映画「ミルク」
評価:B
アメリカ現代史を知る上で、大変勉強になる作品。そのことがエンターテイメントとしての映画にとってプラスなのか、そうではないのかは議論の分かれるところだろう。後は個々人の嗜好の問題である。公式サイトはこちら。アカデミー賞では主演男優賞(ショーン・ペン)、脚本賞を受賞。また作品賞、監督賞などにノミネート。
ゲイの活動家ハーヴィー・ミルクの半生を描く実話。脚本を書いたダスティン・ランス・ブラックと監督のガス・ヴァン・サントもゲイだそうだ(こちらの記事を参照)。
この映画で初めて知ったミルクの生涯を追っていくと、その生きざまがマーティン・ルーサー・キング牧師に重なってくる。最後に暗殺されるという点でも両者は似ている。
キング牧師による黒人(アフリカ系アメリカ人)の公民権運動が最高潮に盛り上がるのは1960年代。かの有名な演説"I Have a Dream"を彼が行ったのは1963年である。だから1970年代に巻き起こるミルクによる性の解放運動はそれから約10年遅れていたと言える。恐らくその理由は、ゲイは見た目だけでは分からないこと、つまり多くの人々がなかなかカミング・アウト(=クローゼットの中から出ること)が出来なかったこと、そして宗教上の理由(キリスト教は同性愛を禁じている)などが考えられる。映画の中にもゲイを認めない人々の「何故なら、聖書に書かれているからだ」という台詞が登場する。このあたりのニュアンスは中々日本人には理解し辛いところである。
アメリカ独立宣言が書かれたのは1776年。しかしその理想を現実のものとして人々が勝ち得るまでには、さらに長い年月と、血の滲むような闘いを要したということがこの映画を通じて良く理解することが出来た。
言わずもがなではあるが、ショーン・ペンが渾身の熱演。表情や物腰が柔らかく、正にゲイそのもの。役者って凄いなぁとつくづく感銘を受けた。
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コメント
この映画は単館とまではいかないけれど、上映館少ないですね。内容が内容だからかな。我が家からだと少し遠い。無理していけない距離じゃないけど。見たいんですけどね。
ショーン・ペインは異性愛者で、しかも同性愛者に対して嫌悪感を抱いているということを公言して憚らない俳優の一人として向こうでは有名なんだそうですね。「ビッグイシュー」って雑誌に書いてありました。
そのペインがきっちり「ゲイ」を演じたというのだから、その演技を見てみたいものです。
ショーン・ペインはこの映画を体験して、考えに何か変化とかあったんでしょうかね。聞いてみたい気がします。
タイトルなんですが、単に人物名としての「ミルク」なんでしょうか。「牛乳」の意味の「ミルク」と英語でも全く同じつづりですから、何か意味を込めてあるのか、かんぐりたくなるタイトルです。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年4月29日 (水) 15時54分
ぽんぽこやまさん、映画のタイトルですが「牛乳」は余り関係ないんじゃないかと想います。実は1984年にアカデミー・長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「ハーヴェイ・ミルク」(The Times of Harvey Milk)という作品がありまして、それと差別化を図ろうとしたのではないでしょうか?
投稿: 雅哉 | 2009年4月29日 (水) 21時04分
でしょうね・・・しょうもないことを考えたもんで(恥)。
あと「ショーン・ペン」でしたね。昔、「フォービドゥン・ブロードウェイ(禁じられたブロードウェイ)」って、ブロードウェイのヒット作のパロディミュージカルがあったじゃないですか。あのCDが発売されたことがあって、マドンナの結婚ネタを「マイフェアレディ」の「スペインの雨」のナンバーに乗せて歌うのがあったんですよ。"In Spain! In Spain!"のところが、「で、マドンナと結婚したのは?」「ショーン・ペーン!ショーン・ペーン!」って歌っていたのが強烈に記憶に残ってまして、ついつい「ショーン・ペン」を「ショーン・ペイン」と思い込んでしまっているんです、すみません。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年4月29日 (水) 23時07分