バッハ・コレギウム・ジャパン「マタイ受難曲」(メンデルスゾーン版)
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンによる「マタイ受難曲」は昨年、ザ・シンフォニーホールでも聴いた。この受難曲の歴史や作曲家・武満 徹とマタイの関係などについても語っているので、まずはその時の感想からどうぞ→こちら。
今回兵庫県立芸術文化センターで演奏されたのは、バッハの死後完全に忘れ去られていた「マタイ受難曲」を100年ぶりに蘇演した、メンデルスゾーン版(1841)によるもの(日本語字幕付き)。今年はメンデルスゾーン生誕200周年にあたる。
合唱や管弦楽がそれぞれ第 I 群 、第 II 群と左右に分かれているのはオリジナル版同様。しかし独唱者が昨年はソプラノ I ・ II 、アルト I ・ II、テノール I ・ II、バス I ・ IIとそれぞれ2人ずついたのに対し、今回は単独だった(ただしバスのみユダ/ペテロ/大司祭カヤパ/ピラト役を合唱団の1人が兼任し、イエス担当の独唱者と2人体制)。またメンデルスゾーンの時代にはオーボエ・ダモーレやオーボエ・ダ・カッチャといった古楽器が既に消滅しており、クラリネット/バセット・ホルンが代役を果たした(名手ロレンツォ・コッポラが担当)。さらに通奏低音ではヴィオローネとヴィオラ・ダ・ガンバが無くなった代わりに、チェロ2名とコントラバス2名が加わった。弦楽器はガット弦が使用され、ノン・ビブラート奏法であることはオリジナル版と同様。フルートは現代のベーム式(キー装置)ではなく、穴を指で直接押さえる木製楽器。またアリアやコラールの幾つかがカットされ、曲全体が短く刈り込まれている。
最初はバッハの音楽でクラリネットが鳴ることに対する違和感を若干覚えた。しかし次第にそれにも慣れ、僕は「マタイ受難曲」の美しく峻厳とした世界に魅了され、のめり込んでいった。
鈴木雅明さんの解釈は、当然ながらオリジナル版と基本的に変わらない。イエスの哀しみ、諦念を粛々と描きながら、時には静謐に、時には激しく劇的な感情で聴衆を呑み込む。もうこれ以上望むべくもない、圧倒的名演。ただ我々は、バッハが残した至高の芸術、魂を揺さぶる人類の遺産の前にひれ伏すのみである。
独唱者については《世界最高のエヴァンゲリスト》と呼び声の高いゲルト・テュルク(テノール)、イエス役のドミニク・ヴェルナー(バス)と、男性陣が特に充実した歌を聴かせてくれた。
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