笑福亭たまの実験落語会"NIGHT HEAD"~「代書屋」篇(5/18)
大阪・梅田で地下鉄谷町線に乗り換え、次の駅「中崎町」で降りてコモンカフェへ。笑福亭たまさんの落語会に往くためである。
新型インフルエンザの影響で梅田の地下街では行き交う人々の約半数がマスクを装着していた。それは異様な風景であった。たまさんはお客さんが来てくれるかどうか心配されていたそうだが、結局27-8人が集った。
前回の感想はこちら。
- 桂さろめ/ぞろぞろ
- 笑福亭たま/兵庫船
- 林家市楼/おごろもち盗人
- 笑福亭たま/新作ショート落語+代書屋
- 笑福亭たま/高校教師(新作)
僕は初めて聴いたのだが、「ぞろぞろ」は小学校国語の教科書に載っているそうである。さろめさんの高座に接するのは昨年6月の初舞台以来となる。
さろめさんは山形県出身。今回は標準語(江戸弁)によるもので、なんだか最後まで違和感が付きまとった。関西弁で口演しないのなら上方で修行(2007年11月入門)する意味が余りないような気がするのだが……。今後彼女がどのような噺家を目指すのか、目下模索中なのだろうか?
今回下座(三味線、鳴り物)は生演奏ではなく、既製の音源が使用された。たまさんは「代書屋」で出囃子《野崎》と共に登場。これは桂春團治師匠のトレードマーク。たまさんの解説によると生演奏の場合、他の噺家の出囃子を無断で使用するのは御法度だけれど、CDなど既製のものなら何を流してもO.K.だとのこと。
さて、「代書屋」は言うまでもなく春團治さんと故・桂枝雀さんの十八番である。どちらも磨きぬかれた完成品であり、聴衆側としてはどうしてもふたりの高座と比較しながら聴くことになる。だから若手の噺家にとってはおいそれと手出し出来ない、極めてハードルの高いネタと言えるだろう。
たまさんのアプローチは《代書屋(現在の司法書士・行政書士)=教養のある人、つまり感情を表に出さないタイプ》、《依頼人=その当時(昭和初期)としては当たり前だった字が書けない庶民、思ったことを明け透けに言うタイプ》に演じ分け、クライマックスで代書屋が抑えていた感情を遂に爆発させてサゲに持って行くというユニークな方法論を展開した。これぞたま版「代書屋」であり、実に鮮やかだった。
なお落語に登場する依頼人の名前であるが、春團治版は河合浅次郎(先代・春團治の本名)になっており、枝雀版が松本留五郎(松本姓は枝雀さんの祖父の旧姓)。更に調べてみるとこの噺を創作した米團治(先代)版は太田藤助で、その弟子の米朝版は田中彦次郎。たまさんの師匠である福笑版も田中彦次郎だそうだ。たま版に登場するのは田中彦次郎だったが、履歴書の訂正印として依頼人が差し出すのは「松本」。印鑑を友だちから借りてきたというギャグになっており、こんな所に桂枝雀へのオマージュを忍ばせる辺り、なんとも上手いなぁと感心した。
また、たまさんの新作は高校教師と生徒の恋愛もの。二人がデートする場面で再び《野崎》が流れ、春團治の落語会に往ったという設定には腹を抱えて笑った。お見事!
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