涼風真世、武田真治 IN 《東宝エリザベート》
梅田芸術劇場にて東宝「エリザベート」、今年2回目の観劇である。
- 朝海ひかる、山口祐一郎 IN 《東宝エリザベート》(前回の感想)
改めて観て、小池修一郎という人は本当に素晴らしい演出家だなぁと認識を新たにした。引っ越し公演で観たウィーン版(演出は楽劇「ニーベルングの指輪」等で名高いハリー・クプファー)より断然、僕は日本版の方が好きだ。
エリザベートが棺桶から登場し、棺桶に戻るという演出は小池さんが大好きなドラキュラ伝説を意識したものと想われる。トート(死神)=ドラキュラという図式。
また、(宝塚版ではカットされた)エーゲ海に臨むギリシャのコルフ島にエリザベートが往く場面では、背景画がなんとベックリンが描いた《死の島》(1880)であることに今回初めて気が付いた。
帰宅して調べてみると、実際この絵はコルフ島をモデルにしていると言われているそうである(→こちらのサイトが詳しい)。
ちなみに《死の島》は福永武彦の同名小説のモティーフとなり、ラフマニノフの交響詩にもインスピレーションを与えている。
そしてマダム・ヴォルフの娼館で登場するマデレーネはジャポネスクな衣装を身にまとっているが、これはクロード・モネの《ラ・ジャポネーズ》(1875)を参考にデザインしているのではないだろうか?髪型も良く似ている。
マダム・ヴォルフ自身、まるでロートレックの絵の中から飛び出してきたようだ。そしてこの場面の雰囲気・振り付けは明らかにミュージカル「キャバレー」(映画版の振り付けはボブ・フォッシー、舞台リバイバル版は映画「シカゴ」のロブ・マーシャル)を意識している。ナチスが絡んでくるという点でも、両者には共通点がある。
さて、出演者の感想に移ろう。まずはエリザベート役の涼風真世さん。
涼風さんと、ダブルキャストの朝海ひかるさんとの年齢差は12歳。だから第1幕の少女時代(エリザベートがオーストリア皇后になったのは16歳)を彼女が演じるには些か苦しいものがあった。ここは若い朝海さんの方が似合っている。しかしエリザベートが年を重ね、涼風さんの実年齢に近付く第2幕になると、俄然良くなっていく。元々彼女は美しいソプラノの持ち主なので、歌も安心して聴ける。特に終盤、フランツ・ヨーゼフ(石川 禅)とのデュエット「夜のボート」が絶品!深い悲しみを湛え、心に染み入る名唱だった。
今まで僕は生の舞台で8人、ビデオ・DVDを含めると11人のエリザベートを観てきた。花總まり(宝塚雪組&宙組)、白城あやか(星組)、月影瞳(ガラ・コンサート、1997)、大鳥れい(花組)、遠野あすか(花組・新人公演)、瀬奈じゅん(月組)、白羽ゆり(雪組)、一路真輝(東宝)、マヤ・ハクフォート(ウィーン版・来日公演)、朝海ひかる(東宝)、そして涼風真世である。歌唱力については中でも涼風さんはトップ・クラスだし、こと「夜のボート」に関する限り、NO.1であると断言しよう(総合的に判断して僕が一番好きなのは宝塚初代エリザベートの花ちゃんなのだけれど…)。
実は武田真治さんのトートには全く期待していなかった。ミュージカル「スウィーニー・トッド」で彼の舞台を既に観ていて、余り歌が上手くないことを知っていたから。ところが意外にも(失礼!)良かったので驚いた。歌い方はシャウトするタイプだが、結構高い声が出る。少なくとも宝塚版の麻路さきさん、彩輝直さん、そして東宝版の内野聖陽さんより断然マシ。考えてみればウィーン版・初代トートのウーヴェ・クレーガーは「ジーザス・クライスト=スーパースター」や「ロッキー・ホラー・ショー」を当たり役とするロック系スターだったのだし、武田さんの歌唱法はこの役に合っているのだろう。
兎に角、武田トートは耽美である。化粧が似合うし、ポーズのひとつひとつが美しい。ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」に登場する美少年タッジオ(ビヨルン・アンデルセン)をご存じなら、あのイメージに近い。胸元を大きく開いているのもセクシーだ。世紀末デカダンスを匂わせる芳醇な香り。そして彼の指の動きのしなやかさ!僕はミュージカル「ミス・サイゴン」でエンジニアを演じたジョナサン・プライスや市村正親さんの手先を想い出した。まあ、武田さんより涼風さんの方が背が高く見えるのが、唯一の玉に瑕だろうか?
という訳で、今回のダブル・キャストに関して涼風エリザと朝海エリザは一長一短で互角の勝負。トートは武田真治を断固推したい。これが僕のファイナル・アンサーである。
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コメント
涼風・武田コンビのレビューありがとうございました。
予想通り、涼風真世は後半で良さが光るタイプでしたか。
年齢差を考えたらそうでしょうね。
一路真輝よりは涼風真世のほうが線が細いので、
エリザベートには似合ってるかと思います。
武田真治は・・・これを読んで見たくなりました。
もう無理ですけど。
内野トートも、初演よりは再演時のほうが歌に関しては
あれでもずいぶん良くなっていたんですけどね。
内野トートで印象的だったのは、再演のとき、
「最後のダンス」を歌い終わるときに、
ダーッと階段を一気に駆け上った演技で、
さすがにあれは体の重い山口トートには
無理だな、と二人の役作りが全然違うことに
気づかされたのを思い出しました。
エリザベートは今回ぐらい二人の俳優のタイプが違うと
正直迷いますよね。
「観劇当日に次回のチケットをお買い求めになった方は
割引いたします」なんてけちなことをせずに、
チケット代金、もう少し下げてくれたらいいのにと
思います。
投稿: ぽんぽこやま | 2009年1月31日 (土) 10時20分
はじめまして。レビュー、興味深く読ませていただきました。特に、コルフ島の場面の背景画が、ベックリンの「死の島」だったなんて。。。次回観劇の楽しみが一つ増えました。自分の目で、しっかり確認してこようと思います。
「死の島」は、中野京子著「怖い絵2」を読んだときから気になっていました。それが、コルフ島をモデルにして書いた絵だったなんて。。。しかも「エリザ」に出てくる場面の一つになっているなんて。。。史実でも、エリザベートは、コルフ島で、詩を作ったりしたんでしょうかね~。それとも、小池さんの創作?今回の公演が終わったら、その辺のところ、じっくり調べてみようかな、などと思っています。
私は、武田真治さんのFANで、「エリザベート」を見続けていますが、武田さんに関しても、とても好意的なご意見を書いてくださっていて、こちらも嬉しかったです。
私もブログを書いていますが、よかったらのぞきに来てください。リンクや、トラックバックもしてみたいのですが、初心者ゆえ方法がわかりません。。。
投稿: よねママ | 2009年1月31日 (土) 12時55分
ぽんぽこやまさん、こんにちは。
涼風さんと朝海さんは宝塚歌劇在団中、どちらも「フェアリー」系と呼ばれていましたよね。だからふたりの資質は似たところがあるのではないでしょうか?声の高さは全然違いますけれど。
朝海さんの初舞台は1991年月組の「ベルサイユのばら-オスカル-編」。この時オスカルを演じていたのが涼風さん。その後長い間「オスカル編」は封印され、2006年に雪組で久々に再演されました。そのときの主役が朝海さん。浅からぬ縁ですね。
投稿: 雅哉 | 2009年1月31日 (土) 14時03分
よねママさん、コメントありがとうございます。
コルフ島にエリザベートの離宮が実際にありますし、エリザベートの書いた詩は現在も残っており、それが掲載された本も出版されているようです。彼女がハイネを崇拝していたというのも史実だそうです。
投稿: 雅哉 | 2009年1月31日 (土) 14時15分