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2009年1月

2009年1月31日 (土)

エグザイル/絆

評価:D-

香港のジョニー・トー監督作品、原題は「放・逐」。「キネマ旬報」2008年外国映画ベスト・テン第8位に選出された。映画公式サイトはこちら

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この違和感は何なのだろう?

かつて宮崎駿監督「ルパン三世/カリオストロの城」の中で石川五ェ門はこう呟いた。

「また、つまらぬものを斬ってしまった。」

そう、あの感覚に近い。

また、つまらぬものを観てしまった。

北野武監督の処女作「その男、凶暴につき」(「キネマ旬報」ベスト・テン第8位)を観た時の印象にも似ている。

何で世間は、こんなくだらない映画を高く評価するんだろう?

北野武に映画監督としての才能がなかったことは、近作(「TAKESHI'S」「監督・ばんざい!」「アキレスと亀」)の体たらくを見れば一目瞭然だろう。未だに彼に出資するスポンサーがいるのが不思議なくらいである。

閑話休題。「エグザイル/絆」の話に戻ろう。

確かに銃撃戦は格好いい。スローモーションを駆使した《死の舞踏》、《殺しの美学》がそこにある。しかし、これら魅力的シーンは所詮サム・ペキンパー監督「ワイルドバンチ」(1969)の猿真似であって、そこから一歩も出てはいない。「ワイルドバンチ」を上手く消化し、「男たちの挽歌」で独自の美学に昇華したジョン・ウーとは月とスッポンである。

そして銃撃戦までに至る過程が駄目。ぐだぐだである。撮影は台本なしで進められたそうで、スタッフもキャストも物語の先行きが全く分からないまま現場に臨んでいたらしい。だから同じ手法をとるウォン・カーウァイの映画(「恋する惑星」「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」)同様、物語にしっかりした骨格がなく、起承転結が曖昧なままダラダラと進んでゆく。

香港ノワールには「インファナル・アフェア」(2002)という金字塔がある。「ディパーテッド」というタイトルでハリウッド・リメイクされ、アカデミー作品賞・監督賞などを受賞した。シナリオがしっかりしていたからこそ、作品に普遍性があったのである。「エグザイル/絆」にはそれがない。

悪役として登場する裏社会のボス、隙ありすぎ。どうして子分のアンソニー・ウォンだけ防弾チョッキ着ていて、ボスは着てないの??

途中で金塊強奪のエピソードが出てくるが、ありゃ多分ロベール・アンリコ監督の大傑作「冒険者たち」(1967)へのオマージュだろうな。でも作品の格が違うんだよ。

そもそもフィルム・ノワールは登場する男たちが非情であることが必須条件だ。しかし「エグザイル/絆」の男たちは情に流されすぎで実に情けない。みっともない。犯罪映画で人情噺なんかするな!

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2009年1月30日 (金)

ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

評価:B

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映画公式サイトはこちら

メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督は天才である。米アカデミー賞で外国語映画賞を含む6部門にノミネートされ、撮影賞・美術賞・メイクアップ賞の3部門を受賞した「パンズ・ラビリンス」(2006)は真の傑作であった。

「ヘルボーイ」はアメコミ(アメリカン・コミックス)の映画化である。だから内容的に深いものがあるわけではないし、物語自体は大したことはない。しかし、デル・トロの透徹した美意識が映画の隅々にまで行渡り、ビジュアル・イメージの洪水、その豊穣さは他の追随を許さない。

王冠を三つに分けるとかエルフ(妖精)族やゴブリンが出てきたりと、そのプロットは「ロード・オブ・ザ・リング」を彷彿とさせる。ちなみにデル・トロはその前章である「ホビットの冒険」(二部作)のメガホンを取る事が既に決定している。

宮崎アニメからの影響も見逃せない。森の神《エレメンタル》は「もののけ姫」のシシ神(が巨大化したダイダラボッチ)、《ジャイアント・ドアウェイ》は「風の谷のナウシカ」の巨神兵を彷彿とさせる。

映画「パンズ・ラビリンス」に主演した少女、イバナ・バケロは撮影前にデル・トロから「風の谷のナウシカ」のコミック本を貰ったと証言している。またデル・トロはあるインタビューに答え、こう語っている。

「日本の配給会社に『宮崎さんに会いたい』と頼んだけれど、宮崎さんは忙しくて時間がつくれないらしい。残念だけど、仕方ないよね」

「シリーズ第1作の『ヘルボーイ』の橋が落ちるシーンは、東映アニメ『長靴をはいた猫』(1969、宮崎駿がアニメーターとして参加)に出てくる魔王の城のシーンをオマージュしているんだ」

日本の漫画、アニメをこよなく愛する彼は、手塚治虫も大好きだと告白している。手塚漫画とデル・トロ作品との最大の共通点は《異形のもの》に対する愛だろう。「ホビットの冒険」(2012年公開予定)を仕上げたら、次にデル・トロは「フランケンシュタイン」や「ジキル&ハイド」のリメイクに取り組むと宣言している。これから彼が生み出してゆく映画たちがとても愉しみだ。

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2009年1月29日 (木)

メリル・ストリープを讃えて

1月25日に全米映画俳優組合(Screen Actors Guild , SAG)賞の発表があった。主演女優賞に輝いたのは「ダウト〜あるカトリック学校で〜」のメリル・ストリープ。

彼女はSAGのトロフィーを受け取り、こうスピーチした。

「もはや私にとって受賞は何の意味も持たないけれど、今日は本当に幸せ」

僕は痺れた。こんなこと言えるのは世界でただ一人、彼女だけだろう。

メリルは今までアカデミー賞に15回ノミネートされている。これは、前人未踏の大記録である(2位はジャック・ニコルソンとキャサリン・ヘップバーンの12回)。そして「クレイマー・クレイマー」で助演女優賞、「ソフィーの選択」では主演女優賞を受賞している。

今年のアカデミー賞・主演女優賞は「愛を読むひと」(The Reader、原作小説は「朗読者」)のケイト・ウィンスレットとメリル・ストリープの一騎打ちだろうと言われている。ちなみにケイトは同役でSAGの助演女優賞を受賞している。

SAGメンバーの多くはアカデミー賞の投票権を持つ。そしてアカデミー賞の投票用紙が配送されるのが1月28日、投票締め切りが2月17日である(授賞式は2月22日)。

つまり上記メリルの発言は次のように仄めかしているようにも聞こえるのだ。

「もう私にオスカーは要らないから、若いケイトに投票してあげて」

確かに今更彼女が受賞してもギャラが上がるわけでもないだろうし、そのそも既に世界中の誰もが彼女が大女優だということを知っている。それにしてもメリル、格好良すぎ!

これで本当にケイト・ウィンスレットが受賞出来たならば、彼女はきっと壇上からメリルに感謝の言葉を述べるだろう。それもまた、オスカー・ナイトの愉しみのひとつにしておこう。

そして今週末、いよいよメリルが主演したあのミュージカル映画が日本で公開される。

ところで余談だが、なんでわざわざ「愛を読むひと」と邦題を変えたのだろう。「朗読者」の何処がいけないの?そもそも「愛を読む」ってどういう意味??

恐らくタイトルに"愛"を入れれば、若い女性客が飛びつくと見込んだ宣伝戦略なのだろう。何と愚かな……

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2009年1月28日 (水)

涼風真世、武田真治 IN 《東宝エリザベート》

梅田芸術劇場にて東宝「エリザベート」、今年2回目の観劇である。

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改めて観て、小池修一郎という人は本当に素晴らしい演出家だなぁと認識を新たにした。引っ越し公演で観たウィーン版(演出は楽劇「ニーベルングの指輪」等で名高いハリー・クプファー)より断然、僕は日本版の方が好きだ。

エリザベートが棺桶から登場し、棺桶に戻るという演出は小池さんが大好きなドラキュラ伝説を意識したものと想われる。トート(死神)=ドラキュラという図式。

また、(宝塚版ではカットされた)エーゲ海に臨むギリシャのコルフ島にエリザベートが往く場面では、背景画がなんとベックリンが描いた《死の島》(1880)であることに今回初めて気が付いた。

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帰宅して調べてみると、実際この絵はコルフ島をモデルにしていると言われているそうである(→こちらのサイトが詳しい)。

ちなみに《死の島》は福永武彦の同名小説のモティーフとなり、ラフマニノフの交響詩にもインスピレーションを与えている。

そしてマダム・ヴォルフの娼館で登場するマデレーネはジャポネスクな衣装を身にまとっているが、これはクロード・モネの《ラ・ジャポネーズ》(1875)を参考にデザインしているのではないだろうか?髪型も良く似ている。

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マダム・ヴォルフ自身、まるでロートレックの絵の中から飛び出してきたようだ。そしてこの場面の雰囲気・振り付けは明らかにミュージカル「キャバレー」(映画版の振り付けはボブ・フォッシー、舞台リバイバル版は映画「シカゴ」のロブ・マーシャル)を意識している。ナチスが絡んでくるという点でも、両者には共通点がある。

さて、出演者の感想に移ろう。まずはエリザベート役の涼風真世さん。

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涼風さんと、ダブルキャストの朝海ひかるさんとの年齢差は12歳。だから第1幕の少女時代(エリザベートがオーストリア皇后になったのは16歳)を彼女が演じるには些か苦しいものがあった。ここは若い朝海さんの方が似合っている。しかしエリザベートが年を重ね、涼風さんの実年齢に近付く第2幕になると、俄然良くなっていく。元々彼女は美しいソプラノの持ち主なので、歌も安心して聴ける。特に終盤、フランツ・ヨーゼフ(石川 禅)とのデュエット「夜のボート」が絶品!深い悲しみを湛え、心に染み入る名唱だった。

今まで僕は生の舞台で8人、ビデオ・DVDを含めると11人のエリザベートを観てきた。花總まり(宝塚雪組&宙組)、白城あやか(星組)、月影瞳(ガラ・コンサート、1997)、大鳥れい(花組)、遠野あすか(花組・新人公演)、瀬奈じゅん(月組)、白羽ゆり(雪組)、一路真輝(東宝)、マヤ・ハクフォート(ウィーン版・来日公演)、朝海ひかる(東宝)、そして涼風真世である。歌唱力については中でも涼風さんはトップ・クラスだし、こと「夜のボート」に関する限り、NO.1であると断言しよう(総合的に判断して僕が一番好きなのは宝塚初代エリザベートの花ちゃんなのだけれど…)。

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実は武田真治さんのトートには全く期待していなかった。ミュージカル「スウィーニー・トッド」で彼の舞台を既に観ていて、余り歌が上手くないことを知っていたから。ところが意外にも(失礼!)良かったので驚いた。歌い方はシャウトするタイプだが、結構高い声が出る。少なくとも宝塚版の麻路さきさん、彩輝直さん、そして東宝版の内野聖陽さんより断然マシ。考えてみればウィーン版・初代トートのウーヴェ・クレーガーは「ジーザス・クライスト=スーパースター」や「ロッキー・ホラー・ショー」を当たり役とするロック系スターだったのだし、武田さんの歌唱法はこの役に合っているのだろう。

兎に角、武田トートは耽美である。化粧が似合うし、ポーズのひとつひとつが美しい。ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」に登場する美少年タッジオ(ビヨルン・アンデルセン)をご存じなら、あのイメージに近い。胸元を大きく開いているのもセクシーだ。世紀末デカダンスを匂わせる芳醇な香り。そして彼の指の動きのしなやかさ!僕はミュージカル「ミス・サイゴン」でエンジニアを演じたジョナサン・プライス市村正親さんの手先を想い出した。まあ、武田さんより涼風さんの方が背が高く見えるのが、唯一の玉に瑕だろうか?

という訳で、今回のダブル・キャストに関して涼風エリザと朝海エリザは一長一短で互角の勝負。トートは武田真治を断固推したい。これが僕のファイナル・アンサーである。

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2009年1月27日 (火)

コルンゴルト&ヤナーチェク 《モラヴィアから世界へ》

ザ・フェニックスホールのレクチャーコンサートに足を運んだ。

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取り上げられたのはコルンゴルト(1897-1957)とヤナーチェク(1854-1928)という一般には馴染みが薄い作曲家なので、会場はガラガラなのでは?と危惧していたのだが、何とほぼ満席で驚いた。もし当日いらっしゃった方がこれをお読みになっているなら、コメントを頂けるととても嬉しい。

 関連記事:(未読の方は一度ざっと目をお通し下さい)

音大の学生さんも来ていたようで、ロビーで先生に自分の卒論らしき原稿を読んでもらいながら、「アイスラーの映画に対する姿勢は…」などと議論を交わしていた。ちなみにハンス・アイスラーはドイツ生まれの20世紀の作曲家。十二音技法を確立したシェーンベルクの弟子だったが、師匠を破門しドイツ共産党に入党。後にコルンゴルト同様、ナチスの台頭から逃れて米国に亡命して映画音楽に携わった(皮肉なことにユダヤ人だったシェーンベルクもロサンゼルスに移住することになる)。でも結局、アイスラーは戦後アメリカで吹き荒れた赤狩りの嵐に飲み込まれ、非米活動調査委員会から喚問を受けた後1948年に国外追放処分となる。イデオロギーに翻弄された人生と言えるだろう。

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演奏の前に大阪大学教授・三谷研爾さんによる講演もあった。

コルンゴルトとヤナーチェクはともにチェコ南東部のモラヴィア地方に生まれた。ここはスメタナやドヴォルザークを生んだボヘミア(チェコ北西部)とは文化圏が異なり、むしろウィーンに近い(モラヴィアの中心都市ブルノからウィーンまで鉄道でたった1時間半の距離。大阪-和歌山 間くらい)など、興味深く話を伺った。

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ヤナーチェクは生涯、モラヴィア地方に留まったが、コルンゴルドは4歳の時、父親に連れられてウィーンへ移住した。そしてその経路は、同じユダヤ人であったマーラーやフロイトがたどった道に似ているという。

三谷さんはエロール・フィリン主演の映画「シー・ホーク」(1940)冒頭、コルンゴルトが作曲したメイン・テーマ(試聴はこちら)が流れる場面を上映された。会場がざわめく。

「音楽が『スター・ウォーズ』そっくりで驚かれた方もいらっしゃるでしょう。でもあちらがコルンゴルトを真似たのです」と三谷さん。

これは正に僕が高校生の時、「シー・ホーク」をスタンリー・ブラック/ロンドン・フェスティバル管弦楽団の演奏するLPレコードで初めて聴いた時に感じたことそのままであり、溜飲が下がる想いがした。

今回演奏された曲目は以下の通り。

  • コルンゴルト/弦楽四重奏 第2番より第3楽章、第2楽章
  • コルンゴルト/弦楽四重奏 第3番より第3楽章
  • ヤナーチェク/弦楽四重奏 第1番「クロイツェル・ソナタ」

三谷さんからコルンゴルトの第3番には映画「シー・ウルフ」(1941)で使用されたテーマからの引用があるとの解説もあった。浪漫派の芳香漂う甘美な名曲である。

またヤナーチェクについては、全く性質の異なる楽想を現代絵画におけるコラージュのように組み合わせて構成しているというお話があって、曲を理解する上でとても参考になった。

古典四重奏団は音色が美しく、また大変熱のこもった演奏で聴き応えがあった。全曲暗譜で弾ききったのも迫力があった。

恐らくコルンゴルトの四重奏が演奏されるのは大阪初であろう。在阪オケも彼の交響曲やヴァイオリン協奏曲を今後是非、取り上げて欲しい。

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ゲルギエフ/ウィーン・フィルはこの度ニコライ・ズナイダーを独奏に迎え、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲をスタジオ・レコーディングした。この叙情的で、馥郁たる香りにあふれた逸品には彼の携わったハリウッド映画の音楽が多数引用されている(ヒラリー・ハーンで聴いてみましょう→こちら)。映画を見下し、無視し続けてきたウィーンでコルンゴルトが演奏される……遂に彼の時代が到来したのである!

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2009年1月25日 (日)

市村正親×鹿賀丈史 IN 《ラ・カージュ・オ・フォール》

「ラ・カージュ・オ・フォール」は元々1973年にフランスで上演された舞台劇(ストレート・プレイ)である。でも中身は"ストレート"ではなく"ゲイ"カップルの話。

1978年にフランス・イタリア合作として映画化され「Mr.レディMr.マダム」という、どぎつい邦題で上映された。アメリカで公開された'79年のアカデミー賞では監督賞・脚色賞・衣装デザイン賞にノミネートされている(この年、作品・監督・脚色賞を受賞したのは「クレーマー・クレーマー」)。エンニオ・モリコーネの音楽が良かった。

さらに'96年に「バードケージ」 (The Birdcage)というタイトルでハリウッド・リメイクもされた。監督は「卒業」「エンジェルズ・イン・アメリカ」「クローサー」のマイク・ニコルズ。主演はロビン・ウイリアムズとネイサン・レイン。ちなみにネイサン・レインの芸名はミュージカル「ガイズ&ドールズ」の主人公に由来し、彼がトニー賞を受賞したミュージカル「プロデューサーズ」出演中にブロードウェイでこれを観劇したことが僕のちょっとした自慢だ。

閑話休題。「ラ・カージュ・オ・フォール」は1983年にブロードウェイでミュージカル化された。トニー賞では最優秀ミュージカル作品賞・演出賞・台本賞・楽曲賞・衣装デザイン賞・主演男優賞の6部門を受賞。作詞・作曲はジェリー・ハーマン。彼は「ハロー・ドーリー!」の作詞・作曲でも知られる。そう、ピクサー・アニメーション「WALL-E/ウォーリー」冒頭で歌われる曲だ。

台本を執筆したのはハーヴェイ・ファイアスタイン。ファイアスタインは役者としても有名で、同性愛を扱った自伝的戯曲「トーチング・トリロジー」でトニー賞の台本賞と主演男優賞を受賞(映画版にも出演)。さらに女装してミュージカル「ヘアスプレー」でも主演男優賞を受賞している(映画では同役をジョン・トラボルタが演じたが、これは明らかなミス・キャストだった)。

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大阪のシアター・ドラマシティで木曜夜に観劇。満席だった。日本では9年ぶりの再演。市村ザザのファイナル・ステージである。前回まで市村正親さんの相手役だったのは岡田真澄さん。真澄さんが亡くなり、今回は劇団四季時代からの朋友、鹿賀丈史さん登場である。

僕がこのミュージカルを観るのは今回3回目。市村ザザが余りにもはまり役で、ミュージカル「蜘蛛女のキス」でもモリーナという同性愛者を演じておられたので、僕は市村さんご自身ゲイなのかなと長い間誤解していた(「蜘蛛女のキス」の演出は「オペラ座の怪人」のハロルド・プリンス。本当に素晴らしいプロダクションだった)。

前回の「ラ・カージュ」記者会見では市村さんが「ゲイは身を助ける」なんてギャグを飛ばされるし、すっかり騙されていた。後に市村さんが劇団四季時代に同僚と結婚されていたことを知り、さらに篠原涼子との再婚・出産の報道を聴くに及んで自分の勘違いに気付かされた次第である。芸の力、恐るべし。

鹿賀丈史さんは「レ・ミゼラブル」や「ジキル&ハイド」等で観てきたが、ミュージカル・スターとしては余り好きではなかった。あの大仰な口調が鼻につくからである。しかし今回の「ラ・カージュ」は中々良かった。わざとらしい演技が役に合っていたのである。普段から仲良しなだけに、市村さんとのあ・うんの呼吸も見事だった。

鹿賀さんと市村さんが劇団四季退団後、初共演する筈だったのは三谷幸喜作「You Are The Top ~今宵の君~」である。僕はこれを東京・世田谷パブリックシアターまで観に往った。ところが!公演直前になって鹿賀さんが急性虫垂炎で入院、降板されたのである。舞台は公演中止の危機に立たされた。しかし元「夢の遊眠社」の浅野和之さんが急遽代役に決まり、数日遅れて無事初日を迎えた。THE SHOW MUST GO ON とは正にこのこと。浅野さんはその後も三谷さんの書く舞台・テレビドラマ・映画と立て続けに出演され、すっかり今では三谷組の一員になられた。そして結局、僕が鹿賀・市村の共演を初めて観ることが出来たのはミュージカル「ペテン師と詐欺師」であった。

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「ラ・カージュ」の話に戻ろう。ジャクリーンを演じた香寿たつきさんが好演。

鹿賀さん演じるジョルジュの息子の恋人、アンヌを演じた島谷ひとみさんはシンガーなので、くるくる軽やかに回転しながら登場(バレエ用語で言うところの"シェネ")する筈の場面は全くいただけなかった。足が曲がっていて軸がブレている。これはやはりダンサーの役だろう。衣装も似合っていない。以前観た、森奈みはるさんや風花 舞さん(いずれも元・宝塚娘役トップ)演じるアンナの方が断然良かった。特に風花さんの踊りの美しかったこと!

アンヌはミス・キャストだが、そんなことは些事に過ぎない。音楽がパーフェクトだし、群舞も愉しい。この作品には舞台ミュージカルでしか決して味わうことの出来ない高揚感がある。観客総立ちのカーテンコールで拍手しながら、僕はTheatergoer(芝居好き)であることの至福を噛みしめた。

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2009年1月24日 (土)

繁昌亭昼席/桂 米團治 襲名披露興行

天満天神繁昌亭の昼席を聴く。今回は(小米朝改め)桂 米團治 襲名披露で、中入りを挟み《口上》もあった。

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まずはトリの米團治さんの話をしよう。高座に上がり、マクラなしでいきなり「今日は旅のお噂をひとつ聴いていただきます」と始まった。「えっ、トリで旅ネタ?しかも襲名披露で??」と狐につままれたような心地がした。すると米團治さんは「旅と言ってもあの世の旅です…」と続けた。僕は「ま、まさか地獄八景!?」と吃驚した。

地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」は上方落語屈指の大ネタ。桂 米朝さんが再構成し復活させた噺であり、現在これを演じる噺家は全て米朝さんから直伝されたか、その弟子から受け継いでいる(そういう意味では、「はてなの茶碗」も同様)。通して演じると一時間を優に越え、しかも随所に時事ネタを交えたくすぐりが必要であり、演者の力量が問われる。朝ドラ「ちりとてちん」で主人公の師匠である草若(渡瀬恒彦)が死の直前、高座にかけたのもこれである。

小米朝時代に彼の高座を4回ほど聴いているが、面白いとか才能があると感じたことは一度もない。

ところが!である。今回聴いた、「地獄八景亡者戯」は驚くほど素晴らしい高座で、僕は不覚にも感動してしまった(いや、別に「不覚にも」なんて表現を使わなくても良いのだが…)。

麻生総理など時事ネタの入れ方も上手かったし、黄泉の国にある繁昌亭(向こうでは"半焼亭"と書くらしい)の前には枝雀吉朝など先立った米朝の弟子たちの名前が寄席文字で書かれており、その中に「桂 米朝 - 間もなく来演!」という看板も30年前から掲げられ既に黄ばんでいる。高座では枝雀さんが「師匠が中々来なくて、スビバセンね」とやっているというギャグも米朝さんの息子だからできる秀逸なものだった。考えてみれば彼に入門するよう勧めたのも、小米朝と命名したのも枝雀さんだったのだ。

そして噺の中に出てくる若旦那。この世ですることがなくなり、あの世の旅でもしてみようかとフグの肝に当たり、幇間(太鼓持ち)や芸妓を引き連れ賑やかにやって来るその雰囲気がなんと米團治さんに似合っていることか!もうまるで、落語の中の若旦那がそのまま抜け出して来たような華やかさがそこにはあった。

米朝から受け継いだ《遺伝子の覚醒》。それを目の当たりにしたような強烈な印象を受けた。

この日の演目。

  • 桂 吉の丞/動物園
  •  歌之助/桃太郎
  • 桂    米平/西遊記(立体紙芝居)
  • 桂 春之輔/お玉牛
  • 桂    文珍/ヘイ!マスター
  • 林家いっ平/みそ豆
  • 桂    都丸/ろくろ首
  • 桂  米團治/地獄八景亡者戯

文珍さんの噺は何と英語落語!ロサンゼルス版「時うどん」ともいうべき創作もので、すこぶる面白かった。東京からのゲスト・いっ平さんの「みそ豆」は彼が6,7歳の頃、父・三平さんから唯一教えてもらった小話とのこと。

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2009年1月23日 (金)

祝!「おくりびと」アカデミー外国語映画賞ノミネート

第81回アカデミー賞ノミネートの発表があり日本映画「おくりびと」が外国語映画賞部門に選出された。

日本映画がノミネートされるのは2003年の「たそがれ清兵衛」以来。これが15回目となる(一部新聞報道では12作品目と書かれているが、それは「外国語映画賞」という名称に変わった1956年以降から計算しているのであり、僕は「名誉賞」と呼ばれていた1950年から数えている)。過去の受賞は「羅生門」(1951)「地獄門」(1954)「宮本武蔵」(1955)の3回。黒沢 明監督の「デルス・ウザーラ」(1975)も受賞しているが、これはソビエト連邦からの出品である。

 関連記事:(「Shall we ダンス?」は何故、選ばれなかったのか?)

お隣の韓国は有史以来、アカデミー外国語映画賞に一度もノミネートされたことがないという記録が続いている。台湾は「ウエディング・バンケット」(1993)と「恋人たちの食卓」(1994)でノミネートされ、「グリーン・デスティニー」(2000)で見事受賞した(全て「ラスト、コーション」のアン・リー監督)。香港は「紅夢」(1991)と「さらば、我が愛/覇王別姫」(1993)、中国は「菊豆(ちゅいとう)」(1990)と「HERO/英雄」(2002)でノミネートされている。ちなみに「紅夢」「菊豆」「HERO」は北京オリンピックを演出したチャン・イーモウ監督作品である。

閑話休題。今回のノミネート発表でとても残念だったのは「ダークナイト」が作品賞および監督賞に食い込めなかったこと。まあ、ジョーカーを演じた故ヒース・レジャーの受賞は鉄板なので、それで良いのだが。それからゴールデン・グローブ賞で主演&助演のダブル受賞したケイト・ウィンスレットがアカデミー賞では主演しかノミネートされなかったので、どうやら助演女優賞の行方はペネロペ・クルス(「それでも恋するバルセロナ」)で決まりのようだ。行け行け、ペネロペ!オスカー獲ってトム・クルーズを見返してやれ!

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2009年1月22日 (木)

桂三枝/はなしの世界 《大阪レジスタンス》

天満天神繁昌亭で桂三枝さんの創作落語を聴く。

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入場すると蓄音機から音楽が流れ、レトロな雰囲気が漂う。スクリーンで昔の大阪の映像を眺めながらの対談もあり、大正時代末期から昭和初期にかけ大阪が"大大阪"(だいおおさか)と呼ばれていた時代に、観客はタイムスリップしてゆくという仕掛け。

  • 米揚げ笊(いかき)/三金
  • 対談「大阪はええ町でっせ」/古川武志(大阪市史料調査会)×枝三郎
  • 大阪レジスタンス/三枝

大阪レジスタンス」は五部構成。

  一、「言語統一令」発令 (この後、中入り)
  二、収容所
  三、アジト
  四、処刑
  五、独立記念日

中入りを挟み約一時間半。いやはや、聴き応えのある大作だった。上方落語、大ネタ中の大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」に匹敵すると言っても過言ではないだろう。

そして、三枝さんの大阪と大阪弁に対する愛情が、言葉の行間から熱波のように強烈にこちらに伝わってきた。最後、大阪が日本国から独立するというシュールな展開はまるで井上ひさしの小説「吉里吉里人」(きりきりじん)みたいだった。近未来を舞台として、その空間的・時間的スケールの大きさは映画的だとすら感じられた。

考えてみれば三枝さんの創作落語「ゴルフ夜明け前」は既に映画化されている。最近でも立川志の輔の落語「歓喜の歌」が映画になっているという例もあり、この「大阪レジスタンス」についても可能性が十分あるのではないかと想われた。

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2009年1月21日 (水)

淀工 IN 大阪城ホール《番外編》

創部50周年を記念して大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部が大阪城ホールで開催した今年のグリーンコンサートには沢山の祝電、花束が届いた。全国各地の学校(小・中・高校・大学)からのものが多かったが、著名人からのものも少なからずあった。

先ずはあやや。昨年6月29日にABCラジオ「ハロプロやねん」の公開録音があり、ゲストは松浦亜弥とメロン記念日だった。この時、淀工吹奏楽部の生演奏で歌うというミニ・ライブがあったのだ。松浦亜弥はKiroroの「長い間」と、古内東子の「誰より好きなのに」を歌ったそうだ。

次に兵庫県立芸術文化センター・芸術監督である佐渡 裕さんとケミストリー。これは12月7日に大阪城ホールであった《サントリー1万人の第九》に関連がある。この総監督・指揮を務めらた佐渡さんはゲストとしてケミストリーを招き、彼らは淀工生の伴奏で「約束の場所」を歌った。詳細はこちら。なお現在、兵庫芸術文化センター管弦楽団・クラリネット奏者の稲本 渡さんは淀工出身であり、《サントリー1万人の第九》およびグリーンコンサートのOBバンドにも参加されている。

そして大阪フィルハーモニー交響楽団・音楽監督の大植英次さん。大植さんと淀工が組んだイベントには僕も往ったので下記をご覧下さい。

読売日本交響楽団・正指揮者である下野竜也さんからも花が届いた。下野さんと、淀工の丸谷明夫先生(丸ちゃん)との深い絆については下記に書いている。

ザ・シンフォニーホールを満席にした丸ちゃん×下野さん×大フィルのコラボ企画、是非第2弾を実現してもらいたいものだ。そして大フィルさん、その時は必ず大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲をプログラムに入れて頂戴な!

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2009年1月20日 (火)

淀工「グリーンコンサート」2009 IN 大阪城ホール

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大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部、創部50周年記念演奏会(グリーンコンサート)当日朝の様子だ。《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》出演者は、大阪城ホール前の噴水に11時に集合であった。事前に昼食は各自済ませておくようにという指示があった。

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参加証を手に列を作り、楽屋口からホール内へ。IDカードを受け取り胸に提げる。

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会場では既に丸谷明夫 先生(丸ちゃん)/淀工吹奏楽部がリハーサルを行っていた。三年生全員が並んで歌う「乾杯」。丸ちゃんは「全体もっと後ろに下がれ。背が低いのは前に出してやれ」などと指示を飛ばしている。そこへ司会者、田頭先生のアナウンス。「君たちの前途に幸あらんことを祈ります…」するとそれに重ねて丸ちゃんの怒鳴り声。「お前らに幸とかそんなもん、あるかい!」これには傍で聞いていて爆笑してしまった。

淀工生には厳しい丸ちゃんだが、一般参加者に対しては腰が低く、口調もとても丁寧である。「今日は皆さん、朝早くからありがとうございます。お弁当も支給せず、気が利かない主催者ですみません」といった調子。北海道や九州からの参加もあり、中には朝4時に出発して来た人もいたそうだ。

アルメニアン・ダンス自体は全体をさらっと通す程度の簡単なリハだった。淀工現役生とOB、そして一般参加の打楽器がステージに上がり、その他はステージ両脇という配置。

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午後3時、いよいよ本番が始まる。一万人を収容する大阪城ホールは満席。立ち見も出た。ちなみに新聞報道によれば、高校吹奏楽部の単独演奏会の開催は同ホール初めてだそうだ。そりゃそうだろう。東京でいえば高校生が日本武道館でコンサートするようなものである。

まずは淀工の十八番であるマーチから。

  • ハイデックスブルク万歳!

きびきびしたテンポが小気味好い。そしてもう何度も書いてきたことだが、淀工最大の武器は美しいpp(ピアニッシモ)にある。弱音が冴え渡ってこそ、ff(フォルテシモ)が生きる。

  • カーペンターズ・フォーエバー

丸ちゃんが本家カーペンターズより沢山演奏していると豪語する曲。マーチングで使用される短縮版ではなく全長版。様々な楽器のソロが愉しい。

  • 大阪俗謡による幻想曲

丸ちゃん/淀工が本年度もコンクール全国大会金賞に輝いた曲。サマーコンサートでは全長版が披露されたが、今回はコンクール用短縮版だった。指揮は出向井先生に交代。丸ちゃんの「大阪俗謡」が祭りの熱気を余すところなく表現しているとすれば、出向井先生のそれはクールであっさり流した印象。

 関連記事:
 第56回全日本吹奏楽コンクール(2008)高校の部を聴いて

続いてOBによる演奏。指揮は再び丸ちゃん。

  • なにわのモーツァルト「キダ・タロー」メドレー

キダ・タロー作曲のCMソング曲当てクイズもあった。編曲を担当したのは小島里美さん。そう、大阪市音楽団がよく演奏するあの見事なアレンジ「ハウルの動く城」~人生のメリーゴーランドを手掛けた人だ。今回の仕事も申し分ないものであった。

ここでお約束、キダ・タローさん登場。丸ちゃんに対して「先生、もう僕に電話掛けんといて。これからはメールにして下さい。声が悪い上に怒鳴るから何言うとるんだか聞き取れん」とか「あのわけの分からん気色(きしょ)い曲の後で僕のをやってくれてありがとう」といった調子で、会場は大ウケ。

  • 幻想曲「シルクロード」(藤田玄播 編)

これは情感豊かで心に響く旋律をじっくり味わった。OBたちによる磨かれた音色が光る。

  • マーチング オン ステージ(ルパン三世~銀河鉄道999~翼をください~We Are The World)

一年生のみの演技。指揮は葦苅先生。翼をくださいは宮川彬良の目が覚めるようなアレンジで。手話が付いて会場も歌った。巨大な鳩が忽然と現れ空中に羽ばたいていくという見せ場もあって、盛り上がる。We Are The World では真っ暗になった場内を、観客全員手に持ったサイリウムの光が幻想的に揺らめいた。

  • 1000人の合同演奏「アルメニアンダンス・パート I 」

そして休憩を挟んでこれがあった訳だが、何しろ僕は出演者なので客観的感想は書けない。「アルメニアン・ダンス」という曲は昔から大好きだったが、実は今まで一度も演奏する機会がなかった。その憧れの曲を、しかも丸ちゃんの指揮で吹ける!これ以上の幸せがあるだろうか?もうただ一言、ありがとう。それに尽きる。

  • ふるさと

淀工現役&OBが伴奏し、一万人の大合唱となった。

  • 大序曲「1812年」

これはステージ背部の客席に埼玉県立伊奈学園総合高等学校と岡山学芸館高等学校吹奏楽部(いずれも全日本吹奏楽コンクール金賞校)が陣取り、バンダ(金管別働隊)を担当。更に向かい側の客席には淀工OBのバンダがずらりと並んで大阪城ホールは壮大なサラウンド音響に包まれた。

  • ザ・ヒットパレード(パラダイス銀河~ヤングマン~青い山脈~月光仮面~羞恥心~幸せなら手をたたこう~三三七拍子~ありがとう~明日があるさ~乾杯) 

青い山脈月光仮面は創部当時のヒット曲ということで選ばれたそうだ。最後は丸ちゃんが卒業する三年生に餞(はなむけ)の言葉、「ここまで頑張ってきたことに乾杯!」

アンコールは、まずこの曲。

  • ジャパニーズ・グラフティIV弾厚作作品集~(お嫁においで、サライ

ここで兵庫県立芸術文化センターの芸術監督:佐渡 裕さんが登場し、丸ちゃんに花束贈呈。佐渡さんからのお話があった。

1974年。当時中学一年生だった佐渡少年はコンクールで丸ちゃん/淀工の演奏する課題曲「高度な技術への指標」を聴き、その音色の美しさに衝撃を受けたそうである。そのことがずっと忘れられず、シエナ・ウインド・オーケストラを指揮するようになってまず最初に取り上げたのがこの曲だったとか(ちなみにDVD「ブラスの祭典ライヴ2004」には「高度な技術への指標」と、アルメニアン・ダンス全曲が収録されており、この横浜で行われたコンサートには丸ちゃんも招待され、佐渡さんからの呼びかけでステージに上がる姿を見る事が出来る)。

そこで「折角ですから……」と丸ちゃんが指揮棒を手渡す。そして佐渡さんの指揮で、

  • 星条旗よ永遠なれ

「周りの方(1000人のアルメニアン・ダンス参加者)も吹きますか?」と佐渡さんはまず丸ちゃんに確認したが、この時テンポをどこまで上げられるか考えておられたのだろう。淀工生だけだと知り、佐渡さんは曲の終盤容赦なくアクセル全開、まるで鬼のようなスピード感でぐいぐい引っ張っていった。そしてそれにしっかり食い付いていった生徒たちも圧巻だった。

余りにも凄まじい演奏だったので、曲が終わり観客たちは佐渡/淀工が事前にリハーサルしていたんじゃないかと噂したそうだ。でも僕はリハーサルの「星条旗」を聴いていたが、その時点では確かに丸ちゃんが振っていた。本当に予定外の出来事だったのである。

  • 六甲おろし

ラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三です」の道上さんが登場。来シーズンの阪神優勝を祈念して、思いっきり歌われた。一万人の「六甲おろし」も大迫力だった。

  • 行進曲「ウエリントン将軍」

この曲と共に丸ちゃん退場。こうして3時間半に及ぶ、夢のような祝宴は幕を閉じた。

さて、フェスティバルホールは現在改築中。来年のグリコン(グリーンコンサート)は何処でやるのだろう?是非再び大阪城ホールでやってもらいたいし(使用料が高いので赤字だそうだが)、《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》みたいに丸ちゃんの指揮で演奏出来る機会がもし設けられるのならば、僕は喜び勇んで駆けつけるだろう。そしてそれは他の参加者たち多くの想いでもある筈だ。

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2009年1月19日 (月)

《1000人のアルメニアンダンス》 丸谷明夫 語録

淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部 創部50周年記念演奏会「グリーンコンサート」では、一般から出演者を公募し《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》という企画が行われた。

これに参加するために日本全国から人々が会場となった大阪城ホールに集結した。北海道旭川商業高等学校、駒澤大学(東京)、土佐女子高等学校(高知)、精華女子高等学校(福岡)等の吹奏楽部員たちである。また奈良県の小学生や淀工OBたちの姿もあった。そして僕も丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の指揮で演奏出来るならと迷わず手を挙げ、彼らに加わった。結局1500人を超える応募があり、ステージの都合から人数調整をして最終的に1147人になったそうである。

練習日は4回用意され、出演者は最低1回の参加を義務づけられた。練習場所は淀工のお膝元、守口市市民会館(守館)。1回につき3時間の練習時間であった。

丸ちゃんから全般の心構えとして次のような話があった。

「ピッチ(音程)よりタッチ、スピードを大切に。つまり縦が肝心です」

「例えばマーチングで5人が並んで歩くとします。普通なら真ん中の人に横が歩調を合わせようとするでしょう?でもその必要はありません。みんなで進む。しっかり自分で歩く。その結果として全体が合えば良いのです」

「一人一人が自分が一番良いと信じる音を吹いて下さい。のびのびと、そして結果として生き生きと」

「速いフレーズはまず歌ってみて下さい。歌えなければ演奏も出来ない。歌っては吹く。それを繰り返して」

また、一昨年亡くなられた関西吹奏楽連盟理事長・松平正守先生のことに触れ、当時高校生だった丸ちゃんが松平先生が指導されていた呉服(くれは)小学校を訪ねた時の思い出話をされた。「松平先生は"こどもに音楽の機関車を"という本を書かれました。大人が強制するのではなく、それぞれの子供がそれぞれの機関車で進む。皆さんも他人に合わせようとはせず、自分にとって決定版の《アルメニアン・ダンス》を演奏して下さい」(関連リンク→丸谷理事長の弔辞

昨年12/21に松平先生の追悼演奏会が開催された。参加した淀工生の一人が、舞台横に飾られていた先生の写真が次第に笑顔に変わってきたように感じたと丸ちゃんに言ったそうである。「実際にはそんな筈はないのであって、そう感じられる生徒が素晴らしいのです。つまり、演奏する我々はメッセージを発さない。やる方は淡々と、想いを込めて吹く。そうすれば、聴く人それぞれが何かを受け取ってくれるでしょう」

さて、《アルメニアン・ダンス》はアメリカの作曲家、アルフレッド・リードがアルメニア民謡を採集し、それを基に作曲した吹奏楽の名曲中の名曲である。

今回演奏されたパート1は5つの民謡がメドレー形式で登場する。

  • Tzirani Tzar 《杏の木》

冒頭、輝かしい金管のファンファーレ。「ティティティーン…最初の三つの音に命を懸けて」と丸ちゃん。「私たちは以前、コンクールでこれを演ったんです(註:1986年全日本吹奏楽コンクール)。出だしは『うまくいってくれよ』と祈るような気持ちでした。じゃあ、まずマウスピースだけで演りましょう」

「16分音符は後ろに持ってこないように。一度全部16分に刻んで吹いてみましょう。ビートを感じて!」

  • Gakavi Yerk 《ヤマウズラの歌》

「ここは楽器同士、みんなで会話する感じが欲しいですね。『買い物でもいこか』という調子で。でもへそ曲がりのサックスは『私は、いやや』とか言ってるんです」

「テヌート(音符の表す長さを十分保って奏すること)は記号(-)だけのものとten.とわざわざ書いてあるものは区別して吹いて下さい。文字で書いているということは、そこに作曲したリード博士の気持ちが込められているのです」

  • Hoy, Nazan Eem 《おーい、僕のナザン》

5/8拍子のダンス。

「この変拍子は大きな2拍子と考え、その片方が若干長い(3/8 + 2/8)くらいのつもりで演奏して下さい。元々民謡なのですから、そんなにリズムが厳密ではない筈です。気楽にいきましょう」

「クレッシェンドからデクレシェンドにかけての表現は登山をするような気持ちで。山頂に達したからといって直ぐに下山しないでしょう?暫くのんびりして周りの風景を愉しみ、なだらかに下りましょう」

  • Alagyaz 《アラギャズ山》

ゆったりとして、雄大な3拍子。

「《アルメニアン・ダンス》の中で私が一番好きな所です。ここをコンクールで演奏した時は本当に幸せな心地がしました」

「一人一人が心に沁みるような演奏を!遥か彼方にいる人に訴えかけるような良い音で」

「お互いの音をよく聴いて。でも、それぞれの芯はなくさない」

「ここはパイプオルガンの響きが欲しいなぁ。天井から音のシャワーが降り注ぐというか、神様の声が聞こえてくるような雰囲気が。私はここに来ると『もう、死んでもいい』と思うんです。実際には死にませんけれど」

  • Gna, Gna 《行け、行け》

疾走する2/4拍子。

「緊張感を持って。しかし、のびのびと、生き生きと」

「打楽器のリズムがハチャトゥリアンの《剣の舞》に似てるでしょう?思い切って行こう」(註:ハチャトゥリアンはアルメニア人)

「ここらあたりからは空中ブランコがゆれる感じが欲しい。そして最後に振り切れるんです」

Furioso(熱狂的に)と書かれた箇所。「ここは『もう私、知らん!』と怒り狂って」

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僕は自宅では佐渡 裕/シエナ・ウインド・オーケストラのDVD「ブラスの祭典 ライヴ2004」を繰り返し再生しながら練習した。DVDだと指揮を見ながら吹けるので、タイミングを合わせやすいのだ。そしてあることに気がついた。

Alagyaz 《アラギャズ山》の所に来ると、佐渡さんが手を合わせて祈るような仕草をされるのだ。「成る程、佐渡さんもここでは丸ちゃんと同じようなことを感じながら指揮されているんだな」ということがよく理解出来たのだった。

 関連blog記事紹介:

さて、本番当日のリハーサルの模様、そして佐渡さんも登場した演奏会の報告は後日。ご期待下さい。

 

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2009年1月18日 (日)

STAND BY ME

スティーブン・キングの"The Body"(死体)を原作とする映画「スタンド・バイ・ミー」のラストシーン、作家となった主人公は次のような言葉をワープロに打ち込む。

I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve. Jesus, does anyone?
(あの十二歳の頃のような親友を持つことは、その後の僕にはなかった。決して二度と……)

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この映画の主人公のように言い切れる友を僕が得たのは十五歳の時。高校一年生の春のことである。出会ったのは吹奏楽部。彼はトランペットを吹いていた。

高校卒業後、友は東京外国語大学英文科に進学し、僕は地元の岡山に残った。しかし大学の夏休みや年末にはしばしば会って酒を飲み、将来の夢を語り合った。

大学を卒業すると彼は高校の英語教師として岡山に戻ってきた。そして吹奏楽部の顧問になった。

僕たちが三十歳になった年、彼は結婚した。そして新婚旅行から戻ってきて高熱を発症、病院で急性骨髄性白血病という診断を受けた。弟さんからの造血幹細胞移植手術は成功した。しかしその直後、感染症の合併症を併発し敗血症、多臓器不全で亡くなった。

あれから歳月は流れた。ある日、ザ・シンフォニーホールでもらったチラシをたまたま眺めていて、2008年12月29日に岡山大学交響楽団(常任指揮者は吹奏楽コンクール課題曲「風紋」の作曲家として知られる保科 洋さん)の大阪公演があることを知った。ここのサブ・コンダクターで、保科アカデミー室内管弦楽団を組織し、指揮されている秋山 隆さんは高校吹奏楽部の先輩なのである。高校生の頃から秋山さんは部長として、そして学生指揮者として卓越した才能を発揮されていた。

コンサートが終わり、楽屋に秋山さんを訪ねた。10年ぶりの再会で想い出話に花が咲いた。僕が保科さんの「風紋」が大好きだと言うと、2009年8月保科アカデミーの岡山&東京公演でなんと「風紋」管弦楽版(初演)を指揮されると教えて下さった。

そして僕は今度、淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部グリーンコンサートの企画「1000人のアルメニアンダンス・パート I」(指揮:丸谷明夫 先生)に参加することを話した。すると秋山さんは亡くなった友人のことについて触れ、こんなことを仰った。

「そういえば彼が生前、丸谷先生のことを熱心に語ってたのを憶えている。淀工に見学にも行って、その指導ぶりにすごく感銘を受けたと言っていたよ」

僕は吃驚した。彼からそんな話は聞いていなかったし大体当時、丸谷先生のお名前さえ全く知らなかったからである。

親友のことなら何でも知っている気でいた。しかしそんなことは所詮、幻影に過ぎなかったことを今更ながら悟った。そしてふと想った。3年前に大阪に来て、丸谷明夫/淀工吹奏楽部の存在を知る事が出来たのも、もしかしたら亡くなった彼がそっと僕を導いてくれたのかも知れないな、と。

そんな想いを込めて僕は今日、大阪城ホールで「アルメニアン・ダンス」を吹く。

When the night has come
And the land is dark
And the moon is the only light we see
No, I won't be afraid
Oh, I won't be afraid
Just as long as you stand
Stand by me

夜の帳(とばり)がおりて
辺りは暗く
月明かりしか見えなくても
僕は怖くない
決して怖くなんかないさ
君がそばに
僕のそばにいてさえくれたら

I won't cry, I won't cry
No, I won't shed a tear
Just as long as you stand
Stand by me

僕は泣かない、決して泣きはしない
そうさ、一粒の涙だって流さないよ
君がそばに
僕のそばにいてくれるのならば

(作詞 :Ben E. King/Jerry Leiber/Mike Stoller 、訳詩 : 雅哉)

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2009年1月17日 (土)

朝海ひかる、山口祐一郎 IN 《東宝エリザベート》

史上最高の舞台ミュージカルは?と問われたら僕はこう即答する。「オペラ座の怪人」、そして「エリザベート」と。この二つの作品は映画に喩えるなら「風と共に去りぬ」や「七人の侍」、音楽で言えばバッハ/マタイ受難曲、ベートーヴェン/交響曲第5番の立ち位置に等しい。その存在価値は絶対であり、永遠不滅の金字塔である。

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僕と「エリザベート」との出会いや宝塚版の歴史については下記に書いた。本記事はなるべく重複を避けて書きたい。

「エリザベート」が「オペラ座の怪人」と大きく異なっているのは、それぞれ上演されている場所ごとに演出が違うことだろう。このミュージカルが初演されたのは1992年。その舞台となったアン・デア・ウィーン劇場はベートーヴェン/交響曲第5番「運命」、第6番「田園」が初演された場所でもある。

'96年に宝塚版が初演されたときに潤色・演出したのは小池修一郎さん。男役を活躍させるためにトート(死神)の出番を増やし、「愛と死のロンド」という新曲も付け加えられた。さらにエルマーら三人のハンガリー革命家という新キャラクターが創作された。逆に清く、正しく、美しくという《すみれコード》に抵触しないよう、性的表現(姑である皇太后ゾフィーが新婚初夜の翌朝、エリザベートと皇帝フランツ・ヨーゼフのベッドのシーツをはぐる場面や、エリザベートがフランツからフランス病=梅毒をうつされるエピソード)、政治色が強い場面(ユダヤ人排斥運動からナチス台頭へ)などがカットされた。「愛と死のロンド」は同年開幕したハンガリー版と2000年に初演された東宝版にも取り入れられたが、他国のプロダクションでは歌われていない。

作詞・作曲家の絶大な信頼を受け、東宝版も小池さんが演出を担当した。宝塚版自体完成度が高いが東宝版もまた、それとは全く異なる見事なプロダクションであった。カットされていた場面も復活した。僕は2000年の初演(同年、菊田一夫演劇大賞を受賞)そして'04年の再演と今回の'08-9年版を観ているが、再演を重ねるごとに演出も手直しされ、随分と違ってきている(振付や舞台装置も初演と現行版では全く別物)。例えば初演では子ルドルフ(皇太子)が地球儀の上に乗せられくるくる回るという場面があったが現在は地球儀はなくなり、代わりに本の山の上に乗せられて歌うよう になった(たぶん地球儀は危険だからだろう)。また当初、精神病院をエリザが訪問する場面で患者のヴィンディッシュ嬢が拘束衣で登場し強烈な衝撃を受 けたのだが、現在はいたって普通の場面になった。ラストシーンについていえば、エリザベートが棺桶から登場し、ラストも棺桶に収まるのは再演版からの新演出である(初演ではエリザとトートは舞台奥へと歩いて消えていく)。またこの時、トートダンサーズが舞台両脇の柱に縛り付けられて踊る(クリオネみたいだと当時話題になった)面白い演出があって気に入っていたのだが、それもなくなってしまった。総じて僕はオーソドックスになった現行版より大胆で前衛的だった初演版の方が好きだ。

東宝初演時にはエリザベートがソロで歌う新曲「夢と現(うつつ)の間(はざま)に」が登場したが、再演時にはカットされた(CDには収録されている)。'01年ドイツ・エッセン版で追加されたトート&エリザのデュエット「私が踊る時」は'02年宝塚花組公演から日本で採用され、東宝再演版でも歌われるようになった。また「ゾフィーの死」というソロ・ナンバーは'99年オランダ版から登場し、現在の東宝版でも使用されている(宝塚版にはない)。

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さて、多くの役にダブル・キャストが組まれている今回の公演(梅田芸術劇場)で僕が観たのは朝海ひかる山口祐一郎のコンビ。武田真治涼風真世の方は後日観劇予定。他の配役はフランツ・ヨーゼフ:鈴木綜馬、ルドルフ:浦井健治、ゾフィー:寿ひずる ら。

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僕が初めて宝塚歌劇を観たのが'98年宙組「エリザベート」。朝海さんはその時、ルドルフを演じていた。これが余りにも素晴らしかったので各方面から絶賛を浴び、彼女が大ブレイクする切っ掛けとなった(その後一気に男役トップスターへと踊り出る)。

朝海エリザが登場すると、まずその可愛らしさに目を奪われた。ビジュアル的には100点満点だろう。但しその発音(特にハヒフヘホが聴き取りにくい)、と歌唱に多少問題があったのも事実である。幕間のロビーでは色々な感想が聞こえて来た。「やっぱり男役だから声がめっちゃ低いねぇ」「花ちゃん(宝塚初代エリザベートの花總まりさん)は凄かった……」仰ることはごもっとも。でも美しければ、その他のことは大目に見るのが僕の主義である。

やまゆう(山口祐一郎)さん演じる自己陶酔系のトート閣下は初演時から大好きなのだが、本公演は高音域の声がやや掠れており精彩を欠いた。長期公演でお疲れなのかも知れない。

今回特に良かったのはルドルフ役の浦井健治さん。見栄えが良いし歌も上手い。

そして《踊るコンダクター》こと、マエストロ・塩田明弘/東宝オーケストラの生き生きした演奏が花を添えた。

 関連記事:

色々書いたけれど、東宝「エリザベート」は作品の内容、そしてプロダクションの質が極めて高く、是非一度は観ておくべきものとしてお勧めしたい。まだまだ梅芸で上演中。当日券もあるようだ。

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2009年1月15日 (木)

厳選!これは是非聴きたい、関西のクラシックコンサート 2009春

お勧めコンサート新春バージョンである。これからご紹介するものは全て僕も足を運ぶ予定。

まず今月ザ・フェニックスホール(大阪)で開催されるレクチャーコンサート。詳細はこちら。滅多に聴けないコルンゴルト/弦楽四重奏が聴けるところがミソ。コルンゴルトは以前から当ブログで取り上げている20世紀の作曲家。ナチスに追われウィーンからアメリカに亡命し、ハリウッドで映画音楽作曲家になった人。「スター・ウォーズ」のジョン・ウィリアムズにも多大な影響を与えた。浪漫派の残滓、叙情的で甘美な旋律に酔いしれること請け合いだ。

 関連記事:

また今年3月には神戸国際フルートコンクールが開催される。その記念演奏会シリーズが超豪華。このコンクール過去の入賞者には過去にベルリン・フィルの首席エマニエル・パユ、シカゴ交響楽団の首席マテュー・デュフォー、ロイヤル・コンセルトヘボウの首席エミリー・バイノンらがおり、極めてレベルが高い。是非コンクール本選や披露演奏会も聴きたいところ。

フルートといえば、バルトルド・クイケンと並ぶ世界最高のフラウト・トラベルソ奏者、有田正広さんの演奏が遂に大阪・いずみホールで聴ける!詳細はこちら。この演奏会の何が凄いって、10の楽曲を有田さんは10本の笛で吹き分けようというのだ。つまり一夜でフルートという楽器の400年の歴史が一気に俯瞰出来るという、画期的企画なのである。これは必聴。

 関連記事:

さて、20世紀の日本を代表する作曲家・武満徹について娘の眞樹さんは次のように回想されている。

父にとって音楽は常に「祈り・希望・平和」であり、その象徴が『マタイ受難曲』だったのだと思います。恐らく多くの人たちにとってそうであるように…  ("父と『マタイ受難曲』"より)

その人類の至宝、J.S.バッハ/「マタイ受難曲」が4月12日(日)に兵庫県立芸術文化センターで聴ける。しかも鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)という、これ以上望みようがない音楽家たちの演奏で。昨年このコンビによる「マタイ」をザ・シンフォニーホールで聴いたときの感想はこちら。なお、今回はメンデルスゾーン版が取り上げられる。

ザ・シンフォニーホールで開催されるトン・コープマン/アムステルダム・バロック管弦楽団による《J.S.バッハ/管弦楽組曲 全曲演奏会》 もとても愉しみだ。やっぱりバッハは古楽器(オリジナル楽器)で聴きたい。詳細はこちら

モダン・オーケストラのコンサートも紹介しておこう。アッテルベリ/ドル交響曲(作曲コンクールの賞金1万ドルでアッテルベリはフォードの高級車を購入した)の日本初演が3月18日ザ・シンフォニーホールで行われる。詳しくはこちら。今、僕がイチ押しの指揮者・児玉 宏さんからのメッセージもご覧あれ。《奇跡を呼ぶ男》児玉 宏と、快進撃を続ける大阪シンフォニカー交響楽団ががっぷり四つに組んで、今度はどのような演奏で僕たちを驚かせてくれるのか目が離せない。なお、同じプログラムで東京公演も予定されている。

そして今年はハイドン没後200年という記念の年。日本でハイドンを聴くなら鈴木秀美(/オーケストラ・リベラ・クラシカ)かゲルハルト・ボッセにとどめを刺す。今月ボッセ/相愛チェンバーオーケストラ(相愛大学の学生オケ)によるオール・ハイドン・プログラム(入場無料)を聴いたが、ボッセさんは相変わらず目の覚めるような解釈を聴かせて下さった。颯爽としたテンポ、生き生きとしたアーティキュレーション。現在86歳というご高齢なのに、そのタクトから紡ぎ出される音楽は常に躍動感に溢れ若々しい。ビブラートはかけているが、ちゃんと最新の情報(ピリオド・アプローチ)を研究し、取り入れているところも凄い。今、ボッセのハイドンを聴かずして誰を聴く?……というわけで、4月7日いずみホールボッセ/大阪フィルハーモニー交響楽団によるハイドン・プログラムは絶対聴き逃すな!詳細はこちら

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2009年1月14日 (水)

ヒラリー・ハーン/ヴァイオリン・リサイタル

アメリカのヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンはまるで妖精のような人だと想っていた。この世に舞い降りたティンカー・ベルのイメージ。

そして今回、兵庫県立芸術文化センターで実際見た彼女は以前から抱いていた印象そのままの人だった。特に愛器(J.B.ヴィヨーム、1864年製作)を持ってステージに立つ彼女の凛とした佇まいには、ただただ見惚れるばかり。

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曲目は、以下の通り。

  • イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番
  • アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第4番「キャンプの集いの子どもの日」
  • ブラームス/ハンガリー舞曲集(全7曲)
  • アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第2番
  • イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番
  • イザイ/子どもの夢
  • アイヴズ/ヴァイオリン・ソナタ第1番
  • バルトーク/ルーマニア民族舞曲
  • パガニーニ/カンタービレ(アンコール)
  • ブラームス/ハンガリー舞曲第5番(アンコール、リプライズ)

「ハンガリー舞曲集」以外ポピュラーな曲はなく、ベルギーの作曲家イザイとアメリカのアイヴズが書いた20世紀の音楽を中心とした意欲的なプログラム。ピアノ伴奏はヴァレンティーナ・リシッツァ。

ちなみにイザイ(1858-1931)はヴァイオリンにおけるビブラート技法を確立した人だそうだ。つまり、ベートーヴェン(1770-1827)以前の音楽をビブラート奏法で弾く20世紀の方法論は誤りだったということだ。

 関連記事:

閑話休題。イザイもアイヴズのソナタも今回初めて聴いたのだが、イザイの無伴奏第4番はかなりJ.S.バッハの無伴奏ソナタを意識しているなと感じられた。しかし6番の方はバッハから離れて自由になった印象を受け、その対比がとても興味深かった。一方、アイヴズは賛美歌やフォークソングからの引用が沢山あってとても親しみ易かった。そういえばレニー(L.バーンスタイン)は生前、アイヴズの交響曲を積極的に取り上げていたが、大植さんや佐渡さんも関西で取り上げてくれないかなぁ?

先日聴いた神尾真由子さんのヴァイオリンは力強く野太い音が魅力なのだが、それに対してヒラリー・ハーンは繊細な音色(とビブラート)が特徴である。やや線は細いが、それはか弱いのではなくしっかりとした芯があり、ピンと張り詰めた緊張感は決して最後まで途切れることがない。特にハーモニクス(=フラジオレット、倍音を奏でる技法)の美しい響きは筆舌に尽くしがたい。神尾さんが《火の玉のように燃え上がる》演奏だとするとハーンのそれは《静謐な湖の透明感》に喩えることが出来るだろう。どちらが良いという話ではない。それぞれに固有の魅力があって、その資質の違いを聴く歓びこそ僕たちにとって掛け替えのないものなのである。

 関連記事:

演奏会が終わり、サイン会では長蛇の列。それは兵庫芸文の敷地内をはるかに越え、阪急・西宮北口駅への連絡通路まで延々と続いた。それでもヒラリー・ハーンは嫌な顔もせず、ひとりひとり丁寧に「アリガトウゴザイマシタ」と日本語で挨拶してくれた。なんて素敵な女性なのだろうとますます好感度がアップした、今日この頃なのでありました。

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2009年1月13日 (火)

山下洋輔 vs. 佐渡 裕/エクスプローラー

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上の写真は西宮神社の十日戎(えびす)の様子である。

この日、同じ西宮市にある兵庫芸文で佐渡 裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の第21回定期演奏会を聴こうと足を運んだ。ゲストはジャズ・ピアニストの山下洋輔さん。プログラムは、

  • 山下洋輔/ピアノ協奏曲第3番「エクスプローラー」
  • ショスタコーヴィチ/交響曲第5番

「エクスプローラー」のオーケストレーションは国立音楽大学在学中の挟間美帆さん(彼女の公式サイトはこちら)が担当した。なかなかの美女で、仕事の出来栄えも申し分ない。

第1楽章はまるで世界の混沌を描いているかのような印象を受けた。冒頭のクラリネットはガーシュウィン/「ラプソディ・イン・ブルー」へのオマージュ。淀工吹奏楽部出身の稲本渡さんが見事なクラリネット・ソロを披露された。また、この楽章の終盤には「パリのアメリカ人」を彷彿とさせる金管群のスウィングもある。

第2楽章は夜の音楽。大都会の夜景が目の前に広がる高層ビル最上階のジャズ・バーで静かにグラスを傾けるような雰囲気が漂う。あるいは北極圏のオーロラとか、星屑の海の中をひとりぼっちで漂っている宇宙船などを連想させられるものもあった。時折、ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」第1楽章や「エリーゼのために」の断片も聴こえてくる。

第3楽章は山下さんご自身が書かれた明確な考想メモがある。「宇宙に飛び出して木管猫生物、弦楽器地底生物、金管素粒子生物、疾走打楽器生物に出会う。やがて時間を遡行してビッグバンに遭遇して皆死ぬ」

プレ・トークで山下さんと佐渡さんが仰っていたのだが、この作品はオーケストラの譜面はきっちり書かれているが、山下さんのピアノ・パートは殆ど白紙だそうである。つまり毎回即興演奏でその部分は紡がれていく。僕が聴いたのは定期三日目。一日目と二日目ではまったく弾かれた中身が異なっていたそうだ。

あくまで自由なスタイルなので、例えば一つの楽章に一貫した主題(モティーフ)のようなものは見当たらない。山下さんの楽興(形式にとらわれない自由 な発想)の趣くまま、次から次へと様々な旋律が生まれては消えてゆく。しっかりした構成とか全体の統一感は乏しい。そういう点では、果たして古典的 な三楽章の協奏曲という形式にする意味があるのかという疑問を感じるのも確かである。

僕はこれを聴きながら、1970年にピンク・フロイドがオーケストラと競演した「原子心母」(Atom Heart Mother)のことを想い出した。プログレッシブ・ロックを代表する名盤である。結局「エクスプローラー」は《山下洋輔の山下洋輔による山下洋輔のための》協奏曲なのであって、他のピアニストが演奏しても意味がないし、この曲に挑戦しようとする人は今後も現れないんじゃないか?という気がする。つまりクロスオーバー(Crossover)楽曲としての「ラプソディ・イン・ブルー」、あるいはピアソラ/バンドネオン協奏曲がような普遍性は本作にはなく、あくまで山下さんのフリー・ジャズを愉しむために存在するのであって、その意味では十分目的を果たしていると言えるだろう。

山下さんのパフォーマンスは文句なしに素晴らしい。その半音階の多用は、印象派の作曲家ラヴェルに通じるものを感じた(ラヴェルのピアノ協奏曲はジャズのイディオムを大胆に取り入れている)。

アンコールは2曲あった。

  • 山下洋輔/サドン・フィクションより第5曲 スウィング
  • 枯葉~スィングしなけりゃ意味ないね(メドレー)

1曲目はオーケストラとの共演で2曲目はピアノ・ソロ。オケは最後に全員が立ち上がって演奏しながら動き回ったりというパフォーマンスもあり、大変愉しかった。ソロの方はもう曲の原型を殆ど留めていないくらい崩した、山下さんらしいアグレッシブで尖がったアレンジ。その真骨頂を堪能させて貰った。

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ショスタコは冒頭で弦楽器低音部の主題がホールに鳴った瞬間、これは物足りないなと想った。この曲は2007年に大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で聴いているが、大フィルの弦楽パートの方が断然、響きに潤いと深みがあった。ホールの違いもあるだろうが、どうもPACは弦が弱い気がする。それから佐渡さんも、明るくあっけらかんとした解釈で違和感が終始付きまとった。確かにこの5番はユニゾンが多く一見単純明快なようだが、どうしてどうしてショスタコーヴィッチはもっと陰鬱で屈折した、アイロニカルな音楽なのではないだろうか?但し、速めのテンポでかっ飛ばした第4楽章は爽快で中々良かった。

PACの管楽器セクションは概ね好演だったが、ホルン・トップ奏者のミスが目立ってお粗末だったことを最後に付け加えておく。

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2009年1月11日 (日)

アスミック・エースにもの申す

ラスベガスに往く道中、飛行機でウディ・アレン監督の最新作「ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ」(出演:スカーレット・ヨハンソン、ハビエル・バルデムほか)を観た。大変出来の良いコメディで大いに愉しんだ。特に映画中盤に登場するペネロペ・クルスが圧巻!是非彼女にはこれでアカデミー助演女優賞を獲って貰いたい(日本公開は6月なので、詳しいレビューはその頃改めて書こう)。

そして1月9日にこの映画の邦題が決まった。それを聞いて脱力。なんと「それでも恋するバルセロナ」だって!詳細はこちら

まずこのタイミングで急遽邦題が決定したのは間もなくゴールデン・グローブ賞の発表があるからであろう。ペネロペ・クルスが受賞する可能性は高いし、もしかしたら作品賞(ミュージカル/コメディ部門)も獲れるかも知れない。だから新聞報道される時点で邦題を読者に印象づけておこうという宣伝戦略なのであろう。

しかし「それでも恋するバルセロナ」は酷い。全く映画の内容を伝えてはいない。むしろ「ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ」のままで良いではないか!(ヴィッキーとクリスティーナは主人公ふたりの名前である)。興行成績の鍵を握る20-30代女性に媚びを売ろうとする映画宣伝部(配給:アスミック・エース)の意図がありありである。それにしてもタイトルに「愛」だの「恋」だの安易に入れれば、本当に女性客の心を摑みヒットに結びつくのか?

「愛と青春の旅立ち」「愛と哀しみの果て」「愛と喝采の日々」「愛と追憶の日々」「愛は霧のかなたに」「小さな恋のメロディ」「ギター弾きの恋」「恋人たちの予感」「ノッティングヒルの恋人」……全てその原題にLOVEとかLOVERSなどの言葉を含まない映画ばかりである。

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2009年1月10日 (土)

三谷幸喜/グッドナイト スリイプタイト

三谷幸喜さんの新作「グッドナイト スリイプタイト」を観るため、2008年11月に西梅田にオープンしたばかりのサンケイホールブリーゼに足を運んだ。

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戸田恵子さんと中井貴一さんの二人芝居である。

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ホール全体のイメージは白に統一されていて中々ハイセンスな空間であった。

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Good Night
Sleep
Thight

三谷さんが朝日新聞に連載しているエッセイに以前、「日本語の《ぐっすり》という言葉は、Good Sleepから来ているんじゃないか」という叔父さんの説が紹介されていた。

まあ確かに《ぐっすり眠る》という表現は江戸時代にはなかった筈で、英語が語源である可能性はあり得る。NHK大河ドラマ「篤姫」に出て来た様にSewing Machineが《ミシン》になったようなものか(天璋院篤姫は日本で初めてにミシンを使った女性だそうだ)。

そして本公演のタイトルはジョージ・クルーニー監督の映画"Good Night, and Good Luck ."も意識しているに違いない。

さて、開演前に恒例の三谷さんによるアナウンスが流れる。叔父さんの話もあった。そういえば、ミュージカル「オケピ!」の時は三谷さんの歌も披露されて愉しかったなぁ。また、「彦馬がゆく」(2002)の時だったかどうか記憶が定かでないが、「携帯電話の電源はお切り下さい。またポケットベルやPHSをお持ちの方、そろそろ携帯電話に買い換えた方がいいですよ」というアナウンスには爆笑した。実はこのギャク、ある上方の若手落語家がそっくりそのままパクって、未だに高座のマクラで使っている。嗚呼、才能がない人間の哀しさよ……。

閑話休題。戸田恵子さんについて三谷さんは「彼女とは今まで、一人芝居や三人芝居、四人芝居、十三人芝居などをやってきました」と仰っていた。ちなみに一人芝居とは「なにわバタフライ」のこと。三人芝居が「You Are The Top 今宵の君」で、四人が「温水夫妻(ぬくみずふさい)」、十三人は「オケピ!」と「恐れを知らぬ川上音二郎一座」のことである(「川上音二郎」以外は劇場で観ていることが、一寸だけ自慢だ)。

今回は約30年よりそった、ある夫婦の物語である。舞台にはふたつのベッドが置かれただけのシンプルな空間。舞台転換はなく、三谷さんが得意とするワン・シチュエーションで完結する。舞台横に電光掲示板。最初そこに示された数字は10240。それが暗転と共に急速に減り、また少し増えたりする。そしてそれは、ふたりが出会ってからの日数を示していることが次第に分かってくる。数字はこの作品のモティーフであり、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」のケッヘル番号=492も重要なガジェット(小道具、仕掛け)として用いられる。

時が移ろうにつれ、ベッドの距離も変化する。それがふたりの関係をも示しているという演出が面白い。ただしこれ、不朽の名作映画「市民ケーン」(オーソン・ウエルズ監督)の影響を受けてるんじゃないかな?

劇団・東京サンシャインボーイズ(祝・期間限定復活!)時代、三谷さんはチーム・プレイの素晴らしさを描いてきた(「ラヂオの時間」「彦馬がゆく」「12人の優しい日本人」「ショウ・マスト・ゴー・オン」など)。そしてそれはテレビドラマ「王様のレストラン」(1995)や「合言葉は勇気」(2000)などに継承された。しかし彼の作家性が変化してきたのは大河ドラマ「新選組!」('04)を執筆した頃からだろうか?「コンフィダント・絆」ではコミュニティ(共同体)の崩壊を描き、そして本作では夫婦の別れを描いた。「グッドナイト スリプタイト」は三谷さんが年輪を重ねると共に、劇作家としての円熟味をより一層増したことが感じられる素晴らしい作品だった。

また、萩野清子さん作曲の音楽がとても良かった。映画「ザ・マジックアワー」の彼女の曲は今ひとつだったけれど。

「コンフィダント・絆」の時は萩野さんのピアノ演奏だけだったが、今回は管鍵”楽団!?ということで、彼女のピアノに加えフルート、オーボエ、クラリネットの生演奏付きという贅沢。フルート奏者はピッコロやリコーダーへの持ち替えあり、クラリネット奏者はB♭管やバス・クラの兼任。また各自、打楽器など”鳴り物”も臨機応変に担当した。ただ単に演奏するだけではなく、電話の擬音をしたりふたりの芝居に参加したりと大活躍。すこぶる面白かった。

大阪では20日まで上演中。当日券はあるようだ(劇場に要確認)。なお、東京公演をWOWOWが収録していたそうなので、いずれ放送されるだろう。でも、やっぱり芝居は生が一番だよね。そして勿論、音楽も。

さて、今年中に製作発表されるであろう「オケピ!」に続く三谷幸喜作の舞台ミュージカル。今から待ち遠しくて仕方ない!!

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2009年1月 7日 (水)

映画「マンマ・ミーア!」

評価:C+

映画公式サイトはこちら

Mamma_mia

イギリスでは遂に「タイタニック」の記録を塗り替え、興行成績史上NO.1に躍り出た大ヒット・ミュージカル映画。アメリカでは昨年夏に公開されたのに、日本ではなんと半年遅れの1月30日。何でこんなことになったのか不思議だったのだが、よくよく考えてその理由を漸く理解出来た。

ゴールデン・グローブ賞の発表は1月11日(日本時間12日)にある。つまり日本の映画宣伝部は捕らぬ狸の皮算用をしており、受賞出来れば公開までの約二週間でそれを宣伝材料にキャンペーンを展開しようという腹づもりなのだろう。ちなみに本作は作品賞(ミュージカル/コメディ部門)および主演女優賞(メリル・ストリープ)にノミネートされている。そう事は上手く運ぶものかどうか……。公開を待ちわびているファンにとっては大変迷惑な話である。なお、アカデミー作品賞最有力候補である「スラムドッグ$ミリオネア」の日本公開も4月とまだまだ遠い先の話になってしまった。これもオスカー効果を狙っているというわけだ。もう、いい加減にしてもらいたい。 

さて「マンマ・ミーア!」の話に戻ろう。僕は舞台版を劇団四季で数回観ている。東京では当然生バンドの演奏だったが、大阪四季劇場ではこれさえもカラオケ上演だったので呆れた。ABBAのポップス(ディスコ・ミュージック)なんだから、オケと違って数人で演奏出来るのに!

ロンドンの舞台ミュージカル版を演出したフィリダ・ロイドが本作で映画監督デビューを飾った。また、脚本も舞台版を手がけたキャサリン・ジョンソンが引き続き担当している。だから舞台のテイストが映画版にも色濃く残っており、特に"Money, Money, Money"の演出なんか、そっくりそのままである。ハッピーエンディングを迎えた後に、カーテンコールで"Dancing Queen"が再登場するという趣向も同じ。イギリスやアメリカで大ヒットしたのは映画館の観客も舞台同様、一緒に歌って踊って盛り上がったからなのだろう。

僕も大いに映画を愉しんだし、もし貴方がミュージカルを好きならば是非ご覧になることをお勧めしたい。では何故評価が低いのかと問われれば、元々の舞台そのものがその程度の作品だからである。ABBAのヒット曲を22曲繋ぎ、それに併せて構成してあるので物語自体は他愛ない。つまり製作者側はこの作品を通して何かを世の中に訴えたいとか、人間の真実を描きたいとかいった大志を端から抱いてなどいないのだ。難しいことなんか考えず、ハッピーな気持ちになれたらそれでいいんじゃない?……そしてそれこそが、ミュージカル・コメディの醍醐味と言えるだろう(「クレイジー・フォー・ユー」や「ME AND MY GIRL」だってそうだ)。

ソフィー役のアマンダ・セイフライドが好演。ドナ役のメリル・ストリープは声の質がミュージカル向きではなく、音域が狭いので聴き辛いものがあるが、そこは大女優の貫禄。演技力で歌唱力の欠陥をカヴァーしている。コリン・ファースやピアース・ブロスナン(5代目ジェームズ・ボンド)も決して歌が上手いとは言えないけれど、中々味があって悪くない。一寸「野郎どもと女たち(GUYS AND DOLLS)」のマーロン・ブランドのことを想い出した。

あとエーゲ海に面したギリシャの孤島というシチュエーションがとても映画的で良かった。どこまでも澄み切った青い海は、陽光が燦々と降り注ぐこの明るい物語に良く似合う。

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2009年1月 6日 (火)

ラスベガス便り 完結編 《O》、《ブルーマン》など

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上の写真は僕の宿泊していたパラッツォのロビーである。

そして滝のある広場。

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中央に立っている彫像のようなものは実は生きている人間で、動いたり指から水を出すパフォーマンスをしている。

さて、ラスベガスのショーの大半は"TKCKETS 2 NITE" や"TIX 4 TONIGHT"といった格安チケット店で購入することが出来る。ブロードウェイ、タイムズスクエアのど真ん中にある半額チケットブース"TKTS"と似たようなものと考えて頂ければいいだろう。人気マジシャン、ランス・バートンのショーはさすがにここで取り扱っていなかったが、Blue Man Groupは40% offで買えたし、シルク・ドゥ・ソレイユの"KA"も15% offくらいで購入出来た。

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ラスベガス4日目は「ブルーマン」と「ランス・バートン/マスター・マジシャン」を観た。

マジックは伝統的正統派のスタイル。こういったショーは近くで手元をしっかり見てこそ驚きがあるのであって、あまり大劇場には向いていないなと今回つくづく感じた。

続く5日目はウィン・ラスベガスにあるザ・バフェでランチ。

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40ドルでシャンパン飲み放題、食べ放題。高級ホテルだけに中々美味しい。以前ニューヨークに滞在した時は食事の不味さに閉口したものだが、ラスベガスでは全くそんな不満はなかった。ただし、ステーキに関する限りはブルックリンのピータールーガー( Peter Luger Steak House )が世界一だと想う。

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夜はトレジャー・アイランド( T I )前で20分の無料ショー。海の女神と海賊の戦い。

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このアトラクションの最後には海賊船が火を噴き、沈没していくという派手な見せ場がある。

さらに移動してベラッジオで上演中のシルク・ドゥ・ソレイユ"O"(オー)へ。開演は夜7時半の回と、なんと夜10時半からのもある。

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会場にはパフォーマー達をモデルにした彫刻が多数置かれていて、アートな雰囲気に満ちていた。

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"O"は舞台に設置された巨大プールで展開されるアクロバティック・ショー。その水深は自在に変化する。ベラッジオといえば噴水ショーが有名なだけに、イメージもピッタリである。

冒頭から道化師ふたりが登場したり、空中ブランコ乗りの女の子との恋があったりと、シルク・ドゥ・ソレイユの演目の中でもサーカス的雰囲気が色濃い。高飛び込み、シンクロナイズド・スイミングもあれば、エスター・ウィリアムズ主演のMGMミュージカル(「水着の女王」「百萬弗の人魚」など)を彷彿とさせる水中レビューの要素もあって飽きさせない。

Esther

とにかく"O"は全てが洗練された、一級の芸術品であった。また、音楽が生演奏だったのにも吃驚した。

ショーが終わると深夜0時をまわっていた。こうしてエンターテイメント三昧だった僕のラスベガス旅行記も幕を閉じる。

読者の皆さん、今年もよろしく。

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2009年1月 5日 (月)

ラスベガス便りその3 グランド・キャニオンへ!

1/1は車でグランド・キャニオンへ往った。

ラスベガスからの所要時間は約5時間。途中、ルーズベルト大統領のニューディール政策の時期に造られたフーバーダムやナット・キング・コールの歌でも有名なルート66も通った。ここはピクサー・アニメーション「カーズ」にも登場する。そしてそのすぐ横を、大陸横断鉄道の線路が走っていた。

車が次第に高度を上げていくに従って、周囲の光景がサボテンしかない砂漠から、次第に背の高い植物が生息するように変化していくのがとても不思議であった。これは降水量の関係によるもので、日本の「森林限界」と全く逆パターンとなっているのである。

グランド・キャニオンに実は余り期待していなかったのだが、実際に訪れてみるとその自然の雄大さに圧倒された。

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写真を撮った地点は標高2,000m級の高地で、なんと雪が積もっていた。この辺りに積雪があるのは極めて珍しいことだそうだ。

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上の写真はアメリカ・インディアンのホピ族の家をモデルに造られた「ホピ・ハウス」。ここではネイティブ・アメリカンの工芸品を販売している。

ラスベガスを朝6時に発ち、戻ってきたのが夜の8時。強行軍の一日旅行であったが、心地よい疲労感だけが残り、その夜はぐっすりと眠りに就いた。

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2009年1月 4日 (日)

ラスベガス便りその2 《KA》とカウント・ダウン

ラスベガス2日目、12/31はシルク・ドゥ・ソレイユの"KA"(カー)を観た。シルク・ドゥ・ソレイユは来日公演や東京ディズニーリゾートの常設劇場で上演中の"ZED"でもすっかりお馴染みだが、スーパー・サーカスと言うべきか、洗練された衣装・装置・音楽による壮大なアクロバティック・ショーである。現在ラスベガスでは5つのカンパニーが公演を行っており、中でも特に人気演目なのが"O"と"KA"である。

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"KA"はバトントワリングの第一人者、高橋典子さんが出演しており、華麗なバトン捌きで魅了してくれることも見逃せない。

この演目の凄いところは固定された床が存在しないことである。開演前は目の前に深い奈落があるだけで、時々そこから噴火している。物語が始まると「サンドクリフデッキ」と呼ばれる広さ70畳、重さ175トンのステージが地の底から空中へと浮かび上がり、それがあるときは斜めに傾き、あるときは垂直に起立したりと、自由自在に姿を変える。そこで出演者たちが重力を無視したパフォーマンスを展開するのである。中国映画「グリーン・デスティニー」「HERO/英雄」を彷彿とさせるようなワイヤーアクションもあり、しかもそれが直立した舞台で、客席からは上空から俯瞰で観ているような錯覚に陥る仕掛けになっており、ただただ唖然とするばかり。これは必見。

ラスベガスは街全体がテーマ・パークみたいなところである。ホテル巡りも愉しい。

まず、映画「アイアンマン」のロケ地になったシーザース・パレス。

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ロバート・ダウニー・Jrがここでカジノをする。

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お次は「オーシャンズ11」でお馴染み、ベラッジオ。

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25日を過ぎても街にはクリスマス・ソングが流れ、リースやツリーが飾られていた。

また、ここの無料噴水ショーの幻想的美しさは筆舌に尽くしがたい。

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ちなみに写真で見えているエッフェル塔は向かい側のホテル、パリスである。

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そしてミラージュの噴火ショー。これも無料である。

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New Years Eveということでカウント・ダウン・パーティもあった。Happy New Year !と共に盛大な花火が打ち上げられ、人々は大騒ぎ。警官隊やパトカー、馬も大量に動員され、2009年もラスベガスは賑やかに、眠らない街であり続けるのでありました。

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2009年1月 2日 (金)

ラスベガス便りその1 《オペラ座の怪人》

12/30に関西国際空港を発ちロサンゼルス経由でラスベガスに到着した。

西海岸は温かく、日本で言えば春の陽気。からっと晴れ上がり、以前訪れたニューヨークがどんよりとしたダークブルーだとすると、こちらは明るい黄色のイメージだ。ラスベガスという街そのものが《砂漠に忽然と出現した蜃気楼》という印象が強い。

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僕の泊まっているパラッツォは隣のヴェネチアンと繋がっており、そこでラスベガス版「オペラ座の怪人」を観ることが出来る。

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ヴェネチアンの2階には運河があり、そこをゴンドラが行き来している。

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天井は書き割りの空。すべてが人工の産物で僕はジム・キャリー主演の映画「トゥルーマン・ショー」のことを想い出した。いかにも蜃気楼の街ラスベガスに相応しい。

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さて「オペラ座の怪人(PHANTOM)」である。このラスベガス版のために建てられた専用劇場で上演されている。物語の舞台となるパリ・オペラ座を模したドーム型構造になっているのが特徴的。

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アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲したこのミュージカルは世界20カ国以上で上演されているが、これらの演出・舞台装置・衣装などは全てロンドンのオリジナル・プロダクション(1986初演)と同じである。契約上、別の演出は認められておらずロンドンでもブロードウェイでも日本でも大差ない(ただし、消防法の関係からか日本での火薬の使用量は他国より少なくなっていており、些か見た目が貧相である)。その唯一の例外が2006年に開幕したこのラスベガス版で、オリジナル演出を手がけたハロルド・プリンスが新演出を施しており、最新のテクノロジーを駆使した舞台となっている。

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また、1幕と2幕の間の休憩はなく、95分間ぶっ通しの作品となっている。オリジナルと比較しコンパクトにまとめられているが、カットされた曲はほとんどない(劇中劇「ドン・ファンの勝利」のリハーサル・シーンが省略されているくらい)。

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プリンスの演出は基本的にロンドンのオリジナル・プロダクションを踏襲している。しかし、それがより派手になっていることが特徴。一言で言えば、良い意味でTOO MUCHなのだ。

先ず劇場に入って驚くのは大小様々なシャンデリアが4つも、あちらこちらに配置されていること。「えっ、どういうこと?」と不思議に想っていると、例のパイプオルガンの大音響と共にシャンデリアが点滅、上昇を始めた。すると天井付近でそれらが合体し、なんと4層のシャンデリアに変貌したのである!その巨大さはさながら、スピルバーグの映画「未知との遭遇」に登場するUFO=マザーシップの如し。ちなみにそのシャンデリアが墜落するタイミングはロンドン版とは異なり、映画版と同様に物語のクライマックス、オペラ「ドン・ファンの勝利」で怪人が現れた直後。僕の席は急速に落ちてくるシャンデリアの真下だったので、スリル満点だった。

また、「マスカレード(仮面舞踏会)」直前に打ち上がる花火の派手さには度肝を抜かれたし、舞台装置や衣装がオリジナルより格段と豪華になっているのにも目を奪われた。

ロイド=ウェバーのオーケストレーションも明らかにリニューアルされており、各所でハッとする響きが聴かれた。オケは当然、生演奏。さすが巧い奏者が揃っていた。

怪人を演じたのはAnthony Crivello。ミュージカル「蜘蛛女のキス」でトニー賞を受賞している。

クリスティーヌを演じたCristi HoldenとラウルのAndrew Ragone(イケメン)も大変な美声で好演。特にクリスティーヌは今まで僕が観た(ロンドンとブロードウェイを含む)中でベストであり、オリジナル・キャストのサラ・ブライトマンより彼女の声の方が好きだ。ここのカンパニーの実力の高さに深い感銘を受けた。

また今回、ヴェネチアをテーマとしたホテル内で観劇するという体験を通して初めて、「オペラ座の怪人」という作品には、ゴンドラ・仮面舞踏会・イタリア人歌手といった、ヴェネチア的要素がふんだんに盛り込まれている事に気付かされたのだった。
 
 関連記事:オペラ座の怪人(この作品の想い出)

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