映画「マンマ・ミーア!」
評価:C+
映画公式サイトはこちら。
イギリスでは遂に「タイタニック」の記録を塗り替え、興行成績史上NO.1に躍り出た大ヒット・ミュージカル映画。アメリカでは昨年夏に公開されたのに、日本ではなんと半年遅れの1月30日。何でこんなことになったのか不思議だったのだが、よくよく考えてその理由を漸く理解出来た。
ゴールデン・グローブ賞の発表は1月11日(日本時間12日)にある。つまり日本の映画宣伝部は捕らぬ狸の皮算用をしており、受賞出来れば公開までの約二週間でそれを宣伝材料にキャンペーンを展開しようという腹づもりなのだろう。ちなみに本作は作品賞(ミュージカル/コメディ部門)および主演女優賞(メリル・ストリープ)にノミネートされている。そう事は上手く運ぶものかどうか……。公開を待ちわびているファンにとっては大変迷惑な話である。なお、アカデミー作品賞最有力候補である「スラムドッグ$ミリオネア」の日本公開も4月とまだまだ遠い先の話になってしまった。これもオスカー効果を狙っているというわけだ。もう、いい加減にしてもらいたい。
さて「マンマ・ミーア!」の話に戻ろう。僕は舞台版を劇団四季で数回観ている。東京では当然生バンドの演奏だったが、大阪四季劇場ではこれさえもカラオケ上演だったので呆れた。ABBAのポップス(ディスコ・ミュージック)なんだから、オケと違って数人で演奏出来るのに!
ロンドンの舞台ミュージカル版を演出したフィリダ・ロイドが本作で映画監督デビューを飾った。また、脚本も舞台版を手がけたキャサリン・ジョンソンが引き続き担当している。だから舞台のテイストが映画版にも色濃く残っており、特に"Money, Money, Money"の演出なんか、そっくりそのままである。ハッピーエンディングを迎えた後に、カーテンコールで"Dancing Queen"が再登場するという趣向も同じ。イギリスやアメリカで大ヒットしたのは映画館の観客も舞台同様、一緒に歌って踊って盛り上がったからなのだろう。
僕も大いに映画を愉しんだし、もし貴方がミュージカルを好きならば是非ご覧になることをお勧めしたい。では何故評価が低いのかと問われれば、元々の舞台そのものがその程度の作品だからである。ABBAのヒット曲を22曲繋ぎ、それに併せて構成してあるので物語自体は他愛ない。つまり製作者側はこの作品を通して何かを世の中に訴えたいとか、人間の真実を描きたいとかいった大志を端から抱いてなどいないのだ。難しいことなんか考えず、ハッピーな気持ちになれたらそれでいいんじゃない?……そしてそれこそが、ミュージカル・コメディの醍醐味と言えるだろう(「クレイジー・フォー・ユー」や「ME AND MY GIRL」だってそうだ)。
ソフィー役のアマンダ・セイフライドが好演。ドナ役のメリル・ストリープは声の質がミュージカル向きではなく、音域が狭いので聴き辛いものがあるが、そこは大女優の貫禄。演技力で歌唱力の欠陥をカヴァーしている。コリン・ファースやピアース・ブロスナン(5代目ジェームズ・ボンド)も決して歌が上手いとは言えないけれど、中々味があって悪くない。一寸「野郎どもと女たち(GUYS AND DOLLS)」のマーロン・ブランドのことを想い出した。
あとエーゲ海に面したギリシャの孤島というシチュエーションがとても映画的で良かった。どこまでも澄み切った青い海は、陽光が燦々と降り注ぐこの明るい物語に良く似合う。
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コメント
ラスベガス旅行記、拝読しました。うらやましいです。
たしかにこのミュージカルは、話はたわいないものですよね。ただ、この作品を機に、多くの「カタログミュージカル」が作られましたが、ほとんどがコケてるのを見ると、アバの曲がいかにミュージカル的なのか、とか、脚本はちゃんと練り上げられていることを感じます。
初めて見たのは、ロンドンで始まってまだ1年後ぐらいの時期。一人だったので、かろうじてかぶりつきの座席をゲットしました。
事前の話では「アバのミュージカル?キワモノ?」と思ったら、見たら実に楽しい。客層も明らかに若い頃にアバの曲をよく聞いていたであろう中年層がほとんど。私も中高生の頃、アバの曲をよく聞いたし、いい英語の教材でもありました。「チキチータ」なんかは少し無理矢理感があったのですけど、それもご愛嬌、その無理矢理感が笑いを誘ってました。隣の客は一緒に合唱するし、一曲ごとに椅子から転げ落ちんばかりに笑ってるし、それはそれは楽しい経験でした。
日本で翻訳上演はありえないだろうなと思っていたら、四季が上演するということで仰天でした。実際に見たら、案の定、ロンドンで見たときのような客席も一体となった楽しさとまではいかなかったですね。
映画は、アメリカから取り寄せたDVDで見たので、周囲の観客の反応もなく、映画館で公開されるのを楽しみにしていますが、やはりライブ感がないのは少しさびしいですね。
映画といえども、客席が盛り上がると楽しいもの、「プロデューサーズ」を2回見て、それぞれの回の客席の反応が全然違ったので痛感しました。
ただ、舞台では想像するしかなかったエーゲ海の美しい映像がふんだんに使われているのは映画ならではですよね。その意味では「サウンドオブミュージック」(これは映画版もすばらしい出来でしたけど)などに共通したものを感じました。
今から映画館で見る日を楽しみにしています。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月14日 (水) 03時13分
ぽんぽこやまさん、コメントありがとうございます。
仰る通り、「マンマ・ミーア!」の話は単純。でも音楽は最高だしハッピーな気分になれる!それで良いじゃないか……そういう作品ですね。そしてこれを最大限に味わうためには映画館で、観客もいっしょに歌って踊らなくちゃいけないんだろうと想います。実際、アメリカの映画館の一部ではすべての歌詞をスクリーンに表示する「Sing-Along Edition」が上映されたそうです。つまりノリとしてはカルト映画「ロッキー・ホラー・ショー」と一緒ですね。
でもシャイな日本人にはこういうスタイルは似合わないでしょうから、これはDVDかブルーレイを見ながら仲間とホームパーティで愉しむしかないのかも知れません。
投稿: 雅哉 | 2009年1月14日 (水) 03時31分
そうです、Sing-alongのことを書き忘れてました。
うわさには聞いてましたが、DVDにも収録されてましたよ。
日本の映画館で上映して・・・誰も歌う人いないだろうな・・・
投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月14日 (水) 14時30分
日本でも「ロッキー・ホラー・ショー」は仮装して、皆で歌って踊るというスタイルが定着しましたから「マンマ・ミーア!」だって可能性がない訳ではありません。
Sing-Alongは僕の持っている映画「ヘアスプレー」DVDにも収録されています。現在「フットルース」ミュージカル版の映画化が企画進行中ですが、こういった類の作品になるかも。「ハイスクール・ミュージカル」の監督がメガホンをとる予定だそうですよ。「フェーム」のリメイクも予定されています。
投稿: 雅哉 | 2009年1月14日 (水) 19時34分
2月6日(金)7日(土)の梅田TOHOシネマズでの20:40~の回では、Sing Alongバージョンが上映されるそうですね。
公開翌日のレイトショーで見てきましたけど、歌の場面になるたびに、ついつい口が動いてしまい、声を出さないように気を使いました(爆)。
うーん、目いっぱい歌って発散するためには、このSing Alongバージョンの公開のときに行くしかないかな。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年2月 2日 (月) 01時12分
ぽんぽこやまさん、情報ありがとうございます。
僕もこの日曜日にTOHOシネマズで観てきました。映画の出来としては何度観てもC+程度でしかないのだけれど、音楽が良いからやっぱり愉しい!ウキウキ気分が高揚しました。
隣に座っていたおばちゃんが、映画を観ながらABBAのメロディを一緒に口ずさんでいました。まあそれが正しい鑑賞法なのだと頭で分かってはいても、少々迷惑でした
投稿: 雅哉 | 2009年2月 2日 (月) 01時32分
Sing Alongバージョンでの上映会なら口ずさんでも迷惑がられなくてすみますね(*^.^*)
投稿: ぽんぽこやま | 2009年2月 2日 (月) 10時09分
ところでぽんぽこやまさんは、イギリス滞在中にサム・メンデス演出のミュージカルはご覧になっていらっしゃいませんか?
もしご覧になっているようであれば、「レボリューショナリー・ロード」の欄にコメントを頂ければ幸いです。
投稿: 雅哉 | 2009年2月 4日 (水) 15時55分
返事遅くなりました。
たぶん見てないと思います。いつも短期滞在で、知人の家を訪ねたりすることもあるので、観光客がよくみるような作品を見るぐらいの時間しかないのです。
調べてみますね。今ロンドンで上演中の「シカゴ」は違いますよね。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年2月27日 (金) 11時42分
ぽんぽこやまさん、コメントありがとうございます。
「シカゴ」はブロードウェイ・バージョンですね。これは僕もロンドンで観ました。ウテ・レンパーが素晴らしかった!その時、共演がルーシー・ヘンシャルだったのですが、僕の観劇日はたまたまアンダースタディ(代役)に当たり、とても残念でした。
サム・メンデスが演出したミュージカルの多くはドンマー・ウエアハウスで上演されたものです。
投稿: 雅哉 | 2009年2月27日 (金) 12時38分