鈴木秀美と仲間たち/モーツァルト&ウェーバーのクラリネット五重奏
大阪音楽大学/ザ・カレッジ・オペラハウスで聴いた、鈴木秀美さんプロデュースによる室内楽の話をしよう。
曲目は、
- モーツァルト/クラリネット五重奏
- ウェーバー/クラリネット五重奏
鈴木秀美さんは言わずと知れたバロック・チェロの世界的名手。ヴァイオリンがバッハ・コレギウム・ジャパン(指揮:鈴木雅明)および、オーケストラ・リベラ・クラシカ(指揮:鈴木秀美)のコンサート・マスターを務める若松夏美さん。そしてバセット(ヒストリカル)・クラリネットの名手ロレンツォ・コッポラ(イタリア出身、オランダのデン・ハーグ王立音楽院で学ぶ)が登場し、秀美さんの通訳を交え楽器に纏わるレクチャーもあった。
クラリネットが登場したのは18世紀の初め頃。初期の楽器は音域によって音が出たり引っ込んだり均一には鳴らず、ベートーヴェンら当時の作曲家たちはその陰影を活かすように譜面を書いたとのこと。
モーツァルトの五重奏は名手アントン・シュタードラーのために書かれ、想定されていたのはバセット・クラリネットという特別に広い低音域を備えた楽器だった。普段、我々が聴いている演奏(新モーツァルト全集、ベーレンライター版)はなんと、出ない音を変更して通常の楽器で吹けるよう編曲されたものだったのだ。実際オリジナルを聴いてみると林の中を吹き抜ける微風のような、とても柔らかく優しい音色がした。さすが「クラリネット・ダムール」(d'amor=”愛の”)と呼ばれるだけのことはある。なおこれは、モーツァルト没後200年を記念して1991年に漸く復元された楽器だそうである。
コッポラ氏はモーツァルトの五重奏にはオペラの影響が色濃い(庶民が気軽にオペラを愉しむための代用品という側面もある)というお話をされた。その特徴がさらに顕著だったのがウェーバーの五重奏。第1楽章はオペラの序曲風に始まり、ロッシーニ的軽快さを持つ第1主題へ。そして叙情的アリアを想わせる緩徐楽章、農民たちが陽気に踊る第3楽章メヌエットを経て、終楽章のロンドはコッポラ氏曰く、「ここまでイタリア・オペラ風だったのが、一気にスペインに飛びます」。半音階を駆使し、幅広い跳躍もあり、ヴィルトゥオーゾ的で心躍る愉しい曲だった。
アンコールはチェコ出身の作曲家、アントン・ライヒャ(アントニーン・レイハ)/クラリネット五重奏〜終楽章。
なお、A音=430Hz(古典派ピッチ)で演奏された。ちなみにモダン・ピッチは440-442Hz、バロック・ピッチが415Hz、ヴェルサイユ(フレンチ)・ピッチが392Hz。時代を溯るに従い、音程は下がっていく。「絶対音感」という言葉があるが、あれは本来「相対音感」が正しい。時代により「正しい」周波数が異なるのだから。つまり「絶対音感」は生まれながらに持っているものではなく、音楽教育により生後獲得される能力だということがお分かり頂けるだろう。
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