ヒラリー・ハーン/ヴァイオリン・リサイタル
アメリカのヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンはまるで妖精のような人だと想っていた。この世に舞い降りたティンカー・ベルのイメージ。
そして今回、兵庫県立芸術文化センターで実際見た彼女は以前から抱いていた印象そのままの人だった。特に愛器(J.B.ヴィヨーム、1864年製作)を持ってステージに立つ彼女の凛とした佇まいには、ただただ見惚れるばかり。
曲目は、以下の通り。
- イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番
- アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第4番「キャンプの集いの子どもの日」
- ブラームス/ハンガリー舞曲集(全7曲)
- アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第2番
- イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番
- イザイ/子どもの夢
- アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第1番
- バルトーク/ルーマニア民族舞曲
- パガニーニ/カンタービレ(アンコール)
- ブラームス/ハンガリー舞曲第5番(アンコール、リプライズ)
「ハンガリー舞曲集」以外ポピュラーな曲はなく、ベルギーの作曲家イザイとアメリカのアイヴズが書いた20世紀の音楽を中心とした意欲的なプログラム。ピアノ伴奏はヴァレンティーナ・リシッツァ。
ちなみにイザイ(1858-1931)はヴァイオリンにおけるビブラート技法を確立した人だそうだ。つまり、ベートーヴェン(1770-1827)以前の音楽をビブラート奏法で弾く20世紀の方法論は誤りだったということだ。
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閑話休題。イザイもアイヴズのソナタも今回初めて聴いたのだが、イザイの無伴奏第4番はかなりJ.S.バッハの無伴奏ソナタを意識しているなと感じられた。しかし6番の方はバッハから離れて自由になった印象を受け、その対比がとても興味深かった。一方、アイヴズは賛美歌やフォークソングからの引用が沢山あってとても親しみ易かった。そういえばレニー(L.バーンスタイン)は生前、アイヴズの交響曲を積極的に取り上げていたが、大植さんや佐渡さんも関西で取り上げてくれないかなぁ?
先日聴いた神尾真由子さんのヴァイオリンは力強く野太い音が魅力なのだが、それに対してヒラリー・ハーンは繊細な音色(とビブラート)が特徴である。やや線は細いが、それはか弱いのではなくしっかりとした芯があり、ピンと張り詰めた緊張感は決して最後まで途切れることがない。特にハーモニクス(=フラジオレット、倍音を奏でる技法)の美しい響きは筆舌に尽くしがたい。神尾さんが《火の玉のように燃え上がる》演奏だとするとハーンのそれは《静謐な湖の透明感》に喩えることが出来るだろう。どちらが良いという話ではない。それぞれに固有の魅力があって、その資質の違いを聴く歓びこそ僕たちにとって掛け替えのないものなのである。
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演奏会が終わり、サイン会では長蛇の列。それは兵庫芸文の敷地内をはるかに越え、阪急・西宮北口駅への連絡通路まで延々と続いた。それでもヒラリー・ハーンは嫌な顔もせず、ひとりひとり丁寧に「アリガトウゴザイマシタ」と日本語で挨拶してくれた。なんて素敵な女性なのだろうとますます好感度がアップした、今日この頃なのでありました。
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