寺神戸 亮/ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラによるJ.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲
大阪府豊中市(阪急宝塚線・沿線)にある、ノワ・アコルデ音楽アートサロンでバロック・ヴァイオリンの名手・寺神戸 亮さんの演奏を聴いた。
プログラムはJ.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲。2日間に渡って全曲が演奏された。古くて新しい楽器ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを使用し、世界で初めて同曲をレコーディングした寺神戸さんのCDはこの度、2008年度レコード・アカデミー賞(器楽部門)に輝いた。
レコード・アカデミー賞には嘗て《特別部門/日本人演奏》というのがあったが、平成10年(1998)から撤廃されている。つまり特別扱いしなくても、日本人の演奏が十分世界に太刀打ちできるようになったということだ。ちなみに昨年度は鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の「ミサ曲ロ短調」が大賞銀賞に選出されている。余談だけれど関西の古楽愛好家の皆さん!来年4月12日(日)に兵庫芸文であるBCJの「マタイ受難曲」(メンデルスゾーン版)は決して聴き逃されませんよう。詳細はこちら。今年、僕が彼らの演奏を聴いた感想は下記。勿論、来年も聴きに往きます。
閑話休題。さて、寺神戸さんの話だ。楽器についての詳しいことは下記記事に既に書いたので省略する(寺神戸さんについても触れた)。
クイケンの演奏で聴いた時は低音が物足りなく到底チェロには敵わないと感じたのだが、寺神戸さんで聴くと十分深い響きがして「無伴奏チェロ組曲に対するこういうアプローチも”あり”かも知れない」と目から鱗の体験であった。これはクイケンと寺神戸さんの腕の違いかも知れないし、ラ・プティット・バンドを聴いたのは821席のいずみホールで今回はたった55席のサロン、しかも奏者から5mくらいしか離れていないという状況の相違なのかも知れない。
ガット弦を張ったヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは、ざらざらした雑味(ざつみ)のある音色がする。つまりそれは豊な倍音を含んでいるということだ。この楽器でバッハを聴いていると、自分が音楽の森に彷徨いこんだような錯覚に捕らわれる。そして僕は確かに、楽器が呼吸をしているのを感じることが出来た。これはモダン楽器のスチール弦では絶対に味わうことの出来ない感触である。
曲の合間に寺神戸さんのトークもあった。バッハゆかりの地、ドイツ・ライプチッヒの博物館に元々ヴィオラ・ポンポーザという楽器が保管されており、これがバッハが考案しJ.C.ホフマンが製作したものらしいこいうこと。しかしその奏法は長年謎のままで、最近になって肩にかけて演奏する手法が”発見”されたこと。バッハ直筆の楽譜が失われ写譜しかない「無伴奏チェロ組曲」が当時スパッラで演奏されたかどうかは不明であり、現時点ではあくまで仮説でしかない。しかし少なくともチェロよりは奏法が自然である、等といったお話をされた。
休憩時間にはベルギー産ホット・チョコレートのサーヴィスもあった。アット・ホームな雰囲気でとても良かった。これでお代がたった3,500円とは申し訳ない位である。なんと北は北海道から、南は九州からもこの演奏会のために駆けつけてこられたファンの方がいらっしゃったそうだ。
なお、アンコールもあった。バッハ/「無伴奏フルートのためのパルティータ」~サラバンドを移調し、さらにオクターブ下げた演奏で、これが摩訶不思議なことにスパッラに見事に合っていたのだから驚きであった。
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