繁昌亭昼席/桂 米團治 襲名披露興行
天満天神繁昌亭の昼席を聴く。今回は(小米朝改め)桂 米團治 襲名披露で、中入りを挟み《口上》もあった。
まずはトリの米團治さんの話をしよう。高座に上がり、マクラなしでいきなり「今日は旅のお噂をひとつ聴いていただきます」と始まった。「えっ、トリで旅ネタ?しかも襲名披露で??」と狐につままれたような心地がした。すると米團治さんは「旅と言ってもあの世の旅です…」と続けた。僕は「ま、まさか地獄八景!?」と吃驚した。
「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」は上方落語屈指の大ネタ。桂 米朝さんが再構成し復活させた噺であり、現在これを演じる噺家は全て米朝さんから直伝されたか、その弟子から受け継いでいる(そういう意味では、「はてなの茶碗」も同様)。通して演じると一時間を優に越え、しかも随所に時事ネタを交えたくすぐりが必要であり、演者の力量が問われる。朝ドラ「ちりとてちん」で主人公の師匠である草若(渡瀬恒彦)が死の直前、高座にかけたのもこれである。
小米朝時代に彼の高座を4回ほど聴いているが、面白いとか才能があると感じたことは一度もない。
ところが!である。今回聴いた、「地獄八景亡者戯」は驚くほど素晴らしい高座で、僕は不覚にも感動してしまった(いや、別に「不覚にも」なんて表現を使わなくても良いのだが…)。
麻生総理など時事ネタの入れ方も上手かったし、黄泉の国にある繁昌亭(向こうでは"半焼亭"と書くらしい)の前には枝雀、吉朝など先立った米朝の弟子たちの名前が寄席文字で書かれており、その中に「桂 米朝 - 間もなく来演!」という看板も30年前から掲げられ既に黄ばんでいる。高座では枝雀さんが「師匠が中々来なくて、スビバセンね」とやっているというギャグも米朝さんの息子だからできる秀逸なものだった。考えてみれば彼に入門するよう勧めたのも、小米朝と命名したのも枝雀さんだったのだ。
そして噺の中に出てくる若旦那。この世ですることがなくなり、あの世の旅でもしてみようかとフグの肝に当たり、幇間(太鼓持ち)や芸妓を引き連れ賑やかにやって来るその雰囲気がなんと米團治さんに似合っていることか!もうまるで、落語の中の若旦那がそのまま抜け出して来たような華やかさがそこにはあった。
米朝から受け継いだ《遺伝子の覚醒》。それを目の当たりにしたような強烈な印象を受けた。
この日の演目。
- 桂 吉の丞/動物園
- 桂 歌之助/桃太郎
- 桂 米平/西遊記(立体紙芝居)
- 桂 春之輔/お玉牛
- 桂 文珍/ヘイ!マスター
- 林家いっ平/みそ豆
- 桂 都丸/ろくろ首
- 桂 米團治/地獄八景亡者戯
文珍さんの噺は何と英語落語!ロサンゼルス版「時うどん」ともいうべき創作もので、すこぶる面白かった。東京からのゲスト・いっ平さんの「みそ豆」は彼が6,7歳の頃、父・三平さんから唯一教えてもらった小話とのこと。
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コメント
お邪魔致します。
繁昌亭のネット配信で聴いたのですが、私は千秋楽の「胴乱の幸助」が良かったと思います。
それにしても役者ですね。
投稿: JUN | 2009年1月26日 (月) 23時16分
落語でコメントを頂けることは滅多にないので嬉しいです。
米團治を襲名されてネタも増え、一回り大きくなられましたよね。後は一日も早くお弟子さんを取って頂きたいものです。
例えば繁昌亭大賞を受賞された吉弥さん(37歳)には現在弟子入り志願の人が殺到しているらしいのですが、米團治さんに弟子がいないと、その下の者はなかなか受け入れにくいですよね。ちなみに南光さんが入門されたのは師匠の枝雀さんが30歳の時だとか。
投稿: 雅哉 | 2009年1月26日 (月) 23時49分