コルンゴルト&ヤナーチェク 《モラヴィアから世界へ》
ザ・フェニックスホールのレクチャーコンサートに足を運んだ。
取り上げられたのはコルンゴルト(1897-1957)とヤナーチェク(1854-1928)という一般には馴染みが薄い作曲家なので、会場はガラガラなのでは?と危惧していたのだが、何とほぼ満席で驚いた。もし当日いらっしゃった方がこれをお読みになっているなら、コメントを頂けるととても嬉しい。
関連記事:(未読の方は一度ざっと目をお通し下さい)
音大の学生さんも来ていたようで、ロビーで先生に自分の卒論らしき原稿を読んでもらいながら、「アイスラーの映画に対する姿勢は…」などと議論を交わしていた。ちなみにハンス・アイスラーはドイツ生まれの20世紀の作曲家。十二音技法を確立したシェーンベルクの弟子だったが、師匠を破門しドイツ共産党に入党。後にコルンゴルト同様、ナチスの台頭から逃れて米国に亡命して映画音楽に携わった(皮肉なことにユダヤ人だったシェーンベルクもロサンゼルスに移住することになる)。でも結局、アイスラーは戦後アメリカで吹き荒れた赤狩りの嵐に飲み込まれ、非米活動調査委員会から喚問を受けた後1948年に国外追放処分となる。イデオロギーに翻弄された人生と言えるだろう。
演奏の前に大阪大学教授・三谷研爾さんによる講演もあった。
コルンゴルトとヤナーチェクはともにチェコ南東部のモラヴィア地方に生まれた。ここはスメタナやドヴォルザークを生んだボヘミア(チェコ北西部)とは文化圏が異なり、むしろウィーンに近い(モラヴィアの中心都市ブルノからウィーンまで鉄道でたった1時間半の距離。大阪-和歌山 間くらい)など、興味深く話を伺った。
ヤナーチェクは生涯、モラヴィア地方に留まったが、コルンゴルドは4歳の時、父親に連れられてウィーンへ移住した。そしてその経路は、同じユダヤ人であったマーラーやフロイトがたどった道に似ているという。
三谷さんはエロール・フィリン主演の映画「シー・ホーク」(1940)冒頭、コルンゴルトが作曲したメイン・テーマ(試聴はこちら)が流れる場面を上映された。会場がざわめく。
「音楽が『スター・ウォーズ』そっくりで驚かれた方もいらっしゃるでしょう。でもあちらがコルンゴルトを真似たのです」と三谷さん。
これは正に僕が高校生の時、「シー・ホーク」をスタンリー・ブラック/ロンドン・フェスティバル管弦楽団の演奏するLPレコードで初めて聴いた時に感じたことそのままであり、溜飲が下がる想いがした。
今回演奏された曲目は以下の通り。
- コルンゴルト/弦楽四重奏 第2番より第3楽章、第2楽章
- コルンゴルト/弦楽四重奏 第3番より第3楽章
- ヤナーチェク/弦楽四重奏 第1番「クロイツェル・ソナタ」
三谷さんからコルンゴルトの第3番には映画「シー・ウルフ」(1941)で使用されたテーマからの引用があるとの解説もあった。浪漫派の芳香漂う甘美な名曲である。
またヤナーチェクについては、全く性質の異なる楽想を現代絵画におけるコラージュのように組み合わせて構成しているというお話があって、曲を理解する上でとても参考になった。
古典四重奏団は音色が美しく、また大変熱のこもった演奏で聴き応えがあった。全曲暗譜で弾ききったのも迫力があった。
恐らくコルンゴルトの四重奏が演奏されるのは大阪初であろう。在阪オケも彼の交響曲やヴァイオリン協奏曲を今後是非、取り上げて欲しい。
ゲルギエフ/ウィーン・フィルはこの度ニコライ・ズナイダーを独奏に迎え、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲をスタジオ・レコーディングした。この叙情的で、馥郁たる香りにあふれた逸品には彼の携わったハリウッド映画の音楽が多数引用されている(ヒラリー・ハーンで聴いてみましょう→こちら)。映画を見下し、無視し続けてきたウィーンでコルンゴルトが演奏される……遂に彼の時代が到来したのである!
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