鈴木秀美とオーケストラ・リベラ・クラシカの仲間たち
神戸が生んだバロック・チェロの巨匠、鈴木秀美さんのコンサートに往った。
オール・モーツァルト・プログラムで、演奏されたのは、
- ディベルティメント K.136-138
- セレナード「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
- アダージョとフーガ
- アヴェ・ヴェルム・コルプス(アンコール)
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は日本語で言うと「小夜曲」。英語なら"A Little Night Music"で、これは「スウィーニー・トッド」などで名高いミュージカルの巨匠、スティーブン・ソンドハイムの作品名ともなっている(1973年トニー賞で最優秀作品賞、楽曲賞、台本賞など受賞。演出は「オペラ座の怪人」のハロルド・プリンス)。"A Little Night Music"はミュージカル全編がワルツで作曲されるいう際立った手法が用いられている。
「アダージョとフーガ」は元々、「2台のピアノのためのフーガ」を作曲者自ら弦楽合奏用に編曲し、それにアダージョの序奏を付け加えたもの。このフーガを僕が初めて聴いたのはアニエス・ヴァルダ監督による、残酷で美しいフランス映画の傑作「幸福」(1965、キネマ旬報ベストテン第3位)。メイン・テーマとして使用されたフーガに嵐の予感のような鮮烈な印象を受けた。しかも驚くべきことに「幸福」で使用されたのは、なんと木管アンサンブル版だった!これは必聴(そして必見)。
さて、今回演奏したのは秀美さんが音楽監督を務めるオーケストラ・リベラ・クラシカ(OLC)のメンバー7人で、第1、第2ヴァイオリンが2名ずつ、そしてヴィオラ、チェロ、コントラバス各1名という編成だった。第1、第2Vnが前方で向かい合い、奥中央がコントラバス、その左右にヴィオラ、チェロが配されるという、対向配置。現代のスチール弦ではなく昔ながらのガット弦(羊の腸)を張り、バロック弓を使用、ヴァイオリンには顎あてがなく、チェロにはエンドピンがないピリオド楽器、当然(装飾音以外ではビブラートをかけない)ピリオド奏法による演奏であった。
メイン・プログラムは秀美さんにサインを頂いた上記CDの曲目そのまま。メンバーもほぼ同じだったが、今回出演される予定だったヴィオラの森田芳子さんが都合により参加されず、成田寛さん(山形交響楽団契約首席)が代役をされた。その為かヴィオラが些か遠慮がちで、もっと自己主張が欲しい気もした。
全体としては名手揃いの素晴らしいアンサンブルで大変聴き応えがあった。ガット弦はいぶし銀の音色がして、硬質なスチール弦とは違い肌の温もりが感じられる。速めのテンポで歯切れがよく、軽やかなモーツァルトであった。
秀美さんのトークも面白かった。まず「アイネ・クライネ…というタイトルは、まるでアブラカタブラみたいですね」と笑わせ、「これらの曲が作曲された当時、お客様たちは貴族の人々でした。皆様が食事をしながら、あるいは恋を語らい合う横で、私たちしがない楽師たちが演奏したのです」といったお話をされた。
またガット弦は高温多湿に弱く、何度も調弦をし直さなければならない。秀美さんは「今日は満席なので大変湿度が高くなっています。皆様、なるべく息をなさらないようお願いします」と茶目っ気たっぷりに仰り、終始和やかなムードでコンサートは進行した。
来年はヨーゼフ・ハイドン没後200年という記念の年である。秀美さん、次回は是非もっと大人数を引き連れ、関西でもOLCのハイドンを聴かせて下さいね!
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