« 笑福亭たま/ミッドナイトヘッド | トップページ | 英国王給仕人に乾杯! »

2009年2月 4日 (水)

「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」と、演出家サム・メンデスの軌跡

評価:B+

映画公式サイトはこちら

本作の監督、サム・メンデスはそのキャリアを舞台演出家としてスタートさせた。イギリスに生まれた彼はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーを経てロンドンにあるドンマー・ウエアハウスの芸術監督を2002年まで務めた。そして1993年にこの劇場で演出したミュージカル「キャバレー」が彼の運命を切り開くことになる。

絶賛を博したこのプロダクションは1998年にブロードウェイに上陸。トニー賞でリバイバル作品賞を受賞した。またロンドン初演から"MC"を演じていたアラン・カミングもブロードウェイに乗り込み、同役で見事トニー賞主演男優賞を受賞することになる。僕はこのバージョンを二回あった来日公演とブロードウェイで観ているが、本当に素晴らしい舞台だった。

ブロードウェイ版として手直しされた際、メンデスと共同演出および振付を担当したのがロブ・マーシャル。マーシャルはディズニー製作のテレビ映画「アニー」(これは傑作!)を監督した時に、カミングを再起用。それらが評価され「シカゴ」(2002)でスクリーンに進出し、アカデミー作品賞を受賞した。現在はミュージカル映画「ナイン」を超豪華キャストで撮影中。

 関連記事:

一方、ブロードウェイで上演中の「キャバレー」を観たスティーブン・スピルバーグはメンデスの演出力を高く評価。ドリームワークスで製作するとこになった映画「アメリカン・ビューティー」(1999)の監督に彼を抜擢した。そしてメンデスは処女作で見事アカデミー作品賞、監督賞などを受賞する。

彼はミュージカルを好んでおり、ロンドンでソンドハイムの「カンパニー」や「アサシンズ」、ブロードウェイでは「ジプシー」等を演出している。またソンドハイムの「スウィーニー・トッド」映画化の版権をドリームワークスが持っていた時期はメンデスが監督、ラッセル・クロウ主演で準備が進められていた(ラッセル・クロウはオーストラリアでミュージカル「グリース」に出演していた過去があり、ロック・シンガーとしてバンド活動もしている)。しかし結局、その企画は実現することはなかった(その後ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演で映画化されたのは御存知の通り)。

私生活では2003年に女優のケイト・ウィンスレットと西インド諸島で結婚。同年ふたりの間には長男が誕生している。
Road

さて、「レボリューショナリー・ロード」である。これは当然、愛妻ケイトのために立てられた企画であろう。「タイタニック」(1997)以来となるケイトとレオナルド・ディカプリオの共演作としても話題になっている。そして観てみると、なんと「タイタニック」で"不沈のモリー・ブラウン"を演じたキャシー・ベイツも本作に出演していた。さながら同窓会状態だが、それぞれが全く性格の異なる役柄を演じているところがミソだろう。かつて座付き舞台演出家だったメンデスらしい発想である。

非常に演劇的密度の濃い作品で、メンデスはケイトとレオから今までで最高の演技を引き出すことに成功している。ケイトは「愛を読むひと」でアカデミー主演女優賞にノミネートされているが、今年こそはケイトの年になる予感がひしひしとした。機は熟したと言えるだろう。

本作でのレオの喋り口調は開口一番、映画「野郎どもと女たち」(Guys and Dolls,1956)のマーロン・ブランドのそれに似ているなと直感した。しばらく観ているとこの映画で描かれているのは1955年の出来事であり、レボリューショナリー・ロードとはニューヨーク郊外コネティカット州にある新興住宅地であることが分かってきた(レオはそこからマンハッタンに通勤するサラリーマン)。ミュージカル「野郎どもと女たち」の舞台もニューヨークである。つまり彼は'50年代のニューヨーカーたちの話し言葉を研究し、役作りをしたということなのだろう。

撮影監督はロジャー・ディーキンズ。昨年は「ノーカントリー」と「ジェシー・ジェイムズの暗殺」でアカデミー賞の撮影賞にダブル・ノミネートされた。今年は「愛を読むひと」でノミネートされている。黄色が強調された初期のイーストマン・カラー(1952年開発)を想わせる色調で、'50年代のハリウッド映画を意識して絵作りしているようだ。

予告編ではメロドラマを想像して映画館に足を運んだのだが、実際本編を観るとこれは《壊れていく夫婦の物語》であることが判明した。そして表面上はケイトとレオの物語と見せかけておいて、実は3組のカップルの危機を描いた作品であったことが、正にラストショットで分かる仕掛けが施されており、その巧みな語り口に唸らされた。破滅・再生・諦念とそれぞれが異なった結末を迎えることになる。けだし傑作。

以下余談。着実にミュージカル映画を撮り続けているロブ・マーシャルに対して、サム・メンデスは未だ一本も撮っていない。やる気はないのだろうか?と、調べてみると、現在スティーブン・ソンドハイムが作詞作曲したミュージカル「フォーリーズ」映画版の撮影準備(Pre-production)に入っていることが分かった。実現出来なかった「スウィーニー・トッド」への弔い合戦でもあるのだろう。大変悦ばしい事だ。僕としては是非「キャバレー」のリメイクも彼に撮って欲しいと願わずにはいられない。勿論、主演はアラン・カミングで。

| |

« 笑福亭たま/ミッドナイトヘッド | トップページ | 英国王給仕人に乾杯! »

Cinema Paradiso」カテゴリの記事

舞台・ミュージカル」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」と、演出家サム・メンデスの軌跡:

» レボリューショナリー・ロード燃え尽きるまで■この脇役がすごい! [映画と出会う・世界が変わる]
レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの熱演・好演に異論はないが、この主人公ふたりを引き立たせて、この映画の核心をついている脇役はキャシー・ベイツ演じるヘレンの息子ジョンである。心を病む人物であるが、二人の実体を見事に顕在化していくのである。...... [続きを読む]

受信: 2009年2月 4日 (水) 08時38分

« 笑福亭たま/ミッドナイトヘッド | トップページ | 英国王給仕人に乾杯! »