • モーツァルト/交響曲第35番「ハフナー」
  • ディーリアス/音詩「春初めてのカッコウを聞いて」「川面の夏の夜」
  • ウォルトン/オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」

秋山さんは大変実力のある優れた指揮者であるが、音楽評論家とかクラシック愛好家には余り人気がない。その証拠に今回の演奏会について書かれたブログの記事数と、大植英次さんが指揮したときのそれを比較すれば一目瞭然であろう。

秋山さんと大植さんは同じ桐朋学園大学音楽部出身で、齋藤秀雄の門下生である。学生時代にホルンを吹いていたという共通点もある。しかし二人は指揮者の資質という点で全く異なっている。

大植さんは情熱家タイプ(主観的)で自分の感情を音楽にぶつけてゆくが、秋山さんはあくまで冷静で客観性を保つ。大植さんがテンポをかなり動かし自由度が高いのに対して、秋山さんはイン・テンポを守り微動だにしない。精密な体内メトロノームを有しておられる。演奏を通じ大植さんは自分自身を語り、秋山さんは音楽自体に語らせる

大植シェフの濃厚な(コテコテ)ソース味も美味しいが、そればかりだと食傷気味になる。たまには秋山シェフによるあっさり醤油味の和食もいただきたい。だから僕は理路整然として明晰な秋山さんの指揮ぶりもとても好きなのだが、それを多くの聴衆が「物足りない、面白みにかける」と感じる気持ちも分からなくはない。

さて「ベルシャザールの饗宴」である。この曲はカラヤンが「20世紀で最も優れた合唱作品」と賞賛したというエピソードが有名である。しかし、イギリス音楽に対して偏見を持っていた彼が積極的にウォルトンを演奏会で取り上げたとは到底信じられない(エルガーやヴォーン=ウィリアムズの交響曲をカラヤンがレコーディングしたことはない)。そ こで調べてみると、カラヤンがこの「ベルシャザール」を振ったのは生涯にただ一度、1948年6月12-13日ウィーン交響楽団 ・ウィーン国立歌劇場合唱団との演奏会だけであることが判明した。録音は勿論ない。またウォルトンの交響曲第1番も一度だけ振ったことがあり(1958年12月5日、ローマ放送管弦楽団)これは最近、ライヴCDが発売された(資料はこちらのサイトを参考にさせて頂いた)。

それにしてもド迫力のオラトリオだった。演奏時間は35分とコンパクトだが、大合唱団(今回は2団体合同)を要し、サクソフォンやパイプオルガンも加わる。オルガンの左右には7人ずつのバンダ(金管別働隊)。内訳は(トランペット3+トロンボーン3+テューバ1)×2。そのスケールの大きさはマーラー/千人の交響曲に匹敵するといっても過言ではあるまい(1988年9月26日フェスティバルホールで聴いたシノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団による千人の交響曲のことを想い出した)。

内容も大変充実したもので第1部が静かな曲想で嘆きの歌。第2部になるとバンダが大活躍し、飲めや歌えの大宴会!打楽器はどんちゃん騒ぎ、管楽器は豪快に吼えまくり、近代的な和声法を駆使した音のパノラマが目の前に広がってゆく。そして第3部は歓喜の大合唱。輝かしい響きでクライマックスを築き、興奮のうちにフィナーレを迎えた。これは確かにオルフ/世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」に匹敵する、20世紀の傑作中の傑作であろう。

(JAZZの語法も取り入れた)複雑なリズム、華麗なるオーケストレーションを怜悧な目で腑分けし、鮮やかに調理した秋山シェフの手腕、そしてそれに見事に答え潜在能力をフルに発揮した大フィルや合唱団の成果を大いに讃えたい。

LED(発光ダイオード)による日本語字幕付きだったのもありがたかった。是非、今度10月の定期で大植さんが振る「カルミナ・ブラーナ」でもやって欲しい。

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2009年6月29日 (月)

佐渡裕プロデュース オペラ「カルメン」

兵庫県立芸術文化センターで佐渡裕さん指揮によるオペラ「カルメン」を観劇。

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以前、兵庫芸文で観たオペラの感想は下記。

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カルメンTシャツも売られていた。

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今回は兵庫・東京・愛知と3都市を結ぶプロダクションになっていて、計15公演がおこなわれる。兵庫では後5公演あるが、もう既にチケットは全日完売しているようだ。ちなみに兵庫芸文・大ホールは2001席のキャパである。

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現在発売中の「音楽の友」誌に在阪4オーケストラの事務局長の座談会が掲載されている。その中でも兵庫芸文のことが話題として取り上げられ、「兵庫はなぜ成功したのか?」について嫉妬と羨望を交えて色々と議論されている。まあ僕に言わせれば、そもそも大阪に4つもオケがあること自体が誤り(税金の無駄遣い)の元凶なのだが。→「大阪センチュリー交響楽団補助金、府民の5割以上が削減や廃止を求める」(6月27日、読売新聞)

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さて、「カルメン」である。今回はダブル・キャストが組まれていたが、カルメン:ステラ・グリゴリアン等、メイン・キャストが外国勢の方ではなく、ほぼ日本人で固められた日に鑑賞した。

兎に角ドン・ホセを演じたテノール・佐野成宏さん。その輝かしい美声はあたかも《黄金のトランペット》の如し!

メゾ・ソプラノの林美智子さんは声量が乏しくカルメンとしては迫力に欠け少々物足りないが、容姿が可愛らしい人なのでビジュアル的には悪くなかった。

佐渡裕さんは速めのテンポで情熱的な指揮ぶりで、とても良かった。何よりこのオペラに似合っていた。

兵庫芸術文化センター管弦楽団は相変わらずホルンがお粗末だが、全体としてはなかなか健闘していた。今回はオペラの伴奏なので、この程度で十分だろう。

特筆すべきは演出(パリ・オペラ座総裁を務めたこともあるジャン=ルイ・マルティノーティ)と美術(オーストリアの舞台デザイナー、ハンス・シャヴェルノホ)の充実振り。舞台装置はシンプルでありながら洗練されており、だからといって抽象的ではなく非常に分かりやすい。装置が回転することにより、あるときはセビーリアのタバコ工場外壁となり、また終幕では闘牛場に早変わりする。それも闘牛場外の広場のように見せかけて、実はカルメンを刺し殺すドン・ホセが牛と闘牛士の関係の如く錯覚されるよう描かれる(どちらが内でどちらが外か?)

要所要所で鏡や映像が効果的に使われ、第1幕への前奏曲最後の《運命の動機》では、ホセが絞首刑になる場面が描かれる(椅子上で首を締め付けられるスペイン式)演出も斬新で面白かった。オペラというのは基本的に棒立ち状態で歌うことが多いのだが、第2幕・酒場の場面では踊りがふんだんに盛り込まれ動く、動く!まるでミュージカルみたいだ。このプロダクションは世界でも1,2を争う完成度の高さではなかろうか?必見。

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来年はいよいよレナード・バーンスタイン/ミュージカル「キャンディード」(2006年パリ・シャトレ座版)。これも今から愉しみである。

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2009年6月28日 (日)

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

評価:B+

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今回、前作(A-)より評価を少々落としたのは、挿入歌「今日の日はさようなら」と「翼をください」の使い方である。わざと場面との違和感を醸し出そうという演出上の戦略なのだろうが、僕は余り相応しいものとは想わなかった。

しかしまあそんなことは些事であり、この作品が途轍もないハイ・クオリティのアニメーションであるということは疑いようのない事実である。第一作目はアメリカでの公開も決まったし、ぜひ日本の実力を世界に知らしむべく大暴れしてもらいたい。

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「序」はテレビ版の第1話から6話までを踏襲したものだったが、この「破」では大きく逸脱していく。ほぼオリジナル作品といっても良いだろう。いきなり冒頭から新キャラ《真希波・マリ・イラストリアス》が大活躍するのには度肝を抜かれた。公開前に発表されたイラストを見た時点ではどうかと想ったが、実際に動画で接してみるとなかなか悪くない。このマリや、アスカ、レイ、ミサトら女性キャラのセクシー・ショットが「サービス、サービスゥ!」されているのも、男性ファンにとっては嬉しい限りである。 

新劇場版、最大の特徴はCGとセル画の融合だろう。これは例えば押井守監督の「攻殻機動隊 2.0」とか「スカイ・クロラ」ではお世辞にもうまくいっていると言えなかったが、本作では全く違和感がない。映像が緻密でより一層美しくなり、圧巻である。

あとテレビ・シリーズと大きく変わったと感じるのはキャラクター設定。碇シンジはウジウジした内向きの少年でしかなかったのに、今回は積極的に人と関わり、「生きよう」としている。それは父親の碇ゲンドウや綾波レイ、式波・アスカ・ラングレーも同様であり、不器用ながらも一生懸命他者と心を通わせようとしている。だから全体として、(脚本・総監督)庵野秀明が人間を見る目が優しくなったなぁと感じられるのだ。そこに彼の作家としての成熟を見るのは、決して僕だけではあるまい。

ところで僕が一番お気に入りのキャラはアスカなのだけれど、次回予告で左目に眼帯をしていたのには些かショックを受けた……。

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2009年6月27日 (土)

桂九雀/落語の定九日

JR鶴橋駅近く、「雀のおやど」で桂九雀さんの落語会。30人くらいの入りだった。

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今回演じられたのは、全て落語作家・小佐田定雄さんの作品である。

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  • 桂 九雀/軽石屁
  • 旭堂南左衛門/三代目・桂文昇(講談)
  • 小佐田定雄・南左衛門・九雀/鼎談
  • 桂 九雀/源氏のような恋をして

軽石屁」は京都府立文化芸術会館で開催されている上方落語勉強会に於いて、今から25年くらい前に九雀さんが初演されたものだそう。「東の旅発端」から始まる「東の旅」シリーズ(「七度狐」「軽業」「こぶ弁慶」「三十石」など)の中で、失われてしまった噺を小佐田さんが脚色し、復活させたもの。お馴染み喜六、清八コンビの珍道中。軽妙な会話が愉しい。

三代目・桂文昇」は明治・大正時代を生き、学校の教師から転身した噺家。南左衛門さんは豪快な語り口で聴衆を魅了した。大学時代は落研に所属されていたそうで、落語の場面もばっちりだった。

源氏のような恋をして」は源氏物語千年紀にちなみ、昨年発表されたばかりの洒落た新作。紫式部と清少納言の確執のエピソードも登場し、中々面白かった。

鼎談では落語と講談における創作法の違いなどについて興味深い話を伺った。小佐田さんが「落語はファンタジーですから、あまり具体的で細かい設定をしない方が良いのです」と仰っていたのが特に印象的だった。

つい先日聴いた桂三枝さんの落語会で、三枝さんが亡くなった枝雀さん(九雀さんの師匠)の想い出を語られた。

枝雀さんは生前、自分の持ちネタを60と決め、毎日稽古をされていた。そのことについて枝雀さんは、自分を60匹の羊飼いに喩えておられたそうだ。「常に60匹に目を配っていないと、直ぐに何匹か迷子になってどっかへ往ってしまうんです」と。

桂枝雀という人も、ファンタジー世界の住人だったのだなぁと、その話を聴きながら僕はしみじみと想ったのだった。

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2009年6月26日 (金)

それでも恋するバルセロナ

評価:B+

原題は「ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ」(ヴィッキーとクリスティーナはヒロインの名前)。それにしても何で日本の配給会社はタイトルに「」を入れたがるの!?そこまでして女性客に媚びたいか。

"Melody"→「小さなのメロディ」、"When Harry Met Sally"→「人たちの予感」、"Before Sunrise"→「人までの距離(ディスタンス)」、"Notting Hill"→「ノッティングヒルの人」、"Sweet and Lowdown"→「ギター弾きの

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ウディ・アレンは恋多き映画作家である。かつては女優ダイアン・キートンと公私にわたるパートナーとなり、「ボギー!俺も男だ」「アニー・ホール」「インテリア」「マンハッタン」等を製作した。80年代になるとミア・ファローと共に過ごし、彼女を主演に「カメレオンマン」「ブロードウェイのダニー・ローズ」「カイロの紫のバラ」「ハンナとその姉妹」「ラジオ・デイズ」を撮った。しかしその後、ミアの養子である韓国人スーン・イと関係を持ち、ミアが激怒(ある日ミアが偶然、アレンの自宅でスーン・イのポラロイドのヌード写真を発見。ミアが彼女に「いつからの関係か?」と問い詰めると、「高校3年から」と答えたという)、裁判沙汰となり結局アレンはミアと別れスーン・イと結婚することになる。

そして現在、ウディ・アレンがぞっこんなのがスカーレット・ヨハンソンである。既に彼女を主演に据えて「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」を撮っている。しかし残念ながら現実の世界で彼女と恋に落ちるにはアレンは年を取りすぎた。しかもスカーレットは「世界で最もセクシーな女性」に選ばれた女優である。相手にされるはずもない。その決して肉体を伴うことのない憧憬の眼差し、心の痛みが、むしろ一層スクリーンの中の彼女を輝かせているのではないかと感じるのは、決して僕だけではないだろう。

スカーレットの映画はこれまで沢山観てきたが「マッチポイント」ほど、彼女が神々しいまでに美しく撮られた作品を僕は他に知らない(作品自体も近年のアレン映画の中で最高の出来栄えとなった)。そしてそれは新作でも同様である。その秘訣を探りながら僕は今回この映画を観たのだが、まず基本的にアレンの向けるレンズはスカーレットを正面から捉えない。彼女はそのアングルだと綺麗に見えないのだ。だからカメラは横顔(あるいは、やや斜め)を常に捉える。それだと彼女の豊かな金髪が眩いほどに日の光に映えるのである。

アレン自身が役者として出演していないことも本作にプラスとして作用している(「タロットカード殺人事件」はお粗末だった)。スカーレット演じる”クリスティーナ”のキャラクター設定がいかにも現代娘らしく弾けていて秀逸だし、映画後半になってようやく登場するペネロペ・クルスは強烈な存在感で瞬時に他の役者たちを圧倒する。ペネロペが本役でアカデミー助演女優賞を受賞したのもむべなるかな。女優を生き生きと撮ることにかけては、ウディ・アレンの右に出るものはいないだろう。

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2009年6月25日 (木)

愛を読むひと

評価:B

原題は"The Reader"で、原作小説の日本版タイトルは「朗読者」。で、映画の邦題にどうして「愛」が入るわけ??

映画公式サイトはこちら

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この映画は当初からケイト・ウィンスレットが演じることになっていた。しかし彼女は夫のサム・メンデスが監督する「レヴォリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」に出演するために断り、代役としてニコール・キッドマンが決まった。そしてキッドマンが出演中だった「オーストラリア」とスケジュールを合わせるため製作は延期され、2007年末から撮影はスタート。だがその直後、キッドマンの妊娠が発覚し彼女は降板する(ニコールは以前、トム・クルーズとの間に出来た子供を流産している)。予定がずれたおかげで結局「レヴォリューショナリー・ロード」の撮影を終えたケイトが出演できることになり、アカデミー主演女優賞に輝いたといういわくつきの映画である。

この映画でケイトの出演場面の約半分は裸なのだが、ニコールは本気でこの役をやる気があったのだろうか??というのが僕が抱く最大の疑問である。ケイトの場合「タイタニック」や「リトル・チルドレン」などで既にヌードになっているので、今更珍しくもなんともないのだけれど。

まあ兎に角、ケイト渾身の演技が素晴らしい。角張ったドイツ訛りの英語で普段より声のトーンを落とし、生活に疲れたアンニュイな雰囲気を上手く醸し出している。「レヴォリューショナリー・ロード」の役作りとは全く異なり、両者を併せて観ると今年のオスカーは彼女以外にあり得なかったということが十分納得出来るだろう。

原作の「朗読者」は1995年に発表。日本語訳は2000年に出版され、当時大いに話題となった。この時僕は小説を読んだが、全然面白いと想わなかった。しかし映画は違った。原作を超えたことは間違いないだろう。特に新たに加えられたラストシーンがしみじみとした余韻を残し、秀逸である。

監督は「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」のスティーヴン・ダルドリー。「リトル・ダンサー」(原題:ビリー・エリオット)は同じくダルドリーが演出して舞台ミュージカルとなり、今年のトニー賞で作品賞・演出賞など10部門を受賞した。日本では劇団四季が「ビリー・エリオット」の上演を検討しており、来年完成する四季劇場[夏]こけら落とし公演の最有力候補となっているようである。

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2009年6月24日 (水)

《さあ、カイシで~す!》 / 《桂三枝はなしの世界》十回記念リクエスト落語会@繁昌亭

6月22日(月)、天満天神繁昌亭で桂かい枝さんの落語会を聴く。

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  • 桂ひろば/鉄砲勇助
  • 桂かい枝/こんにゃく問答
  • 桂  文三/動物園
  • 桂かい枝/皿屋敷(米井敬人 改作)

皿屋敷」の改作は後半部に施されていた。アレンジした米井さんは放送作家(以前は笑福亭たまさんと組んで、勉強会「たまよね」をされていた)。物語は現代に至り、お菊さんは吉本興業とコラボするも事業が上手くいかず吉本は撤退。その後彼女は回転寿司と組み客が食べた皿の枚数を「一ま~い、二ま~い」と数えるが、九枚までしか数えられず寿司屋は倒産するというギャグがあり、そこへ上方落語協会が進出し《播州皿屋敷繁昌亭》を建設するという展開に。これは中々奇想天外で面白かった。途中から照明を落とし怪談の雰囲気を盛り上げる演出も良かったと想う。

つく枝改め、文三さんは襲名を機にダイエットした苦労話をマクラでたっぷりと。まだ肥っていた時、兄弟子の桂文珍さんに、いずれ「たちぎれ線香」をやってみたいと話すと「やめとけ。お前の今の体型だと小糸(芸妓)を演じても似合わないし、(若旦那が蔵に百日間閉じ込められる件では)若旦那がぶくぶく肥えたら蔵から出られんようになる。ええか、体が横に太くなればなるほど、演れるネタは細うなっていくんやで」と文珍さんから言われたそうだ。その言葉で一念発起し、肉体改造に成功した文三さんも偉いし、言いにくいことをズバリ忠告された文珍さんも天晴れなり。

文三さんはかい枝さんに「崇徳院」をやりますと言って高座に上がられたそうだ。しかしダイエット話で盛り上がり時間がなくなったため、予め用意されていた見台と膝隠しを横によけ、急遽短いネタ「動物園」に変更された。これがまた実に機嫌好い主人公で、明るく愉快な高座だったので観客も大喜び。後から登場したかい枝さんが、「お兄さんが継いだ文三は実に八十八年ぶりに復活した大名跡なんです。それに相応しい大ネタでした。天国にいる師匠の文枝も、今頃は『”文三”はかい枝に襲名させればよかった』と後悔していることでしょう」と面白おかしく語り、これも客席に大受けだった。

さて翌23日(火)、同じ繁昌亭で今度は桂三枝さん(文枝一門、筆頭弟子)の落語会。

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今回の《桂三枝はなしの世界》は十回目を記念して客席からリクエストを募る特別企画であった。入り口で配布された小冊子には今まで三枝さんが創作した208もの落語のお題がずらりと並ぶ。その中から観客は三つの噺を選び、チェックを入れる。そしてその場で冊子が回収され集計、上位が三枝さんにより演じられるという仕組み。

一位になったのは「ゴルフ夜明け前」の三十票。二位が比較的最近のネタ「じいちゃんホスト」、第三位が「宿題」の十七票であった。また三枝さんの処女作「アイスクリン屋」にも人気が集まった。

  • 桂 三枝/じいちゃんホスト(三枝 作)
  • 桂 三若/生まれ変わり(三枝 作)
  • 桂 三枝/宿題(三枝 作)
  • 桂 三枝/ゴルフ夜明け前(三枝 作)

ゴルフ夜明け前」は1983年文化庁芸術祭大賞を受賞。87年には東宝により映画化もされた(製作協力:吉本興業)。主演は渡瀬恒彦(坂本竜馬)、高橋恵子(おりょう)。三枝さんも近藤勇役で出演されている。

僕はこれを封切り時に地元・岡山の映画館で観ている(同時上映は斉藤由貴主演「さよならの女たち」)。残念ながら映画の出来は芳しいものではなく、退屈だった(殆ど内容は忘れた)。しかし、原作となった落語を生で聴いてみたいという気持ちはずうっと残った。あれから20年以上。感慨もひとしおである。

味わい深い素晴らしい作品であった。人情噺の方向に傾きつつも、そこは上方落語。笑いが沢山あって決して湿っぽくはならず、最後はどこまでも青空が広がっていくような清々しさ。けだし傑作。スケール感といい、やはり三枝さんの代表作はこの「ゴルフ夜明け前」と「大阪レジスタンス」だなと確信した次第である。

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2009年6月23日 (火)

二人のビッグショー/柳亭市馬×柳家喬太郎 二人会

6月20日(土)、大阪・トリイホールで開催された柳亭市馬さんと柳家喬太郎の二人会を聴いた。

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  • 笑福亭喬若/へっつい盗人
  • 柳家喬太郎/転失気
  • 柳亭市馬/青菜
  • 柳亭市馬/山号寺号
  • 柳家喬太郎/お峰殺し(「牡丹灯篭」より)

昼の部と夜の部の二公演あり、会場は立錐の余地もないくらいギュウギュウ詰めの満席。東京のみならず、関西でも大人気のお二人である。

「昔は東京の噺家が大阪に来ても蹴られたものです」と市馬さん。「蹴られる」とは落語の符丁で「噺が客に全く受けないこと」だそうである。また中入り後最初の出番は「くいつき」と言うのだとも解説された。休憩中に買い求めた弁当やお菓子を客が食べているとき上がるので、客席がザワザワして落ち着かないためやりにくい出番だそう。

市馬さんの高座はとても丁寧で端正な芸風だったが、オーソドックスすぎて僕は余り面白いと想わなかった。同じ「青菜」なら先日聴いた笑福亭たまさんの方が断然好みだ。

喬太郎さんはやはり天才肌の噺家だなぁと感嘆した。その研ぎ澄まされた感性は故・桂枝雀に相通ずるものがある。「転失気」は上方の噺家で何度も聴いたネタだが、喬太郎シェフの腕にかかると大爆笑の味付けに進化を遂げており、恐れ入った。これぞre-creation再創造)。和尚さんの「喝っ!!」という気合の入れ方、小僧さんの「大人なんか信用できない」というこましゃくれた態度、そしてその表情。名人芸の極み。小僧さんが「スルーしちゃって下さい」と言うと、すかさず「新作か古典か、はっきりしなさい!」と切り返すセンスもさすがである。

怪談「牡丹灯篭」ではガラッと雰囲気が変わり、その語り口に凄みを感じさせた。笑いの少ない噺だが、お峰が「ところでお前さん、菜のお浸しはお上がりかい?」と言って市馬さんの「青菜」を取り込んでしまう下りは最高に可笑しかった。

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《歌う噺家》市馬さんに対抗し、喬太郎さんが「失恋魔術師」(by 太田宏美)を歌うという「二人のビッグショー」の名に恥じないお楽しみあり。僕の苦手な人情噺がなかったのも良かった。是非また聴きたい。

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2009年6月22日 (月)

アムステルダム・ルッキ・スターダスト・カルテット

ザ・シンフォニーホールで大植英次/ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニーがマーラー/交響曲第9番を演奏し、京セラドーム大阪では「3000人の吹奏楽」が開催された6月21日(日)、僕は兵庫芸術文化センター小ホールでアムステルダム・ルッキ・スターダスト・カルテット(ALSQ)のリコーダー四重奏を聴いた。本当は3公演全てに往きたかった!でもまあ「3000人の吹奏楽」は毎年あるし、大植さんのマーラーはいつの日にか大フィルでも聴けるだろう。悔いはない。

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会場はぎっしり満席。高音部(ソプラニーノ)から低音部(コントラバス・リコーダー)まで曲ごとにメンバーの役割分担がシャッフルされ、4人でステージに置かれたトータル25本のリコーダーを持ち替えて演奏した。

リコーダーは木製なので、ホルンやトロンボーンなどのように管を巻くことが出来ない。だから低音のリコーダーになるとまっすぐ背が伸びていって、仕舞には弦バスのようにエンドピンが付き、立って演奏する場面も。決して曲がらない楽器というのは見ていて潔い印象を受ける。

リーダーのダニエル・ブリュッヘンはフランツ・ブリュッヘンの甥。叔父さんもリコーダー奏者で18世紀オーケストラの指揮者として活躍、今年は新日本フィルとのハイドン・プロジェクトで話題になった。

パウル・レーンフーツはラッセル・クロウ似のイケメン。写真はこちら。彼は1997年に12人のメンバーからなるThe Royal Wind Musicを組織した(公式サイトはこちら。彼らの演奏はこちらの動画で試聴出来る)。レーンフーツALSQに1978-2001の間所属していたが、その後離脱。しかし今年カルテット結成30周年を迎えるにあたり、オリジナル・メンバーとして再び活動に加わったということだ。

さて今回の曲目は(青字が20世紀の作品)、

  • ヴィヴァルディ/協奏曲ニ短調(原曲は2つのヴァイオリンのための)
  • パレストリーナ/エレミア哀歌
  • メルーラ/カンツォン「うぐいす」
  • J.S.バッハ/フーガの技法より コントラプンクトゥス 4&9 
  • スティーヴィー・ワンダー/When shall my sorrowful sunshine slak
  • スヴェーリンク/わが青春はすでに過ぎ去り
  • ピアソラ/天使の死
  • ピアソラ/ブエノスアイレスの秋
  • ステーンホーヴェン/歌手と野生の森
  • カルディーニ/フェード・コントロール
  • タリス/イン・ノミネ
  • パーセル/シャコンヌ

ノン・ビブラートで聴くリコーダーの鄙びた音は清々しく響く。メンバー各自のスーパー・プレイもたっぷり堪能した。

面白いのは18世紀から19世紀にかけて、つまり古典派・ロマン派の時代にリコーダーの曲が全くないということだ。つまりこの時期、この楽器は一旦滅亡の危機に瀕したのである。そして20世紀後半、古楽復興運動と共に再生した。リコーダーで聴く現代音楽というのもなかなか乙な味わいがある。

スティービー・ワンダーは彼らがブリュージュ古楽コンクールで優勝したときの曲目。実は《1600年以前の音楽しか許可しない》というコンクール規定があり、「作者不詳」と偽装して演奏し、聴衆や審査員に一泡吹かせたそうだ。実に反骨精神のある4人組である。

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アンコール「エリーゼのために》のタンゴ」(パウル・ レーンフーツ編)が風変わりで面白かった。また「千の風になって」が意外とリコーダーに合っているので驚いた!これなら「千と千尋の神隠し」の《いつも何度でも》も、いけるかも知れない。

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2009年6月20日 (土)

児玉宏/大阪シンフォニカー《ドイツ・ロマン派の秘密》

バイエルン王ルートヴィヒ2世はリヒャルト・ワーグナーのパトロンだった。そしてワーグナーのためにバイロイト祝祭劇場を建設した。

フランツ・リストの娘で2度目の妻コジマの誕生日に、ワーグナーは密かにオーケストラ・メンバーを自宅に集め、家の階段で「ジークフリート牧歌」を演奏させた(これが実質的初演となった)。コジマが長男ジークフリートを出産した翌年のことである。この情景はイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコン ティ監督の映画「ルートヴィヒ/神々の黄昏」(1973)で印象的に描かれている(余談だがルートヴィヒの親戚である皇后エリザベートも映画に登場する)。

僕がこの映画を観たのが高校生の時(岡山映画鑑賞会の自主上映)。だからワーグナーにジークフリートという息子がいることは知っていたが、作曲家であったという事実は今まで全く知らなかった。

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さて、6月19日(金)に児玉宏/大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会を聴いた。「忘れられた作曲家」をキーワードにプログラムが組まれた。

  • ジークフリート・ワーグナー/歌劇「異教徒の王」間奏曲”信仰”
  • ジークフリート・ワーグナー/交響詩「幸福」
  • マックス・ブルッフ/交響曲第3番

僕が児玉/大阪シンフォニカーの演奏会に足を運ぶのはこれで9回目である。そして1度たりとも期待を裏切られたことはない。打率10割。破竹の快進撃である。今回もブルッフを聴き終えた瞬間、「スゲー!」と想わず感嘆の声を漏らしてしまった。

ききりと引き締まったアンサンブル、緊張感は一瞬たりとも途絶えない。音楽は躍動し、歌うべきところではきっちりと歌う。そしてロマン派の甘美な芳香がザ・シンフォニーホールに立ち込める。パーフェクトとしか言いようがない。

「異教徒の王」は冒頭、弦の美しい音色を聴いた瞬間に虜になった。交響詩「幸福」は「ジークフリート牧歌」に通じる温かさ、優しさがあった。きっとそこには父への想いも込められているのであろう。

ブルッフの交響曲は、シューマン/交響曲第3番「ライン」を彷彿とさせる、のびやかで滔々と流れる音楽。白眉は第2楽章のアダージョ。清冽なコラール風主題が変奏されていく様はまるでベートーヴェン/交響曲第9番 第3楽章のよう。しかし、その響きにはあくまでロマン派の刻印がしっかりと入っている。有名なヴァイオリン協奏曲第1番やスコットランド幻想曲より断然いい。どうしてこんな魅力的な楽曲が、今まで忘れ去られていたのかとても不思議である。

僕は指揮者の大植英次さんもとても好きだ。しかしあの人は当たれば飛ぶホームラン・バッターではあるが、打率は余り高くない(5割くらい)。特に大植さんのベートーヴェンとブルックナーを聴く価値は限りなくゼロに近い。そして最近はテンポの恣意的な操作が顕著になり、外連味(けれんみ)を増し、往年のレオポルド・ストコフスキーにますます似てきた(誤解のないよう書いておくが、ストコフスキーも僕がお気に入りの指揮者である)。だから大植さんのコンサートを聴くのはリスクの高いギャンブルに身を投じるようなスリリングな面白さがあるのだが、万人にお勧めするという訳にはいかない。

一方、児玉シェフがもてなす料理は常に新鮮な食材を使い、「こんなの見たことない!」というディッシュが次々に登場する。しかしそれを食す客は安心して《シェフ おまかせコース》に身を委ねればいい。最後に満足と幸福感が待ち受けているのは間違いなのだから。児玉宏と大阪シンフォニカーがいる所ーそこは正しく「魔法のレストラン」なのである。

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2009年6月19日 (金)

宝塚月組「エリザベート」そして、歴代ベスト・キャスト考

宝塚大劇場で、月組(再演)によるミュージカル「エリザベート」を鑑賞。6月18日(木)15時公演。平日昼なのに1階席後方は立ち見がずらり。しかも2列びっしり!さすが人気演目、恐るべし。

宝塚版、ウィーン版(来日公演)、東宝版など僕が生の舞台で観たエリザベートおよびトート(死神)の役者はこれで9人目、ビデオ・DVDを含めると12人目となる。まあそれだけ思い入れのある作品である。

そこで宝塚版に限定し、現時点でのベスト・キャストなども考えながら今回の感想を語っていこう。

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エリザベート(シシィ)は凪七瑠海(なぎな るうみ)さん。2003年に第89期生として歌劇団に入団した男役ホープである。男役がシシィを演じるのは瀬奈じゅんさん(05年月組)に次いで2人目。

僕は基本的に男役がシシィを演じることに反対である。そうでなくても娘役が輝ける作品が宝塚には少ないのに、「エリザベート」まで奪わないでほしい。それが正直な気持ちだ。

瀬奈さんのシシィも酷かった。まず彼女の声域はアルトなので、高い声が出ない。それから普段男役をやっていると、所作にどうしてもその癖が出てしまう(背も高いし、ニューハーフの様に見えたりする)。瀬奈さんの場合、歩くときのドレス捌きの雑なこと!もう、目を覆いたくなった。

その点、凪七さんのシシィは及第点だったと想う。丸顔で可愛らしいし、立ち振る舞いも女性的。しっかり高音域も出ていた。

ちなみに、僕にとってエリザベート役のオールタイム・ベストは、第1位:花總まり(96年雪組、宙組)、第2位:白羽ゆり(07年雪組)となる。

トート役の瀬奈じゅんさんは、以前から《そつがない男役》だと想っていた。とりたてて欠点もなければ、逆に強烈な魅力もない。そういう意味において、今回も安心して観られる安定感があった。ただ、やはり高い声が出ないので「最後のダンス」は音を下げて歌っていたけれど。

トートのオールタイム・ベストはダンス力と歌唱力を兼ね備えている点で、姿月あさと(宙組)と春野寿美礼(花組)を推す。

皇帝フランツ・ヨーゼフの霧矢大夢きりやん)は演技力と歌の巧さで魅了した。フランツの孤独、憂愁の佇まい、そしてその優しさをシシィに理解してもらえないことの苦悩。そういったものを余すところなく表現していた。 

オールタイム・ベストはきりやんと、稔 幸(星組)で決まり。

暗殺者ルイジ・ルキーニの龍 真咲さんはビジュアル的に格好よく、中々良かった。ただ歌と演技は《いっぱいいっぱい》という感じがした。なんだか余裕がないのだ。

オールタイムでは第1位:轟 悠(96年雪組、凄みがあった)、第2位:霧矢大夢(05年月組)。

皇太后ゾフィーの城咲あいさんはとにかく若すぎた。本人の責任ではないが明らかにミス・キャスト。城咲さんは86期生、一方フランツ役のきりやんが80期生だから、この2人がどう考えても母と息子に見えない。最後まで違和感が付きまとった。

ベスト・ゾフィーは貫禄(意地悪さ)、そして歌唱力で出雲 綾(星組、宙組)。

皇太子ルドルフは役替わりだが、僕が観た日は明日海りおさん。美貌の男役で歌も上手く、申し分なし。

歴代で比べると朝海ひかる(宙組)、凰稀かなめ(07年雪組)、そして明日海りおの三つ巴といったところか。

また、ルドルフ(少年時代)を演じた羽桜しずくさん、そしてマダム・ヴォルフの沢希理寿さんが見事な歌唱を披露してくれたことも特筆に価する。特に少年ルドルフは月影 瞳(星組)さんと肩を並べる出来栄えだったと想う。

最後に、エリザベートの病院慰問の場面で登場するヴィンディッシュ嬢に関しては星組と宙組で演じた陵あきのさんが余りにも凄すぎたので、もう他の誰を観ても物足りない。ボロボロになった扇を広げ、その間から垣間見れるあの狂気の目!この背筋が凍るような瞬間を目撃するために、客席のオペラグラスが一斉に上がったという伝説が生まれたくらいである。

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2009年6月18日 (木)

DAICON FILMからエヴァンゲリオンへ

あれは1985年頃だったろうか……。高校時代の友人が「アマチュアの連中が創った、ちょっと面白いアニメがあるんだけれど、観てみない?」と貸してくれたビデオテープ。それに収録されていたのは各々5分くらいの短いフィルム、「DAICON III」と「DAICON IV」であった。1981年と1983年に大阪で行われた日本SF大会のオープニングを飾ったアニメーションであるという。可愛らしい女の子がゴジラやバルタン星人、ダースベイダー、宇宙戦艦ヤマト、エンタープライズ号(スタートレック)、空の要塞ギガント(未来少年コナン)などをバッサバッサとなぎ倒していくという内容。SF映画とアニメーションへの愛情がいっぱい詰まった、玄人はだしの見事な作品であった。

このアニメを製作したのは当時、大阪芸術大学の学生だった山賀博之庵野秀明ら。後にDAICON FILMを母体として設立されたガイナックス山賀は「王立宇宙軍~オネアミスの翼」の原案/脚本/監督を担当し、庵野は「DAICON IV」直後に宮崎駿の「風の谷のナウシカ」で原画を担当(映画終盤に巨神兵が登場するパート)、それから「ふしぎの海のナディア」や「新世紀エヴァンゲリオン」を監督することになる。

「DAICON III」と「DAICON IV」で顕著に異なっているのはヒロインが格段に可愛くなっていること。これは「DAICON IV」で初めて、貞本義行が参加していることが最大の理由と想われる。貞本は今更言うまでもないが「ふしぎの海のナディア」や「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクターデザインを担当している(DAICON IIIの動画はこちら、DAICON IVはこちら)。

ところで2005年フジテレビ系で放送されたドラマ「電車男」のオープニングにアニメーションが用いられており、これは明らかにDAICON FILMへのオマージュになっている。しかも御丁寧に背景に流れる音楽は「DAICON IV」と同じELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)の「トワイライト」が使用されているという念の入れようである(動画はこちら)。

このドラマのディレクターはアニメを制作したGONZO(ゴンゾ)に対して「DAICON IVのような映像を作って欲しい」と注文したそうである。公共の電波を使用し、こんな大胆なことをするとは!!……いやはや恐れ入りました。でもその思い入れというかDAICON FILMへの愛着は僕にも理解出来る気がする。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」は6月27日より公開される。

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2009年6月17日 (水)

笑福亭たま/実験落語会"NIGHT HEAD"〜夏の噺「青菜」篇

6/15(月)、笑福亭たまさんの落語を聴きにコモンカフェへ。35人くらいの入り。

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  • 笑福亭喬介/三人旅
  • 笑福亭たま/青菜
  • 桂   雀太/天狗さし
  • 笑福亭たま/書割盗人
  • 笑福亭たま/ショート落語+新作落語

天狗さし」は明治の頃からあり、語られなくなって久しかった噺を桂米朝さんが発掘し、手入れ(脚色)されたもの。ちなみに「天狗裁き」も同じような過程を経て現在に至るらしい。

鞍馬の天狗を捕まえてスキヤキにしようとする男の、けったいな噺である。米朝版では「五条の念仏尺(ざし)」(=物差し屋)という意味を知らないとサゲが分からない。だからそれをマクラで説明することになるのだが、雀太さん(平成14年入門)はサゲをすっかり変えて演じられた。とても分かりやすくて良かったと想う。また彼の手(しなやかな指)の動きがダイナミックで、見応えがあった。なかなか将来が愉しみな噺家さんだ。

たまさんの「青菜」はさまざまな工夫・アレンジがあり、やはり賢い人だなと感心した。《豪邸の主人と奥さん=風流な知識人》と、その言動を真似しようとする《植木屋さん=教養のない庶民》との対比が鮮明で、先月ここで聴いたたま版「代書屋」のことを想い出した。

ショート落語の出来も秀逸で、たくさん笑わせてもらった。また新作落語では患者と医者の攻防が描かれ、これも上々。さらにふくらませば、より一層面白くなるだろう。この噺が今後どのように成長していくのか大いに期待したい。

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2009年6月16日 (火)

金 聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢のベートーヴェン

6月14日(日)、ザ・シンフォニーホールで金 聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のベートーヴェン・チクルス(第2回)を聴いた。

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曲目は、

  • バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲
  • 交響曲 第8番
  • 交響曲 第7番

聖響さんは大阪センチュリー交響楽団専任指揮者(2003-2006)在任中からピリオド(ノン・ビブラート)奏法を実践してこられた。僕はこのコンビの演奏会に一度だけ足を運んだことがあるが、正直言ってレベルの低いオケがノン・ビブラートで演奏すると余計下手にしか聴こえず、「まるでアマチュアが演奏しているみたいだ」と呆れたものだ。

しかし実力の点でOEKに問題はない(ただ現時点ではOEKより大阪フィルハーモニー交響楽団の方が上手いと僕は確信している。特にOEKはホルンが頼りない。まあ、大フィルのホルンもピッチに問題があるのだが……)。

今回のベートーヴェンも勿論ピリオド奏法。バロック・ティンパニを使用し、それ以外はモダン楽器。ただし、フルートは通常の銀管ではなく、2本ともモダン木製フルートが使用された。小編成による対向配置、コントラバスは正面最後列に並ぶ(ちなみに聖響さんはテレビ朝日「題名のない音楽会」に先日出演されたときも、同じスタイルでベートーヴェン/交響曲 第5番を指揮された)。また第7番では第1,3,4楽章の反復記号は全て敢行された。

スコアに記されたメトロノーム(速度)記号に近い快調なテンポで、軽やかで颯爽としたベートーヴェン。聖響さんの指揮ぶり同様に、スマートでクールな演奏だったと言っても良いだろう。それが長所でもあり、そして逆に短所ともなっている。

アーノンクール、ノリントン、ブリュッヘン、鈴木秀美など古楽オーケストラの指揮者たちは鋭角的アクセントを強調し、ある意味激しいアプローチをするが、聖響さんはむしろ淡白な印象を受ける。ベートーヴェンの苦悩とか、音楽と格闘する姿はそこにはない。そういうものを求める聴衆には物足りなく感じるだろう。

ただ第8シンフォニーは元々、飄々とした音楽だし、第7番はダンス・ミュージックである(ワーグナーは「舞踏の聖化」と評した)。だから聖響さんの資質がこれらの曲に良く似合っていたのではないだろうか?特に躍動する第7番の第4楽章は絶品だった。曲が終わるとブラボーの嵐。それも納得のいく演奏だった。

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ピリオド奏法によるアンコールのメヌエットも清々しくてとても良かった。

嘗て同じプログラムで聴いた大植英次/大フィルのベートーヴェン・チクルスは、絶えずビブラートをかけた、テンポの遅い鈍重な演奏で心底がっかりした。

あれに比べれば、聖響/OEKのアプローチを僕は断固支持する。

さて、大フィルは9/25に兵庫芸文で日本テレマン協会代表の延原武春さんを指揮者に迎え、バッハ・ベートーヴェン・ブラームスを演奏する。これが初共演となる。延原さんはベートーヴェンの指示したメトロノーム記号を遵守し、昨年はクラシカル楽器で日本初となる交響曲全曲の連続演奏会を成し遂げた(その功績が高く評価され、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受賞)。また2006年に延原さんはオーケストラ・アンサンブル金沢定期演奏会にも登場し、ベートーヴェンの第7番を指揮されている。

果たして大フィルは遂にピリオド奏法でベートーヴェンに挑むのか?それはスチール弦のまま?それともガット弦で?(1950年頃まで日本のどのオケもガット弦を張っていた)そしてバロック・ティンパニは使用するのか?等、どこまでこのオケが故・朝比奈隆の影から逃れることが出来るのか、今から興味は尽きない。勿論僕も聴きに行く予定である。

 関連記事:(今まで実演で聴いたベト7の中で最高の名演)

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2009年6月15日 (月)

聴いておきたい映画主題歌 ベスト25

映画音楽ベスト50に続き、今回は主題歌(挿入歌)を選ぼう。やはり1人の作曲家につき1曲という原則を遵守した。また、映画のために書かれたオリジナル作品のみを対象としている。例えば「ボディーガード」"I Will Always Love You"とか「カサブランカ」"As Time Goes By"( 時の過ぎ行くままに)、あるいは「卒業」"The Sound of Silence"などは、映画製作前から存在するヒット曲なので、除外した。なお、各々のタイトルをクリックすれば何かが起こるかも?

  1. 「ふたり」草の想い
  2. 「オズの魔法使い」虹の彼方に
  3. 「ホーム・アローン」Somewhere in My Memory
  4. 「ピノキオ」星に願いを
  5. 「白雪姫」いつか王子様が
  6. 「アラジン」A Whole New World
  7. 「追憶」The Way We Were
  8. 「アルフィー」アルフィー
  9. 「スラムドッグ$ミリオネア」Jai Ho
  10. 「シェルブールの雨傘」I Will Wait For You
  11. 「ライオンキング」Circle of Life
  12. 「ティファニーで朝食を」ムーン・リバー
  13. 「男と女」男と女
  14. 「フラッシュダンス」What a Feeling
  15. 「ワーキング・ガール」Let the River Run
  16. 「トップ・ハット」頬よせて
  17. 「ゴールド・ディガーズ36年」ブロードウェイの子守歌
  18. 「アラモ」遥かなるアラモ(The Green Leaves of Summer)
  19. 「8 Mile」Lose Yourself
  20. 「若草の頃」トロリー・ソング
  21. 「ニューヨーク、ニューヨーク」テーマ
  22. 「アメリカ物語」Somewhere Out There
  23. 「007 ロシアより愛をこめて」ロシアより愛をこめて
  24. 「有頂天時代」今宵の君は
  25. 「踊らん哉」Let's Call the Whole Thing Off

ディズニー映画から4本(ピノキオ白雪姫アラジンライオンキング)。フレッド・アステアが歌ったのが3曲(トップ・ハット有頂天時代踊らん哉)で、ジュディ・ガーランドが2曲(オズの魔法使い若草の頃)、さらにジュディの娘ライザ・ミネリが1曲(ニューヨーク、ニューヨーク)という結果になった。

ジュディ・ガーランドが歌う「スター誕生」('54)"The Man That Got Away"もどうしても入れたかったが、これを作曲したのが「虹の彼方に」のハロルド・アーレンだから断念した。

また番外として、エッダ・デル・オルソによる(歌詞のない)スキャットが限りなく美しい、エンニオ・モリコーネ作曲の「ウエスタン」('68)"Once Upon a Time in the West"を挙げておきたい。

「草の想い」大林宣彦(作詞)、久石 譲(作曲)。久石さんの楽曲なら宮崎 駿(作詞)の「君をのせて」(天空の城ラピュタ)や「となりのトトロ」の方が一般的だろう。勿論、何れも名曲である。なお、「草の想い」の1番の歌詞は大林監督、2番は久石さんが歌っている。

2001年に全米レコード協会が選定した「20世紀の名曲」(Songs of the Century)で堂々第1位に輝いた「虹の彼方に」が、実は世に出なかったかもしれないという誕生秘話がウィキペディアに掲載されている。面白いので是非お読み下さい→こちら

ジョン・ウイリアムズが作曲した「ホーム・アローン」はクリスマスの名曲の宝庫である。"Somewhere in My Memory"も好きだし、"Star of Bethlehem"も捨てがたい。またジョンが書いた歌曲なら映画「イエス・ジョルジョ」 (日本未公開、DVDおよびサントラCD未発売)の"If We Were In Love"もいい。映画に主演した三大テノールの一人、ルチアーノ・パバロッティが英語で歌い、アカデミー賞にノミネートされた。

アラン・メンケンなら代わりに「美女と野獣」、あるいは「リトル・マーメイド」"Part of Your World"や「ポカホンタス」"Color of the Wind"でも良い。なお、「アラジン」でジャスミン姫のパートはミュージカル「ミス・サイゴン」のリア・サロンガが歌っている。

バーブラ・ストライザンドの名唱が印象深い"The Way We Were"を書いたマーヴィン・ハムリッシュはミュージカル「コーラスライン」の作曲家としても名高い。その代表曲"ONE"は「KIRIN一番搾り生ビール」のCMで使用された。そうそう、映画「アイス・キャッスル」の主題歌"Through the Eyes of Love"(この愛に生きる)も好きだなぁ(映画は未見)。

ハル・デヴィッド(作詞)バート・バカラック(作曲)のコンビは珠玉の名曲を沢山生み出した。僕が一番好きなのはカーペンターズ版が有名な"(They Long to be) Close to You"(遥かなる影)。これは映画「愛しのロクサーヌ」「メリーに首ったけ」などにも登場するが、残念なことに映画発祥の曲ではない。主題歌の人気投票で必ず上位に来るのが「明日に向かって撃て」"Raindrops Keep Fallin' On My Head"(雨にぬれても)なのだけれど、僕は余り気が進まない。そこで「アルフィー」を。これなら文句なしにいい。

シェルブールの雨傘」のミッシェル・ルグランに関しては、オスカーを受賞した「風のささやき(華麗なる賭け、The Thomas Crown Affair)とか、僕の偏愛する「愛のイエントル」(バーブラ・ストライザンド 監督・主演・歌)から"Papa, Can You Hear Me ?"や"A Piece of Sky"なんかも入れたかった!

ヘンリー・マンシーニは「ティファニーで朝食を」や「酒とバラの日々」、あるいは「シャレード」「いつも2人で」など選択肢が多くて迷った。

アーヴィング・バーリンが映画「スイング・ホテル」('42)のために書いた、"ホワイト・クリスマス"も入れたかったが、同じバーリンの"Cheek to Cheek"(頬よせて)はどうしても外せなかった。フレッド・アステアがこれを歌う場面は、映画「グリーン・マイル」にも登場する。

ブロードウェイの子守唄はむしろ、舞台ミュージカル「42nd Street」の方でお馴染みかも知れない。第1幕のクライマックスに歌われる、その群舞(タップ・ダンス)の迫力は圧巻。「生きてて良かった!ミュージカル最高!!」と想わず叫びたくなる瞬間だ。

アラモ」を作曲したディミトリー・ティオムキンはロシアのウクライナ出身。だから曲調にどことなく哀愁が漂い、まるでロシア民謡みたいな味わい。アカデミー歌曲賞ノミネート。

エミネムの"Lose Yourself"はヒップホップ(ラップ)・ミュージックが初めてアカデミー歌曲賞を受賞したという意味において、衝撃的だった。新しい時代の到来を告げる歌と言えるだろう。「8 Mile」は彼の半自伝的映画で中々面白い。

若草の頃」には"Have Yourself A Merry Little Christmas"というクリスマスの名曲もある。

ジェームズ・ホーナーの曲なら大概の人が「タイタニック」の"My Heart Will Go On"を挙げるだろう。でもへそ曲がりの僕は、敢えてアニメ「アメリカ物語」から。アカデミー歌曲賞ノミネート。

ジョン・バリー作曲の「ロシアより愛をこめて」は、シャーリー・バッシーのパンチが効いた歌が印象的な「ゴールドフィンガー」に置き換え可。またマット・モンローが歌う、「さらばベルリンの灯」の主題歌も秀逸。

アカデミー賞に輝いた歌「今宵の君は(The Way You Look Tonight)」はジュリア・ロバーツが主演した「ベスト・フレンズ・ウェディング」でも印象的に使われていた。またこの映画はハル・デヴィッド&バート・バカラックの名曲オン・パレード!とてもハッピーな気持ちになれる。お勧め。

踊らん哉」はアイラとジョージのガーシュウィン兄弟による楽曲。2人の掛け合いが愉しい。アステアが歌う"They Can't Take That Away from Me"はアカデミー歌曲賞にノミネートされた。

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好きな歌を選定するという作業はとても愉しく、豊かな時間であった。この記事を締め括るにあたり、やはり次の言葉ほど相応しいのもは他にないだろう。

これから先の人生で、 どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。  
(芦原すなお 著「青春デンデケデケデケ」より)

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2009年6月14日 (日)

聴いておきたい映画音楽 私的50選

吹奏楽の名曲25選が好評だったので、映画音楽篇もやってみたくなった。

2008年は映画音楽が誕生してちょうど100年目だったそうである(詳しくは→こちら)。それを記念して、Hollywood Reporter誌がオールタイム映画音楽ベスト100を選出している→こちら(ブログ「サントラよもやま」)。また、AFI(アメリカ映画協会)が選出したベスト25というのもある→こちら(ブログ「海から始まる!?」)。

そこで僕もベスト50を選んでみた。その際、1人の作曲家につき、1曲という縛りを設けた。そうしなければ例えば極端な話、ジョン・ウィリアムズだけで50本選ぶことだって十分可能だからだ。

赤字は米アカデミー作曲賞受賞作品、はノミネートを示す。

  1. ジョン・ウィリアムズ/スター・ウォーズ 帝国の逆襲('80)
  2. バーナード・ハーマン/めまい('58)
  3. E.W.コルンゴルト/シー・ホーク('40)
  4. マックス・スタイナー/風と共に去りぬ('39)
  5. モーリス・ジャール/アラビアのロレンス('62)
  6. ミクロス・ローザ/白い恐怖('45)
  7. 久石 譲/はるか、ノスタルジィ('92)
  8. ニーノ・ロータ/カビリアの夜('57)
  9. エンニオ・モリコーネ/ニュー・シネマ・パラダイス('89)
  10. ジョン・バリー/ある日どこかで('80)
  11. アルフレッド・ニューマン/嵐が丘('39)
  12. ジェリー・ゴールドスミス/カプリコン1('77)
  13. ハワード・ショア/ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還('03) 
  14. ミッシェル・ルグラン/ロシュフォールの恋人たち('67)
  15. ダニー・エルフマン/ナイトメア・ビフォア・クリスマス('93)
  16. ヴァンゲリス/ブレードランナー('82)
  17. マイケル・ナイマン/ピアノ・レッスン('93)
  18. デイヴィッド・ラクシン/ローラ殺人事件('44)
  19. レナード・バーンスタイン/波止場('54)
  20. ジェイムズ・ホーナー/ビューティフル・マインド('01)
  21. フランソワ・ド・ルーベ/冒険者たち('67)
  22. ダリオ・マリアネッリ/つぐない('07)
  23. アラン・メンケン/ノートルダムの鐘('96)
  24. 譚盾(タン・ドゥン)/グリーン・デスティニー('00)
  25. 坂本龍一/ラストエンペラー('87)
  26. 武満 徹/波の盆('83)
  27. 川井憲次/イノセンス('04)
  28. 伊福部昭/ゴジラ('54)
  29. 芥川也寸志/鬼畜('78)
  30. 黛 敏郎/天地創造('66)
  31. ウィリアム・ウォルトン/スピットファイア('42)
  32. マルコム・アーノルド/六番目の幸福('58)(第六の幸福をもたらす宿)
  33. フランツ・ワックスマン/フランケンシュタインの花嫁('35)
  34. マイケル・ジアッチーノ/Mr.インクレディブル('04)
  35. ハンス・ジマー/バックドラフト('91)
  36. アントン・カラス/第三の男('49)
  37. ジョルジュ・ドルリュー/恋のエチュード('71)
  38. 菅野光亮(音楽監督:芥川也寸志)/砂の器('74)
  39. エリオット・ゴールデンサール/フリーダ('02)
  40. ジェローム・モロス/大いなる西部('58)
  41. アレックス・ノース/欲望という名の電車('51)
  42. ジョン・コリリアーノ/レッド・バイオリン('99)
  43. アーロン・コープランド/赤い子馬('49)
  44. アレクサンドル・デプラ/真珠の耳飾りの少女('03)
  45. 早坂文雄/七人の侍('54)
  46. エルマー・バーンスタイン/十戒('56)
  47. ディミトリー・ティオムキン/ジェニーの肖像('48)
  48. ハビエル・ナバレテ/パンズ・ラビリンス('06)
  49. アーネスト・ゴールド/栄光への脱出('60)
  50. ヒューゴー・フリードホーファー/我らの生涯の最良の年('46)

ジョン・ウイリアムズが20世紀最高の作曲家であるということは紛れもない事実である。E.W.コルンゴルトが編み出したライトモティーフ(示導動機)の手法を現代に蘇らせた「スター・ウォーズ」は画期的作品であった。中でもシリーズ第2作「帝国の逆襲」は《ヨーダのテーマ》、《ダース・ベイダーのマーチ》、《ハンとレイア》など魅力的なライトモティーフに満ちている。

バーナード・ハーマンがヒッチコックとタッグを組んだ一連の作品は傑出したものばかり。弦楽合奏が否応なく恐怖を増す「サイコ」、打楽器が激しく高鳴り弦楽器と管楽器が躍動的に交差する「北北西に進路を取れ」など枚挙に暇がない。前衛的で鋭利な刃物のような感触があるが、その音楽はあくまで美しい。僕は晩年の「愛のメモリー」や「タクシー・ドライバー」(遺作)もとても好きだ。

ナチスを逃れ、ウィーンからハリウッドに亡命してきたユダヤ人の作曲家コルンゴルトはワーグナーからR.シュトラウスへと続くライトモティーフの継承者だった。オペラの手法を大胆に映画に持ち込み、映画音楽に革命をもたらした。

マックス・スタイナーと言えば泣く子も黙る不滅の金字塔「風とともに去りぬ」。これには誰も異存あるまい。「カサブランカ」も良いが、あれは基本的に当時の流行歌"As Time Goes By"のアレンジとなっている。彼はオーストリア出身で名付け親はR.シュトラウス。ブラームスやマーラーから音楽を学んだこともあるそうだ。

本当はジャールで僕が一番好きなのは「ライアンの娘」。「インドへの道」も◎。でも、客観的に考えればやはり「アラビアのロレンス」だろう。特に打楽器の使い方は画期的だった。彼はパリ音楽院でパーカッションを専攻。オーケストラではティンパニー奏者を務めたこともある。

ハンガリー出身のローザの作品で偏愛しているのは実は「針の目」だったりする。でもこれ、現在サントラCDが入手不能なのでもっと一般的なものを選んだ。「白い恐怖」は電子楽器テルミンがとても印象的。「クォ・ヴァディス」「ベン・ハー」「キング・オブ・キングス」「エル・シド」など、一連のスペクタクル史劇も勿論素晴らしい。

久石さんの代表作なら冷静に判断すれば「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」「壬生義士伝」「男たちの大和」「トンマッコルへようこそ」「おくりびと」等を挙げるべきなのだろう。でもここは、わが生涯のベスト・ワン「はるか、ノスタルジイ」に止めを刺す。特に"Tango X.T.C."(タンゴ・エクスタシー)は名曲中の名曲。

アカデミー作曲賞に輝いた「ゴッドファーザー PART II」は確かに傑作だと思うし、後に交響曲として編纂されたヴィスコンティ監督の「山猫」もいい。でもニーノ・ロータの真髄はやはりJAZZやサーカス音楽にあると想う。だからフェリーニ監督の「道」「カビリアの夜」「甘い生活」「8 1/2」等をまず挙げたい。ちなみに晩年の「ナイル殺人事件」も、僕のお気に入りだったりする。

モリコーネは名曲が多すぎて困ってしまう。「ミッション」の”ガブリエルのオーボエ”なんか最高だね!「続・夕陽のガンマン」とか、「夕陽のギャングたち」「ウエスタン」等も外せないし……。

バリーは出世作の007シリーズ(「ゴールドフィンガー」「ロシアより愛を込めて」etc.)を抜きには語れないし、アカデミー賞を受賞した「愛と哀しみの果て」もいい。マニアックなところでは「フォロー・ミー」なんかも好きだなぁ。でもやはり、一つに絞れと言われたら躊躇なく「ある日どこかで」を選ぶ。

アルフレッド・ニューマンではウィリアム・ワイラー監督の「嵐が丘」(《キャッシーのテーマ》!)や「アンネの日記」('59)を僕は偏愛している。遺作「大空港」('70)も悪くない。ちなみに「スター・ウォーズ」で有名になった20世紀フォックスのファンファーレは彼の作曲である。息子のトーマス・ニューマンは「アメリカン・ビューティ」「グリーンマイル」「ファインディング・ニモ」の、そして甥のランディ・ニューマンは「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」「カーズ」の作曲家として知られる音楽一家でもある(バッハ・ファミリーみたい)。

ゴールドスミスなら「スター・トレック」とか、アカデミー作曲賞を受賞した「オーメン」、あるいは前衛的な「猿の惑星」や「エイリアン」を挙げるべきなのかも知れない。でも、打楽器が強烈で鬼気迫る「カプリコン1」が一番のお気に入り。他には「いつか見た青い空」「ブルー・マックス」「風とライオン」「海流のなかの島々」「ブラジルから来た少年」なんかもいいねぇ。

ルグラン・ジャズの代表として「ロシュフォールの恋人たち」を挙げたが、「シェルブールの雨傘」「華麗なる賭け」も捨て難い。それからバーブラ・ストライザンドの《ひとりミュージカル映画》、「愛のイエントル」も密かに好きだったりする。まあ「イエントル」はアカデミー賞の音楽(編曲・歌曲)賞を受賞したのだから、堂々と好きだと公言しても良いのだが……。

ナイトメア・ビフォア・クリスマス」は純粋にミュージカルとして傑出している。

ブレードランナー」はシンセサイザーの音楽、「第三の男」は全篇ツィターという楽器単独で演奏される点がユニーク。後者はヱビスビールのCM曲としてもお馴染みだろう。ヴァンゲリスがアカデミー作曲賞に輝いた「炎のランナー」も勿論○。あとはストリートオルガンを使用した芥川也寸志(龍之介の息子)「鬼畜」もユニーク。そこには狂気と哀しみが混在している。芥川なら「八甲田山」「八つ墓村」などセンチメンタルな楽曲も悪くない。

ピアノ・レッスン」は激情のピアノが強烈な印象を与える。後にピアノ協奏曲に編纂された。ピアノ協奏曲といえば、「砂の器」のために作曲された「宿命」も忘れがたい。日本映画史に燦然と輝く記念碑である。ミッシェル・ルグランの「恋」(The Go-Between)もピアノ協奏曲の傑作。主題と変奏という構成になっている。

指揮者、そして「ウエストサイド物語」の作曲家として著名なレナード・バーンスタイン(レニー)は生涯で一度だけ、映画音楽を書いた。それが「波止場」である(アカデミー賞ノミネート)。彼に師事した大植英次さんによると、「マーロン・ブラントが台詞を喋る時、音楽の方は音量が絞られてぜんぜん聴こえなくなる。もう、あんな仕事は二度と御免だ!」とレニーは怒っていたそうである。

ホーナーがアカデミー作曲賞を受賞したのは「タイタニック」だが、僕にはエンヤのパクリにしか聴こえず、余り好きにはなれない(実際ジェームズ・キャメロン監督は当初エンヤに作曲を依頼したが、断られている)。だからホーナーなら「ブレイブハート」とか「アポロ13」「フィールド・オブ・ドリームス」なんかの方が好きだ。「ビューティフル・マインド」はミニマル・ミュージック風の響きが耳に心地よい。それからシャルロット・チャーチの澄んだ歌声の美しさ!

冒険者たち」は口笛で吹かれるレティシアのテーマが最高。映画には登場しないが、サントラにはアラン・ドロンが歌うバージョンも収録されている。一昔前、ホンダ・シビックのCMでこの口笛のテーマが流れた。

つぐない」はタイプライターの音を音楽に取り込んだ手法が効果的だった。内容も充実している。

アラン・メンケンには名曲が多い。「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「魔法にかけられて」…。何れの作品と置き換えても構わない。しかし「ノートルダムの鐘」こそ最も荘厳で、劇的な音楽だと想う。

譚盾(タン・ドゥン)は中国の作曲家。チャン・イーモウ監督の「HERO」もいい。最近、アジア映画人の台頭は目覚しく、頼もしい限りだ。

武満 徹の代表として「波の盆」を選ぶのは、恐らく反則だろう。何故ならこれは倉本聰の脚本によるテレビドラマだから。しかし胸に染み入るこの音楽の美しさは筆舌に尽くし難い。強いて映画から選ぶなら、弦楽オーケストラでブルース・ジャズ風の雰囲気を醸し出した「ホゼ・トーレス」('59の記録映画)辺りだろうか。そうそう!それから「他人の顔」のワルツも◎。

天地創造」はアメリカとイタリアの合作映画。黛 敏郎の音楽は見事アカデミー賞にノミネートされた。

ウォルトンは20世紀のイギリスを、コープランドは近代アメリカ音楽を代表する音楽家。レナード・バーンスタインジョン・ウィリアムズ、コープランドから多大な影響を受けている。ウォルトンの「スピットファイア」は前奏曲およびフーガが演奏会用にまとめられている。華やかで格調高い名曲。

イギリスを代表する作曲家としてもう一人、アーノルドを選出した。彼は生涯に9つの交響曲を書き、映画音楽の方面では「戦場にかける橋」でアカデミー賞を受賞。「第六の幸福をもたらす宿」は日本で吹奏楽用に編曲され、コンクールでしばしば演奏される。テレビ朝日「題名のない音楽会」の吹奏楽曲人気ランキングでも堂々第8位になった。イングリッド・バーグマン主演した映画。

ワックスマンはドイツ生まれのユダヤ人。コルンゴルト同様、ナチスを逃れてハリウッドに移住。世紀のヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのために作曲した「カルメン幻想曲」は最近、神尾真由子がチャイコフスキー国際コンクール第2次予選で演奏した。ワックスマンは「サンセット大通り」('50)と「陽のあたる場所」('51)で2度オスカーに輝いているが、《花嫁のテーマ》がロマンティックな「フランケンシュタインの花嫁」を僕は第1に推す。

ジアッチーノは「ミッション:インポッシブル3」や最新作「スター・トレック」も素晴らしい出来映え。「Mr.インクレディブル」はホーンが唸り、JAZZのビッグバンド的サウンドが超クール!

ドイツ出身の作曲家、ハンス・ジマーの「バックドラフト」はフジテレビ「料理の鉄人」のテーマ曲としてもお馴染みだろう。「クリムゾン・タイド」「ザ・ロック」そして、最近の作品なら「天使と悪魔」も良かった。「ライオンキング」でアカデミー作曲賞受賞。ジマーはRemote Control Productions(RC)という作曲家集団を結成し、そこのリーダーを務めている。RC門 下生には「スピード」のマーク・マンシーナ、「スチーム・ボーイ」「トランスフォーマー」のスティーヴ・ジャブロンスキー、「パイレーツ・オブ・カリビア ン」のクラウス・バデルト、「シュレック」「ナルニア物語」のハリー・グレッグソン=ウィリアムズらがいる。いずれもどこか似た雰囲気を持つ(僕は「ジマー組」と呼んでいる)作曲家たちである。

フリーダ」はメキシコ音楽に則し全編が歌に溢れ、メキシカン・ギター、アコーディオン、グラス・ハーモニカなど小編成のアコースティク楽器による演奏が印象的。

欲望という名の電車」('51)は映画にJAZZを大胆に取り入れたということで画期的作品であった。後にエルマー・バーンスタインの 「黄金の腕」('55)、ヘンリー・マンシーニの「黒い罠」('58)、そしてジョン・バリーの007シリーズ(「ゴールドフィンガー」等)がそのスタイルを踏襲することになる。またノースでは「スパルタクス」愛のテーマも印象深い。ジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスが好んで弾いた曲である。映画「ゴースト ニューヨークの幻」で使用され、一躍有名になった「アンチェインド・メロディ」もノースの作品。

アレクサンドル・デプラはパリ生まれ。父はフランス人で母はギリシャ人。「ラスト、コーション」('07)や「ライラの冒険/黄金の羅針盤」の音楽も良い。アカデミー賞にノミネートされた「クィーン」や「ベンジャミン・バトン」は今ひとつパッとしない。

エルマー・バーンスタインの作品中、世間で評価が高いのは「荒野の七人」('60)と「アラバマ物語」('62)なのだけれど、僕にはどうもピンと来ない。彼の遺作となった「エデンより彼方に」('02)はなかなか美しい旋律に溢れていて好きである(アカデミー賞ノミネート)。

ロシア・ウクライナ出身のディミトリー・ティオムキンはどれを選ぶか迷った。アカデミー賞を受賞した「紅の翼」「老人と海」、あるいは「北京の55日」「アラモ」「ナバロンの要塞」……。逡巡し、最終的に達した結論は「自分が一番好きな音楽を挙げよう」ということだった。「ジェニーの肖像」は《亜麻色の髪の乙女》などドビュッシーの音楽をティオムキンがアレンジしたものが全篇に使用されている。そのオーケストレーションが実に巧みで、後々まで心に残る。幻想映画の大傑作であり、ぜひ多くの人に観てもらいたいと願わずにはいられない。

ヒューゴー・フリードホーファーは古き良き時代、ハリウッド黄金期の懐かしい香りがする。今となっては些か古めかしいかも知れないが、たまにはこういうクラシックな音楽もいい。

最後に落穂拾いをしよう。今回の50選に入れようか散々迷った挙げ句、断腸の想いで外した作品を以下に列挙しておく。

  • 岩代太郎/レッドクリフ('08)
    香港電影金像賞(香港アカデミー賞)オリジナル映画音楽賞受賞
  • 大林宣彦/廃市('84)
  • 林 光/秋津温泉('62)
  • 加古 隆/「阿弥陀堂だより」('02)
  • ブライアン・イースデイル/赤い靴('48)
  • ヘンリー・マンシーニ/いつも2人で('67)
  • T・ジョーンズ&R・エデルマン/ラスト・オブ・モヒカン('92)
  • マイケル・ケイメン/陽のあたる教室('95)
  • デイブ・ブルーシン/恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ('89)
  • リチャード・ロビンス/日の名残り('93)
  • リチャード・ロドニー・ベネット/オリエント急行殺人事件('74)
  • ラロ・シフリン/スパイ大作戦 Mission:Impossible('66 TV)

次回は映画主題歌を取り上げる予定。乞うご期待。

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2009年6月13日 (土)

桂吉弥・柳家三三 ふたり会(6/11、12)

二日間にわたり天満天神繁昌亭で開催された桂吉弥柳家三三のふたり会を聴いた。

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一日目、

  • 二乗/普請ほめ(牛ほめ)
  • 三三/宮戸川(前半のみ)
  • 吉弥/遊山船
  • 吉弥/軽業
  • 三三/唐茄子屋政談

二日目、

  • 吉の丞/米揚げ笊
  • 吉弥/短命
  • 三三/締込み(盗人の仲裁)
  • 三三/道具屋
  • 吉弥/皿屋敷

吉弥さんは「ちりとてちん」に続き、平成21年度後期NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」に《寺の人》という役名で出演されるそうで、その徳島ロケに参加した時のエピソードなどを面白おかしく披露された。髪も役作りのため随分短くなった。それからダイエットの効果もそろそろ出てきたんじゃないだろうか?

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(上の写真は今年3月、繁昌亭の無料休憩所「輪茶輪茶(わちゃわちゃ)庵」に掲載されていたもの)

さて、吉弥さんの高座で今回一番完成度が高いと想ったのは「短命」。やはり場数を踏んでいるだけあって、途中噛むこともなく滑らかな口調。以前聴いたときよりもスピード感が倍増しているように感じた。

あと傑作だったのは「遊山船」のマクラ。天神祭の日に同じ米朝一門の桂む雀さんと、屋形船で司会の仕事をされた時のことを話された。吉弥さんらが乗ったのは阪神百貨店エメラルドカード顧客の船。パイプ椅子、むき出しのテーブルに並べられた弁当やビール。一方、その横に停泊していたのが阪急百貨店ペルソナカードの船だったそうで、テーブルクロスが敷かれその上にフルコースの料理やシャンパングラスが用意されていたとか。そして宝塚歌劇の男役と娘役の生徒が一人ずつ乗り、テーブルを廻っていたそうだ。「同じ百貨店でも、どうしてこうカラーが違うのでしょうか?まさかこの二つがくっつくなんて、その時は想像もしていませんでした」

東京からやって来た三三さんは、その雲の上を歩くような入退場の仕方と同様、飄々として軽やかな語り口で見事だった。緊張と緩和の空気を醸し出す按配(さじ加減)が絶妙で、バランス感覚に長けた噺家だと想う。

前から何度も書いているが僕は江戸落語の人情噺が嫌いである。しかし三三さん演じる「唐茄子屋政談」なら、最後まで飽きることなく聴けるのだから大したものだ。

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2009年6月12日 (金)

月なみ(^o^)九雀の日(6/10)

桂九雀さんが開催されている月例落語会を聴きに豊中市立伝統芸能館へ。60人くらいの聴衆が集った。お代は見てのお帰り(自由料金制)。前回の感想はこちら

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  • 桂     九雀/七度狐
  • 林家   花丸/三十石夢の通い路
  • 旭堂南半球/那須与一 -扇の的-(講談)
  • 桂      九雀/目玉(山田洋次 作)

南半球さんは九雀さんから、得意の「《ガンダム講談》以外でお願いします」と釘を刺されたそうだ。「しかし、《ガンダム講談》をしないと調子が出ないので…」と最初に触りの部分だけ披露された。僕はガンダムについては全く知らないけれど、なんだか賑やかで面白そうだった。

今回注目されたのは寅さんシリーズや「たそがれ清兵衛」で有名な映画監督・山田洋次さんによる新作落語「目玉」。これは絵本出版を記念して6月12日滋賀会館「わらげん寄席」で九雀さんが演じる予定だそうで、その予行演習を兼ねたものとなった。故・柳家小さん(5代目)の為に25年以上も前に書かれたもの。けちな大旦那が頼りない倅や番頭を信用できず、自分の死後も身代(しんだい)を見守るために医者に頼んで目玉だけ生き残るようにするという奇想天外なブラック・ユーモアの世界。事前に九雀さんによる説明がなければ山田洋次 作だなんて全く連想できなかっただろう。大変珍しいものが聴けて得した気分がした。

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 記事関連blog紹介:

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2009年6月 8日 (月)

淀工サマーコンサート 2009

さつきホールもりぐち(守口市市民会館=モリカン)で大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部のサマーコンサートを聴いた。

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いつもサマコンやグリコン(グリーンコンサート)で司会をされる田頭義隆先生の姿がないなと想ったら、丸谷明夫先生(丸ちゃん)が、「合気道の講習会の予定をうっかり入れてしまい、そちらに行くとのことです。そういう人なんです」と。会場は大爆笑。

今年は新型インフルエンザ騒動で淀工も1週間の休校を余儀なくされた。サマコンの開催さえ危ぶまれたが、無事計4回行われることとなった。「普段あたりまえと考えていたことが出来ることの喜びを、噛みしめています」と丸ちゃん

曲目は、

  • マーチ「青空と太陽」(2009年 吹奏楽コンクール課題曲)
  • 16世紀のシャンソンによる変奏曲(〃課題曲)
  • ネストリアン・モニュメント(〃課題曲)
  • コミカル★パレード(〃課題曲)
  • バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲(ラヴェル)
  • ディスコ・キッド(1977年 吹奏楽コンクール課題曲)
  • 「おたのしみコーナー」(曲当てクイズ)
  • マイ ウェイ(岩井直溥 編)
  • 祝典序曲(ショスタコーヴィチ)
  • カーペンターズ・フォーエバー(真島俊夫 編)
  • ザ・ヒットパレード(丸谷明夫 構成)

アンコールは、

  • 「ジャパニーズ・グラフィティIV」より、お嫁においで~サライ
  • 星条旗よ永遠なれ
  • ウェリントン将軍

淀工は普段、雪組(一年生)、花組(マーチング)、星組(コンクール・メンバー)に分かれて活動している。随時オーディション(審査するのは生徒たち)があり、メンバーの入れ替えが行われる。

プログラム第一部は星組。第二部(ディスコキッドお楽しみコーナーマイ ウェイ)」はOBの演奏。そして第三部は二、三年生全員がステージに上がった。

青空と太陽」は丸ちゃんが指揮し、「16世紀のシャンソン」は「品が良すぎて淀工のカラーに似合わない」(丸ちゃん談)と東海大付属仰星高等学校・藤本佳宏先生、「ネストリアン・モニュメント」は「これも余り我々の性に合ってない」と大阪府立北野高等学校吹奏楽部の3年生女子生徒がタクトを振った(丸ちゃんが1週間前に電話し、予め依頼していたとここと)。「コミカル★パレード」は会場から指揮者を募り、京都市立伏見中学校・葛城武周先生が手を挙げられた(→伏見中吹奏楽部の活動日記にそのときの様子が綴られている)。丸ちゃんからの注文。「うちの生徒はちょっと速いのが好きで、遅いと集中力がなくなりますので、そこのところよろしくお願いします」

OBの演奏は、さすが奏者ひとりひとりの技術的上手さが光った。そして全員の結束力、先生との《絆》の強さをひしひしと感じた。「ディスコキッド」はテレビ朝日「題名のない音楽会」の人気投票で堂々第1位に輝いた曲。速めのテンポでビシッと引き締まった丸ちゃん/OBバンドの演奏は、はっきり言って佐渡 裕/シエナ・ウインド・オーケストラよりも充実した響きがした。「ディスコキッド」は正直余り好きではない(古臭い!)が、今回は2割り増し良い曲に聴こえた。

ダフニスとクロエ」は2007年のサマコンで聴いた時より、仕上がりが遅いなぁという印象を受けた。やはり休校中の1週間、練習が全く出来なかったことが多大な影響を及ぼしているのではないだろうか?「夜明け」冒頭のアルベジオ(分散和音)は滑らかに繋がらず、「全員の踊り」では指揮をする出向井誉之先生も十分テンポを上げられなかったようだ。ちなみに2007年は4月22日(日)に神戸文化大ホールで「ダフニス」を演奏しているが、今年は恐らくこのサマコンが初披露だったのでは?でもそこは天下の淀工、コンクール本番までにはきっちり仕上げてくるだろう。

祝典序曲」はOBがバンダ(金管別働隊)を組み、客席後方にずらりと並んで壮観だった。このサラウンド音響は何度聴いても痺れる。正にライヴの醍醐味であろう。

「ザ・ヒットパレード」は、パラダイス銀河〜ホップ・ステップ・ジャンプ〜幸せなら手をたたこう〜ARASHI(ビューティフル・デイズ、One Love、Happiness、サクラ咲ケ)〜三三七拍子〜六甲おろし〜明日があるさ〜We Are The World という構成。新一年生の踊りもあり、学芸会的愉しさ満載だった。

なお、次回の淀工「グリーンコンサート」は2010年1月16日(土)17日(日)に計4回、ザ・シンフォニーホールで開催されるそうだ。昨年までグリコンはフェスティバルホールで4回公演されていた。フェスの座席数は2700、一方、ザ・シンフォニーホールのキャパは1704席しかない。つまり×4すると、例年よりグリコンを聴ける人は約4000人も少ない計算になる。う~ん……。

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2009年6月 6日 (土)

飯森範親 登場!/大阪市音楽団 定期

ザ・シンフォニーホールで飯森範親/大阪市音楽団(市音)による第98回定期演奏会を聴いた。

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飯森さんと市音の首席客演指揮者・小松一彦さんにはいくつか共通項がある。まず桐朋学園大学指揮科卒業であること、ドイツで研鑽を詰まれたこと、そして邦人作曲家の初演に積極的に取り組み、中島健蔵音楽賞を受賞されていることなどである。

飯森さんはマイクを手に取り、一曲一曲解説しながら演奏会を進行された。僕はスパークの「宇宙の音楽」が世界初演された第90回以降、市音の定期には毎回欠かさず足を運んでいるが、こんな試みは前代未聞である。とてもフレンドリーな雰囲気で良かったのではないだろうか?

さて、今回の曲目は、

  • ジェイムズ・バーンズ/ワイルド・ブルー・ヨンダー
  • ヨハン・デ=メイ/ダッチ・マスターズ組曲
  • フィリップ・スパーク/ウィークエンド・イン・ニューヨーク
  • 後藤 洋/彼方の祝祭(市制120周年記念 世界初演
  • クロード・T・ スミス/華麗なる舞曲

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バーンズ(アメリカ)は先日放送されたテレビ朝日「題名のない音楽会」の吹奏楽人気曲ランキングで2位に輝いた「アルヴァマー序曲」の作曲家。「ワイルド・ブルー・ヨンダー」は2006年にアメリカ空軍ワシントンD.C.バンドから委嘱を受けて作曲された。冒頭は疾走する木管楽器の動きが風のような効果を上げ、超高速で空を駆け巡るような爽快な曲。

デ=メイ(オランダ)の作品は母国が誇る3枚の名画を素材に音で描写する、いわば吹奏楽版「展覧会の絵」と言えるだろう(以下、各々のタイトルをクリックすれば、どんな絵か分かるようにリンクを張っている)。

I. 「夜警」(レンブラント・ファン・レイン) 冒頭、火縄銃の銃声が鳴り響き、鼓手によるドラムと共に重々しく気高い市民自衛団の行進が展開される。

II. 「恋文」(ヨハネス・フェルメール) まずリュート(シンセサイザーで代用)の伴奏でイギリスの作曲家ジョン・ダウランド(1563-1626)の「悲しみよ、来たれ」がハミングされる。これは絵の中の女主人がシターンという楽器を演奏しながら歌っている情景であろう。そこへ突如、ノックの音が高鳴りハミングは中断、海のうねりのような音楽へと突入する。これは女中によってもたらされた手紙が、(背後の壁に掛けられた絵に描かれた)帆船を経て届られたことを暗示する。昂ぶる感情!しかし、次第に気持ちは落ち着き「悲しみよ、来たれ」が回顧され、穏やかに終結する。真に美しい楽章である。

III. 「王子の日」(ヤン・ステーン) 居酒屋における賑やかなどんちゃん騒ぎ。サイコロ賭博やトランプをしたり、乾杯したりと楽員があちらこちらで各自好き勝手なことをしている。そして次第に混沌・無秩序な中からしっかりと音楽が立ち上がってくる手腕が見事。僕はチャールズ・アイヴズが作曲した「宵闇のセントラルパーク」のことを想い出した。

スパーク(イギリス)の新曲は「パリのアメリカ人」ならぬ、「ニューヨークのイギリス人」といった雰囲気。Jazzを主体とした音楽で、都会の喧騒・クラクションの音などが飛び出し、明らかにガーシュウィンを意識したものとなっている。しかしそこは手練れのスパーク、巧みなオーケストレーションでしっかり独自色を打ち出し、聴き応えある愉しい作品に仕上げている。自作「宇宙の音楽」を彷彿とさせる曲想も途中あったりして、ニヤリとさせられる。

吹奏楽コンクールでは「トゥーランドット」のアレンジにより一世を風靡した後藤 洋さん。当日、会場にもお越しになっていた。飯森さんの手招きでステージに上がられ、新作のコンセプトを解説された。「彼方の祝祭」は特定のストーリーに基づくものではなく、演奏時間は10分程度であるということをお話され、「深い思索と、豊かなイマジネーションの世界に皆様をお連れします」と。

飯森さんも仰っていたが、この「彼方の祝祭」は《祈り》を想わせる静謐な響きが全体を貫き、時折ミュート(弱音器)を付けたトロンボーンやトランペットの祝祭的ファンファーレが、《遠くのこだま》のように聴こえてくる。そんな遠近感(奥行き)のある素敵な作品であった。ただ決して難易度は高くないので、これが今後吹奏楽コンクールで演奏されることはないだろう。しかし、コンクールだけが吹奏楽の全てではない。もっと豊かなジャンルとして捉えて欲しい-そういう後藤さんの願いを、音楽の行間から僕は確かに受け止めた。

定期演奏会のクライマックスは17年前、飯森/市音のコンビが岡山シンフォニーホールで披露し、一大センセーションを巻き起こした「華麗なる舞曲」!変拍子、複雑に入り組んだリズムを駆使した超絶技巧の難曲を飯森さんは指揮台でグイグイ煽り、それに市音の楽員も全神経を集中して応え、壮絶な演奏となった。最早人間業の限界を超えたスーパープレイの数々。聴衆はその凄さに息を呑み、ただただ圧倒され、そして最後にザ・シンフォニーホールは熱狂の渦に巻き込まれた。

アンコールは、

  • 久石 譲/おくりびと(Sop.Sax: 長瀬敏和、Pf: 飯森範親)
  • ヤン・ヴァンデルロースト/ウェディング・マーチ

映画「おくりびと」には飯森さんも指揮者として出演されている。

これは飯森さんのピアノと市音コンサートマスターである長瀬さんと2人だけによる演奏。「華麗なる舞曲」が超ハードな曲だけに、恐らくここで他の楽員の唇を休ませてあげる為の配慮だったのではなかろうかと考える。

ヴァンデルロースト(ベルギー)の「ウエディング・マーチ」は友人であるデ=メイの結婚(再婚)を祝って、2007年に作曲されたもの(翌年に出版)。華やかなファンファーレ、そして格好いいテーマが展開され、「アルセナール」のように魅力的な作品となった。

市音の定期は基本的に新作がお披露目される場であり、必ず《ハズレ》の曲というのはある(例えば前回の「星のきざはし」第2部)。しかし今回は当代きっての実力を持つ人気作曲家たちの作品がずらりと並んだお陰で、それが一切なかった。これは画期的なことであり、本当に充実した白熱の演奏会であった。恐らく秋にはライヴCDが発売されると想うので、生演奏を聴き逃したという気の毒な方たちは是非愉しみにお待ち下さい。

最後に飯森さんの公式ブログをご紹介しておく→こちら

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2009年6月 5日 (金)

桂雀々、ざこば@動楽亭 昼席

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この6月から動楽亭で始まった昼席に足を運んだ。

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動楽亭は桂ざこばさんが席亭を務める寄席小屋。マンションの2階を3室ぶち抜いた構造になっている。ざこばさんによると、もう1室が下座・楽屋として使用され、鳴り物の音がうるさいからとその上の階も1室確保、計5室を借り上げているとのこと。

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上の写真は後方の壁に掛けられていた額。左は故・桂枝雀さん直筆の「萬事 気嫌よく」という色紙で、右は弟弟子であるざこばさんが書かれた枝雀さんの似顔絵。

  • 二  乗/つる
  • まん我/野崎詣り
  • 雀  喜/犬の目
  • ざこば/肝つぶし
  • 出  丸/上燗屋
  • 雀  々/口入屋

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やはり豪放磊落な語り口のざこばさんと、息もつかせぬスピード感で捲し立てる雀々さんの高座が秀逸だった。

雀々さんは師匠の枝雀さんから「口入屋」の稽古を受けたとき、「ボウフラが水害に遭ぉたよぉな恰好」というのを目の前で演じてくれて、それが余りに可笑しくて稽古中だということも忘れてゲラゲラ笑ってしまったというエピソードを披露された。

みんな枝雀さんが大好きだったんだ……そんなことどもをしみじみと感じた、午後の一時であった。

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2009年6月 4日 (木)

重力ピエロ

評価:B

梅田ガーデンシネマで鑑賞。何だか、やたらと若い女性客が目立った。僕はよく知らなかったが、この映画に出演している岡田将生はイケメンとして相当な人気らしい。映画公式サイトはこちら

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「春が2階から落ちてきた……」という台詞と共に、ハラハラと舞い落ちる桜の花びらを下から仰角で捕らえた印象的なショットで映画は始まる。

森淳一監督作品は金城一紀原作「恋愛小説」(04,WOWOW)がとても好きだったが、今回も丁寧な作りで好感を覚えた。

原作者の伊坂幸太郎論は以前、映画「フィッシュストーリー」のレビューに書いた。伊坂くんは確かに優れた作家だが、最近の彼は自らの才能に溺れ、その壮言大語の作風(「魔王」、「終末のフール」、「ゴールデンスランバー」)に最早僕はついていけない。その点この「重力ピエロ」は彼がまだ身の丈にあった小説を書いていた頃の作品なので、素直に受け止められた。巧みな伏線と緻密な構成でミステリーとして見応えがあるし、最後に明かされる真相も、生きることの哀しみが滲み出し胸を打つ。伊坂作品の映画化の中では「アヒルと鴨のコインロッカー」と肩を並べる秀作と言えるだろう。

僕は仙台を舞台にケネディ暗殺とオズワルド冤罪事件を再現した「ゴールデンスランバー」(「このミステリーがすごい!」2009年版 第1位)をバカミスだと信じて疑わないが、堺雅人、竹内結子、香川照之、相武紗季らが出演し、現在仙台市を中心に撮影中の映画版が完成したら、結局そそくさと映画館に足を運んじゃうんだろうなぁ……。

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2009年6月 2日 (火)

TOR I I 寄席《落語と長唄のコラボレーション!》

千日前TOR I I HALLにて。

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  • 桂   米市/東の旅・発端
  • 桂まん我/猿後家
  • 月亭八方/稽古屋
  • 八方・米團治・今藤政之祐/座談「長唄の魅力」
  • 唄・今藤政之祐、三味線・松永和寿三郎/長唄「たぬき」
  • 桂米團治/小倉船

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今回、最も注目されたのは米市さん。米團治さんの一番弟子で、これが初舞台となる。やはり初々しいというか新鮮な印象を受けた。途中、2度ほどネタが抜け(台詞を忘れ)舞台袖から助太刀の小声が掛かることがあったが、それも御愛嬌。横で聴いている米團治さんは胃が痛かったろうが、観客もハラハラしながら緊張の面持ちだった。こういうスリリングな体験もまた一興である。活舌(歯切れ)が悪いとか、ハメモノ(三味線や太鼓)が入ると声が小さくて掻き消されてしまうとか色々課題は残ったが、まだまだ噺家人生始まったばかり。挫けず頑張って下さい!

なお、次回7月1日のTOR I I 寄席では米團治さんの二番弟子・團治郎さんが初舞台を踏むそうだ。

長唄の今藤政之祐さんはなんと、八方さんの娘婿だそう。市川團十郎一門によるパリ・オペラ座歌舞伎公演で演奏された時には八方さんもわざわざそれを観に行かれたとか。

打楽器的な奏法も用いられる三味線はとても迫力があった。そして唄や踊りを含めた八方さんの上手さ、米團治さんの華やかさで、とても愉しい会となった。「小倉船」は初めて聴いたののだが、人間が巨大フラスコに入り海中に潜ったり、竜宮まで出てきてそこに浦島太郎が現れ、大立ち回りを演じて歌舞伎のパロディになったりと、兎に角けったいな噺で驚いた。

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2009年6月 1日 (月)

スター・トレック

評価:A

ニューヨーク・タイムズなどアメリカ公開時のレビューが各紙絶賛の嵐。そしてIMDb(インターネット・ムービー・データベース)のユーザー評価も現時点で8.4(/10)という高評価。だから相当期待はしていたが、いやぁ、これは凄い!「2001年宇宙の旅」「スター・ウォーズ」「エイリアン」「未知との遭遇」にも匹敵する、SF映画史に間違いなく名を残すエポックメイキングな大傑作である。もう最初から最後まで息つく暇なく、アドレナリン出っ放し。

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僕は1966年から放送が始まったテレビシリーズ「宇宙大作戦」について全く知らないし、'79年に第1作が公開された劇場映画版(計6作が製作された)も観ていない。ただし、映画のために書かれたジェリー・ゴールドスミスの音楽は大好きなのでサントラCDは所有している。なおテレビ版のテーマ曲も有名だが、こちらを作曲したのはアレクサンダー・カレッジ。カレッジはしばしば、ゴールドスミスが書いた映画音楽のオーケストレーション(ピアノ譜から管弦楽用に編曲する仕事)を担当している。

だからトレッキーとはかけ離れた立場の僕でさえ今回の新作を十分愉しめたのだから、如何に出来が良いかお分かり頂けるだろう。映画公式サイトはこちら

まずは畳み掛けるスピード感が圧巻の演出を称賛すべきだろう。エンタープライズ号のフォルムの美しさを舐めるように撮る手腕もさすが。監督はテレビ「エイリアス」「LOST」で一世を風靡し、「M:i:III」で映画界に殴り込みを掛けたJ.J.エイブラムス。第2作以降はプロデュースに回ったりせず、是非次もメガホンを取って欲しい(でも人気者だし企画が目白押しなので難しいかも……)。

脚本の素晴らしさも特筆に価する。カーク船長出生時のエピソードから始まり、ミスター・スポックの幼少児のトラウマ、母親の救出作戦などテンポ良くポンポン話が展開してゆく。カー・チェイス、銃撃戦、空中落下作戦、剣術の闘い、モンスターの襲撃、惑星大爆発、ブラックホールの恐怖など、見所てんこ盛り!上映時間126分の中によくぞこれだけ詰め込んだと唖然とする。もう満腹でげっぷが出そう。エンタープライズ号乗員各々のキャラが立っているし、伏線の張り方も上手い。

特に感心したのは、タイム・パラドックスという反則技を使ってでも、テレビシリーズから劇場版までミスター・スポックを演じてきたレナード・ニモイを出演させたことだろう。旧スポックが新スポックに直接、人類の未来を託す……この場面はトレッキーでなくとも感動的ですらある。パラレルワールドという設定なので、旧シリーズを決して否定していないことになる。

そしてエンド・クレジットになって初めて、アレクサンダー・カレッジが作曲した「宇宙大戦争」のテーマが高鳴る。これに心躍らずにいられようか!マイケル・ジアッチーノ(「M:i:III」、「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」)が本作の為に書いた新テーマも文句なしに良い(なお、ゴールドスミスのテーマは使用されていない)。

必見、そして必聴。

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