その土曜日、7時58分
評価:A-
映画公式サイトはこちら。原題は"Before the Devil Knows You're Dead"である。これはアイルランドの慣用句"May you be in heaven a full half hour before the devil knows you're dead."(お前が死んだのを悪魔が知る30分前には天国にたどり着きますように)から来ている。どうも乾杯の掛け声でこれを言うらしい。文化の違いというのは面白い。このタイトルの意味するところが、観ている間にボディーブローのようにじわじわ効いてくる。
映画が終わり、場内が明るくなった時に僕が確信したのは「これは1982年『評決』以来のシドニー・ルメットの傑作だ!」ということ。帰宅して調べてみると、あちらこちらのレビューに異口同音のことが書かれており苦笑した。みんな感じることは一緒なんだ。シドニー・ルメット、現在84歳。凄い監督だ。
嘗てニューヨーク派と呼ばれたフィルム・メーカー達がいた。「十二人の怒れる男」「ネットワーク」「狼たちの午後」のルメット、「タクシー・ドライバー」「ニューヨーク・ニューヨーク」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のマーティン・スコセッシ、そして「アニー・ホール」「マンハッタン」「ハンナとその姉妹」のウディ・アレンらである。しかし、アレンは「マッチポイント」(2005)以降ロンドンで映画を撮るようになり、スコセッシは実業家ハワード・ヒューズを描いた「アビエーター」(2004)でNYを離れ、「ディパーテッド」(2006)の舞台はボストンである。だがルメットは本作でもNYで撮ることにこだわった。
一言で言えば悪魔に魅入られ破滅していく駄目人間たちの物語である。救いはない。しかし間違いなく人生の真実の断面がこの映画には刻印されている。まるで「オイディプス王」「王女メディア」などギリシャ悲劇を観ているかのようだ。時制をバラバラにし、各登場人物たちの視点から再構成したオリジナル脚本(劇作家ケリー・マスターソンの映画デビュー作)がパーフェクト。
「カポーティ」でアカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフモアンをはじめ、イーサン・ホーク、アルバート・フィニーら役者陣も見事なアンサンブルで魅了する。必見。
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