三谷幸喜/グッドナイト スリイプタイト
三谷幸喜さんの新作「グッドナイト スリイプタイト」を観るため、2008年11月に西梅田にオープンしたばかりのサンケイホールブリーゼに足を運んだ。
戸田恵子さんと中井貴一さんの二人芝居である。
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ホール全体のイメージは白に統一されていて中々ハイセンスな空間であった。
Good Night
Sleep Thight
三谷さんが朝日新聞に連載しているエッセイに以前、「日本語の《ぐっすり》という言葉は、Good Sleepから来ているんじゃないか」という叔父さんの説が紹介されていた。
まあ確かに《ぐっすり眠る》という表現は江戸時代にはなかった筈で、英語が語源である可能性はあり得る。NHK大河ドラマ「篤姫」に出て来た様にSewing Machineが《ミシン》になったようなものか(天璋院篤姫は日本で初めてにミシンを使った女性だそうだ)。
そして本公演のタイトルはジョージ・クルーニー監督の映画"Good Night, and Good Luck ."も意識しているに違いない。
さて、開演前に恒例の三谷さんによるアナウンスが流れる。叔父さんの話もあった。そういえば、ミュージカル「オケピ!」の時は三谷さんの歌も披露されて愉しかったなぁ。また、「彦馬がゆく」(2002)の時だったかどうか記憶が定かでないが、「携帯電話の電源はお切り下さい。またポケットベルやPHSをお持ちの方、そろそろ携帯電話に買い換えた方がいいですよ」というアナウンスには爆笑した。実はこのギャク、ある上方の若手落語家がそっくりそのままパクって、未だに高座のマクラで使っている。嗚呼、才能がない人間の哀しさよ……。
閑話休題。戸田恵子さんについて三谷さんは「彼女とは今まで、一人芝居や三人芝居、四人芝居、十三人芝居などをやってきました」と仰っていた。ちなみに一人芝居とは「なにわバタフライ」のこと。三人芝居が「You Are The Top 今宵の君」で、四人が「温水夫妻(ぬくみずふさい)」、十三人は「オケピ!」と「恐れを知らぬ川上音二郎一座」のことである(「川上音二郎」以外は劇場で観ていることが、一寸だけ自慢だ)。
今回は約30年よりそった、ある夫婦の物語である。舞台にはふたつのベッドが置かれただけのシンプルな空間。舞台転換はなく、三谷さんが得意とするワン・シチュエーションで完結する。舞台横に電光掲示板。最初そこに示された数字は10240。それが暗転と共に急速に減り、また少し増えたりする。そしてそれは、ふたりが出会ってからの日数を示していることが次第に分かってくる。数字はこの作品のモティーフであり、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」のケッヘル番号=492も重要なガジェット(小道具、仕掛け)として用いられる。
時が移ろうにつれ、ベッドの距離も変化する。それがふたりの関係をも示しているという演出が面白い。ただしこれ、不朽の名作映画「市民ケーン」(オーソン・ウエルズ監督)の影響を受けてるんじゃないかな?
劇団・東京サンシャインボーイズ(祝・期間限定復活!)時代、三谷さんはチーム・プレイの素晴らしさを描いてきた(「ラヂオの時間」「彦馬がゆく」「12人の優しい日本人」「ショウ・マスト・ゴー・オン」など)。そしてそれはテレビドラマ「王様のレストラン」(1995)や「合言葉は勇気」(2000)などに継承された。しかし彼の作家性が変化してきたのは大河ドラマ「新選組!」('04)を執筆した頃からだろうか?「コンフィダント・絆」ではコミュニティ(共同体)の崩壊を描き、そして本作では夫婦の別れを描いた。「グッドナイト スリプタイト」は三谷さんが年輪を重ねると共に、劇作家としての円熟味をより一層増したことが感じられる素晴らしい作品だった。
また、萩野清子さん作曲の音楽がとても良かった。映画「ザ・マジックアワー」の彼女の曲は今ひとつだったけれど。
「コンフィダント・絆」の時は萩野さんのピアノ演奏だけだったが、今回は管鍵”楽団!?ということで、彼女のピアノに加えフルート、オーボエ、クラリネットの生演奏付きという贅沢。フルート奏者はピッコロやリコーダーへの持ち替えあり、クラリネット奏者はB♭管やバス・クラの兼任。また各自、打楽器など”鳴り物”も臨機応変に担当した。ただ単に演奏するだけではなく、電話の擬音をしたりふたりの芝居に参加したりと大活躍。すこぶる面白かった。
大阪では20日まで上演中。当日券はあるようだ(劇場に要確認)。なお、東京公演をWOWOWが収録していたそうなので、いずれ放送されるだろう。でも、やっぱり芝居は生が一番だよね。そして勿論、音楽も。
さて、今年中に製作発表されるであろう「オケピ!」に続く三谷幸喜作の舞台ミュージカル。今から待ち遠しくて仕方ない!!
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