フィッシュストーリー
評価:D+
「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話である。原作は今を時めく伊坂幸太郎。
映画公式サイトはこちら。
監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」の中村義洋。「アヒル…」の出来は割と良かったが、こちらは凡作。
- アヒルと鴨のコインロッカー(映画公開当時のレビュー)
伊坂幸太郎は2008年「ゴールデンスランバー」で山本周五郎賞、本屋大賞を受賞。雑誌「このミステリーがすごい!」2009年版では堂々第1位に輝いた。また同作で直木賞候補を辞退したことでも話題になった。
僕も「ゴールデンスランバー」は読んだのだが、正直余り好きになれなかった。大体、仙台(伊坂くんの出身地)を舞台にジョン・F・ケネディ暗殺の濡れ衣を着せられたオズワルド事件を再現しようという壮大な構想に無理がある。近未来の設定とはいえ、どう考えても《虚構の中のリアリティ》が感じられない。
吉川英次文学新人賞を受賞した「アヒルと鴨のコインロッカー」(2003)、「チルドレン」(04)、日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「死神の精度」(05)の頃は彼の小説は面白かったし、好きだった。しかし、「魔王」のあたりからこの作家はおかしな方向に進み始めた。
ファシズム、独裁者の台頭を描く「魔王」、《8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する》と発表されて5年後、カオスと化した仙台を描く「終末のフール」、そして「ゴールデンスランバー」とどんどん話がデカくなってきた。最近の彼は政治とか社会のことなどを饒舌に語りたがる。「俺って文章が上手いだろう?」と言いたげな気取りも鼻につく。
「フィッシュストーリー」も同様。彗星が地球に激突し人類滅亡するまであと5時間とか、正義の味方が世界を救うとか大風呂敷を広げ過ぎ。気持ちが萎える。
確かに4つの時代を行き来するプロットはトリッキーで凝っているが、中身が空疎。《策士策に溺れる》とは当にこのことだろう。
伊坂幸太郎がまだ身の丈にあった小説を書いていた頃=初期作品の映画化「重力ピエロ」(近日公開)に期待したい。
| 固定リンク | 0
「Cinema Paradiso」カテゴリの記事
- 石原さとみの熱い叫びを聴け! 映画「ミッシング」(+上坂あゆ美の短歌)(2024.06.10)
- 映画「オッペンハイマー」と、湯川秀樹が詠んだ短歌(2024.06.15)
- デューン 砂の惑星PART2(2024.04.02)
- 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2024(「サウンド・オブ・ミュージック」「オペラ座の怪人」のおもひでぽろぽろ)(2024.04.01)
- 2024年 アカデミー賞総括(宴のあとで)(2024.03.15)
「読書の時間」カテゴリの記事
- 映画「オッペンハイマー」と、湯川秀樹が詠んだ短歌(2024.06.15)
- 木下晴香(主演)ミュージカル「アナスタシア」と、ユヴァル・ノア・ハラリ(著)「サピエンス全史」で提唱された〈認知革命〉について(2023.10.28)
- 村上春樹「街とその不確かな壁」とユング心理学/「影」とは何か?/「君たちはどう生きるか」との関係(2023.10.20)
- 村上春樹「街とその不確かな壁」をめぐる冒険(直子再び/デタッチメント↔コミットメント/新海誠とセカイ系/兵庫県・芦屋市の川と海)(2023.10.06)
コメント