ゲルハルト・ボッセ/大フィルのハイドン!
ハイドン没後200年を記念する演奏会をいずみホールで聴いた。演奏はゲルハルト・ボッセ/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)である。昨年、大フィルのいずみホール公演は客席が半分くらいしか埋まらず閑古鳥が鳴いていたが、今回は9割を越える大入りとなった。
20世紀、モダン楽器演奏の手垢に塗れ「ハイドンの交響曲は詰まらない」という不幸な烙印が押されてしまった。そしてハイドンはモーツァルトやベートーヴェンに比べると、演奏会で取り上げられる機会が極端に少ない作曲家に成り果てた。
そこで初演された当時のスタイルに戻り、ハイドンに新しい光を当てることに成功したのがフランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラの古楽器演奏である。そしてその精神は当時18世紀オーケストラのチェロ奏者だった鈴木秀美と、彼が創設したオーケストラ・リベラ・クラシカによって受け継がれた。ブリュッヘンは今年2月、新日本フィル(モダン楽器)と組んで東京でハイドン・プロジェクトを企画し、話題となったことは記憶に新しい。この際ブリュッヘンと鈴木秀美による対談も実現し、雑誌「音楽の友」4月号に掲載されている(現在発売中)。
さてボッセの解釈だが、彼の場合ピリオド・アプローチ(ノン・ビブラート奏法)は採らない。では20世紀的で退屈なハイドンなのか?と問われれば、それも全く違う。最新の研究成果に基づいた、新鮮で生き生きとした音楽がそこでは展開される。また以前ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の第一コンサートマスターでもあったボッセは、弦楽奏者に対してボーイングや弓の位置についての的確なアドヴァンスを行うことが出来る指揮者でもある(彼のインタビュー記事は→こちら)。だから今回も大フィルの弦楽セクションは瑞々しく、(時に疾風怒涛を感じさせるような)勢いもあって、目の覚めるような演奏を展開した。ビブラートは掛けるが発音(アーティキュレーション)が明瞭で、とても水捌けが良い。カール・ベームや朝比奈隆は年をとるにしたがいテンポが遅く、リズムが重くなっていったが、現在87歳のボッセはそういったこととは無縁である。速めのテンポが選択され、そのタクトから生み出される音楽は常に若々しい。
演奏された曲目と共に、弦の編成(1st.Vn.-2nd.Vn.-Va.-Vc.-Cb.)も併記しよう。
- ハイドン/交響曲第85番「王妃」 (8-6-4-4-2)
- ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番 (4-4-3-2-1)
- ハイドン/交響曲第104番「ロンドン」 (12-10-8-6-3)
曲に応じて柔軟な対応がなされていることがこれで良くお分かり頂けるだろう。先に書いた鈴木/ブリュッヘン対談でも、ハイドンがロンドンに渡ってからオーケストラの規模が大きくなったことが話題となっていた。ちなみにプログラムの解説によればロンドン時代のオケは12-12-6-4-5という体制だったそうで、ほぼ初演と同じである。
ヴァイオリンソロは郷古 廉(ごうこ すなお)くん。1993年12月生まれの15歳。まだ高校1年生である。良い音がするなぁと感心して調べてみると、彼が使用している楽器は1682年製アントニオ・ストラディヴァリだった。朝日新聞の記事によれば、勉強のためにと1年間の期限付きで個人の所有者から貸与されたそうだ。ボッセ/郷古のインタビュー記事も見つけた(→こちら)。
郷古くんのアンコールは、
- ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番から第2楽章(リプライズ)
- バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番~ I. アルマンド
ハイドンは力強く、どこまでも伸びる澄んだ音色に魅了された。そして奏法をがらりと変えたバッハも素晴らしかった。さすが日頃からボッセの薫陶を受けているだけのことはある。将来が本当に楽しみなヴァイオリニストである。
チャイコフスキー国際コンクールで第1位に輝いた諏訪内晶子と神尾真由子、パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール第1位の庄司紗矢香(史上最年少の16歳)、ロン=ティボー国際コンクールで第1位となった山田晃子(史上最年少の16歳)ら、国際的な賞を受賞する日本人は最近、女性ばかりである。郷古くんは彼女たちの後に続くことが十分出来るだけの才能を持ったヴァイオリニストだと想うし、日本男児の存在感を示すためにも是非頑張って欲しい。期待しています。
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