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2009年3月 3日 (火)

厳重に監視された列車

評価:B

大阪・梅田ガーデンシネマで鑑賞。

チェコ映画「英国王給仕人に乾杯!」(2006)のイジー・メンツェル監督が1966年に発表した長編デビュー作。製作当時彼は28歳の若さで、本作は米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した。また2005年にはTIME誌による映画史上ベスト100の一本にも選出されている(全リストはこちら。本作の英語タイトルは"Closely Watched Trains"。日本からは「東京物語」と「雨月物語」が選ばれている)。

そしてメンツェルはミロシュ・フォアマンらと共に新しい波《チェコ・ヌーベルバーグ》として1968年の「人間の顔をした社会主義」=プラハの春に加わる。しかしその気運はソビエト連邦軍主導のワルシャワ条約機構軍の軍事介入(チェコ事件)により圧殺されてしまう。メンツェルはそれでもチェコに留まり、一方フォアマンはアメリカに亡命、後に「カッコーの巣の上で」と「アマデウス」でアカデミー作品賞・監督賞を受賞することになる。

「カッコーの巣の上で」(1975)の舞台となる精神病院の閉鎖病棟をチェコスロヴァキアのメタファー(暗喩)として捕らえてみよう。恐怖の看護婦長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)はソビエト連邦、そしてそこから脱出を図るマクマーフィー(ジャック・ニコルソン)はフォアマン自身に置き換えることが出来る。そういう構造を持った映画なのである。

プラハの春の挫折は文学ではフランスに亡命したミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」として結実し(ダニエル・デイ=ルイス、ジュリエット・ビノシュが主演した映画も素晴らしい)、音楽ではカレル・フサの「プラハのための音楽1968」という傑作を生んだ。これは吹奏楽の為に書かれた名曲中の名曲である(名指揮者ジョージ・セルの依頼により管弦楽版も創られた)。

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さて、「厳重に監視された列車」の話である。

舞台となるのはナチス・ドイツ占領下のチェコ。村の駅に勤務する青年が主人公である。「英国王給仕人に乾杯!」同様に、暗い時代背景なのに映画のあちらこちらにユーモアが散りばめられており、決して深刻にはならない。そして物語はしばしば非現実的なファンタジーへと昇華しようとする。この絶妙な匙加減、独特な文体こそメンツェル監督の真骨頂だという気がする。

また映画に登場する女性たちが美人揃いで、監督の女優を選ぶセンスがいいと感じさせるのも「英国王給仕人に乾杯!」と共通する点である。

それと全く対照的なのがスティーブン・スピルバーグ。僕は彼の映画をデビュー作「続・激突!カージャック」(The Sugarland Express)以降全て観ているが、「E.T.」のドリュー・バリモアとか「宇宙戦争」のダコタ・ファニングなど子役の扱いはとても巧いのだけれど、彼は大人の女優を魅力的に撮ることが全く出来ない監督である。

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