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映画「おくりびと」そして、峰岸徹さんを悼む

評価:A+

非の打ち所のない、完璧な作品。文句なしに本年度日本映画のベスト1である。

僕が滝田洋二郎監督の映画を初めて観たのは「コミック雑誌なんかいらない!」('86)。静謐なコメディを撮る人だなというのが第一印象であった。以来、「木村家の人々」('88)、「病院へ行こう」('90)、「僕らはみんな生きている」('93)などの人間喜劇を愉しんで観た。だが残念 ながら近年の滝田監督は些か低迷していた感は否めない。ところが、である。「おくりびと」は間違いなく滝田監督の最高傑作となった。

モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞。英語タイトルは "Departures"だそうだ。米アカデミー外国語映画賞の日本代表にも選ばれた。2006年の代表が「フラガール」、2007年が「それでもボクはやってない」と首を傾げざるを得ない選出だったが(無論ノミネート落選)、今年の選考委員は確かな目を持っていたと言えるだろう。これなら十分アカデミー賞本選にノミネートされる可能性がある。

Departures

お隣の韓国でも今月30日から150スクリーン規模で公開されるそうだ。大変めでたい。

映画公式サイトはこちら。是非、古川展生をはじめ日本を代表する13人のチェリストを起用した目の覚めるような音楽に耳を傾けて欲しい。宮崎アニメでも有名な久石 譲さんが作曲した新たな名曲の誕生である。

まず本作で初めて映画の仕事を手掛けた小山薫堂によるオリジナル・シナリオが素晴らしい。元々は本木雅弘が「納棺師をやりたい」と希望したのがこの企画のはじまりだそうだ。納棺師が主人公、本木主演、そして山形・庄内地方で撮るという条件を与えられた小山は庄内にシナリオハンティングに赴き、物語の考想を練ったという。

本木演じる主人公はプロのオーケストラに所属するチェリスト。借金して一千八百万円のチェロを購入した矢先、赤字経営のオーケストラは解散の憂き目に遭う。そして彼はチェロを手放し、失意のうちに古里の山形に戻る。この設定が実にリアルで面白い。

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映画の冒頭、主人公が演奏するベートーヴェンの第九を指揮していたのがなんと飯森範親さんだった!考えてみればマエストロ飯森は山形交響楽団の常任指揮者だから、そういった経緯で本作に協力することになったのだろう→シェフ範親の窓へ。

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僕は広末涼子の全盛期は映画「20世紀ノスタルジア」(1997)の頃だと確信している。これを監督した原将人は当時、《広末涼子は女優菩薩である》と絶賛した。そして僕は「おくりびと」の彼女を観て「20世紀ノスタルジア」以来初めて、ヒロスエがいいと想った。

本木雅弘はさすが自ら望んだ役だけあって、大変な気合いがスクリーンを通してこちらにビシバシ伝わってくる。チェロは猛特訓を受けて自分で弾いているそうだし(現在も趣味で続けているとか)、納棺師になってからの所作も滑らかで美しい。また、上半身裸で登場する場面があるのだが、僕は彼が主演した名作「シコふんじゃった」(周防正行監督)のことを想い出した。

過去の映画を彷彿とさせると言えば山崎 努もそう。題材も「お葬式」(伊丹十三監督)に近いものがあるし、納棺師のハウ・トゥーを教えるビデオ制作の場面は明らかに「お葬式」のパロディになっている。

本木の父親役、峰岸 徹がいきなり死人として登場したのにも驚かされた。「廃市」(大林宣彦監督)の彼の役を連想させたのは決して偶然ではないだろう。「おくりびと」には生前の回想シーンもあるが、台詞は一切なし。

さて、10月11日に峰岸さんは亡くなった。享年65歳。肺がんだったそうである。公式ブログ(こちら)には、がん告知を受けた時の心境が綴られている。

遺作となったのは大林宣彦監督の「その日のまえに」(11月1日公開)。これは余命幾ばくもない妻と、その夫が、残された時間を如何に生きるかというテーマの作品である。

峰岸さんは「瞳の中の訪問者」(1977)以降、大林映画最多出演(28本)を誇る。当初「その日のまえに」の出演予定はなかったのだが、峰岸さんの余命が短いことを知っていた大林監督が編集中に思い立ち、7月21日に自宅前で1シーンのみ追加撮影したそうである。

僕が好きな峰岸さんの役はやはり何と言っても「廃市」('84)。そして「日本純情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群れ」('88)の"着流しの男"や、「あした」('95)の演技も印象深い。味のある名脇役だった。

峰岸さん、お疲れ様でした。そして今までありがとうございました。勿論、峰岸さんの遺言を聞きに「その日のまえに」を上映する映画館に馳せ参じます。

今、僕の脳裏には大林監督の次のような言葉が思い起こされる。

映画作りとは命に限りのあるもの(人間)が、永遠の生命を有するもの(フィルム)に、その想いを託すことである。

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コメント

おお、「おくりびと」見られましたか。
俺も終らないうちにどこかで見られたらと思います。

峰岸徹さんまで亡くなりましたねぇ。
この数日前に緒形拳さんが突然亡くなって緒形さん
のことばっかり考えてましたが、まさか峰岸さんまでとは

投稿: S | 2008年10月15日 (水) 20時26分

Sさん、コメントありがとうございます。「おくりびと」は必見です。

緒方拳さんで僕が一番印象に残っているのは映画「砂の器」(1974)の、元島根県警亀嵩駐在所巡査部長・三木謙一 役ですね。人間の優しさが滲み出した素晴らしい演技でした。「鬼畜」('78)も良かったなぁ。どちらも松本清張原作ですね。

日本映画のエポック-メーキングとなった「砂の器」のキャスト、スタッフも多くの方が亡くなってしまっています。しかし、シナリオを書いた橋本忍は現在90歳ながら健在で、間もなく公開される映画「私は貝になりたい」は自らの脚本をリライトしたそうです。凄いですね。こちらもとても愉しみです。

投稿: 雅哉 | 2008年10月15日 (水) 22時21分

少々遅れましたが、「おくりびと」、快挙でしたね。

伊丹十三の「お葬式」に似てる点もありますが、いろんな人を納棺するときに心を込めて遺体をきれいにする、そんなところから、遺族との間に心が通い合うという視点は、「お葬式」にはなかったところですね。心の通い合いといっても、後々続くものでもなく、それぞれの遺族とはそのとき限りの付き合いなんですが、その一回一回を大切にしているところが心にしみました。

西洋でも、棺に遺体を置いて、花でいっぱいに飾って、遺体と対面するというのは、葬式に際して儀式としてあるわけで、誰でも身内を見送った経験のある人にとっては、自分の体験と重ね合わせて見ることができるという稀有な映画だったと思います。それは西洋の人にとっても同じなんだろうと思います。

今のところアメリカでは特別な機会を除いては公開されていないようですが、ミシガンに住むアメリカ人にこの映画のことを伝え、英語の公式サイトを紹介したところ、非常に興味を持って「非常に面白そうな映画。機会があれば見てみたい」という返事が来ました。

峰岸さんは、大林監督の映画になくてはならない存在でしたが、体も鍛えていて、ダンディでしたよね。でも、そのキザなところを大林監督に取り去ってもらえたことが、峰岸さんにとってもいい経験だったのでしょうね。味わいのあるバイプレーヤーになれたのは大林監督のおかげではないでしょうか。大林映画では、本当にいろんな役どころを演じていました(「ねらわれた学園」はちょっと気の毒だったかな)。

私は去年の9月に見ましたが、今になってまた大ヒットで、近くのシネコンでは、先週一日一回に限って再上映が始まりましたが、反響がすごく、今週は一日三回に増え、さらに明日の土曜日からは一日5回上映に増えます。

日本の田舎の風景も美しく、主演の本木雅弘の所作も美しく、心にしみる映画でした。世界で評価されて本当にうれしいです。ブラジルに住む知人も、4月に一時帰国するのですが、滞日中にぜひ見たいと言っています。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年3月 6日 (金) 18時17分

アメリカにはエンバーミング(embalming)という遺体衛生保存の技術がありますから「おくりびと」ハリウッド・リメイクの話もあるそうですよ。

「ディパーテッド」「ノーカントリー」はアカデミー賞を受賞しても興行的に振るわなかったので、《オスカー効果》はもう死語なのかなと想っていましたが、「おくりびと」での威力は絶大でしたね。なにしろ公開25週目で初の興行ランキング1位を記録したのですから!日本人って、意外と愛国心が強いのだなと驚きました。

投稿: 雅哉 | 2009年3月 6日 (金) 20時24分

3月3日発売の「週刊朝日」の、この映画に関する記事が興味深かったですね。

本当に、偶然というか奇跡のような出来事が積み重なってこの映画が出来たんですね。

ひとつの大きなことが起こるまでには気の遠くなるような偶然が重なるものだということがつくづく感じられました。

投稿: ぽんぽこやま | 2009年3月 8日 (日) 15時25分

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