ワールド・オブ・ライズ
評価:B
原題は"Body of Lies"、日本語に直訳すると「嘘の機関」といったところか。それがCIAを指すのか、ヨルダン情報局を指すのかは人によって見方が様々だろう。映画公式サイトはこちら。
監督のリドリー・スコットは反骨精神に溢れた映像作家である。彼の代表作「ブレードランナー」は、レプリカント(人造人間)を追い処刑する任務を負ったデッカード(ハリソン・フォード)が、最後は自分もレプリカントなのではないか?という疑問に至る物語である。そこで世界の価値観は一気に反転する。「キングダム・オブ・ヘブン」(脚本:ウィリアム・モナハン)ではオーランド・ブルーム演じる主人公が十字軍に参加する。しかし十字軍と敵対し、エルサレムで一戦交えるイスラムの将軍・サラディンの方がむしろ英雄的に描かれている。
そして今回の作品は《ハイテクを駆使するアメリカの諜報機関は結局、ローテクのテロリストには決して敵わない》というのが主題である。正にリドリー・スコットの面目躍如といった所だろう。彼はイギリス出身なので、アメリカを醒めた目で見つめる姿勢が映画から感じられる。
無人偵察機プレデターから送られている画像を見ながら、遠隔地から中東にいる部下のディカプリオにあれこれ指示を出すCIAのボスを演じたラッセル・クロウが好演。彼はつまり、奢り高ぶり肥大化した文明の豚=アメリカの象徴として描かれている。クロウは監督からの期待に応え、ぶよぶよして弛んだ肉体に自己改造して撮影に臨んでいる。
現実の闘いに疲れた男(ディカプリオ)が、オアシスに潤いを求めるように女に惹かれていくというエピソードは、なんだか「ディパーテッド」(マーティン・スコセッシ監督)に似ているなと想いながら観ていたら、後でどちらも脚色をウィリアム・モナハンが担当していたことが判明した。監督が異なってもシナリオ・ライターの色というのは出るものだ。
以下、ネタバレあり。この映画の裏に描かれた、もうひとつの物語について触れる。未見の方、そして(本作のレイティングはPG-12なので)中学生未満の子も読んじゃ駄目だよ。
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ヨルダンの局長ハニ・サラーム(マーク・ストロング)について、ホフマン(ラッセル・クロウ)はフェリス(レオナルド・ディカプリオ)にこう言う。
「君はハニのお気に入りだからな」
そしてハニは拘束した男を全裸にし尻を鞭で打って拷問、その様子をフェリスに見せる。つまりここまでの描写でハニがサディストであり、男色の可能性をも映画は示唆している。
物語の終盤フェリスはテロリストに捕らえられ、指をハンマーで潰すという拷問を受ける。今や処刑されようという瞬間、スーツ着てビシッと決めたハニが率いる特殊部隊が押し入り、フェリスを救出する。
病院で意識を取り戻したフェリスにハニは言う。
「一番最初に見舞いに来てくれる人が、一番心配してくれてる人だよ」
僕が映画を観終わってしばらくの間、どうしてハニはもっと早くフェリスを救出してやらなかったのだろうと疑問を感じた。テロリストの中にスパイを忍ばせていたのだから十分可能だった筈だし、そうすればフェリスは指を失わないで済んだのに。
そこで、はたと気がついた。サディストであるハニは、もしかしたら苦痛に歪むフェリスの表情を見て愉しみたかったのではないだろうか?だから拷問され殺される直前、それしかないという絶妙なタイミングで突入してきたのではないか。そう考えて初めてハニの言動の全てが辻褄が合う。……なんと悪魔的なシナリオだろう。僕はモナハンとスコットが仕組んだ企みに慄然とした。
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