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2008年11月25日 (火)

バーンスタインに捧ぐ~佐渡 裕/PACオケ 定期

佐渡 裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)の第20回定期演奏会を聴いた。

今年、生誕90周年にあたるレナード・バーンスタイン(レニー)の作品を中心としたプログラム。

  • バーンスタイン/「キャンディード」序曲
  • バーンスタイン/交響曲第2番「不安の時代」
  • チャイコフスキー/交響曲第4番

会場にはレニーに関する、ミニ・コーナーも設置されていた。

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上の写真は佐渡さんが形見分けとして遺族から貰った、レニーのベスト。ちなみに大植英次さんはレニーが生涯最後のコンサートで使用した指揮棒とジャケットを譲られている。

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上の写真はレニーが自作の交響曲第3番《カディッシュ》などを指揮した、広島平和コンサート(1985年夏、原爆投下40周年)のポスター。岡本太郎氏のデザインだそうだ。当時14歳だった五嶋みどりさんがモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾き、その指揮を任されたのが若き日の大植英次さん(広島市生まれ)だった。

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開演15分前に 恒例の佐渡さんによるプレトークもあった。今年の「メリー・ウィドウ」に続き、来年は芸文でオペラ「カルメン」を上演する予定であること、先日ヨーロッパでその打合をし、舞台装置のミニチュアを見たが、素晴らしいプロダクションになるだろうということ、そしていつの日にかミュージカル「キャンディード」全曲も芸文で上演したい等のお話をされた。

「キャンディード」序曲佐渡さんがこの4月から司会をされているテレビ朝日「題名のない音楽会」のオープニング曲にもなっているのでお馴染みだろう。佐渡さんの十八番、自家薬籠中のものである。この曲は大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏でも生で4回聴いている。そこで両者の比較をしてみると……

指揮者の解釈という点ではどちらも申し分ない。弦楽器群は断然、大フィルに軍配が上がる。木管は五分五分の勝負。PACのオーボエ首席ドミトリー・マルキンさん(イスラエル出身)とクラリネット首席ロバート・ボルショスさん(セルビア出身)は本当に素晴らしい。金管はPACの方が上手いかな?そんな印象を受けた。さらに金管セクションに関して言えば、PACより大阪市音楽団(市音)いずみシンフォニエッタ大阪の方が実力が上だと僕は想っている。

プログラムを見ると、以前から当ブログで話題にしていた淀川工業(現・工科)高等学校(淀工)出身のクラリネット奏者・稲本 渡さんがPACのコアメンバー(レギュラー)になられたようだ。PACの契約年数は最長3年間だそうで、これからのご活躍を期待したい。なにわ《オーケストラル》ウィンズに出演される可能性もあるかも?

「不安の時代」は第二次世界大戦直後から作曲され、1949年に初演された曲。1948年にはソ連によるベルリン封鎖があり、同じ年にアメリカでは赤狩り(マッカーシズム)が始まった。そういう時代の空気を反映した交響曲である。

レニーは生涯でただ一度、映画音楽を作曲している。1954年にアカデミー作品賞・監督賞など8部門受賞した「波止場」である。レニーの音楽はノミネートに止まったが、僕は大傑作だと想っている。監督はエリア・カザン(他に「欲望という名の電車」「エデンの東」「草原の輝き」等が有名)。元共産党員だったカザンは'52年に非米活動委員会から弾劾された。投獄あるいは国外追放の危機に直面したカザンは司法取引し、11名の仲間の名前を告発した。

'98年にカザンはアカデミー名誉賞を受賞した。僕は授賞式の模様を衛星放送で観ていたが、一部の映画人からブーイングを浴びせられるなど会場は騒然とした空気に包まれた。アメリカの影の歴史である。

不安の時代」はピアノ独奏(ブルーノ・フォンテーヌ)を伴う全2楽章で、第1楽章は沈鬱な変奏曲。第2楽章は《仮面舞踏会》というJAZZYで狂騒的な音楽が登場。ここで佐渡さんはホンキートンク(音楽を演奏するアメリカ南部のバー)の雰囲気を出すためにわざと調律をずらしたアップライトピアノを用意された。

この交響曲の多面性が見事に表現された演奏で、後の「波止場」に通じるものが感じられた。そして希望の光が差し込む《エピローグ》では、プレトークで佐渡さんが仰ったように、ミュージカル「キャンディード」の終曲"Make Our Garden Grow"と共鳴するものがあった。

フォンテーヌさんはアンコールで、ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルーの後半部分を弾かれた。これは、ピアニスト=バーンスタインが最も得意とした曲で、レニーは生涯に2度レコーディングしている。指揮台に腰掛けピアノを横で聴いていた佐渡さんが涙を流しているように見えたのは、恐らく僕の目の錯覚ではないだろう。

鳴り止まない拍手に答え、フォンテーヌさんはアンコール2曲目を弾き始めた。最初はバッハのプレリュード風だったのが、次第にメロディを形成しレニーの「ウエストサイド物語」~サムウェアになった。祈るような音楽が静かに大ホールに響き、聴衆は物音一つ立てずそれにじっと耳を傾ける。そんな幸福なひと時であった。

There's a place for us,
Somewhere a place for us.
Peace and quiet and open air
Wait for us
Somewhere.

私たちの土地がある
どこかに私たちの土地がある
平和で静寂に包まれ、広々とした空が
私たちを待っている
どこかで…
(作詞:スティーブン・ソンドハイム)

アメリカが生んだ偉大な指揮者、作曲家、そして教育者であったレニーを極東の地・日本で偲ぶ。《音楽に国境はない》という言葉を実感した日であった。

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後半は佐渡さんが最も得意とするチャイコフスキー。エネルギーに満ちた熱い演奏に会場が盛り上がったことは今更、言うまでもないだろう。ちなみにこの第2楽章は佐渡さんがアメリカに渡り、レニーから初めてレッスンを受けた曲だそうである。

アンコールはクリスマス・シーズンということを意識してか、チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」からトレパック。前菜からデザートまでフルコースを堪能した気分で帰途に就いた。

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