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2008年11月

2008年11月30日 (日)

宝塚月組「夢の浮橋」「Apasionado !! 」

宝塚大劇場で月組公演を観劇。

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「夢の浮橋」は、源氏物語の最終章「宇治十帖」を舞台化したもの。台本・演出は和物に定評のある大野拓史。これが大劇場デビューとなる(演出のみなら先に「飛鳥夕映え」あり)。大野氏のインタビュー記事はこちら

大野作品では2005年にシアタードラマシティで観た雪組公演「睡れる月」(主演:朝海ひかる)に深い感銘を受けた。室町時代を舞台にしっかりした時代考証、そして古(いにしえ)の日本に対する並々ならぬ愛情が伝わり、たしかな美意識がそこにあったからである。だから期待していた通り「夢の浮島」は素晴らしい作品となった。

物語の発端である舞の場面から、モダニズムを感じさせる衣装に目を奪われた。場面転換も巧みで、全体を見通す目があり、明確なビジョンで貫かれている。特に宇治神社の祭礼の場面、光源氏の幻影が傀儡(くぐつ=操り人形)として現れる場面は鮮烈で、演出の巧さに唸った。和物に命をかける大野拓史の独壇場である。凄腕の若手演出家登場に快哉を叫びたい。VIVA ! TAKARAZUKA

匂宮と薫を演じた瀬奈じゅんおよび霧矢大夢が好演。文句なし。

なお、源氏物語は人物関係が複雑に入り組んでいるので、観劇前に公式サイトの《ストーリー》と《人物相関図》は予め予習されておくことをお勧めしたい。こちらからどうぞ。

また、実は匂宮は薫のことを愛していたのではないか?と仮説を立てて観ると、別の光が当てられ、物語が違った様相を呈してくるだろう。今回僕は「夢の浮橋」を見ながら、アラン・ドロン主演のフランス映画「太陽がいっぱい」(原作:パトリシア・ハイスミス、再映画化が「リプリー」)と物語の構造が似ていることに気がついた。友人フィリップを愛するがあまり、同一化して彼の恋人までも奪おうとする青年トム・リプリーが主人公である。興味のある方は浅田 彰氏の批評《「太陽がいっぱい」から「リプリー」へ》をご覧あれ。

更に言えば、登場人物の全てが亡くなった光源氏の影に囚われているという図式は、映画やミュージカルにもなったダフネ・デュ・モーリアの小説「レベッカ」を彷彿とさせるものがある。

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さて後半、ファナティック・ショー「Apasionado !! (アパッショナード)」は作・演出/藤井大介。"Apasionado"とはスペイン語で「熱い」「情熱の男」という意味だそうだ。

僕は藤井のショーに関して、「Cocktail ーカクテルー」や「Joyfull !!」等、センスに欠ける駄目な演出家だと想っていた。しかし意外なことに今回の新作は非常に出来が良くて吃驚した。冒頭、SFチックな狂言廻しが登場した時は「またやっちまったか!」と落胆したのだが、その後ラテンのリズムが盛り上がり、煌びやかな衣装に包まれ、圧倒的な人海戦術によるダンスが始まるともう熱狂の渦に飲み込まれた。嗚呼、That's TAKARAZUKA !!

宝塚歌劇で芝居とショーの二本立ての場合、《どちらも大当たり》というのは極めて希なことである。だからこそ、今回の組み合わせは是非とも劇場に足を運ばれることをお勧めしたい。

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(上の写真はホテル阪急インターナショナルで撮影)

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2008年11月29日 (土)

コンサートマナー考

コンサートマナーについて検索したらこんなベージに出くわした。

僕が大阪に来たのは今から約3年半前。それまでは仕事で中国・四国地方を転々とし、各都市(岡山市・広島市・高松市・松山市など)でクラシック・コンサートを聴いていた。

大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会にザ・シンフォニーホールに足を運ぶようになり、まず最初に驚いたのは客席のマナーの悪さである。

演奏中に隣の人と話をする、ビニール袋からカサカサ音を立てチラシを取り出す、飴の包みをクシャクシャと開ける……。ホール内飲食禁止なのに、大阪人は飴が食べ物だという認識がないのだろうか?ちょっと他所では考えられない事態である。指揮者がタクトを下ろす前に拍手したり、「ブラボー」の声を上げるのにも閉口した。この状況は大阪シンフォニカー交響楽団の定期も似たり寄ったりである。

そして何年か観察しているうちに気がついた。じつはこの行儀の悪い人たちの大半は年寄りの定期会員なのである。若い人たちはとても静かで、真剣に聴いている。一番騒がしいのは定期会員の集中する1階席中央付近と相場が決まっている。だから最近僕は1階席を避け、なるべく2階で聴くようにしている。

同じ大フィルでも、青少年のためのコンサートとか下野さんが指揮された吹奏楽ファンに捧げる企画など、定期会員が少なく客層が若いコンサートでは会場がとても静かだ。

兵庫芸術文化センター管弦楽団の定期演奏会も心穏やかに聴け、雰囲気がとても良い。ここの第1回定期は2006年4月8日だった。つまりオケも若ければ、定期会員も若いからである。

そこで在阪オーケストラ事務局の方々に提案したい。マナーを知らない一部の定期会員たちに下記いずれかの啓蒙活動を行ってはどうだろう?

  • 演奏中に飴の包み紙を開けないよう場内放送する。
  • 兵庫県立芸術文化センターのようにマナーについてプログラムに記載する。

静寂の中、音楽だけにひたすら没頭出来る環境が、いつの日か大阪でも実現されることを切に願う次第である。

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2008年11月27日 (木)

日本テレマン協会/教会音楽シリーズ「メサイア」

11/24(祝)兵庫県西宮市にあるカトリック夙川教会でヘンデル/オラトリオ「メサイア」全曲を聴いた。なお、前にも書いたが別に僕はキリスト教徒ではない。ただ純粋にバロック音楽を愛しているだけである。

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演奏は延原武春/テレマン室内管弦楽団&合唱団

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管楽器はモダン楽器による演奏。弦はピリオド楽器によるピリオド奏法(ノン・ビブラート)。またバロック・ティンパニも使用された。古楽器に関しては関西圏の音楽家たち、特に管楽器の演奏技術は残念ながらまだまだ未熟なので、テレマンの演奏もこのやり方が一番しっくり来る。

鈴木雅明・秀美兄弟は兵庫県神戸市出身。だからバッハ・コレギウム・ジャパンオーケストラ・リベラ・クラシカの演奏がもっと関西で聴ければありがたいのだが、なかなか難しい。

「メサイア」は演奏時間がたっぷり2時間半。長丁場であったがバロックを教会で聴くという体験は格別のものがある。やはりバッハやヘンデルの音楽は本来、だだっ広いコンサートホールで聴くべきものではないのだろう。

アンコールでは「ハレルヤ・コーラス」がもう一度演奏され、聴衆も一緒に歌った。暗譜で、しかも英語で歌える人が多いのには本当に驚かされる。

今回の演奏はNHKが映像収録していたので、いずれBS等で放送されるだろう。また12/25にはこの同じ場所で、バッハ/クリスマス・オラトリオが演奏される。詳細はこちら

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2008年11月26日 (水)

第3回繁昌亭大賞と天神寄席(11/25)

第3回繁昌亭大賞が発表された。

  • 大  賞/桂吉弥
  • 奨励賞/笑福亭銀瓶
  • 爆笑賞/桂文華
  • 創作賞/桂三金
  • 輝き賞/桂吉坊

この賞は上方落語の定席・繁昌亭を中心に活躍する入門25年以下の落語家(輝き賞は入門10年以下)から選ばれる。上方落語協会に所属しない枝雀一門らは対象外。選考するのは大阪天満宮や天神橋筋商店街など地元関係者らだそうだ。

第2回で吉弥さんは大賞の次点である奨励賞を受賞されているので、今回の連続受賞には驚いた。いや、実力的にはまことに申し分ない。「こいつは過去に受賞しているから、今度は別の人に」という持ち回りでないのが素晴らしい。これなら若手は必死で切磋琢磨するだろう。東京の真打制度は入門してある程度の年数が経てば自動的になれてしまうから詰まらない。

 関連記事:

今回特に嬉しかったのは吉坊さんの輝き賞。9/4の記事「たまvs.吉坊 二人会」で彼を褒めちぎり、「輝き賞を受賞するのも時間の問題だろう」と書いていたからである。これで僕の感想文にも多少は信憑性が出てきただろうか??

それにしても過去3回の繁昌亭大賞で、春團治一門が一人も受賞していないのはちょっと情けない。

さて、11/25の天神寄席(夜席)は東京から金原亭馬生さんを迎え、桂春之輔さんとの二人会だった。ゲストが春之輔さんの師匠である春團治さん。

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  • 桂  壱之輔/平林
  • 金原亭馬治/真田小僧
  • 金原亭馬生/安兵衛狐
  • 桂  春之輔/立ち切れ線香
  • 対談(馬生、春之輔、春團治)
  • 桂  春團治/祝のし
  • 金原亭馬生/文七元結(人情噺)

「安兵衛狐」は上方落語「天神山」を江戸に移植したもの。東西の違いが分かり、なかなか興味深かった。

対談で面白かったのは、昔大阪の寄席に東京の落語家が登場しても、お客は全然噺を聴こうとせず騒がしかったということ。腹を立てたその噺家は高座を5分くらいで切り上げて、さっさと帰ってしまったとか。

僕も江戸の人情噺は苦手なので、当時の大阪人の気持ちが良く理解出来た。

春團治さんの「祝のし」を聴くのは何と今年4回目!それなのに、何度でも大笑いしてしまうのは磨き上げられた芸の力だろう。

春之輔さんの「立ち切れ」はさすが年輪を重ねたベテランにしか出せない味わいがあり、じっくり聴かせてくれた。

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2008年11月25日 (火)

バーンスタインに捧ぐ~佐渡 裕/PACオケ 定期

佐渡 裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)の第20回定期演奏会を聴いた。

今年、生誕90周年にあたるレナード・バーンスタイン(レニー)の作品を中心としたプログラム。

  • バーンスタイン/「キャンディード」序曲
  • バーンスタイン/交響曲第2番「不安の時代」
  • チャイコフスキー/交響曲第4番

会場にはレニーに関する、ミニ・コーナーも設置されていた。

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上の写真は佐渡さんが形見分けとして遺族から貰った、レニーのベスト。ちなみに大植英次さんはレニーが生涯最後のコンサートで使用した指揮棒とジャケットを譲られている。

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上の写真はレニーが自作の交響曲第3番《カディッシュ》などを指揮した、広島平和コンサート(1985年夏、原爆投下40周年)のポスター。岡本太郎氏のデザインだそうだ。当時14歳だった五嶋みどりさんがモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾き、その指揮を任されたのが若き日の大植英次さん(広島市生まれ)だった。

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開演15分前に 恒例の佐渡さんによるプレトークもあった。今年の「メリー・ウィドウ」に続き、来年は芸文でオペラ「カルメン」を上演する予定であること、先日ヨーロッパでその打合をし、舞台装置のミニチュアを見たが、素晴らしいプロダクションになるだろうということ、そしていつの日にかミュージカル「キャンディード」全曲も芸文で上演したい等のお話をされた。

「キャンディード」序曲佐渡さんがこの4月から司会をされているテレビ朝日「題名のない音楽会」のオープニング曲にもなっているのでお馴染みだろう。佐渡さんの十八番、自家薬籠中のものである。この曲は大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏でも生で4回聴いている。そこで両者の比較をしてみると……

指揮者の解釈という点ではどちらも申し分ない。弦楽器群は断然、大フィルに軍配が上がる。木管は五分五分の勝負。PACのオーボエ首席ドミトリー・マルキンさん(イスラエル出身)とクラリネット首席ロバート・ボルショスさん(セルビア出身)は本当に素晴らしい。金管はPACの方が上手いかな?そんな印象を受けた。さらに金管セクションに関して言えば、PACより大阪市音楽団(市音)いずみシンフォニエッタ大阪の方が実力が上だと僕は想っている。

プログラムを見ると、以前から当ブログで話題にしていた淀川工業(現・工科)高等学校(淀工)出身のクラリネット奏者・稲本 渡さんがPACのコアメンバー(レギュラー)になられたようだ。PACの契約年数は最長3年間だそうで、これからのご活躍を期待したい。なにわ《オーケストラル》ウィンズに出演される可能性もあるかも?

「不安の時代」は第二次世界大戦直後から作曲され、1949年に初演された曲。1948年にはソ連によるベルリン封鎖があり、同じ年にアメリカでは赤狩り(マッカーシズム)が始まった。そういう時代の空気を反映した交響曲である。

レニーは生涯でただ一度、映画音楽を作曲している。1954年にアカデミー作品賞・監督賞など8部門受賞した「波止場」である。レニーの音楽はノミネートに止まったが、僕は大傑作だと想っている。監督はエリア・カザン(他に「欲望という名の電車」「エデンの東」「草原の輝き」等が有名)。元共産党員だったカザンは'52年に非米活動委員会から弾劾された。投獄あるいは国外追放の危機に直面したカザンは司法取引し、11名の仲間の名前を告発した。

'98年にカザンはアカデミー名誉賞を受賞した。僕は授賞式の模様を衛星放送で観ていたが、一部の映画人からブーイングを浴びせられるなど会場は騒然とした空気に包まれた。アメリカの影の歴史である。

不安の時代」はピアノ独奏(ブルーノ・フォンテーヌ)を伴う全2楽章で、第1楽章は沈鬱な変奏曲。第2楽章は《仮面舞踏会》というJAZZYで狂騒的な音楽が登場。ここで佐渡さんはホンキートンク(音楽を演奏するアメリカ南部のバー)の雰囲気を出すためにわざと調律をずらしたアップライトピアノを用意された。

この交響曲の多面性が見事に表現された演奏で、後の「波止場」に通じるものが感じられた。そして希望の光が差し込む《エピローグ》では、プレトークで佐渡さんが仰ったように、ミュージカル「キャンディード」の終曲"Make Our Garden Grow"と共鳴するものがあった。

フォンテーヌさんはアンコールで、ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルーの後半部分を弾かれた。これは、ピアニスト=バーンスタインが最も得意とした曲で、レニーは生涯に2度レコーディングしている。指揮台に腰掛けピアノを横で聴いていた佐渡さんが涙を流しているように見えたのは、恐らく僕の目の錯覚ではないだろう。

鳴り止まない拍手に答え、フォンテーヌさんはアンコール2曲目を弾き始めた。最初はバッハのプレリュード風だったのが、次第にメロディを形成しレニーの「ウエストサイド物語」~サムウェアになった。祈るような音楽が静かに大ホールに響き、聴衆は物音一つ立てずそれにじっと耳を傾ける。そんな幸福なひと時であった。

There's a place for us,
Somewhere a place for us.
Peace and quiet and open air
Wait for us
Somewhere.

私たちの土地がある
どこかに私たちの土地がある
平和で静寂に包まれ、広々とした空が
私たちを待っている
どこかで…
(作詞:スティーブン・ソンドハイム)

アメリカが生んだ偉大な指揮者、作曲家、そして教育者であったレニーを極東の地・日本で偲ぶ。《音楽に国境はない》という言葉を実感した日であった。

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後半は佐渡さんが最も得意とするチャイコフスキー。エネルギーに満ちた熱い演奏に会場が盛り上がったことは今更、言うまでもないだろう。ちなみにこの第2楽章は佐渡さんがアメリカに渡り、レニーから初めてレッスンを受けた曲だそうである。

アンコールはクリスマス・シーズンということを意識してか、チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」からトレパック。前菜からデザートまでフルコースを堪能した気分で帰途に就いた。

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2008年11月24日 (月)

流星の絆、アリアケ、ハヤシライス

今、テレビドラマは「篤姫」と「流星の絆」が面白い。宮崎あおいはとても綺麗になったし、戸田恵梨香は可愛い <それかよ!

宮崎あおいは映画デビュー作「あの、夏の日/とんでろ、じいちゃん」(1999、大林宣彦監督)から観ているが、撮影当時彼女はまだ13歳だった(遠い目)。塩田昭彦監督の映画「害虫」(2002)も好きだったなぁ。これであおいちゃんはナント三大陸映画祭の主演女優賞を獲ったんだ。しかし、まさか彼女がここまで国民的女優となるとは想像だにしなかった。つい最近、オリコンが20~35歳の女性を対象に行なった調査「なりたい顔」ランキングでは第2位だったそうだ(1位は柴咲コウ)。

閑話休題。で「流星の絆」の話だ。東野圭吾が原作で、脚色が劇団「大人計画」のクドカン(宮藤官九郎)ということで「これは期待出来るぞ!」と観始めた。

東野圭吾のミステリーは好きで、10冊くらい読んでいる。今はガリレオ・シリーズが人気があるみたいだが、僕が東野の最高傑作だと思うのは「白夜行」('99出版)。次点が「手紙」かな?彼は「容疑者Xの献身」('05出版)ではなく、「白夜行」で直木賞を受賞すべきだったと今でも信じて疑わない。真面目なミステリーだけではなく、「名探偵の掟」「超・殺人事件」などバカミス(ユーモア小説)の東野も好きだ。

クドカンの脚本はオリジナルだと変な方向に暴走して失敗することもしばしばあるが、原作付き(映画「GO」「ピンポン」)とか落語(「タイガー&ドラゴン」)といった縛りがあると、卓越した才能を発揮する。

「流星の絆」は初っぱなの第1話から驚かされた。コメディ・タッチでクドカン・ワールド全開だったからである。シリアスな物語をここまで自分の色に染めてしまうクドカンも天晴れだし、それを許す東野の懐の広さも大したものだ。

原作に忠実であることを求める東野ファンからは非難囂々のドラマ版だが、僕はクドカンのオリジナル部分に違和感を感じないし、断固支持したい。

さて、「流星の絆」で重要な役割を果たすのが洋食屋”アリアケ”のハヤシライスである。おかげで今、ハヤシライスが静かなブームになっているという。なんとハウスから「流星の絆《特製ハヤシライス》」というレトルト食品も発売されているようだ。詳細はこちら

僕が大阪で一番お気に入りなのがJR野田駅に近い元船場「精養軒」のハヤシライス(二番目に好きなのは心斎橋「グリルばらの木」のハッシュドビーフ)。

先日、ザ・シンフォニーホールに市音の定期を聴きに往く前、夕方6時頃「精養軒」に立ち寄った。

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ハヤシライスを注文すると、「済みません、今日はいつもよりハヤシの注文が多くて、もう肉がなくなってしまったんです」……え、えーっ!

こんな事態は初めてだ。ドラマの影響なんだろうか……。

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2008年11月23日 (日)

秋山和慶/大阪市音楽団 定期

日本を代表するプロの吹奏楽団である大阪市音楽団(市音)の定期演奏会をザ・シンフォニーホールで聴いた。指揮は市音の特別指揮者・芸術顧問の秋山和慶さん。秋山さんは以前から大阪フィルハーモニー交響楽団を振られているし、12月には大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会にも登場される予定。

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曲目は以下の通り。

  • ティケリ/ワイルド・ナイツ!
  • チェザリーニ/青い水平線
  • ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」セレクション(森田一浩 編)
  • 櫛田胅之扶(てつのすけ)/星へのきざはし ~第2部~世界初演
  • バーンスタイン/キャンディード序曲(W. ビーラー 編)
  • ガーシュウィン/パリのアメリカ人(保科 洋 編)

疾風怒濤の如く駆け抜けるティケリのスピード感が凄まじい!これは今後、吹奏楽コンクール自由曲で人気となるだろう。イメージ的にC.T.スミス/華麗なる舞曲を彷彿とさせるものがあった。ティケリはNHK交響楽団が初めて吹奏楽を演奏したことで話題となった"N響ほっとコンサート2006"で「アメリカン・エレジー」という曲を聴いたことがあるが、1999年コロンバイン高校での銃乱射事件の追悼として書かれた大変静かな曲だった(コープランド/クワイエット・シティに近い感じ)。だから「ワイルド・ナイツ!」はイメージが180度違ったので、こういう曲も書く人なんだと驚いた。

青い水平線」は2003年に大滝実/埼玉栄高等学校が全日本吹奏楽コンクールで演奏し金賞を受賞して以降、既に10校が全国大会で取り上げている。ここ最近は中学校ばかりだが。コンクールでは大体8分以下にカットされたものなので、全3楽章(I. 光を放つ生き物たちII. 大ダコに立ち向かうリヴァイアサンIII. シロナガスクジラ)を通して聴くのは初めての体験。終楽章ではスコア付属のCDに収録されている《海中のクジラの声》を再生する仕掛けもあり、気分はBBC製作のドキュメンタリー映画「ディープ・ブルー(公式サイトはこちら)」だった。

ニュルンベルクのマイスタージンガー」は埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部が全日本吹奏楽コンクール三出休みだった2006年に、宇畑知樹先生からの依頼で森田一浩さんが編曲したもの。(埼玉)県大会と(西関東)地区大会招待演奏で披露されたそうである。ちなみにこの同じ年、丸ちゃん(丸谷明夫先生)率いる淀工(大阪府立淀川工科高等学校)も三出休みで、淀工は関西大会の招待演奏P.グレンジャー/リンカンシャーの花束をやっている。そうそう、宇畑先生が丸ちゃんからの招きでなにわ《オーケストラル》ウィンズの客演指揮者として登場したのもこの年である。

例えば「エルザの大聖堂への行列」など、僕は決して吹奏楽向きではないと想っている。やはりワーグナーの音楽に弦は必要なのだ。でも不思議なことに今回の「マイスタージンガー」に違和感はなかった。森田さんの巧みなアレンジおよび構成力の賜であろう。

 関連記事:

櫛田胅之扶さんといえば、「飛鳥」「雲のコラージュ」など日本的情緒に溢れた作風で有名だが、星座やギリシャ神話に題材を求めた新作 はへヴィメタ、フュージョン、ワルツなどが登場するモダニズムで書かれている。珍味……これ以外に表現しようのない曲だった。第2部が3曲。今後第3部 と第4部を書き、合計12曲にするという構想だそうだ。櫛田さんご本人も会場にお越しになっていた。

プログラム最後の2曲はアメリカを代表する名曲。秋山さんの指揮は速めのテンポ設定、引き締まってぶれないリズム感があって、僕はとても好きだ。最近は関西で指揮台に立たれる機会が少ないのが大変残念である(現在、広島交響楽団音楽監督および九州交響楽団主席指揮者などをされている)。

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市音の定期は毎回ライヴ・レコーディングされ、後にCDが発売されるのでお楽しみに。今回も大変聴き応えありますぞ。

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2008年11月22日 (土)

赤壁/レッドクリフ Part I

評価:B+

映画公式サイトはこちら。三国志の物語はややこしいので、映画を観る前にHPの「物語」と「キャラクター&マップ」の項は押さえて置いた方が無難だろう。

5時間を越える大作になったため、2部作に分けて公開されることになった。また当初、《劉備》役はジョン・ウー監督の朋友チョウ・ユンファ(「男たちの挽歌」)と発表されていたが契約が合意に至らず、残念なことに降板となったそうだ。

Redcliff

物語の前半なので評価は難しいが、映画館に足を運ぶ価値はある面白い作品であることは間違いない。あの名作「ロード・オブ・ザ・リング」だって第1部《旅の仲間》は詰まらなかったのだし、上出来だろう。

僕は「赤壁」を観ながら「ベン・ハー」「十戒」など往年のハリウッド製スペクタクル史劇を想い出した。オールスター・キャストで堂々とした風格、スケール感がある。

香港時代の「男たちの挽歌」('86)からジョン・ウーといえば、

  1. 二丁拳銃(の横っ飛び連射)
  2. 白い鳩
  3. アクション・シーンでのスローモーション。特にロングコートが翻るあの格好よさ!

この美学はハリウッドに乗り込んでからも変わらない。「フェイス/オフ」では教会で鳩を飛ばし、「ミッション・インポッシブル2」では敵のアジトという室内でも鳩を飛ばした。正に東洋のサム・ペキンパーの面目躍如である。

で、帰国して撮った「赤壁」なんだけれど、流石に三国志で二丁拳銃は使えない。だから二刀流に置き換えられた。しかし、白い鳩スローモーションは健在。大いに愉しませてくれた。静と動の使い分けも見事。編集にリズムがあって彼の演出の円熟が感じられた。特に雨のシーンの静謐さが良かったなぁ。

それから岩代太郎の音楽も特筆に価する(彼の公式サイトはこちら)。僕が彼の音楽を初めて聴いたのは大林宣彦監督の「あした」('95)だった。その後TV「白線流し」('96)、大河ドラマ「義経」('05)などで卓越した仕事をし、ポン・ジュノ監督の大傑作「殺人の追憶」('03)では韓国映画にも進出した。「赤壁」は横笛の使い方が三国志の世界に絶妙に合っている。また周瑜と孔明が琴を使って対話し、お互いを理解する場面はこの映画の音楽的ハイライト。エレキギターでジャムセッションしているみたいで実にスリリング。手に汗握った。戦闘シーンの迫力ある音楽もグッド!

近年、久石譲(韓国「太王四神記」「トンマッコルへようこそ」、中国映画「おばさんのポストモダン生活」)、川井憲次(韓国映画「美しき野獣」「南極日誌」)、梅林茂(中国映画「LOVERS/十面埋伏」「王妃の紋章」)など日本の優れた作曲家たちのアジア進出が目立つ。その効果で明らかに韓国映画や中国映画は垢抜けてきた。こうした流れの中に「赤壁」もある。今から想えば「男たちの挽歌」なんか、音楽はダサかったからなぁ……。

今、アジアの映画人たちは結集し、大きな力で世界を席巻しようとしている。間もなくハリウッド一極集中の時代は終わりを告げるだろう。時代の潮流を押し止めることなど、もう誰も出来はしない。

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2008年11月21日 (金)

玉造・猫間川寄席(11/19)

桂 文我さんが世話人をされている猫間川寄席に立ち寄った。

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  • 桂   三幸/立候補
  • 桂こごろう/代脈
  • 桂   文我/肝つぶし
  • 露の 團六/片棒
  • 桂   文我/稲川

3年前に始まった猫間川寄席は今回第35回目、一度も演目が被ったことがないそうである。ということは35×5=175席ものネタが登場したことになる。今後も出来る限りこの方針を貫きたいとのこと。上方落語は奥深いなぁ。

相撲を扱った「稲川」は珍味というか、とても風変わりな噺で、大阪の高座にかけられたのを聴いたことがある人は誰もいないのではないかと文我さんは仰っていた。とても貴重な体験だった。

上方落語において、持ちネタの豊富さでは文我さんと文太さんが双璧だろう。今後も、未知で新鮮な噺を沢山聴かせて頂けることを期待している。

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2008年11月19日 (水)

神尾真由子 登場!~大植英次/大フィル 定期

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会をザ・シンフォニーホールで聴いた。

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プログラムは、

  • ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲
  • ブラームス/交響曲第1番

オケはどちらも対向配置。ベートーヴェン・チクルス同様にブラームスはコントラバスが後方横一列に並んだのに対し、コンチェルトでは客席から向かって左方に配列された(ティンパニが右方)。

また、ベートーヴェンの交響曲ベルリオーズ/幻想交響曲ではスコアに記された全ての繰り返し記号を遵守した大植さんだが、ブラームスの第1楽章提示部の繰り返しは省略された。その意図は不明である。

コンチェルトで登場したのはチャイコフスキー国際コンクールで優勝した神尾真由子さん。神尾さんのリサイタルを集中的に聴いた感想は下記記事に書いた。

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まずはプログラム後半の感想から。

一言で言えば凡演。テンポが遅く、リズムが重くて野暮ったいブラームス。特に第4楽章序奏のピチカートは前代未聞のスロー・テンポで、のけ反った。その後に登場するホルンが朗々と旋律を吹く場面では、僕はいつも霧が晴れ青空が広がっていくアルプスの風景を想い描くのだが、大植/大フィルの演奏はここに至ってもモヤモヤしたまま。不完全燃焼のうちに曲は終結した。

しかし、ベートーヴェンは神尾さんのソロにぴったり寄り添う大植さんの指揮の巧さが光った。冒頭から軽やかで柔らかい響き。弾力があり自発性に富む演奏で彼女を守り立てた。

神尾さんは燃え上がる炎を内に秘めたヴァイオリニストである。幼い頃は、その激しい感情の起伏を抑えることが難しかったそうだが、現在は見事にそれをコントロールする術を身に着けている。ベートーヴェンも抑えるところは抑え、しかし神尾さんの資質である力強さと迸るパッションは決して失われることはない。そして第1楽章と第3楽章のカデンツァでは自分の感情を解き放ち、若馬のように跳躍したヴァイオリンが縦横無尽に天駆ける。圧巻!

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アンコールのパガニーニも才気煥発、恐るべし。是非いつの日か、神尾さんの弾くコルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲も聴いてみたいものである。コンクールの予選でワックスマン/カルメン幻想曲を取り上げた彼女のことだ、期待してもいいだろう(どちらもハリウッドの映画音楽作曲家で、ヤッシャ・ハイフェッツが初演している)。大フィルさん、お願いしまっせ!

記事関連ブログ紹介:
不惑ワクワク日記(同じ演奏会を聴かれた感想)

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2008年11月18日 (火)

その土曜日、7時58分

評価:A-

映画公式サイトはこちら。原題は"Before the Devil Knows You're Dead"である。これはアイルランドの慣用句"May you be in heaven a full half hour before the devil knows you're dead."(お前が死んだのを悪魔が知る30分前には天国にたどり着きますように)から来ている。どうも乾杯の掛け声でこれを言うらしい。文化の違いというのは面白い。このタイトルの意味するところが、観ている間にボディーブローのようにじわじわ効いてくる。

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映画が終わり、場内が明るくなった時に僕が確信したのは「これは1982年『評決』以来のシドニー・ルメットの傑作だ!」ということ。帰宅して調べてみると、あちらこちらのレビューに異口同音のことが書かれており苦笑した。みんな感じることは一緒なんだ。シドニー・ルメット、現在84歳。凄い監督だ。

嘗てニューヨーク派と呼ばれたフィルム・メーカー達がいた。「十二人の怒れる男」「ネットワーク」「狼たちの午後」のルメット、「タクシー・ドライバー」「ニューヨーク・ニューヨーク」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のマーティン・スコセッシ、そして「アニー・ホール」「マンハッタン」「ハンナとその姉妹」のウディ・アレンらである。しかし、アレンは「マッチポイント」(2005)以降ロンドンで映画を撮るようになり、スコセッシは実業家ハワード・ヒューズを描いた「アビエーター」(2004)でNYを離れ、「ディパーテッド」(2006)の舞台はボストンである。だがルメットは本作でもNYで撮ることにこだわった。

一言で言えば悪魔に魅入られ破滅していく駄目人間たちの物語である。救いはない。しかし間違いなく人生の真実の断面がこの映画には刻印されている。まるで「オイディプス王」「王女メディア」などギリシャ悲劇を観ているかのようだ。時制をバラバラにし、各登場人物たちの視点から再構成したオリジナル脚本(劇作家ケリー・マスターソンの映画デビュー作)がパーフェクト。

「カポーティ」でアカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフモアンをはじめ、イーサン・ホーク、アルバート・フィニーら役者陣も見事なアンサンブルで魅了する。必見。

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2008年11月17日 (月)

大分の旅《九重高原》篇

大分は山の国である。

旅2日目の話をしよう。臼杵では鷺来ヶ迫温泉 ・俵屋旅館に泊まった。正に秘湯であった。

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朝、レンタカーを借りてJR・重岡駅へ。無人の駅で列車は一日三往復しか通らない。深閑としており、近くの森から鳥の声が聞こえてきた。

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ここは伊勢正三 作詞・作曲の歌をモチーフにした映画「なごり雪」のロケ地でもあり、《六つの別れ》が描かれた。

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重岡駅を発ち九重高原に向かう途中、竹田の岡城跡に寄った。

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この竹田で作曲家・滝廉太郎は12歳から3年半を過ごした。そしてその記憶が名曲「荒城の月」を生んだ。

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ここも映画「なごり雪」の舞台となった。山深く、周囲の景色もとても美しい。

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さらに赤川温泉で一風呂浴びたのだが、そのことは既に書いた。

そして九重高原に到着し、大分県内で一番美味しいと評判のフレンチ・レストラン「ア・マ・ファソン」で昼食を頂く。

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驚くべきことに予約で満席。いやぁ、内装は豪華だし眺めもいい。そして味も申し分なかった。 

食後、車を走らせ長者原へ。

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広大な湿原にすすきが見渡す限り広がっている。

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その日は筋湯温泉に泊まった。静かな宿で泉質も良かった。

3日目、九重”夢”大吊橋へ。

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凄い人の数で橋も揺れ、なかなかスリリング。

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橋から紅葉した渓谷、そして2つの滝が見えた。絶景かな、絶景かな!

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旅の終わりは鄙びた宝泉寺温泉へ。

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この露天風呂がたった1,000円で貸切!山間の湯をゆったりと愉しみ、旅の疲れを癒した。

大分県は温泉の源泉数、湧出量ともに日本一だそうである。有名な別府、湯布院だけではない。そのことを今回、実感することが出来た。

そして旅の切っ掛けを与えてくれた愛しき映画たち、「なごり雪」「22才の別れ」に心から”ありがとう”の言葉を贈りたいと想う。

これから先の人生で、 どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。
 (芦原すなお 著「青春デンデケデケデケ」より)

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2008年11月16日 (日)

大分の旅《うすき竹宵》篇

大分の旅、第1日目(11/1)の話をしよう。

初めて臼杵(うすき)という読み方と《うすき竹宵》のことを知ったのは大林宣彦監督の映画「なごり雪」(2002)である。映画が公開された当時、僕は仕事で四国の愛媛県新居浜市に住んでいた。松山全日空ホテルで行われたスクリーンコンサート、映画上映前に大林監督と「なごり雪」を作詞・作曲した伊勢正三さんのトークショーやミニ・ライブもあった。そしてその年の秋、僕は臼杵へと旅立ったのである。ことの顛末は下記記事に書いた。 

今回の旅の契機となったのは昨年公開された大林監督の「22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語」。映画のラストシーンで、まるで奇蹟のように美しい《うすき竹宵》が登場するのだ。それをうっとりと眺めながら「嗚呼、また臼杵に往きたい!」と切実に想ったのである。

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臼杵石仏である。なかなか味のある仏像である。

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この石仏は映画「なごり雪」火祭りの場面でも登場する。



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向かいの広場にはコスモスが咲き乱れていた。

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映画でロケされた小手川商店。「水田酒造」という看板は映画の小道具である。ここでお昼を頂いた。臼杵の郷土料理、黄飯やきらすまめしが美味しい。きらすまめしきらすまめし

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大林監督が買い取った邸宅が改装され「クランク・イン!」という喫茶店としてオープンしている。お店のホームページはこちら。写真右下、竹宵の準備で既に竹ぼんぼりが用意されているのが見える。

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お店の暖簾には監督のサインと共に映画「22才の別れ」にちなんで彼岸花(リコリス)があしらわれている。

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「なごり雪」にも登場する二王座歴史の道。竹ぼんぼりが沢山置かれている。

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映画のヒロイン"雪子"の家。6年間にここを訪ねた時は、映画で使用された発泡スチロールの雪がまだ残っていた。今回も一生懸命地面を探したが、さすがにもう「なごり雪」は見当たらなかった。ここにも竹ぼんぼりが設置され、夜になって人々が口々に「"雪子の家"へ往ってみよう」と言っているのを聞いた。

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日が傾いてきた。上の写真は「なごり雪」の後、大林監督が臼杵で撮ったテレビCMに登場する風景。

臼杵といえば日本酒とふぐの町。夕食は喜楽庵でふぐ料理を頂く。これが絶品!最初に出てきた厚切りのてっさの歯ごたえとボリュームから圧倒された。僕は今まで大阪、下関、そして新居浜などでふぐを食べてきたが、ここの美味さは最高峰である。

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てっちりの後なんとか雑炊までたどり着き、満腹の腹を抱えて夜の町を歩く。いよいよ《うすき竹宵》の始まりである。2万本を超える竹ぼんぼりに市民の手で蝋燭の炎が灯される。

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幽玄の世界をぶらぶら散策しながら八坂神社に向かう。般若姫(はんにゃひめ)行列を見るためである。

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6年前、般若姫に選ばれたのは「なごり雪」の主演女優・須藤温子さんだった。須藤さんは全日本国民的美少女コンテストでグランプリを受賞し芸能界入りした(その年に審査員特別賞を受賞したのが上戸彩)。また、2007年の般若姫は「22才の別れ」のヒロイン鈴木聖奈さんだったそうだ。

今年の般若姫は公募で地元の短大生が選ばれたようである→読売新聞の記事

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後はもう、竹宵の美しい写真を見て下さい。言葉はいらない。

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上の写真は多福寺に上がる階段に設置された竹ぼんぼり。上部に寺門が薄っすら写っている。ここも「なごり雪」のロケ地である。

旅は2日目へと続く。

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2008年11月15日 (土)

その日のまえに 

評価:B+

映画公式サイトはこちら

はじめに断っておくが、僕は大林宣彦監督の筋金入りファンである。尾道三部作、新三部作を観ては広島県・尾道市でロケ地めぐりをし、「廃市」の福岡県・柳川市、「なごり雪」「22歳の別れ」の大分県・臼杵市、「はるか、ノスタルジイ」の北海道・小樽市にも旅をした。そして遂には「天国に一番近い島」こと、ニューカレドニアのウベア島にまで往ってしまった人間である。常軌を逸していることは重々自覚しているつもりだ。だから、どうしても評価は甘くなる。

大林作品は基本的にカルト(既成の社会からは正統的とは見なされない)映画である。だから本作に関しての感想は一切、責任が持てない。そのつもりで、以下読んで頂きたい。

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余命わずかと宣告された妻、そして彼女を見守る夫や子供達との最後の日々を綴った重松清の同名小説(連作短編)に基づく。大林監督がこれを映画化したいと企画していることは以前から知っており、2年ほど前に原作を読んだ。

重松清が書く、あざとい小説世界が僕は大嫌いだ。「流星ワゴン」も途中まで読みかけて、読者を泣かせようという意図ありありの展開に閉口してやめた。「その日のまえに」はヒロイン《和美》の無神経な台詞の数々(例えば、再開発のため立ち退きを余儀なくされた商店街の人々に対し、「みんな幸せにやってるよね」など)に腹が立ったが、それでも我慢して何とか最後まで読んだ。しかし一体全体この小説のどこに大林監督が惹かれたのか、皆目理解出来なかった。

それでも映画は違うのではないかと期待していた。何故なら脚色が市川森一だからである。彼が大林監督と組んだ映画「異人たちとの夏」(原作:山田太一)も良かったし、大河ドラマ「黄金の日々」('78、NHK)、第1回向田邦子賞を受賞した「淋しいのはお前だけじゃない」('82、TBS)、そして 「明日(あした)-1945年8月8日・長崎」('88、日テレ)等が僕はとても好きだ。現実とファンタジーの融合が巧みなシナリオライターである。

映画「その日のまえに」を観て、期待通り、いや、それ以上の出来で嬉しかった。原作小説を換骨奪胎し、しかもそれに宮沢賢治の詩「永訣の朝」や「銀河鉄道の夜」「セロ弾きのゴーシュ」を合体、さらに短編童話「やまなし」に出てくるクラムボンまで登場させるという力技。こりゃあ、重松清のファンは怒るだろうなぁ(実際に評判はすこぶる悪いようだ)。しかし小説の嫌らしい部分=灰汁(あく)を浄化し、夢か現か幻かという境界線を曖昧にして紛れもない大林+市川ワールドに転化したその手腕を高く評価したい。不覚にも僕は感動し、涙が零れた。

兎に角、《とし子》を演じた永作博美が素晴らしい。こんな魅力的な女優だったのかと目を瞠った。これは彼女のための映画である。《駅長君》も良かった。

それにしても大林監督は相変わらず作為に満ちた人工的映画に仕上げている。永作以外の役者は全員台詞が棒読み。はめ込み合成を駆使した画面を多用し、雨のシーンでは実際には水を降らさず、撮影済みのフィルムに後から特殊効果の雨脚を加えたりしている(この手法は「時をかける少女」でも用いられた)。一般の観客には何故このような演出法を用いるのか理解して貰えまい。そりゃ、僕だって上手く説明は出来ない。「だって、監督の流儀だから」と答えるしかない。

寂しいことに「その日のまえに」は大阪府では梅田ブルク7の単館上映である。余り多くの人の目には触れないだろう。しかしこれはカルト映画の宿命であり、詮ないことである。

こちらに監督のロング・インタビューが掲載されている。原作との出会い、宮沢賢治がこの物語と合体した経緯、ヒロインが《和美》から《とし子》に代わった理由などなかなか面白い。

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2008年11月14日 (金)

ドナウ川の流れにのせて~飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪 定期

いずみシンフォニエッタ大阪の記念すべき第20回定期演奏会を聴くため、いずみホールに足を運んだ。指揮は現代音楽の紹介に心血を注ぐ飯森範親さん。

 関連記事:

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今回はザ・フェニックスホールとの連携企画でドナウ川周辺諸国の音楽にスポットライトが当てられた。昨年の「環バルト海の音楽」というテーマを引き継ぐものとなっている。

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まずは恒例となった、開演前のロビーコンサート。

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マリンバは近くで聴くととても大きい音がしてびっくりした。低音が腹に響く。

メイン・メニューは以下の通り。

  • 川島素晴/シンフォニア「ドナウ」世界初演
  • クルターク(ルーマニア)/...幻想風に...
  • カプースチン(旧ソ連、現ウクライナ)/11人の奏者のための協奏曲世界初演
  • ニクレスク(ルーマニア)/ISON I日本初演
  • シェーンベルク(オーストリア)/室内交響曲 第1番

飯森さんと川島素晴さんのプレ・トークもあった。川島さんの新作は想像上のドナウ川クルージング。まずは起点、ドイツ南部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)から始まる。森の囁き、水の湧き出る音。そしてJ.シュトラウス/ワルツ「美しく青きドナウ」が主流となり、それにスメタナ/交響詩「モルダウ」、ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」第2楽章、ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲「春」第1楽章から小川の情景などが加わる。やがて川が下るとブラームス/ハンガリー舞曲やリスト/ハンガリー狂詩曲が聴こえてきて、いつしか奔流はルーマニアの作曲家イヴァノヴィチ/ワルツ「ドナウ河のさざなみ」へと移行する。そこへバルトーク/ブルガリア舞曲が登場し、最後ウクライナから黒海に注ぎ込むところで、ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」より"キエフの大門"が見えてくるという仕掛け。正に音楽のコラージュ。ワクワクして聴いた。

クルタークはハンガリーの民族楽器ツィンバロンの生演奏が聴けたのが嬉しかった。どんな楽器かというと→今回演奏された斉藤 浩さんのオフィシャル・サイトへ。

カプースチンは天才ピアニスト、マルク=アンドレ・アムランのCDで知っていたが、ピアノ独奏曲以外はこれが初体験となった。彼の音楽は旧ソ連から想像されるような重苦しいものでは全くなく、シンコペーションやベース(コントラバス)のピッツィカート多用などJAZZYな雰囲気に満ちている。不協和音のない調性音楽で耳に馴染みやすく、大いに気に入った。これは傑作!

ニクレスクという作曲家は今年亡くなったそうである。日本では殆ど知られておらず、様々な楽器の音が集合してユニゾン(単一)となり、やがてまたバラバラとなってはさらに別の音に収束するということを繰り返す摩訶不思議な曲だった。

シェーンベルクの曲はまだ彼が十二音技法を編み出す前に作曲されたもので、マーラーやツェムリンスキーなど世紀末ウィーンの音楽を彷彿とさせる芳醇で濃密な世界。

多彩な音楽を堪能し、とても充実したひと時を過ごすことが出来た。申し分のないパフォーマンスを披露した演奏者たち及び、いずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督・西村 朗さんに心から敬意を表したい。

次回のいずみシンフォニエッタ大阪定期演奏会には指揮者の下野竜也さんが登場。イギリス特集である。詳細はこちら

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2008年11月13日 (木)

トウキョウソナタ

評価:D-

映画公式サイトはこちら。2008年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 審査委員賞受賞。

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「トウキョウソナタ」と銘打ちながら、クライマックスにピアノで弾かれるのがドビュッシー/月の光(「ベルガマスク組曲」第3曲)というのが笑止千万。それなら「トウキョウ組曲」にすべきだろう。大体、映画自体がソナタ形式(提示部-展開部-再現部)のような堅固な構成になっていない。

ありふれた台詞、思わせぶりなだけで中身のない登場人物たちの行動。血肉の通った《人間》が描けていない。以上。

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2008年11月12日 (水)

アンドレアス・シュタイアー/フォルテピアノで弾くシューマン

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フォルテピアノの第一人者、アンドレアス・シュタイアーのリサイタルを大阪のザ・フェニックスホールで聴く。

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曲目はオール・シューマン・プログラムで、

  • 子供のためのアルバム より
  • スケルツォ、ジーグ、ロマンツェとフゲッテ
  • フゲッタ形式による7つの小品 
  • 森の情景
  • 子供の情景
  • (アンコール)暁の歌

フォルテピアノについての詳しい説明は、下記記事に書いたので今回は省略する。

使用された楽器は1846年にウィーンで製作されたヨハン・バプティスト・シュトライヒャー。

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足ペダルが2つで(モーツァルトの時代は膝レバー)、鍵盤は85鍵(現在のピアノは88鍵)。「森の情景」や「子供のためのアルバム」が作曲されたのが1848年だからシューマンが生きていた当時の楽器である。

モーツァルトの時代に製作されたものと比較すると、現代のグランドピアノにかなり近い。しかし些か金属的で痩せた音がする。そして音域(高低)により音色が違うというフォルテピアノの特徴も残っている。

僕はハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの交響曲は基本的にモダン・オーケストラよりも古楽器の方が相応しいと想っているし、例えばバッハ/ゴルドベルク変奏曲などは、グレン・グールドのピアノで聴くよりもチェンバロ演奏の方が好きだ。

しかし、フォルテピアノに関してはそうは想わない。やはり楽器として未完成の響きがする。例えばハイドンのピアノ・ソナタの場合、現代楽器で弾かれたマルク=アンドレ・アムランの一分の隙もない完璧な演奏を聴くと、当分これを凌ぐものは現れないだろうと畏怖の念を抱かずにはいられない。

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シュタイアーのシューマンは素晴らしい演奏だった。恐らく作曲家の頭の中にはこのような音が響いていたのだろう。ただ、マルタ・アルゲリッチの弾くよりダイナミックなシューマンも捨てがたく、オリジナルvs.モダン楽器の勝負は五分五分かなという気がした。

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2008年11月11日 (火)

比良山荘、秋の味覚

滋賀県にある比良山荘までドライブした。道中、大原三千院への標識が目に留まったので寄ってみた。

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拝観料700円。見るべきものは写真中央のわらべ地蔵くらい。値段が高くて中身は薄い。これを僕は《京都価格》と名付けている。湯豆腐なんかも馬鹿高いよね。

さて、比良山荘に到着。

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昨年訪れた時は初夏の鮎だったが、今年のお目当ては子持ち鮎である。

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八寸は松茸の菊花和えなど、秋の味覚満載。中でも茸のくるみ和えは絶品だった。

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鯉の洗いも相変わらず美味い。ここの鯉は泥臭さやしつこさとはまるで無縁だ。夏に食べた時は小骨が少し気になったが、今回は全く気にならなかった。

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いよいよ子持ち鮎が登場。まずは第一弾が塩焼きで一人二匹ずつ。

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第二弾も塩焼き。

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なれずしとうるか和え。正に珍味。

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さらに香味焼きが登場。

計五匹の子持ち鮎を堪能した。頭からかぶりつくと、口の中いっぱいの卵がほどけるように崩れる。だが、どちらかと言えば僕は夏の鮎の方が好みだ。子持ち鮎は確かに美味しいが、続けて何匹もいただくにはちょっと濃厚かも。結局、鮎特有のあの淡く繊細な味と香りが好きなのだ。卵の主張が強いと、それが薄れてしまう。

その後、秋野菜の炊き合わせが出て、子持ち鮎と松茸を炊き込んだ鮎松ご飯へと続いた。

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よそってもらい、鯉こくと漬け物と共に。

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このご飯に関しては夏よりも、断然秋に軍配が上がる。米粒ひとつひとつにたっぷりの鮎の卵がまとわりつき、ともすればくどい味になりそうなのを、松茸がすっきりした味と芳香で締める。

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最後は熟し柿。切り口が漆のようにとろりと光っていた。柿は苦手だから普段は食べないのだが、美しい外見にスプーンを取った。まるでジュレのような果肉が口の中で溶ける。

この後、MIHO MUSEUMへも足を伸ばした。山の中の素晴らしい景観の中に佇む美術館である。到着したのが遅かったので駆け足の鑑賞になったが、建物のデザインが洗練されておりコレクションも充実していて驚いた。今度またゆっくりと訪ねてみたい。

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2008年11月10日 (月)

第一回 やまあい寄席 

新しく出来た大阪府・和泉市南部リージョンセンターの多目的ホールで11月9日(日)、第一回目の落語会を聴く。

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野菜など和泉市の特産品も販売されていた。

ここは公共交通機関を利用すると、泉北高速鉄道・和泉中央駅からバスに乗り換え30分、さらに徒歩10分という大変不便な場所にある。上方落語界のホープ・桂吉坊さんも、果たして人が集まるのか心配されていたそうだ。

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しかし蓋を開けてみると用意されていた椅子は開演までに一杯となり、追加席が設けられるくらいの大盛況となった。

  • 桂  吉坊/つる
  • 桂左ん吉/手水廻し
  • 桂  吉坊/ふぐ鍋

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初回ということもあってか、吉坊さんはマクラで高座の最中に携帯電話がなった時のエピソードを話され、また見台(けんだい)や小拍子など小道具の紹介もあった。膝隠しは高座が小さいために置くゆとりがないとのこと。

鳴り物(お囃子)は生演奏ではなく、予め録音されたものが使用された。

「つる」は開口一番(前座)がよくする軽いネタだが、吉坊さんのような端正な芸風(まだ27歳!)では、また違った味わい・面白さがあり中々良かった。ただ、「ふぐ鍋」はネタそのものが弱いかな?という気がした。

この「やまあい寄席」は今後、二ヶ月に一回のペースで開催される予定だそうだ。 お代は1,000円ぽっきり。聴衆はみな満足げな笑顔で帰っていった。

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2008年11月 9日 (日)

メンデルスゾーン三昧!~広上淳一/大阪シンフォニカー交響楽団

児玉 宏さんの音楽監督就任以来、破竹の勢いで快進撃を続ける大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会(11/7)に足を運んだ。

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オール・メンデルスゾーン・プログラムである。

  • 序曲「静かな海と楽しい航海」
  • ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲
  • 交響曲第1番

広上淳一さんの指揮は速めのテンポで小気味好く、柔軟性と弾性に富んだ解釈だった。嗚呼、これぞメンデルスゾーン!

記事「広上淳一/大フル いずみホール特別演奏会」にも書いたが、広上さんのハイドンは「何故、ビブラートを掛けて演奏させるのか?」「どうしてバロック・ティンパニを用いないのか?」など疑問だらけで愉しめなかったが、メンデルスゾーンの時代まで下ればこれらの点は気にする必要もなく、心穏やかに耳を傾けることが出来た。交響曲第1番は今年5月にドリアン・ウィルソン/大フィル定期でも聴いたが、広上/大阪シンフォニカーの方が颯爽として生き生きした表現で、断トツに良かった。「素敵な曲だなぁ」と今回、心から想った。

コンチェルトは作曲家14歳の時の珍曲。協奏曲というのは本来、独奏とオーケストラが対等であるべきだが、この曲は独奏が登場するや否やオケが後ろに引っ込み、ヴァイオリン・ソナタのような様相を呈してくるから可笑しかった。つまり、コンチェルトである意味がない。では詰まらなかったか?と問われればそんなことは決してなく、滅多に聴けない曲を体験出来てとても有意義だった。

独奏はヴァイオリンが米元響子さん、ピアノが河村尚子さん。米元さんは神尾真由子さんほど力強くなく、かといって9月シンフォニカーの定期で聴いた山田晃子さんほどエレガントでもなく、余り印象に残らなかった。まあそれだけ、日本は桁外れの才能を持つ女性ヴァイオリニストたちを多数輩出しているということなのだろう。河村さんは的確なタッチで堅固なリズム感もあり、上手い人だなと感心した。

最後に、この演奏会に出演されたFg奏者の方がご自身のブログに大変興味深いことを書かれているのでご紹介しておく。

・ ふーじーの見た空

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2008年11月 8日 (土)

《17世紀》 中野振一郎/チェンバロ・リサイタル 2008

中野振一郎先生のチェンバロを大阪・イシハラホールで聴いた。

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中野先生は紛れもなく、日本一のチェンバリストである。また、世界的に見ても十指に入る傑物であることは間違いない。僕はこの一年でバルトルド・クイケンと来日したチェンバロ奏者や、ラ・プティット・バンドのメンバー、そしてトン・コープマンの演奏も体験したが、いずれも中野先生と比較すると聴き劣りがした。

並外れた技量、畳み掛けるスピード感、そして先鋭な切れ味。どれをとっても超一級品。これを聴かずして何を聴く?

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昨年のリサイタルの感想はこちら。今年のテーマは17世紀。J.S.バッハ登場直前の時代にスポットライトが当てられた。

「最後の宗教戦争」と呼ばれた三十年戦争後の荒廃したドイツ、そして「太陽王」と呼ばれたルイ14世の下でバロック文化が頂点に達したフランス・ブルボン朝。フローベルガーやルイ・クープラン、ブクステフーデなど余り馴染みのない作曲家たちの曲がプログラムに並んだが、質実剛健なドイツ音楽、そして華麗なフランス宮廷舞曲などそれぞれの特徴が鮮明で、とても面白い音楽体験であった。

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この素晴らしいリサイタルを聴き逃した人々に朗報。12/21(日)にザ・シンフォニーホールで開催される「第九deクリスマス」、この第2部に中野振一郎先生が登場する。詳細はこちら。また、第1部で演奏される延原武春/テレマン室内管弦楽団&合唱団によるベートーベン/交響曲第9番は以前聴いたことがあるが、ベートーヴェンが指定したメトロノーム速度を遵守し、ピリオド・アプローチによる目の覚めるような快演だった。この年末に関西で演奏される第九のうち唯一聴く価値のあるものとなるだろう。これは絶対お勧め!

えっ、大植/大フィルの第九?興味のある方は昨年の感想↓をお読み下さい。

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2008年11月 7日 (金)

全日本吹奏楽コンクール《職場・一般の部》 2008

大阪国際会議場で開催された第56回全日本吹奏楽コンクール《職場・一般の部》の感想を書こう。

実際に高校の部、職場の部、一般の部を通して聴いて、全体の平均的実力を比べると、

高校>一般>職場

となる。勿論、例えば職場の部のヤマハ吹奏楽団や一般の部の大津シンフォニックバンドのように、高校の部の金賞校に匹敵する実力を持った団体もあるが、それは極めて例外的な話である。

この差の理由は確率論から考えれば明らかであろう。吹奏楽コンクールA部門(全国大会予選)の参加団体数と、全国大会出場団体数との比を以下に記す。

  • 高校 29/1544=1.9%
  • 一般 16/483=3.3%
  • 大学 12/168=7.1%
  • 職場 8/25=32%

つまり職場の部で全国大会に出場できる可能性は一般の部の10倍、高校の部の17倍もあるのだ。職場の部は来年から一般の部に統合されるそうで、これは大変結構な話である。

だから吹奏楽コンクールで一番聴き応えがあるのは高校の部なのだが、職場・一般の部の魅力は吹奏楽オリジナル曲(しかも初演)が多いことである。高校はオーケストラの編曲ものが多く、聴いていて「やっぱり管弦楽曲はオケの演奏には敵わない」と想う事がしばしばある。

では印象に残った団体について書こう。

職場の部

ヤマハ吹奏楽団浜松 金賞

普段から楽器の製作、修理などに携わっている職人たちの集団だから言ってみればセミ・プロ。だからべら棒に上手い。指揮はクラシック系サキソフォン奏者としては世界一、そして東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターでもある須川展也さん。我流の指揮法がとてもユニークで見ていて面白かった。曖昧さのない明晰な演奏でppもよく音量が落ちていた。演奏が終わり須川さんが客席に着くと、女子高生4人組が握手を求めてやって来た。須川さんが気軽に応じるととても嬉しそうに顔を見合わせ、自分たちの席に戻って往った姿が微笑ましかった。

ブリヂストン吹奏楽団久留米 金賞

兎に角、音圧が凄かった。自由曲はストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」より。金管がブイブイ鳴らす"魔王カスチェイの凶悪な踊り"は良かったが、美しい旋律の"王女たちのロンド"はもっと繊細さが欲しかった。ただこれは、オーケストラ曲を吹奏楽ですることの限界かも知れない。

阪急阪神百貨店吹奏楽団 銀賞

正直、今年の阪急にはがっかりした。課題曲 I は始終、鳴らしっぱなし。自由曲のベートーヴェン/「エグモント」序曲は、なんでこれを吹奏楽で演奏する必然性があるのかさっぱり分からなかった。本来ヴァイオリンで演奏する譜面をクラリネットに置き換えたアレンジはとても変!意味がない。音のバランスは悪いし、演奏は緊張感に乏しく精彩を欠く。僕は銅賞で十分だと想った。

一般の部

名取交響吹奏楽団(宮城県) 金賞

引き締まった演奏で特に金管が強烈だった。自由曲は吹奏楽オリジナルのメリロ/プラトンの洞窟からの脱出。まず野性的で重々しい歩みのAパートから開始され、それが清らかな響きのBパートへ移行する。そして最後はA+Bで大いに盛り上がって終わる。なかなか良い曲だった。

ソールリジェール吹奏楽団(埼玉県) 金賞

全国大会2回目の出場にして初の文教大学吹奏楽部のOB・OGを中心に編成された一般吹奏楽団なのだそうだ。指揮をされた瀬尾宗利さんは管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」などを作曲したマルコム・アーノルドの編曲者として特に有名。ソールリジェールの自由曲もアーノルド/交響曲第4番より第1・3・4楽章だった。ちなみに今年の全日本吹奏楽コンクールでアーノルドを演奏したのは4団体。その全てが瀬尾さん編曲だった。一音一音が丁寧で、アーノルドの伝道師としての気合が導いた勝利という気がした。

土気(とけ)シビックウインドオーケストラ(千葉県) 金賞

土気はなによりその大人数に気圧(けお)される。チューバが6、バス・クラが3、そしてトロンボーンが7人。低音の厚みが凄い。しかし、一糸乱れぬアンサンブルが展開されるのだからこれはもう、文句なし。ちなみに土気のブログによると、コンクール本番当日の練習は淀工の合奏場を借りたらしい。自由曲は鈴木英史/カントゥス・ソナーレだった。

大津シンフォニックバンド(滋賀県) 金賞

課題曲 V 「火の断章」のベスト演奏はここで決まり!スコアの見通しが良く、曲を聴きながらマグマの蠢きやら熱風を感じることが出来た。自由曲の鈴木英史/鳥のマントラ/萬歳楽》は金管の輝かしい響きが印象的だった。

実は正直言うと、僕は鈴木英史さんを「小鳥売り」「メリー・ウィドウ」「こうもり」「微笑みの国」などオペレッタの卓越した編曲者として高く評価しているが、彼のオリジナル曲は散漫な印象で、今まで一度も良いと想ったことがなかった。しかし、《鳥のマントラ/萬歳楽》は違った。短いモチーフが執拗なまでに繰り返され、曲全体に統一感がある。時折聴こえてくる鳥の声も清々しい。これは後世に残る名曲だろう。ちなみにOSBの音楽監督である森島洋一さんによる曲の解説はこちら

今年は川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団(指揮/福本信太郎)と川越奏和奏友会吹奏楽団(指揮/佐藤正人)が三出休みだったのが残念であった。しかし福本さんは相模原市民吹奏楽団を、佐藤さんは秋田吹奏楽団を率いて出場された。

相模原市民吹奏楽団(神奈川県) 銀賞

課題曲 III はパーカッションが印象的。自由曲の鈴木英史/ライフ・ヴァリエーションズ〜生命と愛の歌〜はリズムが強烈で、ストラヴィンスキー/春の祭典を彷彿とさせた。しかし、終わり方は唐突だった。

秋田吹奏楽団 銀賞

兎に角、阿部勇一/「沈黙の地球(ほし)〜レイチェル・カーソンに捧ぐ〜」という、自由曲のタイトルが気取りすぎ。音楽という抽象芸術で環境問題を語ろうなどとは、実におこがましい。力任せで身も蓋もない曲。これがコンクールで演奏されることは恐らく二度とあるまい。

リヴィエール吹奏楽団(東京都) 銀賞

推進力ある演奏。サックスもよく鳴っていたし、切れがあってここは金賞に値すると想った。自由曲は天野正道/エスティロ・デ・エスパーニャ・ポル・ケ?カスタネットなどパーカッションが大活躍し、如何にもスペイン!という感じで最高。最初の半音階はラヴェル/スペイン狂詩曲みたい。それが途中からファリャ風になってリズムの多彩な変化が面白かった。これは今後、人気曲になるかも知れない。

尼崎市吹奏楽団(兵庫県) 銀賞

自由曲は伊藤康英/吹奏楽のための「北海変奏曲」。これも気に入った。華やいだ始まりで、のびやかで賑やかな祭りの音楽となる。ソーラン節なども聴こえてきて愉しい。

伊奈学園OB吹奏楽団(埼玉県) 銀賞

指揮は伊奈学園の中学、高校も全国大会に導いた宇畑知樹 先生。淀工はOBよりも現役生の方が遥かにアンサンブルの精度が高いのだけれど、それは伊奈学園でも同様。つまりアマチュア・バンドの実力を決めるのは楽器の経験年数ではなく、練習時間ということだ。高校生は平日毎夜遅くまで、さらに土日も練習出来る。しかし社会人はそうはいかない。仕事があるし、家族に対する責任もある。そこに歴然とした差が生まれるのだ。

伊奈学園OBバンドの演奏は一週間前に聴いた高校生たちの演奏と比較したら拙い演奏であった。しかしそこには宇畑先生とOBたちの強い絆、師弟関係の美しさが認められ、僕は深い感銘を受けた。

課題曲 V は透明性が高く、滑らかな半音階で強風が吹き荒れるような雰囲気が醸し出されていた。自由曲はプッチーニ/歌劇「トゥーランドット」より(後藤 洋 編)。テンポの変化に富み、重さと軽さのコントラストが鮮明。非常に劇的でオペラの一場面が目の前に浮かぶようであった。

宇畑先生とOBたちの演奏を聴きながら僕が感じたこと。それは《人を感動させるのは技術ではない。音楽は心だ》ということであった。

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2008年11月 5日 (水)

桂吉弥「くしゃみ講釈」「たちぎれ線香」

10/30に繁昌亭で桂吉弥さんの落語会を聴く。

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  • 左ん吉/延陽伯
  • まん我/へっつい幽霊
  • 吉弥   /くしゃみ講釈
  • 吉弥  /たちぎれ線香

吉弥さんはマクラで桂小米朝改め、米團治襲名披露公演の話をされた。襲名の口上を述べる場面で吉弥さんは司会をすることが多く、米朝ざこば南光ら大先輩や東京からのゲストがずらりと舞台上に居並ぶ中、「恒例により敬称は略させていただきます。決してNHK『ちりとてちん』で人気が出たからといって、天狗になっているわけではございません」と前置きすると、すかさずざこばさんが、「いや、オレは思うてるよ!天狗になってるて!!」と大声で言ったことを明かされ、場内大爆笑となった。

吉弥さんの「くしゃみ講釈」はDVD「繁昌亭らいぶシリーズ3」で既に観ていた。2007/11/3に繁昌亭で収録されたものだから、丁度1年前である。今回、生で接して驚いた。明らかに進化している!あちらこちらに新たな工夫が加えられ、爆笑度が上がっているのだ。特に圧巻だったのはクライマックスの講釈。最初は小声でゆっくりと始まり、次第に声が大きくなりテンポも加速する。畳み掛けるような、その迫力ときたら!いくら人気者になっても決して奢らず、日々精進されてきた成果が歴然と現れていた。

ただ、「たちぎれ線香」という大ネタは37歳の吉弥さんにはまだまだ難しいかなとも感じさせられた。

僕が最初にこれを聴いたののが吉弥さんの大師匠に当たる桂米朝さんのDVD。そして先日、繁昌亭昼席で林家染二さんの高座を聴いた。何れも素晴らしいもので、この二人に比べると吉弥さんの「たちぎれ」は正直、物足りなかった。

噺の途中から登場する番頭の風格、後半で明らかとなる芸妓・小糸の純愛。そしてクライマックス、誰も弾かないのに鳴り出す三味線とともに聴こえてくる地唄「雪」で醸し出される幽玄の世界。この深さを表現し尽くすには噺家としてさらに経験を積み、年輪を重ねていく必要があるのだろうと痛感させられた。

ここで枝雀 著「桂枝雀のらくご案内」(ちくま文庫)から引用しよう。

うちの師匠(米朝)の『たちきれ』をはじめて聞かせてもろた時も感激しましてね。この噺は大阪落語の大物中の大物で、若旦那と芸妓の純愛をテーマにした噺なんですけど、私はこの『たちきれ』一席が、他のすべての落語を合わせたものとつりあうとまで思いましたからな。師匠に「もし私が『噺をやめる』言いだしたら、『落語には"たちきれ"があるねんぞ』と言うてください。きっと帰って来ますから」とマジで言うたこともあります。(中略)『たちきれ』はあこがれのネタです。

吉弥さんはまだ若いし、現時点で噺家として完成してしまっていたら、それはそれで詰まらない。だから今から十年後、二十年後に吉弥さんの「たちぎれ線香」を聴く日を、また愉しみにして待ちたいと想う。

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上の写真は常夜灯に群がる虫の如く、会がはねて挨拶に現れた吉弥さんを取り囲む聴衆の様子。サインや写真撮影のリクエストに気さくに応じる彼の姿があった。

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2008年11月 4日 (火)

田辺寄席 in 寺西家 (10/24)

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  • 桂   ひろば/兵庫船
  • 笑福亭たま/宿替え
  • 桂     文太/坊主の遊び
  • 桂     春駒/持参金

たまさん目当てで寺西家に往った。

「宿替え」は言わずと知れた、「代書」と並ぶ故・桂 枝雀の十八番。たまさんのそれは枝雀流とは一味違った《一生懸命のお喋り》で、そこまでするか!?という位ドタンバタンの大アクション。床を叩く音に迫力があり、すこぶる面白かった。この芸風と京都大学経済学部卒という経歴が全く結びつかないところも凄い。彼の将来が愉しみだ。

博識の文太さんは、またまた珍しいネタで落語の奥深さを堪能させてくれた。

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2008年11月 3日 (月)

天神寄席(10/25)

繁昌亭にて毎月25日恒例の天神寄席(夜席)に足を向けた。前売り2,000円とお手頃価格。

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  • 笑福亭喬介/犬の目
  • 桂  阿か枝/金明竹
  • 桂     蝶六/豊竹屋
  • 笑福亭松喬/首提灯
  • 桂     珍念/憧れのカントリーライフ(三枝 作)
  • 笑福亭仁福/転失気
  • 桂   きん枝/孝行糖

演目は予め発表されていないので、どんな噺かなとワクワクしながら聴く。

松喬さんはまず故・桂枝雀も得意としていた「上燗屋」から始まった。酔っぱらいの所作が愉しく、笑いを誘う。会話で吃音のある・なしを使い分ける巧さは松喬さんの師匠である笑福亭松鶴の「らくだ」を想い出した。

中トリなのに「上燗屋」みたいな軽いネタをやるんだなぁと不思議に想っていたら、それが「道具屋」へと続き、これはもしや!?と気づく間に「首提灯」に突入。大ネタを堪能させて貰った。

開口一番(前座)の喬介さんは松喬さんの孫弟子にあたる。成る程、「犬の目」と「首提灯」は屈指のSF上方落語。最初から計算された構成となっていたんだと感心した。

きん枝さんのされた「孝行糖」は滅多に高座に掛からない珍しいネタ。笑いは少ないがとても興味深く拝聴した。これが聴けて良かった。

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2008年11月 2日 (日)

赤川温泉にて

赤川温泉にて
臼杵から九重高原に向かう途中、赤川温泉に立ち寄った。

エメラルド・グリーンの湯に硫黄の匂い。ここの泉質は九州随一だろう。僕は、由布院や黒川温泉より好き。

今回の旅行記はいずれ詳しく書くつもりだが、その前に吹奏楽コンクール《職場・一般の部》等を仕上げなければ。

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2008年11月 1日 (土)

大分県臼杵市にて

大分県臼杵市にて
携帯電話から送信中。いま「うすき竹宵」に来ている。この光景は、大林宣彦監督の映画「22才の別れ」のラストシーンでも登場した。

ところで、今日は淀工吹奏楽部創部50周年記念大阪城ホール・コンサートのチケット発売日。ちゃんと臼杵に向かう特急列車の中から電話で確保した。

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