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2009年5月

ツェムリンスキー!@大阪シンフォニカー交響楽団

寺岡清高/大阪シンフォニカー交響楽団による《ベートーヴェンと世紀末ウィーンの知られざる交響曲》シリーズ第3弾に足を運んだ。第1回、第2回の感想は下記。

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曲目は、

  • ベートーヴェン/交響曲 第6番「田園」
  • ツェムリンスキー/交響曲 第2番

ベートーヴェンは特徴の乏しい中庸な解釈であり、取り立てて書くべきことは何もない。

面白かったのは滅多に演奏されないツェムリンスキー。彼は何と言ってもソプラノとバリトンの独唱が入る「叙情交響曲」(1924年初演)で名高く、これが11歳年長であるマーラーの「大地の歌」(1911年初演)を継承する作品であることは火を見るよりも明らかである(作曲者もそのことに言及している)。ちなみにツェムリンスキー自ら指揮した「叙情交響曲」初演時に、一緒に演奏されたのはマーラー未完の交響曲第10番であったという。だから内容はマーラー同様に爛熟し、終いに腐り果て、ドロドロ溶けていくような音楽である。

一方、ブラームスを審査員に迎えた「ベートーヴェン作曲賞」をツェムリンスキー/交響曲 第2番が受賞したのは「叙情交響曲」を溯ること27年前の、1897年のことである。マーラー/交響曲 第2番「復活」が全曲初演されたのが1895年、第3番はこの時点で未発表であった。だから今回初めて聴いたこのシンフォニーにはまだマーラーの片鱗すら感じられない。寧ろ当時、対立関係にあったブラームス派とワーグナー(+ブルックナー)派を融合したかのような音楽であった。特に第4楽章がパッサカリアというのは、明らかにブラームス/交響曲 第4番を意識しており、賞狙いのあざとささえ感じられる。

このシンフォニーは先にも書いたとおり「叙情交響曲」ほど崩れていないので、均衡と調和がとれた、大変聴きやすい作品に仕上がっている。爛れて腐臭のするマーラーとは異なり、香水のような芳醇な薫りがする。

特に第1楽章、冒頭でホルンにより提示される格好いい動機、そしてそれに続く気高いファンファーレを聴きながら僕が即座に連想したのはジョン・ウィリアムズが作曲した「ジュラシック・パーク」の音楽である。さらに主部に入り、弦楽器で提示される勇壮な第1主題はまるで、これから冒険に旅立つかのよう。例えばスピルバーグの映画「フック」~”ネバーランドへの飛行”みたいに。つまりエリック・ウォルフガング・コルンゴルトが直接ジョン・ウィリアムズに繋がっているように、ツェムリンスキーもまた、後のハリウッド映画音楽に多大な影響を与えたのだという事実を、この時僕は確信したのである。

 関連記事:

さて、大阪シンフォニカーの2010年度定期演奏会の概要が早くも発表となった→こちら

ここで最も注目されるのは、音楽監督である児玉 宏さんが指揮するニーノ・ロータ/交響曲 第4番「愛のカンツォーネに由来する交響曲」だろう。これはルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」(不朽の名作!)に使用された楽曲を後にまとめたもの。定期演奏会でロータが取り上げられるなんて、日本のオケも遂にここまで成熟したのかと感慨深い。同じプログラムで東京公演も予定されているようである。

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桂雀々 独演会@そごう劇場

大阪・心斎橋そごう劇場で二日間に渡り開催された桂雀々さんの独演会に往った。

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雀々さんによると、6月に愛知県一宮市で予定されていた落語会が突然取りやめになったそうだ。理由は、大阪から新型インフルエンザが急襲したら(持ち込まれたら)困るからだとか……酷い話である。最早、日本において神戸・大阪は完全にメキシコ扱いだ。

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一日目の演目は、

  • さん都 /動物園
  • 雀   々/子ほめ
  • 歌之助/七段目
  • 雀   々/猿後家
  • 雀   々/せんきの虫

二日目、

  • さん都 /強情灸
  • 雀   々/遺言(小佐田定雄 作)
  • 紅   雀/禁酒番屋
  • 雀   々/天王寺詣り
  • 雀   々/たぬさい

僕はどうしても歌之助さんの口調が好きになれない。「七段目」は芝居噺だが、所作が到底歌舞伎に見えない。つまり彼のニン(持って生まれた人柄)に合っていない。この噺は吉朝一門の吉弥さんとよね吉さんが十八番にしているだけに、相当物足りなかった。

雀々さんは相変わらず師匠(枝雀)譲りの快調なテンポ感と、滑稽味のある語り口で大いに愉しませてくれた。雀々さんの「子ほめ」は先月のらぶりぃ寄席でも聴いたが、マクラが全く違うものだったので、さすがだなと感心した。

落語作家・小佐田さんによる新作「遺言」は初めて聴いたが、既に古典の風格さえある見事な出来映えだった。

本当は雀々さんの二日目最初の演目は「たぬさい」と事前に発表されていたが、いきなり3席目予定の「遺言」を演じられたので驚かされた。高座を降りた時に「順番が違いますよ」と指摘され、雀々さんはそこで初めて気がつかれたそうで、「どうしてこんなことになったのか自分でも良く分かりません」。こんなこともあるのだなぁとライヴならではの醍醐味を実感した。マクラで落語家にも《天然ボケ》と《養殖》があり、前者の典型例が若旦那こと小米朝改め米團治さんだというお話をされ、彼にまつわる様々なエピソードを披露されていただけに、「人のことばかり言えませんなぁ」と雀々さん。

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庄司紗矢香 IN 大フィル定期

大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会を聴く。今回の指揮者はヨナス・アルバー。1969年ドイツのオッフェンブルク生まれ。

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曲目は、

  • コダーイ/ガランタ舞曲
  • リゲティ/ヴァイオリン協奏曲
  • ラフマニノフ/交響曲 第3番

ガランタ舞曲」はスロヴァキア(東ヨーロッパ)に住むロマ(ジプシー)の楽団が演奏する舞曲の数々をコダーイが採集し、オーケストラ作品としてまとめたもの。

交響曲 第3番はロシア革命後、二度と祖国の地を踏むことがなかったラフマニノフがスイスのルツェルン湖ほとりの別荘で作曲し、ストコフスキー/フィラデルフィア管弦楽団によりアメリカで初演された。ある意味ロシア的で、望郷の想いを感じさせる作品である。

アルバーの指揮は、一言で言えば非常にスマートな解釈だった。テンポ感が小気味好い。それが長所でもあり、しかし逆にコダーイの曲が本来持つ民族色や泥臭さとか、ラフマニノフにおけるロシアの土の匂いが感じられなかったのも事実である。

この演奏会の白眉は、何と言ってもヴァイオリン独奏の庄司紗矢香さんを迎えたリゲティだった。

前回、庄司さんの演奏に接したのが何時だったか記憶を辿ってみると、2004年3月13日に岡山シンフォニーホールでシベリウス/ヴァイオリン協奏曲を聴いたことが判明した。共演はコリン・デイヴィス/ロンドン交響楽団だった(僕はその頃、岡山在住だった)。

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彼女が日本人初、史上最年少でパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝したのが1999年、16歳の時。だからシベリウスを聴いたのは21歳の時ということになる。

この時は「大変美しい音色を持ったヴァイオリニストだけれど、些か線が細いかな?」という印象を憶えた。

あれから5年、彼女の演奏は力強さを増し、より艶やかで深みのある音に進化を遂げていると感じられた。

リゲティの曲はまず3楽章版が1990年に完成し、92年に5楽章版の決定稿が発表された。庄司さんはこの協奏曲が献呈されたS.ガヴリロフから直接学んだそうである。

ポリフォニーポリリズムを駆使し、ハーモニクスの多用や微分音を重ね合わせたりと非常に面白い音楽である。庄司さんはパンフレットのメッセージの中で「細部にこだわりを見せ、同時に光と宇宙的な神秘を放つリゲティの作品」と表現しているが、正に音の迷宮を彷徨うような摩訶不思議な体験をさせて貰った。

弦の編成はVn. 5,Va. 3,Vc. 2,Cb. 1の11名。第2楽章ではクラリネット2、オーボエ1,ファゴット1の4名がオカリナを演奏。第4楽章では前述のオカリナに加え、フルート2人がリコーダーを演奏する場面もあった。

第3楽章は下降半音階による音のシャワーが印象的で、まるで夜に霧雨が降っているような、あるいは無数の流星群を眺めているような気分になった。

ここではアルバー/大フィルも好サポート。曖昧さのない明晰な演奏で庄司さんの気迫に満ちた熱演に応えた。

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月亭遊方のゴキゲン落語会 (5/25)

ワッハ上方4階・小演芸場で月亭遊方さんの落語会を聴いた。前回の感想はこちら

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  • 月亭遊方/幕前戯噺(Stand Up Talk)
  • 桂  雀喜/ポイントカード(雀喜 作)
  • 月亭遊方/老婆の宝くじ(遊方 作)
  • 月亭遊方/天狗の恩返し(金山敏治 作)

今回は「お金」特集ということで、雀喜さんの出囃子に遊方さんが選んだ曲はABBAの"Money,Money,Money"。ただ雀喜さんの創作落語の出来は「並」。特に語るべきことはない。

遊方さんは登場した時からハイ・テンションで絶好調!なんかもう、神がかった高座だった。

老婆の宝くじ」は2004年の作品。桂あやめさんらが審査員を務めた落語の台本コンテストにおいて入選はしなかったものの、アイディアが面白いということで、遊方さんが作者の許可を得て全面的に改作したもの。現代版「高津の富」+プチ「芝浜」といった感じ。兎に角、1等が当選した時の老婆、息子夫婦、孫ふたり各々のリアクション(顔芸)が最高!笑い過ぎて窒息しそうになった。長いこと寝かせていて、今回久しぶりに引っ張り出してきて工夫を加えたネタだそうだが、これはけだし傑作である。

考えてみたら上方落語には狸や狐が登場する噺は沢山あるが、天狗は「天狗裁き」くらいしかないのではないだろうか?「天狗さし」という噺もあるが、これには本物(?)の天狗は登場しないようである。「天狗の恩返し」は第1回上方落語台本大賞優秀賞受賞作。さすがに出来が良い。目にしたこともない大金を制限時間内に使いきろうとする男の涙ぐましい努力が笑いを誘う。そこには人間の哀しい性(さが)が垣間見られ、ちょっと胸がキュンとする。サゲも見事にストンと落ちる。

落語会は午後7時30分から始まり、9時30分までには撤収しなければならない。遊方さんは後半時間がなくて相当焦っていたが、それが却ってテンポの良さに繋がり、演者と観客は小さな奇跡を共有する幸運に恵まれた。

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立川談春 25周年スペシャル独演会

今回の日本での新型インフルエンザ騒動について、ニューヨーク・タイムズ紙は次のように報道した。

Japan is also known for its paranoia of foreign diseases.(日本は海外からもたらされる病気に対して、偏執・妄想的であることでも知られている)

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さて、5月23日(日)にサンケイホールブリーゼ(大阪)で立川談春さんの独演会を聴いた。

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談春さんもマクラで、この過剰反応について触れられた。「そのうち、このような大きな会場での公演も禁止になり、落語会は地下に潜ってこっそりしなければならなくなるかも知れません」

いつ警察の手入れが入るかと、ビクビク怯えながら落語を聴く……まるでアメリカ禁酒法時代の闇酒場か、ナチス・ドイツ占領下のパリでレジスタンス活動をしているような感じ。そういう秘密めいた集会も、かえってスリリングで面白いかも知れない。

さて今回の演目は、

  • おしくら
  • 紺屋高尾

特に「紺屋高尾」が絶品だった。

僕は立川流の中で、志の輔さんの高座が大嫌いである。特にあの強引な《人情の押し売り》にはウンザリする。映画化もされた創作落語「歓喜の歌」なんか、聴きながら悶絶死するんじゃないかとさえ想った。「さあ、ここが泣き所ですよ!」とでも言わんばかりの、(長すぎる) 間の取りかたも勘弁してもらいたい。

しかし談春さんの高座にはその押しつけがましさ、くどさがない。最初にポンポン調子よく陽気に客を笑わせて、噺の中盤でしみじみと人情の綾を語る。そしてダレる直前で賑やかな軽快さに素早く切り替える。そのバランス感覚が実に見事である。江戸落語、特に人情噺に蕁麻疹が出る僕でも十分愉しめた。是非また聴きたい噺家である。

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そば打ち寄席(5/23)

阪堺線(チンチン電車)神明町駅近くにある真宗寺で開催された「そば打ち寄せ」に往った。

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これは桂 文鹿さんが主催されている会。平成6年入門の噺家だけで構成され、まるで同期会みたいな感じ。

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  • 桂かい枝/野ざらし
  • 桂  文鹿/代書屋
  • 林家染弥/癪の合薬(やかんなめ)
  • 桂  三金/ちしゃ医者

ざるそば付きで木戸銭、な、なんと1000円ポッキリ!落語に支払うお代を勘定すると、演者ひとりあたり100~150円くらいか。たっぷり愉しませて貰って、これでは申し訳ないくらいである。

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新型インフルエンザ騒動の渦中にあっても会場はぎっしり満席。入りきれなくて入り口から聴いている人もいた。文鹿さんによると、そばを130人分用意していたが足りなくなり、急遽追加分をそば屋さんが打っているとのこと。

かい枝さんは当日、この「そば打ち寄せ」の前に兵庫県川西市と姫路市で2つの落語会が予定されていたが、どちらもインフルエンザのせいで中止になったそうだ。「キャンセル料は、勿論貰えません」……噺家さんたちも大変だ。

「そば打ち寄せ」は今回が第19回目。次の記念すべき第20回は名人・桂 文太さんと、文鹿さんと同期の桂 吉弥さんが初出演されるとか。またまた大盛況になることは間違いない。

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中野振一郎×高田泰治/チェンバロ対決!@大阪倶楽部

大阪倶楽部で開催された日本テレマン協会のマンスリーコンサートを聴いた。

日本を代表するチェンバリスト・中野振一郎先生と、その高弟である高田泰治さんによる共演がメインのプログラムであった。高田さんは現在、ドイツが誇る鍵盤奏者クリスティーネ・ショルンスハイム(チェンバロおよびフォルテピアノ)のもとで研鑽を積んでいる。

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曲目は、

  • J.S.バッハ/2台のチェンバロの為の協奏曲 ハ長調
  • C.P.E.バッハ/チェンバロ協奏曲 イ長調 (中野 独奏)
  • J.S.バッハ/2台のチェンバロの為の協奏曲 ハ短調
  • C.P.E.バッハ/2台のチェンバロの為の協奏曲 へ長調

カール・フィリップ・エマヌエル(C.P.E.)は大バッハ(J.S)の二男。C.P.E.26歳の時に作曲された「2台のチェンバロの為の協奏曲」はまだ父親寄りの楽想だが、39歳の時に書かれた「チェンバロ協奏曲」は気まぐれで、移ろう感情が音楽に描かれている。バロック時代と決別し、古典派へ突き進もうとする明確な意思がそこには感じられる。つまり、この曲は後のハイドンやベートーヴェンに直接繋がっているのである。特に第2楽章は余りにベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」の葬送行進曲を想い起こさせるので驚いた。

研ぎ澄まされたタッチで畳み掛け、攻めの姿勢を崩さない中野先生に対し、あくまで泰然として微動だにせず、インテンポで弾き通す高田さんのチェンバロは気品に満ちて響く。ふたりの資質の違いがケミストリー(化学反応)を喚起し、スリリングかつエキサイティングな演奏となった。延原武春/テレマン・アンサンブル(ガット弦を張ったバロック楽器使用)も好サポート。アンコールは中野先生が2台のチェンバロ用に《バッハ風》編曲を施したヴィヴァルディ/「調和の霊感」~2つのヴァイオリンの為の協奏曲 第1楽章。聴き応えたっぷりで、大満足のコンサートであった。

先日僕は高田さんの弾く「ゴルトベルク」を同じ大阪倶楽部で聴いた。

この時の演奏について、寺西 肇さんは今回のプログラム・ノートに次のように書かれている。

中野とは対照的に、あらゆる感情を削ぎ落としたモノクロームのゴルトベルク感を披露し、聴衆を驚かせた。

巧いこと表現するなぁ!正にその通り。ふたりは全く異なるタイプのチェンバリストなのだ。だからその組み合わせがすこぶる面白い。このデュオの今後の動向から、目が離せない。

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聴いておきたい吹奏楽の名曲、アレンジ編

前記事、吹奏楽の名曲《オリジナル編》に続き、今回は《アレンジ編》をお届けしよう。

アレンジャー1人につき1曲という枷を自らにはめて選んだ。アレンジャー/曲名(作曲者)の順で表記している。

  1. 岩井直溥/アフリカン・シンフォニー(マッコイ)
  2. 森田一浩/ラピュタ〜キャッスル・イン・ザ・スカイ(久石 譲)
  3. 建部知弘/「オペラ座の怪人」セレクション(ロイド=ウェバー)
  4. 瀬尾宗利/「第六の幸福をもたらす宿」(アーノルド)
  5. 後藤 洋/歌劇「トゥーランドット」より(プッチーニ)
  6. 真島俊夫/カーペンターズ・フォーエバー
  7. 鈴木英史/喜歌劇「モスクワのチェリョムーシカ」より(ショスタコーヴィチ)
  8. 宮川彬良/翼をください〜バンドと合唱のための〜(村井邦彦)
  9. 宍倉 晃/ミュージカル「ミス・サイゴン」より(C.M.シェーンベルグ)
  10. 藤田玄播/幻想曲 シルクロード(喜多郎)

アフリカン・シンフォニー」は2008年夏の甲子園(高校野球)の応援で出場55校中、50校が演奏したという。しかし一体、日本人の中でマッコイの原曲を聴いたことがある人がどれだけいるだろう?……全ては岩井直溥さんのアレンジから始まったのである。

甲子園で初めて同曲を演奏したのは智弁和歌山。朝日新聞の記事から一部引用してみよう。

アフリカンは、甲子園で智弁和歌山が初出場を果たした87年、吹奏楽部顧問の吉本英治さん(53)が市販の楽譜から編曲して応援にとり入れた。

様々な音楽を吹奏楽用に編曲した楽譜およびLPレコード(現在はCD)のシリーズ「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」第5集に岩井版アフリカン・シンフォニー」は収録されている。1977年のことである。この「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」は2009年まで脈々と続いており、現在は第37集に至る。このシリーズが吹奏楽の世界にもたらした豊穣さは計り知れない。それにしても「アフリカン・シンフォニー」、何度聴いても燃えるねぇ!お勧めの演奏は岩井直溥/東京佼成ウインド・オーケストラ(CD)か、佐渡 裕/シエナ・ウインド・オーケストラ(DVD)で。

森田さんは宇畑知樹(先生)/埼玉県立伊奈学園高等学校吹奏楽部と長年コラボレーションを続けている作曲家/編曲家。この「ラピュタ」も伊奈学園のために書かれた。数ある久石さんの編曲ものの中でも、圧倒的な完成度を誇る。もう聴くだけでその美しさに涙、涙である。これはディズニーの配給で「天空の城ラピュタ」の北米版が製作された折、久石さんが新たに書き下ろしたサウンドトラックからのハイライトとなっている。だからオリジナルにはないモティーフ(旋律)も登場する。なお、日本で発売されている「ラピュタ」DVDにも英語版が収録されているが、それとディズニー版は全くの別物である。また森田さんは久石 譲作品集(アニメ・メドレー)も手掛けられており、こちらもなかなか良い。《「天空の城ラピュタ」君をのせて~「風の谷のナウシカ」鳥の人~「紅の豚」帰らざる日々~「となりのトトロ」風のとおり道》という構成になっている。久石さんのアレンジもので他に僕が好きなのは「ハウルの動く城」~人生のメリーゴーランド小島里美/編曲)。

オペラ座の怪人」の吹奏楽用アレンジは沢山ある。大阪市音楽団がしばしば演奏しているのがポール・マーサ編曲版。しかしこれは凡庸で、退屈なこと極まりない。「指輪物語」のヨハン・デ=メイによるバージョンもあるが、演奏時間が約15分も掛かり些か冗長。それに僕が一番好きなナンバー「マスカレード」が抜けている。その不満を一気に吹き飛ばしてくれたのが建部知弘版の登場である。これは完璧!もう、他のアレンジはお役御免で良し。僕がこの決定版を初めて聴いたのは2007年4月大阪城(野外)音楽堂におけるスプリング・コンサート。演奏したのは明浄学院高等学校吹奏楽部Queenstarだった。その時点で楽譜は出版されていなかったのだけれど、そろそろ出たのかな??ちなみに調べてみると、2006年九州吹奏楽コンクールで沖縄市立山内中学校がこの建部版を演奏し、金賞を受賞している。

イギリスの作曲家マルコム・アーノルド(1921-2006)は1957年に映画「戦場にかける橋」でアカデミー作曲賞を受賞している。彼は交響曲を9曲書いているが、日本で演奏されることは皆無に等しい。しかし吹奏楽コンクールでは彼の交響曲が演奏される機会が多く、その殆どを編曲しているのが瀬尾宗利さんである。だから僕は彼のことを《アーノルドの伝道師》と呼んでいる。「第六の幸福をもたらす宿」は元々映画音楽であり、アーノルドの作品の中でもとりわけ親しみやすく、魅力的な旋律に満ちている。これはお勧め。是非一度、聴いてみて下さい。

後藤版「トゥーランドット」が全日本吹奏楽コンクール(全国大会)に初登場したのは2006年。大滝 実(先生)/埼玉栄高等学校の名演で一躍、人気曲となり現在に至る。オペラの中から「いいとこどり(大阪弁では”ええとこどり”)」し、巧みに繋いでアレンジした手腕はお見事。後藤さんは今度の大阪市音楽団定期演奏会でオリジナルの新曲(大阪市制120周年記念)を発表されるので、そちらも愉しみにしている。

真島俊夫さんは「オーメンズ・オブ・ラブ」(和泉宏隆)のアレンジも素晴らしい。「カーペンターズ・フォーエバー」は言うまでもなく丸谷明夫(丸ちゃん)/大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部のトレードマークだが、一方の「オーメンズ・オブ・ラブ」は宇畑/伊奈学園の十八番。伊奈学園のDVDでこれを初めて聴いて、深く感動した(はっきり言ってT-SQUAREの原曲よりいい)。彼らの演奏する「オーメンズ・オブ・ラブ」を生で聴くことが僕の夢である。

鈴木英史さんは喜歌劇「こうもり」セレクションと、どちらにするか迷った。鈴木さんによる一連のオペレッタ(喜歌劇)編曲ものは、他の追随を許さない極めて質の高いシリーズである。ただし、鈴木版「トゥーランドット」はいただけなかった。鈴木さんにシリアスなオペラは向いてないのかも知れない。

宮川彬良さんは本当に卓越したアレンジャーである。「翼をください」は勿論、「ゲバゲバ90分」と置き換え可。「私のお気に入り」や「ズームイン!!朝!」、「マツケンサンバII」もいいなぁ……あ、「マツケンサンバ」はオリジナルか!

宍倉版「ミス・サイゴン」は2002年の全日本吹奏楽コンクールで大滝/埼玉栄が初演。それが巻き起こした一大センセーションは最早、伝説となった。詳しくは下記。

こうして並べてみると、奇しくも日本人の手による編曲ばかりになった。それだけ日本吹奏楽のレベルは高く、プロの作曲家とアマチュアが手を取り合って発展してきたことが良く分かるのではないだろうか?

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聴いておきたい吹奏楽の名曲、ベスト25

5月24日オン・エアされるテレビ朝日「題名のない音楽会」は《吹奏楽の歴史(2)人気曲ベスト10》という内容だそうだ。先週に引き続き、大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部の丸谷明夫先生(丸ちゃん)がゲスト出演し、佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラが演奏する。更に「一音入魂!全日本吹奏楽コンクール名曲名演50」という著書で一世を風靡した音楽ライター、富樫鉄火さんも登場。番組視聴者からのアンケートを元に、ベスト10が発表されるらしい。

次回予告で、バックに流れていたのはなんと「アルヴァマー序曲」!つまりベスト10入りしているのは確実ということだ。これはとても嬉しい。

僕は高校1年生の時、岡山県吹奏楽コンクールでこの「アルヴァマー序曲」を演奏した。楽譜が出版された翌年くらいの頃である。「スター・ウォーズ」のテーマみたいに勇壮で、血湧き肉躍るカッコイイ曲。今でも聴く度にワクワクする。

そこで、これを機会に僕が考える吹奏楽の名曲を挙げてみたい。当初はベスト10を予定していたのだが、「あれも入れたい、こちらも捨てがたい…」と収まりきらず、途中でベスト20に計画変更。それでもまだ未練が残り、最終的に25選で決着をつけた。原則としてオリジナル曲、1作曲家につき1曲に絞り選考した。

勿論、独断と偏見によるチョイスである。当然異論もあるだろう。そういうご意見は大歓迎なので、コメント欄にどしどしお書き頂きたい。語り合いましょう。

  1. アルフレッド・リード/アルメニアン・ダンス PART 1
  2. ジェイムズ・バーンズ/アルヴァマー序曲
  3. 保科 洋/風紋
  4. パーシー・グレインジャー/リンカンシャーの花束
  5. グスタフ・ホルスト/吹奏楽のための第1組曲
  6. ロバート・ジェイガー/シンフォニア・ノビリッシマ
  7. 大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲
  8. ヤン・ヴァンデルロースト/コンサートマーチ「アルセナール」
  9. カレル・フサ/プラハのための音楽1968
  10. ヨハン・デ=メイ/交響曲第1番「指輪物語」
  11. フィリップ・スパーク/宇宙の音楽
  12. ハワード・ハンソン/ディエス・ナタリス
  13. クロード・T・スミス/フェスティバル・バリエーションズ
  14. W.F.マクベス/マスク
  15. 真島俊夫/鳳凰が舞う〜印象、京都 石庭 金閣寺〜
  16. 諏訪雅彦/16世紀のシャンソンによる変奏曲
  17. 酒井 格/The Seventh Night of July(たなばた)
  18. 櫛田胅之扶/雲のコラージュ
  19. ジェームス・スウェアリンジェン/ロマネスク
  20. 岩井直溥/ポップス描写曲「メインストリートで」
  21. ジョン・マッキー/レッドライン・タンゴ
  22. 中橋愛生/科戸の鵲巣-吹奏楽のための祝典序曲
  23. 伊藤康英/吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」
  24. J. A. コーディル/吹奏楽のための民話
  25. ケネス・アルフォード/行進曲「ナイルの守り」

問答無用のベスト1については、下記に詳しく書いた。

風紋」は1987年度全日本吹奏楽コンクール課題曲。まるでドビュッシーやラヴェルなど印象派のような、繊細で美しい曲である。今年8月に秋山隆/保科アカデミー室内管弦楽団により、岡山と東京でこの管弦楽版が初演される予定。詳細はこちら

イギリス民謡を採譜し、再構成した「リンカンシャーの花束」は何だか懐かしいような、そしてちょっぴり切ない気持ちになる組曲。一度聴いたら、その旋律が何度も耳の奥でリフレインされることだろう。

大栗 裕については過去に何度も触れている。

アルセナール」といえば全日本マーチングコンテストでの滝川第二高等学校のパフォーマンスを、そして「宇宙の音楽」と「フェスティバル・バリエーションズ」は精華女子高等学校による全日本吹奏楽コンクールでの極めつけの名演が忘れ難い(特に咆哮するホルンが凄かった)。また「宇宙の音楽」はザ・シンフォニーホールで行われた大阪市音楽団定期演奏会で世界初演された日に、僕も会場にいた。圧倒的パワーを持つ作品である。

プラハのための音楽1968」についてはこちらのサイトが詳しい。

ディエス・ナタリス」はこちらをご参照下さい。崇高なまでに澄み切った響きで、心が洗われる音楽。

マクベスなら「聖歌と祭り」とか「カディッシュ」を挙げる方もいらっしゃるだろう。でも僕は断固「マスク」を推す。あの畳み掛けるような、切迫した緊張感が堪らない。いつの日か、なにわ《オーケストラル》ウィンズでも取り上げてくれないかなぁ……。

鳳凰が舞う」はフランスで開催された国際作曲コンクールで応募総数214曲の中からグランプリに輝いた傑作。詳しくはこちらへ。

たなばた」は酒井 格さんが高校生の時に作曲したもの。当時憧れていた女性の誕生日が7月7日だったとか。優しくて、可愛らしい曲調。酒井さんは大阪府枚方(ひらかた)市出身。枚方市内にはその名もずばり「天の川」が流れているそうである。酒井さんなら「森の贈り物」とか「七五三」も好きだなぁ。

雲のコラージュ」は1994年度全日本吹奏楽コンクール課題曲。日本情緒溢れる作風。これは同じ作曲家の「飛鳥」と入れ替え可。

愉しくて心が躍る「メインストリートで」は1976年度、そして「16世紀のシャンソンによる変奏曲」は今年の課題曲(第19回朝日作曲賞受賞)。鄙びた古楽的響きが耳に心地良い。コンクールからまた名曲が生まれた。

スウェアリンジェンは胸に沁み入るハーモニーの美しさで「ロマネスク」にトドメを刺す。

レッドライン・タンゴ」は2005年オストウォルド賞受賞。絶え間なく変化する拍子、先鋭なスタイルが超クール。21世紀という新しい時代を切り開く傑作。マッキーが2007年に発表した「翡翠(かわせみ)」も心に残る素敵な曲である。

アルフォードなら「ボギー大佐(クワイ河マーチ)」の方が有名だろう、しかし「ナイルの守り」は短調の第1マーチで始まり、第2マーチで長調に転調する所の、なんと鮮やかなことか!僕はやっぱりこっちの方が断然好きだなぁ。

吹奏楽の名曲《アレンジ編》も併せて是非、お読み下さい。

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桂ざこば独演会@ピッコロシアター

5月19日(火)、兵庫県尼崎市のピッコロシアターで桂ざこばさんの独演会を聴く。

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新型インフルエンザの影響で、JR大阪駅では乗客のマスク装着率が80%を越えていた(既に関西では殆どの薬局でマスクが売り切れ状態である)。落語会は予定通り行われたが、希望者に対して会場で払い戻しにも対応していた。でもそんなことをする人は殆どいなかったようだ。

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  • 桂そうば/ろくろ首
  • 桂都んぼ/真田小僧
  • 桂ざこば/愛宕山
  • 桂  米輔/悋気の独楽
  • 桂ざこば/一文笛(米朝 作)

ざこばさんはマスクをしたまま登場、場内が沸く。高座では外し、退場時にまたマスクを着けるというパフォーマンスで観客の笑いを誘った。

ざこばさんの高座は相変わらずダイナミックで、味わい深いものだった。登場人物それぞれが生き生きと描かれ、人間味に溢れとても魅力的。聴きに往って本当に良かった。

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笑福亭たまの実験落語会"NIGHT HEAD"~「代書屋」篇(5/18)

大阪・梅田で地下鉄谷町線に乗り換え、次の駅「中崎町」で降りてコモンカフェへ。笑福亭たまさんの落語会に往くためである。

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新型インフルエンザの影響で梅田の地下街では行き交う人々の約半数がマスクを装着していた。それは異様な風景であった。たまさんはお客さんが来てくれるかどうか心配されていたそうだが、結局27-8人が集った。

前回の感想はこちら

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  • 桂さろめ/ぞろぞろ
  • 笑福亭たま/兵庫船
  • 林家市楼/おごろもち盗人
  • 笑福亭たま/新作ショート落語+代書屋
  • 笑福亭たま/高校教師(新作)

僕は初めて聴いたのだが、「ぞろぞろ」は小学校国語の教科書に載っているそうである。さろめさんの高座に接するのは昨年6月の初舞台以来となる。

さろめさんは山形県出身。今回は標準語(江戸弁)によるもので、なんだか最後まで違和感が付きまとった。関西弁で口演しないのなら上方で修行(2007年11月入門)する意味が余りないような気がするのだが……。今後彼女がどのような噺家を目指すのか、目下模索中なのだろうか?

今回下座(三味線、鳴り物)は生演奏ではなく、既製の音源が使用された。たまさんは「代書屋」で出囃子《野崎》と共に登場。これは桂春團治師匠のトレードマーク。たまさんの解説によると生演奏の場合、他の噺家の出囃子を無断で使用するのは御法度だけれど、CDなど既製のものなら何を流してもO.K.だとのこと。

さて、「代書屋」は言うまでもなく春團治さんと故・桂枝雀さんの十八番である。どちらも磨きぬかれた完成品であり、聴衆側としてはどうしてもふたりの高座と比較しながら聴くことになる。だから若手の噺家にとってはおいそれと手出し出来ない、極めてハードルの高いネタと言えるだろう。

たまさんのアプローチは《代書屋(現在の司法書士・行政書士)=教養のある人、つまり感情を表に出さないタイプ》、《依頼人=その当時(昭和初期)としては当たり前だった字が書けない庶民、思ったことを明け透けに言うタイプ》に演じ分け、クライマックスで代書屋が抑えていた感情を遂に爆発させてサゲに持って行くというユニークな方法論を展開した。これぞたま版「代書屋」であり、実に鮮やかだった。

なお落語に登場する依頼人の名前であるが、春團治版は河合浅次郎(先代・春團治の本名)になっており、枝雀版が松本留五郎(松本姓は枝雀さんの祖父の旧姓)。更に調べてみるとこの噺を創作した米團治(先代)版は太田藤助で、その弟子の米朝版は田中彦次郎。たまさんの師匠である福笑版も田中彦次郎だそうだ。たま版に登場するのは田中彦次郎だったが、履歴書の訂正印として依頼人が差し出すのは「松本」。印鑑を友だちから借りてきたというギャグになっており、こんな所に桂枝雀へのオマージュを忍ばせる辺り、なんとも上手いなぁと感心した。

また、たまさんの新作は高校教師と生徒の恋愛もの。二人がデートする場面で再び《野崎》が流れ、春團治の落語会に往ったという設定には腹を抱えて笑った。お見事!

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岩田達宗プロデュース☆能「隅田川」/オペラ「カーリュウ・リヴァー」

世間が新型インフルエンザで大騒ぎとなっている中、大阪・いずみホールで能とオペラを堪能した。ホール・スタッフ全員がマスクを装着しているという異様な雰囲気であった。しかし会場はほぼ満席で、噺家の桂吉坊さんをお見かけした。積極的に能や狂言などとコラボレーションを行っている吉坊さんだから、その縁で観に来られたのだろう。

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「隅田川」は世阿弥の息子、元雅(もとまさ)の作。室町時代の作品である。

イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンは1956年に来日した折、「隅田川」を2回に渡り観賞したそうだ。事前に英訳を入手し万全の準備を整えた上で能楽堂に出向いたという。この作品に深い感銘を受けた彼は帰国後、オペラ「カーリュウ・リヴァー」を創作する。

因縁の深い両者を続けて観るというのは大変意義深く面白い体験だった。いずれも日本語字幕つきで分かり易かったのもありがたかった。

オペラは聖歌や修道士が登場するなどキリスト教の世界に置き換えられているが、攫われた子を探す母の嘆きという基本プロットは「隅田川」を踏襲している。少年の霊を演じるソプラノ以外は合唱を含め出演者全員が男性というのも能の精神を引き継ごうという意思が感じられる。15世紀に日本で生まれた物語が、20世紀にイギリスで新たな生命を吹き込まれたことの不思議。ブリテンはギリシャ悲劇との親和性を指摘していたそうだが、死者を訪ねて川を渡るという設定は確かにオルフェウス神話に通じるものがある。

演奏は高関 健/いずみシンフォニエッタ大阪アンサンブル。フルート、ホルン、ヴィオラ、コントラバス、ハープ、打楽器、パイプオルガンという7人編成だった。フルートは能楽の笛、そして打楽器は小鼓や大鼓を意識した響きで書かれていた。

岩田達宗の演出はシンプルでありながら的確に要所要所を押さえたもの。特に奇蹟が起こるオペラのクライマックスではいずみホールの巨大なパイプオルガンに十字架の照明をあて、荘厳な空気を醸し出し実に見事であった。

両者を比較しながら理解したことは、結局人間の営みや感情のあり方といったものは人類共通であり、優れた芸術作品はいとも容易く国境や人種、宗教、さらに時代さえも超えるんだなぁということであった。考えてみれば納棺師を描く日本映画「おくりびと」が米アカデミー賞を受賞したり、逆に僕たちがハリウッド映画にワクワクしたり、300年前に創作された古典落語で大笑い出来るのも、きっと同じこ となのだろう。

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天使と悪魔

評価:B

今から3年前、映画「ダ・ヴィンチ・コード」について僕が書いたレビューはこちら。この時の評価はD。しかし、今回のシリーズ第2弾は息もつかせぬジェットコースター・ムービーに仕上がっており、前作より遥かに面白くなった。ヴァチカンの観光映画としても愉しめる。

映画公式サイトはこちら

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カメルレンゴを演じたユアン・マクレガーがとにかく良い。原作を読んだ時点で僕のイメージ・キャストはキアヌ・リーブスだったのだけれど、マクレガーもはまり役。彼の全出演作の中でもベストではなかろうか?

そしてヴァチカン最年長の枢機卿を演じるアーミン・ミュラー=スタールがさすがの威厳があって素晴らしい。

主人公のラングドン教授は原作で《ハリス・ツイードを着たハリソン・フォード》と描写されているが、「ダ・ヴィンチ・コード」のトム・ハンクスはそれとはかけ離れており、心底がっかりした。ところが今回その違和感は不思議となかった。目が慣れてきたせいもあるだろうし、人生に疲れた知識人という雰囲気がいかにも大学教授らしくて悪くなかった。

「天使と悪魔」は「ダ・ヴィンチ・コード」ほど内容がややこしくなく、一直線に物語が進んでいくので元々映画に向いていたのだろう。タイムリミット・サスペンスという点でもドキドキワクワクする要素がたっぷりある。ロン・ハワード(「ビューティフル・マインド」でアカデミー監督賞受賞)の演出は前作より断然スピード感があり、冴えている。

そして特筆すべきはハンス・ジマー(「バックドラフト」「ライオン・キング」)による音楽の充実振り。久々にジマーが《本気》で仕事したという印象を受けた。ジョシュア・ベルのソロ・ヴァイオリンをフィーチャーしたテーマが格調高く美しい。またグレゴリア聖歌を彷彿とさせる重厚な合唱も聴き応えあり。一部ゴブリンの「サスペリア」風なのも、なんだかイタリア的で愉快だ。

シリーズ第3弾"The Lost Symbol"(旧題「ソロモンの鍵」)はダン・ブラウンの小説が今年9月に出版予定だが、既にソニー・ピクチャーズが映画化権を獲得したらしい。こちらも大いに期待したい。

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京都・伏見/夢の通い路

京都の伏見を旅した。

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伏見稲荷の千本鳥居である。ここはハリウッド映画「SAYURI」(監督:ロブ・マーシャル、アカデミー賞では撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞受賞)のロケ地としても有名。

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チャン・ツィイーの少女時代を演じた大後寿々花がこの中を駆け抜ける!

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ロブ・マーシャル監督といえば、今年の年末に北米公開されるミュージカル映画「ナイン」の予告編がついに解禁→こちらをご覧あれ。こ、こりゃあ凄い!!もう大興奮である。来年のアカデミー賞で最多部門を制覇する可能性は極めて高い。特に衣装デザイン賞は100%間違いなし。

閑話休題。

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ここは神社だから狐も沢山いて、巻物や玉などを口々に咥えている。神秘的雰囲気が漂う。

ついでに足を伸ばし、東福寺へ。

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楓(かえで)の緑が風に揺れて海のようにうねり、目に眩しい。閑静で本当に素敵なお寺だ。

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伏見に戻り、酒蔵を巡ったり川辺を散策したりして、ゆったりとした時を過ごす。

この街は落語「三十石(さんじっこく) 夢の通い路」にも登場。今でも三十石舟や十石舟が川を行き交っている。

落語の方は桂枝雀さんのDVD(枝雀落語大全 第七集)をお勧めしたい。夢か現(うつつ)か、次第に境界が曖昧になってくる幻想的で圧巻の高座である。

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月なみ(^o^)九雀の日(5/13)、そして桂枝雀が愛した酒「呉春」のこと

豊中市立伝統芸能館で開催された、桂九雀さんの落語会に往く。

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前回ここで九雀さんプロデュースによる噺劇(しんげき)「淀五郎」を観た時の感想はこちら

今日のゲストは林家染左さん。自由料金制(お代は見てのお帰りに)。

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  • 九雀/牛ほめ
  • 染左/猿後家
  • 九雀/書割盗人
  • 九雀/火焔太鼓

牛ほめ」は従来の型から逸脱し、古典がより口語的になったというか現代的で親しみやすい会話にアレンジされていた。

今まで沢山の「牛ほめ」を聴いてきたが、大黒柱に空いた大きな節穴に貼るのは皆「秋葉さんのお札」だった。しかし今回は「愛宕さんのお札」だったのでちょっと吃驚。これも九雀さん独自の工夫なのかなと想い調べてみると、上方ではどうやらこの型もあるようだ(→米二さんの解説へ)。これは新たな発見だった。

染左さんは大阪大学文学部出身。阪大では近世芸能史を専攻されたとか。卒後は泉佐野市・郷土資料館で学芸員をされていたという、アカデミックな(九雀談)噺家である。「猿後家」は比較的珍しいネタだが、染左さんの口調はとても調子よく聴けた。

九雀さんの3席のうち出色の出来だったのは「火焔太鼓」。どうしてこんなに軽妙で、聴いてきて心地良いのだろうと考えてみたのだが、声のトーン(高低)やテンポ(緩急)が変化に富むこと、特に息継ぎ(ブレス)の間隔が長いことで畳み掛けるようなスピード感を獲得しているのだろうと想った。つまり九雀さんの高座は音楽的なのだ。クラリネットを演奏されることも無関係ではあるまい。この辺りが師匠の枝雀さんを彷彿とさせる特徴である。

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帰宅後、僕は池田の銘酒「呉春」を呑みながらこの記事を書いている。瓶詰めされた翌日に我が家に届いたもの。谷崎潤一郎や桂枝雀が生前こよなく愛したことで余りにも有名。枝雀DVDで弟子たちが語るエピソードの中でも、何度も登場する。

同門である米二さんのエッセイにも「呉春」について触れられている→こちら

枝雀さんはこれを「鶴呑み」という独自の方法で愉しまれていたそうだ。顔を上に向け顎と首のラインを一直線に伸ばす。のどを細めその中を酒が通過してゆくのを、ゆっくりと味わうという。

ふっくらして柔らかな味わい。酒が舌の上で《まるく、まぁ〜るく》なっているのが触感で分かる。そしてそれが、枝雀さんの生き方にも通じるものがあると感じるのは、決して僕だけではないだろう。

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面白きことは良きことなり! 

今日でこのブログを開設し丁度2年になる。僕にとって、これぞエンターテイメント!と考えるものを、今までただひたすらに書き綴ってきた。

「えっ!クラシック音楽もエンターテイメントなの??」と疑問に感る方もいらっしゃるかも知れない。お答えしましょう、「もちろん!」と。モーツァルトやベートーヴェンの音楽が生まれた当時、それらを聴くことは貴族や上流階級の人々にとって最高の娯楽であった。ヴェルディやワーグナーのオペラだってそう。ヨハン・シュトラウスのワルツなんか舞踏会で踊るための実用的な音楽だった訳だし。だから僕は現在のクラシック音楽ファンが「スター・ウォーズ」など映画音楽や、ミュージカルを一段低いものと見なす心情が全く理解できない。チャイコフスキーの「白鳥の湖」やグリーグの「ペールギュント」だって劇伴音楽じゃないですか。どこが違うの?

聴くことで愉しい時間を過ごすのだからクラシック音楽だって立派なエンターテイメント。だから映画とクラシック音楽に優劣(高尚か、否か)など存在しない。ましてや小説を芥川賞(文学)と直木賞(娯楽)に分けるなんてナンセンス!それらの価値を決める基準は《面白いか、面白くないか》。ただそれだけである。

ここで現在、僕のお気に入りの作家・森見登美彦(「夜は短し歩けよ乙女」で山本周五郎賞受賞、本屋大賞第2位)が京都を舞台にした小説「有頂天家族」を紹介したい。僕が当ブログでやろうとして来たことを、この作品が鮮やかに代弁してくれているからである。

「有頂天家族」はある狸の四兄弟と、人間から半天狗になった"弁天"(かつては"鈴木聡美"という名の少女だった)の物語である。"弁天"はこの兄弟の父親を「金曜倶楽部」の忘年会で狸鍋にして食べてしまった。その後、全てのことに対してやる気をなくした次男は《井の中の蛙》となり引きこもってしまう。そして小説のクライマックス、捕らえられた長男を助けようと次男は偽叡山電車に化け、弟二人を乗せて疾走する。そこで次のような一節が登場する。

 次男が風を切って走りながら言った。「これだ。これだった!」
 私と弟は座席に膝をつき、窓から身を乗り出して手を振り回し、「やっほう」と叫んだ。
「ああ、どうしよう矢三郎。わが一族の頭領、兄さんの絶体絶命の危機だというのに、俺はなんだか妙に面白くてしょうがないよ。ふざけたことだなあ」
「かまわん、走れ兄さん。これも阿呆の血のしからしむところだ」
 私は言った。「面白きことは良きことなり!」
(中略)
「父上の最後の言葉はそれだったよ。父上はあの夜、俺にそう言ったのだった。あれだけ長い間、井戸の底に籠もって思い出せなかったことだが、今の今、ようやく思い出した」
 次兄の全身で阿呆の血が沸き返るのが分かった。心臓の鼓動を聞く思いがした。
「面白きことは良きことなり!」
 高らかな次兄の宣言に、私と弟も唱和した。

さらに、広瀬和生(著)「この落語家を聴け!/いま、観ておきたい噺家51人」からも引用しよう。

 僕たちは、面白くもない噺家を救うために金を払う「お旦」ではない。優れたエンターティナーが与えてくれるものに対して金を払う「単なる観客」なのであって、それ以上である必要は全く無い。

 力の無い者は淘汰されるだろうが、それは仕方の無いことだ。

正しくその通り。これからも当ブログは力のない噺家、映画監督、音楽家たちに対し、遠慮会釈なく「退屈だ」と書くつもりだ。それが金を払った客としての正当な権利であり、プロが受けてしかるべき洗礼である。

《面白いか、面白くないか》、それが全てだ。

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チェイサー

評価:B

凄惨苛烈な描写があり、後味は良くないので好みの作品とは決して言えない。しかし、これがデビュー作となるナ・ホンジンは桁外れの才能を持つフィルム・メーカーであることは動かしようがない事実である。韓国が生んだクライム・ムービーの傑作。既にレオナルド・ディカプリオとワーナー・ブラザースがリメイク権を獲得している。

断り書きはされていないが、犠牲者が21人にも上る「殺人機械」ユ・ヨンチョル事件をモデルにしていることは明かである。

Chaser

映画公式サイトはこちら

とにかく上映時間2時間5分、片時もスクリーンから目を離すことが出来ない。凄まじい緊張感で、ヒリヒリするような現代の闇を観客に突きつけてくる。出口のない迷路をひたすら駆けめぐっているような焦燥感に囚われる。これは悪夢だ!しかし、同時に現実でもある。怖ろしい……でも、逃れられない。

印象的な場面も多い。特に雨の中、被害者女性の娘が真相を悟って車の中で泣き出し、その横で主人公が運転しながら携帯電話でわめき散らしているのを車外からサイレント(台詞なし)で捉えた演出は傑出していた。

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淀工サマーコンサート&丸谷先生「題名のない音楽会」出演

5月17日(日)より2週にわたり、テレビ朝日「題名のない音楽会」で”日本吹奏楽の歴史"という番組が放送される。演奏は佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラ。第1回目は全日本吹奏楽コンクール課題曲が取り上げられ、ゲストに大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部の丸谷明夫先生(丸ちゃん)が登場する。

丸ちゃん/淀工は1974年以降、吹奏楽コンクール全国大会に30回出場し、22回金賞を受賞するという輝かしい成績を残している。これは勿論、高校の部において歴代1位である。

佐渡さんは今年1月、大阪城ホールが1万人以上の聴衆で埋め尽くされた淀工の演奏会にも駆けつけられた。

さて、その淀工サマーコンサートのチケットが現在発売中である。計4公演あり、

6月6日(土)14:00/18:30 6月7日(日)12:00/16:30 
さつきホールもりぐち(守口市市民会館)入場料1000円

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曲目は、

  • ショスタコーヴィチ/祝典序曲(バンダ=金管別働隊も登場)
  • マイ ウェイ
  • ディスコキッド
  • '09年吹奏楽コンクール課題曲より
  • お楽しみコーナー(曲当てクイズ?)
  • ザ・ヒットパレード

その他にも色々用意されているみたいだが、後は当日のお楽しみ。「ディスコキッド」は1977年吹奏楽コンクール課題曲。ポップス調で現在でも人気があり、しばしばコンサートで取り上げられる。今回は淀工OBによる演奏のようである。

チケットを購入出来るのは、アルト楽器社(06-6951-7018)のみ。直接購入するか、現金書留で郵送もしてくれるらしい。営業時間は13時から19時まで、月曜定休。アルト楽器社への行き方は以前記事に書いた。

過去のサマコンのレポートは、下記をどうぞ。

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宮本亜門/狂気の「三文オペラ」

大阪厚生年金会館で宮本亜門演出「三文オペラ」を観た。公式サイトはこちら

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「三文オペラ」はドイツ生まれの劇作家ベルトルト・ブレヒトが作曲家クルト・ワイルと組んだ戯曲である。

1928年、ブレヒトはイギリスの劇作家ジョン・ゲイの「ベガーズ・オペラ」を翻案した「三文オペラ」をベルリンで発表し、大成功を収めた。しかし共産主義者だった彼はヒトラーが首相になると身の危険を感じ、1933年ナチスによる国会議事堂放火事件(共産党議員が濡れ衣を着せられた)の翌日に亡命した(彼の妻はユダヤ人だった)。デンマーク経由で漸くアメリカにたどり着くのだが、そこも決して安住の地とはならなかった。第二次世界大戦後、赤狩り(マッカーシー旋風)吹き荒れる1947年に非米活動委員会の審問を受けたブレヒトはアメリカから立ち去らざるを得なくなった。そして共産政権下となった東ドイツでその波乱万丈の生涯を閉じることになる。

一方、クルト・ワイルはベルリン時代、二つの交響曲や弦楽四重奏などを発表した。しかしユダヤ人だった彼もナチスを逃れて1935年アメリカに渡り、ブロードウェイでミュージカル作曲家となった。1950年ニューヨークで死去。

後に「三文オペラ」が上演されていた頃のベルリンを舞台に、ブレヒト&ワイルのコンビにオマージュを捧げたのが、ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」(作詞:フレッド・エブ、作曲:ジョン・カンダー)である。

過去の日本における「三文オペラ」は1932年に完成された改稿台本に基づく上演だった。しかしこの亜門版では初めて、今まで許可が下りなかった'28年初演版を下敷きに構成された。これは恐らく'56年に亡くなったブレヒトの版権が切れ、漸く上演可能となったためだろうと想われる。

オープニングからエレキ・ギターの大音響が会場一杯に鳴り渡り、度肝を抜かれた。クルト・ワイルの楽曲をこのように料理(アレンジ)するとは驚き。まるでロック・オペラだ。でも違和感はない。「伝統を現代に!」…音楽監督・内橋和久のセンスが光る。

出演は三上博史安倍なつみデーモン小暮秋山菜津子、そしてカウンターテナー米良美一(バッハ・コレギウム・ジャパンの定期公演で歌った教会カンタータでデビュー、その後「もののけ姫」主題歌で一世を風靡)ら異色キャスト。最初デーモン閣下の名前を聞いた時は「白塗りの彼だけ浮いてしまうのでは?」と危惧していたのだが、蓋を開けてみると他の出演者も全て顔を白塗りするという逆転の発想で、閣下もちゃんと馴染んでいた。演技も出来るし、なにより発音が良く歌詞が聴き取り易いのがありがたい。

また米良さんが妖しい(怪しい?)雰囲気を醸し出し、まるでデヴィッド・リンチ監督の世界(例えば「ツイン・ピークス」の”赤い部屋”とか、「マルホランド・ドライブ」の”クラブ・シレンシオ”)に彷徨いこんだような錯覚に捕らわれた。米良さんの役がミュージカル「キャバレー」ではM.C.になったと考えると分かり易いだろう。

とにかく登場人物全員が狂っているのが凄い。なっちあんなメイクで、それでも可愛いのだからさすがアイドルである。歌も上手い。これからも是非、ミュージカルの世界で活躍して欲しい。

ぶっ飛んだ演出をした宮本亜門、天晴れなり!特にジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」(1902年、最初期のサイレント映画)みたいな巨大な月が出てきた時はアッと言った。

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是非将来、亜門版「三文オペラ」の再演を期待したい。それから亜門さんが演出し、石丸幹二さんが主演するソンドハイムのミュージカル「日曜日にジョージと公園で」、大阪公演はないんだろうか??

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ウォッチメン

評価:F

アメリカの有名な映画評論家Roger Ebertがシカゴ・サンタイムズ紙で評価Aをつけていたので期待して観に往ったのだが、とんだババを引かされた。もう金輪際、エバートの批評は信用しない。むしろ、ニューヨーク・タイムズ紙/A.O. Scottの評価Dに親近感を覚える。

映画公式サイトはこちら

Watchmen

まず演出がお粗末である。無意味なスロー・モーションの垂れ流しにはホトホト辟易した。だから上映時間が163分などというあり得ない長尺になってしまうんだ。監督のザック・スナイダーはジョン・ウー(「男たちの挽歌」「レッドクリフ」)の爪の垢でも煎じて呑むべきだろう。

脚本も人間が全く描けていない。各々のキャラクターに魅力がなく、どうしてそのような行動を取るのか説得力に欠ける。

一言で言えば、観るだけ時間の無駄!

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ビクトル・エリセ監督特集/「ミツバチのささやき」「エル・スール」

スペインが生んだ巨匠、ビクトル・エリセは10年に1本しか映画を撮らない寡作の映像作家として知られている。彼が創造した珠玉の名作が梅田ガーデンシネマで(ニュープリント版)リバイバル上映されたので観に往った。

長編第一作「ミツバチのささやき」は1973年の作品(日本公開は'85年)。約20年前に僕はビデオ鑑賞しているが、スクリーンでは初体験。後半、夜の暗いシーンが多くビデオでは何が写っているのか良く分からなかった場面が、今回初めて鮮明に見えた。

評価:A

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エリセの作品は僕にとって《聖なる映画》である。心が洗われるとは正にこのこと。「ミツバチのささやき」は映像で綴られた一編の詩に喩えることが出来るだろう。

20年前に観た時は、この映画にスペイン内戦→フランコ独裁政権という時代背景が暗い影を落としていることに僕は全く気が付かなかった(映画が製作された'73年はフランコが存命中であり、ここに秘められた反骨精神は当時の検閲官も見抜けなかったということになる)。しかし今ではスペイン内戦を描くヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」も読んだし、映画「パンズ・ラビリンス」やピカソが描いた「ゲルニカ」のことも知っている。それらで得た予備知識を持って「ミツバチのささやき」に接すると、また映画が別の様相を呈してくるのだから面白い。こうして年月を経て見直すことも大いに意義があるのだということを、身をもって体験した次第である。

またエリセはジョン・フォード監督に私淑しているそうで、フォードの映画からの影響が多々あることも今回初めて気が付いた。特にかの有名な「捜索者」(1956)のオープニング・シーン、薄暗い家の中から扉を開き外の広大な風景が広がっていくというショットの再現が「ミツバチのささやき」でも見られた。

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本作でやはり一番強い印象を与えるのは名子役アナ・トレントであろう。「ミツバチのささやき」が彼女の映画初出演で当時7歳。エリセはマドリードの小学校で彼女を見出した時、「フランケンシュタインって知っているかい?」と話しかけた。すると彼女は次のように答えたそうだ。「ええ、知っているわ。でもまだ会ったことがないの」当初脚本には別の役名が書かれていたのだがアナは「どうして名前を変えなきゃいけないの?」と反発、それを聞いたエリセは本名のまま演じさせることを決断したという。成長したアナは次第に女優として生きる道を志すようになりニューヨークへ留学、演技の勉強を続けた。最近ではナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンが主演した映画「ブーリン家の姉妹」(2008)にも出演している。一本の映画が一人の少女の運命を決定付けたのである。

さて、エリセの第二作「エル・スール」は1982年の作品である(第三作「マルメロの陽光」はさらに10年後の1992年)。

評価:A

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哀しい映画だけれど静謐な叙情があり、そして最後は仄かな希望が見えてくる。この作品を観る度に僕は涙が溢れてくるのを止めることが出来ない。しかしその涙は決して不快ではない。それは登場人物たちに向けられたエリセの眼差しが、限りなく優しいからであろう。

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映画はフェード・イン、フェード・アウトを繰り返すが、その瞬間がベラスケスやミレーの絵画を彷彿とさせ、荘厳な美しさを湛えている。

この作品で特記すべきは音楽の使い方の巧さである。カフェ・オリエンタルの場面で登場する秘やかで切ないグラナドス/オリエンタル(「スペイン舞曲集」第2曲)、そして少女の南へ(エル・スール)の憧れの象徴として流れるグラナドス/アンダルーサ(「スペイン舞曲集」第5曲)。いずれも鮮烈な印象を刻印する。考えてみればこれらの名曲に僕が最初に出会ったのも20年前に観たこの映画だったなぁと懐かしく想い出した。

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興味を持たれた方はDVDが発売されているので、是非ご覧下さい。

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GWは落語漬け(かい枝、鶴瓶、文珍)

5/4 桂かい枝のレイトショー落語会@天満天神繁昌亭(21時45分開演)。

  • 桂かい枝/野ざらし
  • 桂梅團治/千早振る
  • 桂かい枝/宿屋仇

今年で入門15年目のかい枝さんには、大ネタ「宿屋仇」はまだまだ荷が勝ちすぎる噺ではなかったか、という印象を受けた。彼のオーバー・アクションは「いらち俥」「野ざらし」など短いネタなら爆笑を巻き起こすのだが、同じ方法論(小細工)が「宿屋仇」には通用しないのだ。落語という芸能の難しさを感じた。

野ざらし」はかい枝さんが梅団治さんから稽古をつけて貰ったネタだそうで、文太(文枝一門)→昇蝶(春團治一門)→梅團治(春團治一門)→かい枝(文枝一門)という経由で伝授さらたそうだ。ちょっと不思議なのは、どうして同門の文太さんから直接稽古を受けなかったのだろう?ということ。

5/5 GW特別興業》@天満天神繁昌亭 朝席(11時開演)

Asa02

Asa01

  • 桂阿か枝/子ほめ
  • 林家花丸/狸の鯉
  • 桂楽珍/青菜(途中まで)
  • ナオユキ/漫談
  • 桂 米輔/悋気の独楽
  • 藤本健太郎/津軽三味線
  • 月亭八天/おごろもち盗人
  • 笑福亭鶴瓶/オールウェイズお母ちゃんの笑顔(私落語)

ナオユキさんの漫談花丸さんが面白かった。それから初めて聴いた津軽三味線が迫力があって良かった。しかし、米輔さんの語り口はどうも好きになれない。ムラがあって歯切れが悪いのだ。

楽珍さんは繁昌亭のアンケートに書いてあったという、洒落た川柳を披露された。

出来るなら 早送りしたい この落語

引き続き難波に移動し、笑福亭鶴瓶の会》@トリイホール(15時開演)。

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これは完全な鶴瓶さんの独演会で、演目は

  • オールウェイズお母ちゃんの笑顔(私落語)
  • 子は鎹(古典)
  • 鶴瓶噺(漫談、Stand up comedy)

「こどもの日」ということで、鶴瓶さんの幼少期の想い出に溢れた私落語と子供が登場する古典「子は鎹」、そして鶴瓶噺では大学時代に奥さんとの出会いから結婚までを面白可笑しく語るという巧みな構成。実に聴き応えがあり、最後はスライドで当時の貴重な写真の数々を見ることも出来て大満足。これを通じて、どうして師匠である笑福亭松鶴が鶴瓶さんに落語を一つも教えなかったのか、その理由が少し分かったような気がした。

5/6 桂文珍独演会》@神戸文化ホール

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  • 林家市楼/普請ほめ
  • 桂  文珍/天王寺詣り
  • 桂  楽珍/手水廻し
  • 桂  文珍/はてなの茶碗
  • 桂  文珍/新版・粗忽長屋

いや〜文珍さんは真の名人である。三席ともその巧さに唸った。マクラにさり気なく時事ネタを盛り込む手腕も鮮やか。

はてなの茶碗」では関白鷹司公が登場する件(くだり)で、雅楽が響くという演出に驚かされた。「粗忽長屋」リニューアル版は古典そのもののような風格、完成度を誇りながら何とも言えぬ可笑しみがあって秀逸。

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レイチェルの結婚

評価:B-

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映画公式サイトはこちら

「プリティ・プリンセス」で映画デビューしたアン・ハサウェイが初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた作品。監督は「羊たちの沈黙」でアカデミー作品賞・監督賞に輝いたジョナサン・デミ。

元麻薬中毒の妹(ハサウェイ)が姉の結婚式に参加するために、更正施設から戻ってくる所から物語は始まる。そして次第に崩壊した《家族の肖像》が浮かび上がってくるという仕組み。途中ダレる場面もあるが、人間ドラマとして中々面白い。

久しぶりにスクリーンで再会したデブラ・ウィンガーはさすが大女優としての貫禄を見せつけた。彼女は95年から01年まで女優業を休止。その不在は「デブラ・ウィンガーを探して」というドキュメンタリーまで生んだ、伝説のスターである。

アン・ハサウェイはガッツがある娘だ。デビュー作でプリンセスのイメージが世間に定着し、暫く彼女は伸び悩むことになる。しかしその後、「ブロークバック・マウンテン」や本作に出演し、果敢に自らの殻を破ってきた。彼女の迫真の演技を観るためだけでも、映画館に足を運ぶ価値はある。

今年のアカデミー賞授賞式でアンはヒュー・ジャックマンと華麗に歌い踊って、世界中の人々をアッと言わせた(動画はこちら)。後で知ったのだが、彼女は次の新作でジュディ・ガーランドを演じることが既に決まっているそうである。ジュディは生涯、薬物に悩み孤独な中で死んでいった。その生き様はエディット・ピアフに通じるものがある。「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」でマリオン・コティヤールがアカデミー主演女優賞に輝いたように、アンもジュディを演じてオスカーを勝ち取るだろう。そのことを僕は今、確信している。嗚呼、映画の完成が待ち遠しい!

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どっぷり!なにわ 《オーケストラル》 ウィンズ 2009 

吹奏楽を愛するオケ奏者たちが一堂に会する、なにわ 《オーケストラル》 ウィンズNOW)大阪公演をザ・シンフォニーホールで聴いた。会場は補助席も出る盛況ぶりで、中・高生たちの熱気が漲っていた。昨年の様子は下記。

大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部の丸谷明夫先生(丸ちゃん)に加え、客演指揮者として千葉県・柏市立酒井根中学校の須藤卓眞先生が指揮台に立たれた。酒井根中学校は2006年から3年連続で全日本吹奏楽コンクール金賞を受賞。大会規定により今年はお休みにあたる。NOWの客演指揮者はレギュラーの丸ちゃん以外はコンクールが3出休みの学校の先生が選ばれるのが恒例となっている。

また昨年に引き続き、読売日本交響楽団正指揮者の下野竜也さんが、Piano担当として参加された。

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曲目は以下の通り。括弧内は指揮者を示す。(M)は丸ちゃん、(S)は須藤先生。

  • 2009年度吹奏楽コンクール課題曲全曲
  • ライニキー/セドナ (M)
  • グレンジャー/コロニアル・ソング (M)
  • アーノルド/水上の音楽 (S)
  • C.ウィリアムズ/交響組曲 (M)
  • マクベス/聖歌と祭り (M)
  • サン=サーンス/東洋と西洋 (M)
  • リード/オセロ (S)

例年のことではあるが、木管の伸びやかな音色や金管の柔らかい響きに魅了された。吹いている奏者たちが本当に愉しそうで、「音楽の歓び」が直に客席に伝わってくる。

ライニキーは明るく、カラッと晴れ渡った青空のような曲。西部劇を想わせる雄大さがある。丸ちゃんが手綱をきりりと締めた、快調なテンポ感が実に爽やか!

グレンジャーは「リンカンシャーの花束」同様、どことなく民謡調で、郷愁を誘う素敵な曲。こういう曲を振らせても丸ちゃんは上手い。感傷に流れすぎないその節度(適度な距離感)が僕は大好きだ。

C.ウィリアムズはコープランドから受け継いだモダンで洗練されたオーケストレーションが素晴らしい。特に金管群の輝かしいファンファーレには痺れる。

その弟子であるマクベスはむしろ、ミクロス・ローザ(ハンガリー出身の映画音楽作曲家。「ベン・ハー」「エル・シド」などハリウッド史劇で有名)からの影響が大きいのではないかと感じられた。「聖歌と祭り」は以前からCDで親しんできたが、生で聴いた方が断然良かった。初めてこの曲の良さが理解出来た気がした。

オセロ」も大変な名演だった。これはリードの曲の中でも「アルメニアン・ダンス」と並んで須藤先生お気に入りの曲だそうで、たっての希望で実現したそう。華やかなパレードから叙情的で美しい夜の情景まで劇的な曲想を十全に表現した、先生の想いがひしひしと伝わる入魂の指揮ぶりだった。

課題曲の内訳は、

  • I   16世紀のシャンソンによる変奏曲 (S)
  • II  コミカル★パレード (M)
  • III  ネストリアン・モニュメント (S)
  • IV マーチ「青空と太陽」 (M)
  • V  躍動する魂〜吹奏楽のための (なし)

課題曲IVではパート練習を模して各々のグループが円陣を組み、それを丸ちゃんが見回るという風景の中で演奏する《実験》が行われた。チューバ、ユーフォニアムの奏者たちはサボってトランプに興じており、丸ちゃん曰く「うちの学校にもこういう連中が必ずいるんですよ!」(ちなみに淀工ではパート練習を基本的に行わないそうだ)。

課題曲IIでは打楽器および金管が前面に出てきて木管が後ろに下がるという《実験》が行われた。伴奏のリズムばかり強調され、木管の音が引っ込んでしまい「配置を入れ替えるだけで、随分曲の印象が変わるもんだなぁ」と感心した。

課題曲Vは拍子が複雑に変化する、難解な現代音楽調だが(「楽譜を見ているだけで嫌になります。端から指揮するつもりはありません」と丸ちゃん)、NOWのメンバーは指揮者なしでもアンサンブルが乱れることなく見事に吹きこなした。

僕が一番気に入ったのは第19回朝日作曲賞を受賞した課題曲I 。鄙びた古楽的響きがあってとても美しい。歴代の課題曲にはない雰囲気があり、これは純粋に音楽として素晴らしい。保科洋/「風紋」のように後世に残る名作だろう。

そしてアンコール。

  • ヤン・ヴァンデルロースト/カンタベリー・コラール (S)
  • 山本正之/ヤッターマン Brass Rock (下野竜也!
  • 小島里美(編)/いずみたくヒット曲メドレー (M)

いずみたくヒット曲メドレー」の内訳は(見上げてごらん夜の星を/いい湯だな/女ひとり/ふれあい/手のひらを太陽に/夜明けの歌)。

ヤッターマン」では下野さんがなんと!トンズラーの扮装で飛び出してきてノリノリで指揮をした。そして大阪シンフォニカー交響楽団クラリネット奏者・原田美英子さんがドロンジョになって登場、そのままの格好で「いずみたく」も吹かれた。

何とも贅沢で愉快な3時間。僕はここ3年連続でNOWの演奏会に足を運んだが、今年が一番中身が充実していて最高だった。

まもなく東京公演が始まる。関東の方は決してお聴き逃しないよう。さあ、今すぐ東京芸術劇場へ!

 記事関連blog紹介:(同じ演奏会を聴かれた感想)

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グラン・トリノ

評価:B+

この映画はある意味、クリント・イーストウッドの遺言である。役者としてそのフィルモグラフィの棹尾を飾る映画となった(俳優は引退を宣言しているが、監督業は続けるらしい)。公式サイトはこちら

《カッコイイとは、こういうことさ。》……これは宮崎駿監督「紅の豚」のために糸井重里が生み出したキャッチ・コピーであるが、「グラン・トリノ」にもそのまま当てはまる。イーストウッドの”男の死に様”を我々観客が静かに見守る作品とも言えるだろう。エンド・クレジットでは歌まで披露。いやぁ、渋い!痺れるねぇ~。

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フォードの名車1972年製「グラン・トリノ」が本作のタイトルとなっているが、これは白人が物語の主人公(HERO)でいられた古きアメリカのicon(象徴)となっている。ちなみに俳優・イーストウッドの代表作「ダーティハリー」がアメリカで公開されたのは1971年12月23日。ちょうど同じ頃だ。しかし今やアメリカの自動車産業は衰退し、完全に日本車に取って代わられた(主人公の息子はトヨタのセールスマンをしている)。そして黒人(アフリカ系アメリカ人)のオバマ大統領が誕生、ハリウッド映画は凋落しインド人ばかり出てくるイギリス映画「スラムドッグ$ミリオネア」がアカデミー賞を席巻する時代。世の中はすっかり変わってしまった。最早アメリカの白人は「多民族国家における一つの人種」としての自分のポジションを見出し、生きていかなければならない。その自覚と覚悟がこの映画にはある。映画の主人公が未来を託すのは自分の息子たちや孫ではない。赤の他人であるアジア人(モン族)の少年なのだ。主人公の家に星条旗がはためいているのも決して偶然ではないだろう。この設定はアメリカという国家の現在の縮図を意図したものと考えられる。

「荒野の用心棒」(1964)「夕陽のガンマン」(1965)など、一連のマカロニ・ウエスタン(Spaghetti Western)で一世を風靡したイーストウッドはアカデミー作品賞、監督賞を受賞した「許されざる者」(1992)で西部劇というジャンルに終止符を打った。引導を渡したと言い換えても良い。それは人が人を殺めることを否定し、贖罪する映画であった。

「グラン・トリノ」の主人公は今までイーストウッドが演じてきた様々な役を連想させる要素がある。「ダーティーハリー」「マディソン群の橋」etc.そして朝鮮戦争で自分が犯した行為を後悔し悩む姿は「許されざる者」そのものである。

映画の舞台となるのは嘗て自動車産業で栄えたミシガン州デトロイト。しかし今や工場は廃屋となった。そして住民は黒人、アジア人、ヒスパニックが増え治安が急速に悪化、《無法者の街》と化した。その中で年老いたガンマン=イーストウッドは如何なる決断を下すのか?彼の人生の幕引きは実に鮮烈で、そして美しい。「帳尻を合わせる」とは正にこのことだろう。未見の貴方、悪いことは言わない。今すぐ映画館に駆けつけろ!

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なにわ芸術祭/上方落語名人会

サンケイホールブリーゼで「上方落語名人会」を聴く。

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演目は、

  • 桂   阿か枝/金明竹
  • 月亭   遊方/ゴーイング見合いウェイ(遊方 作)
  • 桂   米團治/天狗裁き
  • 桂   春團治/野崎詣り
  • 桂      文太/袈裟茶屋
  • 笑福亭仁鶴/つぼ算

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阿か枝さんは今年、「新進落語家競演会」で新人賞を受賞した得意ネタで勝負。口跡よく、明るく誠実な語り口に彼の人柄が偲ばれる。

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ゴーイング見合いウェイ」はビング・クロスビーの"Going My Way"(我が道を往く)をもじったタイトルで、「いとしのレイラ」~彼女のロック~とか「怪奇ホテル・オソレミオ」「隣人(ネイバーズ)」「素顔のままで」など、他の遊方作品と並ぶ《歌謡シリーズ》と言えるかも??未だ独身の遊方さん(1964年生まれ)、周囲から「そろそろ結婚したら」としきりに言われることをネタにした、リアリティ溢れる爆笑ストーリー。

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僕は米團治さんが小米朝時代に、彼の高座を聴いて感心したことは一度も無い。しかし襲名披露公演で場数を踏んだことが米朝さんから受け継いだDNAを覚醒させたのか、今回の「天狗裁き」も全く噛むこともなく、申し分ない出来栄えだった。彼が生来持つ華やかな雰囲気に、本物の実力が加わった感が強い。今まで聴いた春駒さんや米左さんの「天狗裁き」よりも、一層感銘深い口演であったと断言しよう(鳴り物の名手として名高い米左さんは今回、下座で見事な笛を披露。これを吹かせたら彼の右に出るものはいないだろう)。

春團治さんの十八番、「野崎詣り」は漸く聴くことが出来た。これは五月一日から十日までの行事が素材になっているので、その季節を逃すと中々めぐり逢えないのだ。何とも軽やかな高座で、”喜六”の無垢な笑顔が本当に可愛らしい!正しく至芸。

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袈裟茶屋」の元ネタは江戸落語「錦の袈裟」。元々は色町・吉原の噺を、大阪の松島に移植して演じる《文太の贋作シリーズ》の逸品。途中ハメモノ(お囃子)も入り、賑やかで陽気に盛り上がった。

そしてトリだが、僕はどうしても仁鶴さんの芸風が好きになれない。語り口に抑揚がなく平板で、端から役の演じ分けをしようという姿勢もない。「それが落語だ」という”通”のご意見もあるだろうが、僕にとってそんな代物は御免こうむる。退屈で退屈で、途中何度も気が遠くなった。

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