スカイ・クロラ
評価:D-
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もし「世界で最も偉大な長編アニメーション作家は?」と問われたら、僕は宮崎 駿と即答する。これはよっぽどへそ曲がりでない限り、全人類の9割が同意してくれる筈だ。
「では、日本でその次に優秀なアニメーション演出家は?」と問われたら、ここから各々意見が分かれるところだろう。僕なら細田 守(「時をかける少女」)、原 恵一(「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」)、そして押井 守を挙げる。
えっ、大友克洋(「AKIRA」「スチームボーイ」)は?という質問にはこう答えよう。彼のイラストレーターとしての画力は大したものだ。しかし、プロットを構成する能力が完全に欠如しているのでアニメーション作家として認めることは出来ない。庵野秀明については「新世紀エヴァンゲリオン」は確かに傑作だけれど、それ以降の作品はどうしようもない。
さて、押井 守の話である。以前にも書いたが、僕が彼の作品の中で特に好きなのは次の3作品。
- うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
- 機動警察パトレーバー2 the Movie
- イノセンス(GHOST IN THE SHELL 2 : INNOCENCE)
しかし実写映画はさておき、押井守のアニメーション作品の中で「スカイ・クロラ」は最低の出来だった。これならまだ、あの「天使のたまご」('85)の方がはるかにマシ。
特にキャラクター・デザイン(西尾鉄也)が最悪。全く魅力がない。「スカイ・クロラ」と過去の傑作群との大きな相違は何かと真剣に考えた。そこで導き出された結論。上記3作品は全て原作漫画付きなのである。つまり、キャラクター・デザインが優れていることは予め保証されていたのだ。押井 守は絵が書けない演出家である。だから、優れたアニメーターと組むことが如何に重要であるかを「スカイ・クロラ」は反面教師として明確に示している。
アイデンティティークライシス(identity crisis)という本作のテーマは、押井が「ビューティフル・ドリーマー」「天使のたまご」「迷宮物件」などで追求してきたものの焼き直しに過ぎない。また"キルドレ"(遺伝子制御薬の開発時に偶然生まれてしまった子供のこと)という設定は、カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」の二番煎じである。
それから「攻殻機動隊 2.0」でも感じたことなのだが、立体感のあるCGとあくまで平面のセル画が同居すると、とても違和感があって仕方がなかった。やはり両者の並立は極めて困難であり、ピクサー・アニメーション・スタジオ(「ファインディング・ニモ」「レミーのおいしいレストラン」、「WALL・E/ウォーリー」)のようにフルCGに移行するか、「崖の上のポニョ」みたいに完全に鉛筆画に戻るか、どちらかしか道はないように僕には想われる。
「スカイ・クロラ」はベネチア国際映画祭に正式出品され、酷評された。上映途中に立ち去る観客も多かったと聞く。
……それでも僕は押井 守という作家が好きだから、このどん底から立ち直り、目の覚めるようなアニメを再び創って欲しいと願わずにはいられない。
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コメント
これは”映画”だ・・。と思い、鳥肌立てながら観ていました。過去の作品と比べても、随分身近に感じられました。過去作品の仰々しい壮大さ(好きではありますが)が消え、より切なくより繊細な表現が成立していると思います。論理武装を削ぎ落とし、今まで足りなかったドラマやストーリーの厚みに重点を置いていると思います。アニメでここまで感情的に揺さぶられる作品はありませんでした。映画の空気に人間が感じるリアルさを感じました。私は史上最高傑作だと思います。
投稿: ひろひろ | 2010年7月11日 (日) 05時02分