映画「オーストラリア」
評価:F (不可)
まず一言。バズ・ラーマン(原案・脚本・監督)よ、お前はアホか?
映画公式サイトはこちら。
1939年から物語は始まり、1942年日本軍によるオーストラリアの都市ダーウィン空襲までを描く陳腐なメロドラマである。それだけならまだ良い。
人物描写が類型的でご都合主義のこんな脚本にニコール・キッドマンやヒュー・ジャックマンのような大スターが出演をO.K.したのも、ひとえに愛国心ゆえであろう(ふたりともオーストラリア出身)。
アボリジニ(先住民族)の子供たちを集めた「伝道の島」で、実際にはオーストラリアに上陸していない日本軍兵士がアボリジニを銃殺する《歴史捏造問題》にも目を瞑ろう。所詮これはプロパガンダ・国策映画なのだし、目くじらを立てるほどのものではない。
しかし問題なのは、本作にアボリジニに対する政府による《白人同化政策》のエピソードを入れたことである(この件に関してオーストラリア首相は2008年に正式に謝罪した。詳しくは→こちら)。
《白人同化政策》について、最も鋭い視点で抉り出した映画は「裸足の1500マイル」である。撮影監督クリストファー・ドイルによる映像も素晴らしく、傑出した作品である。これに比べると、「オーストラリア」の掘り下げ方は余りにも浅い。
本作はアボリジニの少年によるナレーションで始まる。これがなんと英語なのだ。どうしてアボリジニの言葉を使わないのか?マーケティングのことを考えて英語を使用したいのなら、逆にアボリジニの少年に語らせるべきではないだろう。
この少年は劇中、ニコールから映画「オズの魔法使い」(1939年公開)の主題歌”虹の彼方に”を聴かされ大いに気に入り、後にこの旋律を彼女との合図に用いる。
さらに少年は、映画の最後でアボリジニとしてのアイデンティティを自覚し、祖父と共にウォークアバウト(徒歩で放浪の旅をする、成人になるための儀式)に出発する。この旅立ちの音楽がなんと、エルガー/「エニグマ変奏曲」~ニムロッドなのである。
なんでやねん!よりにもよってイギリスの作曲家とは。ウォークアバウトはアボリジニ特有の儀式なのだから、当然彼らの音楽(民族楽器ディジュリドゥを使用したもの)がここで高鳴るべきじゃないのか?
結局、バズ・ラーマンは口では「アボリジニの権利・自由」とか奇麗ごとを叫びながら、心の中では白人の言語・文化の優位性を信じて疑っていない事実がこれらを見れば明らかである。またそのことを全く自覚していないということが限りなく罪深い。これでは20世紀にオーストラリア政府が良かれと信じ、善意で行ってきた《白人同化政策》と変わりないではないか。この映画の根底に流れる思い上がり、傲慢さには反吐が出る。
無意味なスロー・モーションの多用にもウンザリした。だれか奴に正しい使い方を教えてやってくれ!
こんな下手くそな演出家が今度は(既に再映画化権を取得している)S.フィッツジェラルド原作「グレート・ギャツビー」のメガホンを本当に取るのか??
頼むから勘弁してもらいたい……まあ、完成したら観に行くけど <結局、行くんかい!
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