淀工「グリーンコンサート」2009 IN 大阪城ホール
大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部、創部50周年記念演奏会(グリーンコンサート)当日朝の様子だ。《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》出演者は、大阪城ホール前の噴水に11時に集合であった。事前に昼食は各自済ませておくようにという指示があった。
参加証を手に列を作り、楽屋口からホール内へ。IDカードを受け取り胸に提げる。
会場では既に丸谷明夫 先生(丸ちゃん)/淀工吹奏楽部がリハーサルを行っていた。三年生全員が並んで歌う「乾杯」。丸ちゃんは「全体もっと後ろに下がれ。背が低いのは前に出してやれ」などと指示を飛ばしている。そこへ司会者、田頭先生のアナウンス。「君たちの前途に幸あらんことを祈ります…」するとそれに重ねて丸ちゃんの怒鳴り声。「お前らに幸とかそんなもん、あるかい!」これには傍で聞いていて爆笑してしまった。
淀工生には厳しい丸ちゃんだが、一般参加者に対しては腰が低く、口調もとても丁寧である。「今日は皆さん、朝早くからありがとうございます。お弁当も支給せず、気が利かない主催者ですみません」といった調子。北海道や九州からの参加もあり、中には朝4時に出発して来た人もいたそうだ。
アルメニアン・ダンス自体は全体をさらっと通す程度の簡単なリハだった。淀工現役生とOB、そして一般参加の打楽器がステージに上がり、その他はステージ両脇という配置。
午後3時、いよいよ本番が始まる。一万人を収容する大阪城ホールは満席。立ち見も出た。ちなみに新聞報道によれば、高校吹奏楽部の単独演奏会の開催は同ホール初めてだそうだ。そりゃそうだろう。東京でいえば高校生が日本武道館でコンサートするようなものである。
まずは淀工の十八番であるマーチから。
- ハイデックスブルク万歳!
きびきびしたテンポが小気味好い。そしてもう何度も書いてきたことだが、淀工最大の武器は美しいpp(ピアニッシモ)にある。弱音が冴え渡ってこそ、ff(フォルテシモ)が生きる。
- カーペンターズ・フォーエバー
丸ちゃんが本家カーペンターズより沢山演奏していると豪語する曲。マーチングで使用される短縮版ではなく全長版。様々な楽器のソロが愉しい。
- 大阪俗謡による幻想曲
丸ちゃん/淀工が本年度もコンクール全国大会金賞に輝いた曲。サマーコンサートでは全長版が披露されたが、今回はコンクール用短縮版だった。指揮は出向井先生に交代。丸ちゃんの「大阪俗謡」が祭りの熱気を余すところなく表現しているとすれば、出向井先生のそれはクールであっさり流した印象。
関連記事:
第56回全日本吹奏楽コンクール(2008)高校の部を聴いて
続いてOBによる演奏。指揮は再び丸ちゃん。
- なにわのモーツァルト「キダ・タロー」メドレー
キダ・タロー作曲のCMソング曲当てクイズもあった。編曲を担当したのは小島里美さん。そう、大阪市音楽団がよく演奏するあの見事なアレンジ「ハウルの動く城」~人生のメリーゴーランドを手掛けた人だ。今回の仕事も申し分ないものであった。
ここでお約束、キダ・タローさん登場。丸ちゃんに対して「先生、もう僕に電話掛けんといて。これからはメールにして下さい。声が悪い上に怒鳴るから何言うとるんだか聞き取れん」とか「あのわけの分からん気色(きしょ)い曲の後で僕のをやってくれてありがとう」といった調子で、会場は大ウケ。
- 幻想曲「シルクロード」(藤田玄播 編)
これは情感豊かで心に響く旋律をじっくり味わった。OBたちによる磨かれた音色が光る。
- マーチング オン ステージ(ルパン三世~銀河鉄道999~翼をください~We Are The World)
一年生のみの演技。指揮は葦苅先生。翼をくださいは宮川彬良の目が覚めるようなアレンジで。手話が付いて会場も歌った。巨大な鳩が忽然と現れ空中に羽ばたいていくという見せ場もあって、盛り上がる。We Are The World では真っ暗になった場内を、観客全員手に持ったサイリウムの光が幻想的に揺らめいた。
- 1000人の合同演奏「アルメニアンダンス・パート I 」
そして休憩を挟んでこれがあった訳だが、何しろ僕は出演者なので客観的感想は書けない。「アルメニアン・ダンス」という曲は昔から大好きだったが、実は今まで一度も演奏する機会がなかった。その憧れの曲を、しかも丸ちゃんの指揮で吹ける!これ以上の幸せがあるだろうか?もうただ一言、ありがとう。それに尽きる。
- ふるさと
淀工現役&OBが伴奏し、一万人の大合唱となった。
- 大序曲「1812年」
これはステージ背部の客席に埼玉県立伊奈学園総合高等学校と岡山学芸館高等学校吹奏楽部(いずれも全日本吹奏楽コンクール金賞校)が陣取り、バンダ(金管別働隊)を担当。更に向かい側の客席には淀工OBのバンダがずらりと並んで大阪城ホールは壮大なサラウンド音響に包まれた。
- ザ・ヒットパレード(パラダイス銀河~ヤングマン~青い山脈~月光仮面~羞恥心~幸せなら手をたたこう~三三七拍子~ありがとう~明日があるさ~乾杯)
青い山脈と月光仮面は創部当時のヒット曲ということで選ばれたそうだ。最後は丸ちゃんが卒業する三年生に餞(はなむけ)の言葉、「ここまで頑張ってきたことに乾杯!」
アンコールは、まずこの曲。
- ジャパニーズ・グラフティIV~弾厚作作品集~(お嫁においで、サライ)
ここで兵庫県立芸術文化センターの芸術監督:佐渡 裕さんが登場し、丸ちゃんに花束贈呈。佐渡さんからのお話があった。
1974年。当時中学一年生だった佐渡少年はコンクールで丸ちゃん/淀工の演奏する課題曲「高度な技術への指標」を聴き、その音色の美しさに衝撃を受けたそうである。そのことがずっと忘れられず、シエナ・ウインド・オーケストラを指揮するようになってまず最初に取り上げたのがこの曲だったとか(ちなみにDVD「ブラスの祭典ライヴ2004」には「高度な技術への指標」と、アルメニアン・ダンス全曲が収録されており、この横浜で行われたコンサートには丸ちゃんも招待され、佐渡さんからの呼びかけでステージに上がる姿を見る事が出来る)。
そこで「折角ですから……」と丸ちゃんが指揮棒を手渡す。そして佐渡さんの指揮で、
- 星条旗よ永遠なれ
「周りの方(1000人のアルメニアン・ダンス参加者)も吹きますか?」と佐渡さんはまず丸ちゃんに確認したが、この時テンポをどこまで上げられるか考えておられたのだろう。淀工生だけだと知り、佐渡さんは曲の終盤容赦なくアクセル全開、まるで鬼のようなスピード感でぐいぐい引っ張っていった。そしてそれにしっかり食い付いていった生徒たちも圧巻だった。
余りにも凄まじい演奏だったので、曲が終わり観客たちは佐渡/淀工が事前にリハーサルしていたんじゃないかと噂したそうだ。でも僕はリハーサルの「星条旗」を聴いていたが、その時点では確かに丸ちゃんが振っていた。本当に予定外の出来事だったのである。
- 六甲おろし
ラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三です」の道上さんが登場。来シーズンの阪神優勝を祈念して、思いっきり歌われた。一万人の「六甲おろし」も大迫力だった。
- 行進曲「ウエリントン将軍」
この曲と共に丸ちゃん退場。こうして3時間半に及ぶ、夢のような祝宴は幕を閉じた。
さて、フェスティバルホールは現在改築中。来年のグリコン(グリーンコンサート)は何処でやるのだろう?是非再び大阪城ホールでやってもらいたいし(使用料が高いので赤字だそうだが)、《1000人のアルメニアンダンス・パート I 》みたいに丸ちゃんの指揮で演奏出来る機会がもし設けられるのならば、僕は喜び勇んで駆けつけるだろう。そしてそれは他の参加者たち多くの想いでもある筈だ。
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コメント
鯉太郎です。淀工の演奏会、楽しみに読ませて頂きました。実は私の姪が伊奈学園総合高等学校の吹奏楽部で、今回大阪城ホールで演奏したのです。感動していました。僕も聴いて見たかったです。雅哉さんの丸谷先生への尊敬を、ひしひしと感じられる文章でした。ありがとうございました。
投稿: 鯉太郎 | 2009年1月26日 (月) 21時50分
鯉太郎さん、嬉しいお言葉ありがとうございます。
伊奈学園は毎年グリーンコンサートに客演し、バンダを担当していますね。僕は宇畑知樹先生の大ファンです。今年度の全日本吹奏楽コンクール、バッハ/シャコンヌは大変な名演でした。
今年11月に大阪城ホールで開催される全日本マーチングコンテスト、淀工は3出休みですが伊奈学のパフォーマンスを愉しみにしています(多分淀工はエキシビションで登場するのではないかと期待しているのですが)。
投稿: 雅哉 | 2009年1月26日 (月) 22時30分