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スラムドッグ$ミリオネア

評価:A+

文句なし、完全無欠の映画である。公式サイトはこちら

一昨年、アカデミー作品賞・監督賞を受賞した「ディパーテッド」に対する筆者の評価はD(レビューはこちら)、昨年の「ノーカントリー」はBだった(レビューはこちら)。だから今年は久しぶりに納得のいく、心から祝福出来る受賞結果であったと言える。

Slumdog1

まずインドのスラム街を舞台として、鮮烈な色彩感溢れる映像が素晴らしい(アカデミー撮影賞受賞)。このセンス、舞台設定で僕が即座に想い出したのは黒澤明監督の初カラー作品「どですかでん」(1970)である。

Dodes_kaden

また斬新なカット割り、縦横無尽に走るカメラとエッジが効いた編集(アカデミー編集賞受賞)の相乗効果はブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」(2002)を彷彿とさせる(これもスラム街を舞台としたストリート・チルドレンの物語)。

City

映画全体の1/3、主人公ジャマールの幼少期はヒンズー語で描かれる(英語字幕付き)。そしてジャマールが成長し、子役が交代した時点で子供たちの会話も英語に切り替わる。ここの演出がとても自然で、実は《映画的嘘》なのだけれど違和感が無い。監督のダニー・ボイル、大した男である。

ジャマールとその兄サリーム、そして主人公が愛する少女ラティカは成長に合わせてそれぞれ3人の役者で演じられる。しばしば映画では「えーっ!、あの可愛い子供が大人になって、こんな顔になるか??」と突っ込みを入れたくなることがあるが(最近では「つぐない」が典型例)、本作ではそれがない。キャスティングがパーフェクトである。

またシナリオ(アカデミー脚色賞受賞)の素晴らしさについても触れないわけにはいかないだろう。幼少期、ジャマールは憧れのスターからブロマイドにサインを貰おうと夢中になって駆ける。しかし兄のサリームには弟の異常なまでの情熱・固執が全く理解できないし、むしろ嫉妬さえ感じてそれを妨害しようとする。実はこの関係はふたりが長じてからも繰り返されることになる(《鍵をかける》という象徴的行為も2度ある)。つまり、ブロマイド=ラティカのメタファー(暗喩)となっているのである。本作は一部マスコミが《純愛映画》のように宣伝している趣があるが、僕はむしろこれは三角関係を描いた作品なのではないかと考える。

映画の中盤、孤児を道具にして金を稼ぐ裏社会のボス・ママンからサリームは人生の選択を迫られる。「このまま惨めなスラム生活を続けるのか、それとも弟を犠牲にして大金持ちにのし上がるのか?」と。これは後に、クイズショーの司会者からジャマールが選択を迫られることと対になっており、伏線の張り方が実に巧みである。《数々の選択がその人の人生を決める》これが本作の大きなテーマと言えるだろう。

「スラムドッグ$ミリオネア」で描かれる社会は悲惨である。多くの登場人物たちは暗い人生を歩むことになる。しかし、だからこそ人々はジャマールとラティカに自分たちの夢を託し、テレビの前で熱狂的に応援するのだ。この映画には躍動感と強烈なパワーがある。

そして最後に流れる"Jai Ho"は聴いていて本当にワクワクする名曲である。これがアカデミー歌曲賞を受賞したこと、及び映画がアカデミー作品賞・監督賞を受賞したのは……

D.  It is written. (運命だった)

「ファイナルアンサー?」「イエス、ファイナルアンサー」

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コメント

初日に行きました。
うん、文句なしの傑作ですね。
アカデミー作品賞とったからといって食指が動く映画が少ない中、これは日本で公開されたらすぐに行こうと思いました。
おっしゃるとおり、子役→少年時代→大人と三段階に役者が変わっているんですが、雰囲気の似た少年少女を使っていて、違和感がまったくなかったですね。

司会者が「お茶汲み」だと馬鹿にする場面が少し気になったんですが、あのあたりは微妙にインドのカースト制度が関係してるのか、差別的な背景があるのか、もう少し知りたいですが、パンフレットにで解説でも出てるのかな。

インドの貧困層の子供たちがどういう境遇に置かれてるのか、本当に悲惨な子供も出てきたし、見ていてつらいものもありました。

ここで書いてくれていることを考えながらもう一度見てみたいですね。

ラストは思いっきり「踊るマハラジャ」っぽいインド映画してましたね(笑)。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年4月21日 (火) 00時03分

ぽんぽこやまさん、コメントありがとうございます。

仰る通り貧富の差だけではなく、カースト制度や宗教の違いがあの国の問題を更に難しくしているのでしょうね。ヒンズー教徒とイスラム教徒との確執は決して相容れることはなく、パキスタンという分裂国家を生んだのですから(このあたりの事情は映画「ガンジー」に描かれています)。

投稿: 雅哉 | 2009年4月22日 (水) 00時23分

そうですね。インドという国のことをいろいろ考えさせられながらも、でも、貧困の中でたくましく生き抜く子供たちの姿に心を打たれました。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年4月22日 (水) 16時41分

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受信: 2009年5月 9日 (土) 10時34分

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