淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部 創部50周年記念演奏会「グリーンコンサート」では、一般から出演者を公募し《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》という企画が行われた。
これに参加するために日本全国から人々が会場となった大阪城ホールに集結した。北海道旭川商業高等学校、駒澤大学(東京)、土佐女子高等学校(高知)、精華女子高等学校(福岡)等の吹奏楽部員たちである。また奈良県の小学生や淀工OBたちの姿もあった。そして僕も丸谷明夫 先生(丸ちゃん)の指揮で演奏出来るならと迷わず手を挙げ、彼らに加わった。結局1500人を超える応募があり、ステージの都合から人数調整をして最終的に1147人になったそうである。
練習日は4回用意され、出演者は最低1回の参加を義務づけられた。練習場所は淀工のお膝元、守口市市民会館(守館)。1回につき3時間の練習時間であった。
丸ちゃんから全般の心構えとして次のような話があった。
「ピッチ(音程)よりタッチ、スピードを大切に。つまり縦が肝心です」
「例えばマーチングで5人が並んで歩くとします。普通なら真ん中の人に横が歩調を合わせようとするでしょう?でもその必要はありません。みんなで進む。しっかり自分で歩く。その結果として全体が合えば良いのです」
「一人一人が自分が一番良いと信じる音を吹いて下さい。のびのびと、そして結果として生き生きと」
「速いフレーズはまず歌ってみて下さい。歌えなければ演奏も出来ない。歌っては吹く。それを繰り返して」
また、一昨年亡くなられた関西吹奏楽連盟理事長・松平正守先生のことに触れ、当時高校生だった丸ちゃんが松平先生が指導されていた呉服(くれは)小学校を訪ねた時の思い出話をされた。「松平先生は"こどもに音楽の機関車を"という本を書かれました。大人が強制するのではなく、それぞれの子供がそれぞれの機関車で進む。皆さんも他人に合わせようとはせず、自分にとって決定版の《アルメニアン・ダンス》を演奏して下さい」(関連リンク→丸谷理事長の弔辞)
昨年12/21に松平先生の追悼演奏会が開催された。参加した淀工生の一人が、舞台横に飾られていた先生の写真が次第に笑顔に変わってきたように感じたと丸ちゃんに言ったそうである。「実際にはそんな筈はないのであって、そう感じられる生徒が素晴らしいのです。つまり、演奏する我々はメッセージを発さない。やる方は淡々と、想いを込めて吹く。そうすれば、聴く人それぞれが何かを受け取ってくれるでしょう」
さて、《アルメニアン・ダンス》はアメリカの作曲家、アルフレッド・リードがアルメニア民謡を採集し、それを基に作曲した吹奏楽の名曲中の名曲である。
今回演奏されたパート1は5つの民謡がメドレー形式で登場する。
冒頭、輝かしい金管のファンファーレ。「ティティティーン…最初の三つの音に命を懸けて」と丸ちゃん。「私たちは以前、コンクールでこれを演ったんです(註:1986年全日本吹奏楽コンクール)。出だしは『うまくいってくれよ』と祈るような気持ちでした。じゃあ、まずマウスピースだけで演りましょう」
「16分音符は後ろに持ってこないように。一度全部16分に刻んで吹いてみましょう。ビートを感じて!」
「ここは楽器同士、みんなで会話する感じが欲しいですね。『買い物でもいこか』という調子で。でもへそ曲がりのサックスは『私は、いやや』とか言ってるんです」
「テヌート(音符の表す長さを十分保って奏すること)は記号(-)だけのものとten.とわざわざ書いてあるものは区別して吹いて下さい。文字で書いているということは、そこに作曲したリード博士の気持ちが込められているのです」
- Hoy, Nazan Eem 《おーい、僕のナザン》
5/8拍子のダンス。
「この変拍子は大きな2拍子と考え、その片方が若干長い(3/8 + 2/8)くらいのつもりで演奏して下さい。元々民謡なのですから、そんなにリズムが厳密ではない筈です。気楽にいきましょう」
「クレッシェンドからデクレシェンドにかけての表現は登山をするような気持ちで。山頂に達したからといって直ぐに下山しないでしょう?暫くのんびりして周りの風景を愉しみ、なだらかに下りましょう」
ゆったりとして、雄大な3拍子。
「《アルメニアン・ダンス》の中で私が一番好きな所です。ここをコンクールで演奏した時は本当に幸せな心地がしました」
「一人一人が心に沁みるような演奏を!遥か彼方にいる人に訴えかけるような良い音で」
「お互いの音をよく聴いて。でも、それぞれの芯はなくさない」
「ここはパイプオルガンの響きが欲しいなぁ。天井から音のシャワーが降り注ぐというか、神様の声が聞こえてくるような雰囲気が。私はここに来ると『もう、死んでもいい』と思うんです。実際には死にませんけれど」
疾走する2/4拍子。
「緊張感を持って。しかし、のびのびと、生き生きと」
「打楽器のリズムがハチャトゥリアンの《剣の舞》に似てるでしょう?思い切って行こう」(註:ハチャトゥリアンはアルメニア人)
「ここらあたりからは空中ブランコがゆれる感じが欲しい。そして最後に振り切れるんです」
Furioso(熱狂的に)と書かれた箇所。「ここは『もう私、知らん!』と怒り狂って」
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僕は自宅では佐渡 裕/シエナ・ウインド・オーケストラのDVD「ブラスの祭典 ライヴ2004」を繰り返し再生しながら練習した。DVDだと指揮を見ながら吹けるので、タイミングを合わせやすいのだ。そしてあることに気がついた。
Alagyaz 《アラギャズ山》の所に来ると、佐渡さんが手を合わせて祈るような仕草をされるのだ。「成る程、佐渡さんもここでは丸ちゃんと同じようなことを感じながら指揮されているんだな」ということがよく理解出来たのだった。
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さて、本番当日のリハーサルの模様、そして佐渡さんも登場した演奏会の報告は後日。ご期待下さい。
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