トン・コープマン/アムステルダム・バロック管弦楽団
今から丁度30年前、オルガニスト・チェンバリスト・指揮者として知られるトン・コープマン(オランダ生まれ)が中心となり、古楽器の名手たちが集まって結成されたアムステルダム・バロック・オーケストラ(ABO)の演奏をザ・シンフォニーホールで聴いた。
今回東京での演奏会も2回予定されていたが、招聘元のムジークレーベンが倒産したため公演中止となったそうだ。払い戻しもないという。チケットを購入された方は本当に災難でした。
このような事態は日本だけのことではないらしい→Music for a whileへ
世界的な不況の波はクラシック業界にも確実に押し寄せてきている。所詮クラシックは日本の文化ではないのだし、日本のオーケストラが潰れるのは一向に構わないと僕は想っている(映画「おくりびと」にも同様のエピソードが登場)。しかしヨーロッパの場合は話が別だ、だって「彼らの音楽」なのだから。文化は守られなければならない。古楽オケをめぐる現状は厳しいが、ABOには是非踏みとどまってもらいたいと切に願う。
さて大阪公演の曲目は、
- J.S.バッハ/管弦楽組曲 全曲
弦は第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン4、ヴィオラ2、チェロ1、コントラバス1という編成で、古楽オーケストラが通常行う対向配置でないのが目を引いた。つまり上手(客席から向かって舞台右側)に低音部が陣取り、下手が高音部だった。また低音部は音尻に軽く装飾的ビブラートをかけていたが、高音部は完全なノン・ビブラートだった。
フラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)が活躍する組曲第2番では弦5部は各パート1人ずつの編成で演奏された。トラヴェルソは鳥の鳴き声に似て儚い音なので、これ以上の編成だと音が掻き消されてしまうだろう。
全体として歯切れが良く、颯爽としたバッハ。溌剌とした生命力に溢れていた。特に小編成で繊細な演奏の第2番が秀逸。ナチュラル・トランペットも名手揃いで安心して聴けた。やっぱりバッハは古楽器に限る。
コープマンのチェンバロやオルガンをソロで聴くと、曲の途中でテンポが変動するのがとても気になるのだが、アンサンブルだとそれがないのも良かった。
またトンやABOのメンバーたちが始終笑顔で、愉しそうに弾いている姿も好ましかった。トンのお辞儀はまるで《水飲み鳥》みたいでとても愛嬌があるのだが、あれはチェンバロを弾きながら上半身を前後に振り、指揮をする習慣から来ているのだなと今回納得がいった。
アンコールは、
- ヘンデル/組曲「王宮の花火の音楽」より第4曲"歓喜"
- ラモー/叙情悲劇「ダルダヌス」より"タンバリン"
ラモーが最高!ファンタスティックで、演奏も弾けていた。また、古楽器のタンバリンは独特な音がした。
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コメント
はじめまして、オランダ在住のレイネです。トラックバックありがとうございました。
トン・コープマンとABOの今年の見通しは、本国オランダでは暗澹たるものです。助成金が打ち切られたため練習もままならず、スポンサーからの補助金なしのコンサートはチケット代金が高額になるから開催も不可能に近い、というわけで、今のところロッテルダムでのコンサート1回きりの予定です。全国紙の文化欄でも「ABOのコンサートが聴きたかったら外国に行くしかない」と書かれていました。。。
投稿: レイネ | 2009年3月 9日 (月) 21時18分
レイネさん、ご訪問ありがとうございます。
そんなにオランダは悲惨な状況なのですか!驚きました。オランダ、ベルギーと言えば、古楽の聖地なのに……。ヴァイオリンの若松夏美さん、寺神戸亮さん、チェロの鈴木秀美さん、フルートの有田正広さんら、日本を代表する古楽器演奏家は皆、オランダのデン・ハーグ王立音楽院に留学されていますよね。本場にはしっかりして貰わないと。
投稿: 雅哉 | 2009年3月 9日 (月) 23時56分