下野竜也/いずみシンフォニエッタ大阪《イギリス近現代音楽の魅力》
いずみシンフォニエッタ大阪の定期演奏会に往った。指揮者はこの室内オケ初登板となる下野竜也さん。
- ホルスト/セント・ポール組曲
- アデス/Living Toys
- タネジ/On All Fours(日本初演)
- 藤倉 大/secret forest(世界初演)
- ブリテン/シンフォニエッタ
開演前に恒例となったロビー・コンサートもあった。
今回は本編がイギリス音楽特集ということで、ビートルズのナンバーを弦楽四重奏で。その前にテレビ「シャーロック・ホームズの冒険」からオープニング曲《221Bベーカー街》(作曲:パトリック・ゴワーズ)も演奏された(→司会進行役もされた中島慎子さんのブログへ)。
続いて下野さんと委嘱作品を作曲された藤倉さん(1977年大阪生まれ、ロンドン在住)とのプレ・トークがホールであった。
下野さんは今年4月7日に読売日本交響楽団を指揮し、藤倉さんの別の新作を世界初演されるそうだ。そのスコアを下野さんに手渡すべく、ロンドンから大阪に向かう飛行機の中で作曲していたと藤倉さん。演奏会の詳細はこちら。嗚呼、東京はいいなぁ。大阪では芥川也寸志/エローラ交響曲とか黛敏郎/涅槃交響曲とかなかなか聴けない。こちらの聴衆はそれだけ成熟していないということなのだろう。
古典派や浪漫派の時代、すなわち18~19世紀の西洋音楽史においてイギリスは優れた作曲家を全く生み出せず、不毛の地であった。20世紀になってエルガー、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストらが登場しようやく世界の檜舞台に立つことが出来た。20世紀後半になってイギリスで古楽器演奏が急速に発展したのも、17世紀ヘンリー・パーセルの時代にまで溯らなければ誇るべき作曲家が自国に存在しなかったのが理由のひとつだと言われている(それは15-16世紀のフランドル楽派まで溯らなければならなかったベルギーやオランダの実情も同様である)。
一曲目のホルスト(1874-1934)は彼が教師を務めていた女学校の学生のために書かれた滋味溢れる弦楽合奏曲。この第4曲は「吹奏楽のための組曲第2番」終曲の編曲で、僕は原曲を演奏したことがある。弦楽に置き換わっても全く違和感なく真に美しい名曲。下野さんの指揮はしなやかに歌いながらテンポが引き締まり、一瞬たりとも緊張感が途切れない。実に見事な手綱捌きであった。
アデス(1971-)は退屈の極み。このイギリスの作曲家はサイモン・ラトルが2002年にベルリン・フィルの芸術監督に就任した際の披露コンサートで演奏された「アライサ」という曲も聴いたが、どうも好きになれない。
タネジ(1960-)はマイルス・デイビスに傾倒しているそうで、ミュート・トランペットをフィーチャーした《クール・ジャズ》との融合。サクソフォンも大活躍で、クラシックとジャズの垣根を越えたクロスオーヴァー(Crossover)が耳に心地よい。これは○
藤倉さんの曲は正に聴衆が森の中に誘われ、そこで耳をすまして聞こえてくる音の印象。ステージ上には指揮者と弦楽奏者のみ。管楽器奏者たちは1階客席全体に散らばる配置。下野さんは主に弦楽器に向かって指揮し、管楽器には出だしのきっかけとなる合図(キュー)のみ送る。弦の響きはまるで鳥の鳴き声。そして管は虫や動物、あるいは風に揺らぐ木の葉のさざめき。何という清々しさ!素晴らしい作曲家である。今後の活躍も期待したい。
ブリテン(1913-76)は作曲家18歳の作品。決して前衛的ではないが、それでも明らかに20世紀の新しい響きを持った傑作。いずみシンフォニエッタ大阪の名人芸を堪能した。
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