今年で4年目を迎えた大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の「星空コンサート」。僕は初回から皆勤で大阪城・西の丸庭園に足を運んでいる。なお、昨年まで毎回あったテレビ収録は不景気のため今年はなし(→ブログ「やくぺん先生うわの空」)。
過去3回は好天に恵まれたが、今年は当初25日(土)開催予定が雨で順延。翌日曜日、天気予報は曇りで降水確率は30%だった。しかし蓋を開けてみると、リハーサルから本番まで雨が降ったり止んだり生憎の空模様となった。それでも入場者数約4千人。悪条件の中、大したものである。決行した大フィルも偉いし、寒い中震えながら最後まで聴き通した観客の皆さんもご苦労様でした。
16時ごろのリハーサル風景。スタッフが大植さんに傘を差しかけているのがご覧頂けるだろう。本番でも雨は降ったが、大植さんは(傘なしで)ずぶ濡れになりながら明るく元気一杯に棒を振られた。
オケは前方に屋根がないので、ヴァイオリンおよびビオラ奏者は後方に下がり、立ったまま演奏した。
本当は14時からプレ・コンサートとして大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部のステージがある予定だったが、翌日にずれ込んだので消滅してしまった。日曜日に淀工は狭山市SAYAKAホールで13時から演奏会があり(チケットは発売日たった1時間で完売)、バッティングしたためだ。それでも16時30分には淀工の丸谷明夫先生(丸ちゃん)が西の丸庭園に姿を見せた。
本番は18時30分。しかし雨のため少々開演がずれ込み、準備が整うまで大植さんが電子ピアノでソロを披露して下さった。
- ベートーヴェン/ピアノソナタ第14番「月光」第1楽章
- ガーシュウィン/3つの前奏曲より第2曲
そして本編のプログラムは、
- ワーグナー/歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲
- J.シュトラウスⅡ世/ワルツ「春の声」
- ベートーヴェン/交響曲 第6番「田園」より 第1楽章
- ラロ/スペイン交響曲 より 第5楽章
- M.ノーマン(J.バリー)/ジェームズ・ボンドのテーマ
- コープランド/「アメリカの古い歌」より“ささやかな贈り物”
- スーザ/行進曲「ワシントン・ポスト」
- R.ロジャース/「サウンド・オブ・ミュージック」より
- チャイコフスキー/序曲「1812年」
- (アンコール)外山雄三/「管弦楽のためのラプソディ」より”八木節”
今年のテーマはエコ(ecology)。だから紙媒体でのパンフレットは配布されなかった。人間の手ではどうすることも出来ない自然の力を見せつけられたという意味で、正にこのテーマに相応しい天候だったと言うことも出来るだろう。
「春の声」は最近の大植さんの特徴である音にタメを作った、テンポが変幻自在のワルツであった(これでは絶対踊れない)!その音楽的自由さは師のバーンスタインよりも、寧ろレオポルド・ストコフスキーに似て来たのではないかと僕は感じている。いや〜、面白かった。
上の写真はベートーヴェンの肖像画を持つ大植さん。「一度、この楽聖と同じ格好をしてみたかったんです!」
「田園」は以前ベートーヴェン・チクルスで聴いた時よりも柔軟で、しなやかさを増した音楽になっていた。大植さんの現在の良好な健康状態が、演奏に明らかに反映されている。
「スペイン交響曲」のヴァイオリン独奏は黒田小百合さん。吹田市在住の11歳。
音尻で、もう少し早く弓を弦から放せばもっと軽やかに聴こえるのにとか、混じり気(雑音)が気になるとか今後の課題は散見されたが、何と言ってもまだまだ小学生。力強い音色で大器の予感を抱かせるに十分な資質を備えたヴァイオリニストである。今後を大いに期待したい。
ところで大フィルからの公式発表プログラム(hoshizora@osaka-phil.comに空メールを送ると、Eメール形式で自動配信される)には「ジェームズ・ボンドのテーマ」の作曲がJ.バリーとなっているが、これは誤りである。かつて英「サンデイ・タイムズ」紙はこのテーマを007シリーズの音楽を担当してきたジョン・バリーが書いたという趣旨の記事を書き、それに対し著作権を保持する作曲家モンティ・ノーマンが名誉毀損訴訟を起こした。そして2001年3月18日にノーマン側の主張が全面的に認められ、結審ししている。バリーは寧ろ、アレンジャーとしての役割を果たしたというべきであろう。
「ジェームズ・ボンドのテーマ」で大植さんは甥っ子から連絡を受け知ったというインターネットに書かれた自分の風貌の描写を読み上げた。具体的にはこちらのブログの二行目、「間違ってもらっては困るが…」の件(くだり)である。これを読み頭に血が上ったという大植さん、対抗措置として格好いいところを見せようとサングラスを掛けボンド風に変身。客席に下りてボンド・ガールを探すというパフォーマンスをされた。「これを書かれた方、きっと今日いらしていると想います。後で是非、僕に声を掛けて下さい!お話しましょう」と大植さん。でもこの記事、東京公演の感想なんですけれど……。
「ワシントン・ポスト」では大阪市の平松市長が登場。大植さんに促され、曲の後半を指揮する一幕も。市長が振り始めるとテンポが落ちてしまったのは、まあ御愛嬌。8月から開催される水都大阪2009(公式サイトはこちら)もちゃっかり宣伝された。今年の「大阪クラシック」は丁度この時期と重なることになる。
「サウンド・オブ・ミュージック」は《私のお気に入り》《もうじき17歳》《サウンド・オブ・ミュージック》《愛など続かない》《ひとりぼっちの羊飼い》《エーデルワイス》《ド・レ・ミの歌》などのメドレー。そして最後は勿論、感動の名曲《すべての山に登れ》であった。なお《愛など続かない》は映画版には登場しない、舞台だけのナンバーである。
余談だが、僕はバーンスタイン作曲「キャンディード」の終曲《Make Our Garden Grow》は、《すべての山に登れ》と非常に近い雰囲気を持っていると想っている。修道院長がマリアに餞(はなむけ)の言葉として歌う、《すべての山に登れ》の歌詞(作詞:オスカー・ハマースタイン2世)を紹介しよう。
Climb every mountain, search high and low,
Follow every byway, every path you
know.
Climb every mountain, ford every stream,
Follow every rainbow, 'til
you find your dream!
A dream that will need all the love you can
give,
Every day of your life for as long as you live.
Climb every
mountain, ford every stream,
Follow every rainbow, 'til you find your dream!
すべての山に登りなさい、高い山も低い山も訪ね
知っている小道なら、どんなわき道でも辿りなさい
すべての山に登り、すべての浅瀬を渡り
すべての虹を追って、あなたの夢を見出すのです
夢を叶える為には、あなたが与え得るすべての愛が必要です
生きている限り、来る日も来る日もその愛を与え続けるのです
すべての山に登りなさい、すべての浅瀬を渡り
すべての虹を追って、あなたの夢を見出しなさい
中学生の時、映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観て感激した僕は、大学の卒業旅行でオーストリアのザルツブルクに旅し、映画のロケ地を訪ねた。《ド・レ・ミの歌》を歌いながら、ミラベル公園を歩いたりもした。そんなことどもを懐かしく想い出しながら聴いた。
プログラム最後は星空コンサート恒例「1812年」。バンダ(金管別働隊)として淀工、箕面自由学園高等学校吹奏楽部、明浄学院高等学校吹奏楽部、近畿大学吹奏楽部らが加わった。
バンダを指揮したのは芝生の客席中央に立った丸ちゃん。
丁度、大植さんと向かい合う形となった。大植さんから「丸谷先生は吹奏楽の世界遺産です!」との紹介もあった。100名に上るバンダは大迫力であった。
上の写真は「祭」と書かれた法被を着た大植さん。アンコール「八木節」の模様である。そういえばリハーサル時にジョン・ウィリアムズ/「スター・ウォーズ」のテーマを演奏してくれたのだけれど、本番ではなかった。あれはもしかして、早くから忍耐強く待っている聴衆へのファン・サービスだったのだろうか??
いずれにせよ大植さん、次回も楽しみにしています。そして来年は、晴れたらいいな!
記事関連blog紹介:(同じコンサートを聴かれた方の感想)
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