赤壁/レッドクリフ Part I
評価:B+
映画公式サイトはこちら。三国志の物語はややこしいので、映画を観る前にHPの「物語」と「キャラクター&マップ」の項は押さえて置いた方が無難だろう。
5時間を越える大作になったため、2部作に分けて公開されることになった。また当初、《劉備》役はジョン・ウー監督の朋友チョウ・ユンファ(「男たちの挽歌」)と発表されていたが契約が合意に至らず、残念なことに降板となったそうだ。
物語の前半なので評価は難しいが、映画館に足を運ぶ価値はある面白い作品であることは間違いない。あの名作「ロード・オブ・ザ・リング」だって第1部《旅の仲間》は詰まらなかったのだし、上出来だろう。
僕は「赤壁」を観ながら「ベン・ハー」「十戒」など往年のハリウッド製スペクタクル史劇を想い出した。オールスター・キャストで堂々とした風格、スケール感がある。
香港時代の「男たちの挽歌」('86)からジョン・ウーといえば、
- 二丁拳銃(の横っ飛び連射)
- 白い鳩
- アクション・シーンでのスローモーション。特にロングコートが翻るあの格好よさ!
この美学はハリウッドに乗り込んでからも変わらない。「フェイス/オフ」では教会で鳩を飛ばし、「ミッション・インポッシブル2」では敵のアジトという室内でも鳩を飛ばした。正に東洋のサム・ペキンパーの面目躍如である。
で、帰国して撮った「赤壁」なんだけれど、流石に三国志で二丁拳銃は使えない。だから二刀流に置き換えられた。しかし、白い鳩とスローモーションは健在。大いに愉しませてくれた。静と動の使い分けも見事。編集にリズムがあって彼の演出の円熟が感じられた。特に雨のシーンの静謐さが良かったなぁ。
それから岩代太郎の音楽も特筆に価する(彼の公式サイトはこちら)。僕が彼の音楽を初めて聴いたのは大林宣彦監督の「あした」('95)だった。その後TV「白線流し」('96)、大河ドラマ「義経」('05)などで卓越した仕事をし、ポン・ジュノ監督の大傑作「殺人の追憶」('03)では韓国映画にも進出した。「赤壁」は横笛の使い方が三国志の世界に絶妙に合っている。また周瑜と孔明が琴を使って対話し、お互いを理解する場面はこの映画の音楽的ハイライト。エレキギターでジャムセッションしているみたいで実にスリリング。手に汗握った。戦闘シーンの迫力ある音楽もグッド!
近年、久石譲(韓国「太王四神記」「トンマッコルへようこそ」、中国映画「おばさんのポストモダン生活」)、川井憲次(韓国映画「美しき野獣」「南極日誌」)、梅林茂(中国映画「LOVERS/十面埋伏」「王妃の紋章」)など日本の優れた作曲家たちのアジア進出が目立つ。その効果で明らかに韓国映画や中国映画は垢抜けてきた。こうした流れの中に「赤壁」もある。今から想えば「男たちの挽歌」なんか、音楽はダサかったからなぁ……。
今、アジアの映画人たちは結集し、大きな力で世界を席巻しようとしている。間もなくハリウッド一極集中の時代は終わりを告げるだろう。時代の潮流を押し止めることなど、もう誰も出来はしない。
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コメント
待ってました!
楽しく読ませて頂きました。そうですか。私も宣伝などで鳩の飛ぶシーンを見ました。そういう話があったのですね。一つ観る楽しみが増えました。
B+ですか。後半を観て1本の映画。それからの評価が楽しみです。
いつもありがとうございます。
投稿: 鯉太郎 | 2008年11月23日 (日) 19時11分
どこへコメントしたらよいのか分からなかったので、とりあえずこちらに送ります。申し訳ありません。
ある方のブログで知ったのですが「一音入魂! 全日本吹奏楽コンクール名曲・名演50」という本はご存じですか?パート2も出ました。私も手に入れてすごく楽しんでします。
ふっと思ったので、コメントさせて頂きました。お邪魔でしたら、削除して下さい。
投稿: 鯉太郎 | 2008年11月23日 (日) 19時23分
鯉太郎さん、コメントありがとうございます。
「一音入魂! 全日本吹奏楽コンクール名曲・名演50」は名著ですよね。これについては記事「続・大阪俗謡をめぐる冒険」で触れています。
パート2が出版されたことも知っていますが、こちらは未だ手に取っていません。いずれ読むつもりです。
投稿: 雅哉 | 2008年11月23日 (日) 23時54分