ラスベガス便りその1 《オペラ座の怪人》
12/30に関西国際空港を発ちロサンゼルス経由でラスベガスに到着した。
西海岸は温かく、日本で言えば春の陽気。からっと晴れ上がり、以前訪れたニューヨークがどんよりとしたダークブルーだとすると、こちらは明るい黄色のイメージだ。ラスベガスという街そのものが《砂漠に忽然と出現した蜃気楼》という印象が強い。
僕の泊まっているパラッツォは隣のヴェネチアンと繋がっており、そこでラスベガス版「オペラ座の怪人」を観ることが出来る。
ヴェネチアンの2階には運河があり、そこをゴンドラが行き来している。
天井は書き割りの空。すべてが人工の産物で僕はジム・キャリー主演の映画「トゥルーマン・ショー」のことを想い出した。いかにも蜃気楼の街ラスベガスに相応しい。
さて「オペラ座の怪人(PHANTOM)」である。このラスベガス版のために建てられた専用劇場で上演されている。物語の舞台となるパリ・オペラ座を模したドーム型構造になっているのが特徴的。
アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲したこのミュージカルは世界20カ国以上で上演されているが、これらの演出・舞台装置・衣装などは全てロンドンのオリジナル・プロダクション(1986初演)と同じである。契約上、別の演出は認められておらずロンドンでもブロードウェイでも日本でも大差ない(ただし、消防法の関係からか日本での火薬の使用量は他国より少なくなっていており、些か見た目が貧相である)。その唯一の例外が2006年に開幕したこのラスベガス版で、オリジナル演出を手がけたハロルド・プリンスが新演出を施しており、最新のテクノロジーを駆使した舞台となっている。
また、1幕と2幕の間の休憩はなく、95分間ぶっ通しの作品となっている。オリジナルと比較しコンパクトにまとめられているが、カットされた曲はほとんどない(劇中劇「ドン・ファンの勝利」のリハーサル・シーンが省略されているくらい)。
プリンスの演出は基本的にロンドンのオリジナル・プロダクションを踏襲している。しかし、それがより派手になっていることが特徴。一言で言えば、良い意味でTOO MUCHなのだ。
先ず劇場に入って驚くのは大小様々なシャンデリアが4つも、あちらこちらに配置されていること。「えっ、どういうこと?」と不思議に想っていると、例のパイプオルガンの大音響と共にシャンデリアが点滅、上昇を始めた。すると天井付近でそれらが合体し、なんと4層のシャンデリアに変貌したのである!その巨大さはさながら、スピルバーグの映画「未知との遭遇」に登場するUFO=マザーシップの如し。ちなみにそのシャンデリアが墜落するタイミングはロンドン版とは異なり、映画版と同様に物語のクライマックス、オペラ「ドン・ファンの勝利」で怪人が現れた直後。僕の席は急速に落ちてくるシャンデリアの真下だったので、スリル満点だった。
また、「マスカレード(仮面舞踏会)」直前に打ち上がる花火の派手さには度肝を抜かれたし、舞台装置や衣装がオリジナルより格段と豪華になっているのにも目を奪われた。
ロイド=ウェバーのオーケストレーションも明らかにリニューアルされており、各所でハッとする響きが聴かれた。オケは当然、生演奏。さすが巧い奏者が揃っていた。
怪人を演じたのはAnthony Crivello。ミュージカル「蜘蛛女のキス」でトニー賞を受賞している。
クリスティーヌを演じたCristi HoldenとラウルのAndrew Ragone(イケメン)も大変な美声で好演。特にクリスティーヌは今まで僕が観た(ロンドンとブロードウェイを含む)中でベストであり、オリジナル・キャストのサラ・ブライトマンより彼女の声の方が好きだ。ここのカンパニーの実力の高さに深い感銘を受けた。
また今回、ヴェネチアをテーマとしたホテル内で観劇するという体験を通して初めて、「オペラ座の怪人」という作品には、ゴンドラ・仮面舞踏会・イタリア人歌手といった、ヴェネチア的要素がふんだんに盛り込まれている事に気付かされたのだった。
関連記事:オペラ座の怪人(この作品の想い出)
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コメント
ドキドキしながらラスベガス便り読んでいます。すごい!
投稿: 鯉太郎 | 2009年1月 3日 (土) 05時49分
はじめまして。
エンピツ日記の頃からずっと
いつも読んでおりました。
『オペラ座の怪人』は大好きな物語なので
本当に羨ましいです!!
私は念願叶って年末にパリの
オペラ座(ガルニエ)の場内見学をしてきました。
あまりにも素敵で The Phantom of the Operaを口ずさんでしまい外国の観光客の
方から注目されてしまいました。
(・・恥ずかしい)
では、これからも記事を楽しみにしています♪
投稿: なつ | 2009年1月 4日 (日) 01時17分
なつさん、コメントありがとうございます。
僕がウエストエンドで「オペラ座の怪人」を観た旅行では、その後パリに飛びガルニエにも往きました。絢爛豪華で天井に書かれたシャガールの絵も素敵ですよね。
ラスベガス版「オペラ座の怪人」には本当に度肝を抜かれますから機会があれば是非。
投稿: 雅哉 | 2009年1月 4日 (日) 02時31分
鯉太郎さん、コメントありがとうございます。今後の続報もご期待下さい。
投稿: 雅哉 | 2009年1月 4日 (日) 02時33分
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願い致します。
雅哉さん、ケタはずれに羨ましいお正月を過ごしてらしたのですね、私は米朝一門会と初春大歌舞伎と純日本流でした。
それにしてもオペラ座の怪人、ラスベガス公演観てみたい!
実は私はミュージカルが苦手で、四季には全く興味が湧かなかったのですが、あのジェラルドの映画ではまり、映画だけでも20回以上観てしまい、その延長で四季公演をみる様になった次第です。四季の皆さんは歌や踊りのレベルも高いのですが、あの薄っぺらいサウンドと迫力に欠けるシャンデリアには参りました。延長延長で、千秋楽は5月らしいですね。
浅利慶太さんは安普請し過ぎだと思いませんか?あんなサウンドでは感動も半分です。
大沢たかおの『ファントム』は歌が仰天でしたが、確か生演奏でしたよね?大沢さんのオーラも凄かったし。
やはり値段アップしても生演奏にしてくれくれなくては。。。。。。
投稿: jupiter | 2009年1月 8日 (木) 23時13分
jupiterさん、こちらこそ今年も宜しくお願いいたします。
本文にも書きましたが、ラスベガス以外の「オペラ座の怪人」は演出・舞台装置・衣装が世界共通です。だからシャンデリアがしょぼいのは、ブロードウェイもウエストエンドも変わりありません。しかし!ラスベガスの豪華さには腰を抜かしますよ。是非体験されてみて下さい。
劇団四季のコスト削減の姿勢は終始一貫しています。そして音楽はその大きな犠牲になってしまっていますね。東京以外の劇場での演奏は全て録音テープ。東京のオケも人件費を削るために極力人数を減らし、一人がいくつもの楽器を持ち替えて演奏しています。だから薄っぺらな音しか出ないんです。
大阪で四季がカラオケ上演を続けていることについては、それを許容している在阪マスコミと観客にもその責任の一端はあるのです。《「NO」と言える大阪人》……そんな時代はいつの日か来るのでしょうか?
投稿: 雅哉 | 2009年1月 9日 (金) 00時08分
「オペラ座」のシャンデリアの問題は、上演国の消防法も関係しますよね。
ウエストエンドの場合は、落ち方は一緒といえば一緒ですが、吊り上げられる位置が観客席のど真ん中。だから落下するときは、いったん客席のど真ん中までグーッと降りてきてから、舞台までの距離があるので、そこから一気に!という感じなので、1階席前方中央部に座っている観客だと、後ろからゴーッ!っとやってきて結構怖いと思います。
日生のときは、オケボックスの上に吊り上げられましたよね。初演の少し前に、東京のディスコで、売り物だった上げ下げ式の装置が落ちて死者まで出たという事故があったので、そういうところもあってより慎重になったのかもしれません。
あとは、ロンドンの劇場は舞台・客席とも高さがあるので、そう思うのかもしれません。
トラベレーターで地下へ降りていく場面なんかは高さが生きる場面ですよね。日生や近鉄だとシーソーみたいだったです(^^;。
基本演出は同じですが、劇場のサイズに合わせないといけないところはあるので、近鉄劇場で上演していた頃は、日生劇場よりサイズの小さいシャンデリアを使っていたと記憶します。
この作品、劇場を選ぶ演目ではないかと思います。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月16日 (金) 10時04分
ぽんぽこやまさん、詳細な分析をありがとうございます。
各国のカンパニーによる違いということでは、こんな話を聞いたことがあります。第二幕「マスカレード」の場面で階段の脇にいる人々は、実はマネキンです。日本のマネキンは動かないのですが、ロンドンだかブロードウェイのマネキンは機械仕掛けで動くというのですね。真偽のほどは分かりません。僕が両都市で観た時点では、そんな話は知らなかったので全く気がつきませんでした。ちなみにラスベガス・バージョンでは「マスカレード」のマネキンは静止したままでした。
投稿: 雅哉 | 2009年1月16日 (金) 23時13分
ブロードウェイではチケットが取れなかったので真偽のほどはわかりません。
少なくともウエストエンドではマネキンは動いていないはずです。
でもあのマネキンはよく出来てますね。
一見したら、実際のキャストの人数よりずいぶん多く見えますから。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月17日 (土) 03時28分
まあマネキンが動くというのも一種の都市伝説みたいなものかも知れませんね。
「あたかも本物の人間のように、動いて見える!」そう錯覚させるところに、舞台というものの底知れぬ魔力(magic)があるのでしょう。
投稿: 雅哉 | 2009年1月17日 (土) 07時41分