有田正広/フルート400年の旅
大阪のいずみホールで有田正広さんのフルートを聴いた。伴奏は有田千代子さん。このホールが所有するフレンチ・モデルのチェンバロと1820年代に製作されたフォルテピアノ(シュトライヒャー製作)が使用された。
曲目は、
- エイク/イギリスのナイチンゲール&わが麗しのアマリッリ
- ランベール=オトテール/ブリュネットとドゥーブル《ある日ぼくのクロリスは…》
- クープラン/恋のうぐいす
- ブラヴェ&クヴァンツ/組曲 ホ短調
- J.S.バッハ/ソナタ ホ短調
- ドビュッシー/パンの笛、またはシランクス
- ドンジョン/3つのサロン・エチュード
- F.X.モーツァルト/ロンド ホ短調
- ドゥヴィエンヌ/フルートとバスのためのソナタ ホ短調
- 福島和夫/冥
そしてアンコール、
- ウッダール/セレナーデ
- ラヴェル/ハバネラ形式の小品
プログラムの10曲を、9本の年代の異なるフルート(作曲された当時の楽器)で吹き分ける。それも1600年頃に製作された穴を指で直接押さえるルネッサンス・フルートから1730年頃のバロック・ピッコロを経て、現代のベーム式キー・システムによるものまで多種多様。世界広しといえど、こんな離れ業が出来るのは有田さんただ一人だろう。正に"笛の魔術師"。しかも指は良く動くし、無駄に漏れる空気音もなく、何れの楽器も奏法が完璧なのが凄い。
ガット弦で聴く古楽演奏もそうなのだが、木製のルネッサンス・フルートやバロック・フルートの音を聴いていると、さながら森の中を彷徨っているような感覚に陥る。楽器が呼吸しているのを肌で感じられるのだ。また当時の楽器の音は鳥の声に近い。だから実際に曲名が「ナイチンゲール」とか「うぐいす」など、鳥に因んだものが多いのである。
F.X.モーツァルトはなんと、あのヴォルフガング・アマデウスの末子!息子も作曲家だったなんて今回初めて知った。浪漫的色彩の濃い中々素敵な曲だった。
現代音楽「冥」は低音部が尺八の奏法を模していて、高音部は篠笛を彷彿とさせた。東洋と西洋の融合を図った面白さがあった。
フルート400年の歴史を一夜で俯瞰する画期的なコンサート。有田さんはいずみホールのスタッフと相談しながら今回のプログラムを決めていかれたそうだ。この素晴らしい企画を実現したいずみホールに対して、この場を借りて心から感謝したい。ただ、漸く実現した名手・有田さんの大阪でのコンサートなのに客の入りが今ひとつだったのは真に勿体ない話である。
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コメント
こんばんは
本当に空席が残念でしたね・・・
長い曲はすくないものの、あれだけ一人で吹き続けられて最後まで全くパワーが衰えないのは、よほど効率よい熟練した技術をお持ちなのだなぁと思いました。
千代子夫人のチェンバロやフォルテピアノのスキルも
素晴らしく、特にバロック・フルートにはピアノより
チェンバロがしっくりくるものだと実感しました。
ちょっぴり主張の強い伴奏にも感じました。
投稿: jupiter | 2009年4月26日 (日) 00時13分
jupiterさん、コメントありがとうございます。
仰るようにバロック・フルートは音量が出ないのでピアノだとバランスが取れないですね。モダン・オケのような大人数の中でも音が埋もれてしまいそうです。楽器の発展の歴史は音量増加の歴史でもあるのでしょう。それは音楽を聴く場がサロンから大きなコンサート・ホールへと拡大していったことと比例してるとも言えます。
投稿: 雅哉 | 2009年4月26日 (日) 08時29分