ヤープ・テル・リンデン/バッハ無伴奏チェロ組曲
兵庫県立芸術文化センター小ホールでオランダからやって来たヤープ・テル・リンデンのチェロを聴く。
曲目は、
- J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲 第1,5,6番
アンコールは、組曲 第2番から”サラバンド”だった。
リンデンは元アムステルダム・バロック・オーケストラの首席チェリストで、かのヨーヨー・マにピリオド(古楽)奏法を伝授した人。使用されたのはミラノのジョヴァンニ・グランチーノが1703年に製作したチェロ。エンドピンがなく、現在のスティール弦ではなくガット弦を張った古楽器による演奏。なお、第6番は5弦のピッコロ・チェロ(1998年製)が使用された。この第6番はバッハが考案した"ヴィオラ・ポンポーザ"を想定して書かれたという説もあり、この楽器はつい最近"ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ"として復元された。
リンデンのバッハについては、活力とか生気に乏しいという批判もあるようだ。確かに比較的ゆったりとしたテンポで、この組曲が本来は踊りの曲であることを考えると違和感を覚える場面も少なくはない。しかし温かみとほの暗さを兼ね備えたその深みのある音色で綴られるバッハは、しみじみと聴く者の心にゆきわたり、多くのことを語りかけてきた。一本のチェロで奏でられる音楽は、僕たちの内的宇宙に繋がっている。
僕は今回のコンサートを聴きながら、ふと、宮沢賢治のことを想った。
賢治は生前チェロを弾いた。岩手県花巻市にある宮沢賢治記念館には彼が愛用したチェロが展示されている(胴の内側に《K .M . 1926》とサインがあることから1926年に購入されたものと考えられている)。「セロ(チェロ)弾きのゴーシュ」という作品があるのは御存知の通り。賢治は地元の農民たちに芸術の重要性を唱え、当時まだ珍しかったSP盤によるレコード鑑賞会を田んぼの真ん中で開いたという。
バッハの無伴奏チェロ組曲と宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は互いに呼応し、響きあう。音楽の森を彷徨いながら、その木霊を僕は確かに聴いた。
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