オーケストラと吹奏楽の幸福な出会い~下野竜也×外囿祥一郎
下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団のスペシャルライヴに往った。ゲストはユーフォニアム奏者の外囿祥一郎さん。《吹奏楽ファンに捧げる》という今回の企画は下野さんの発案で始まったという。
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司会を担当したのは淀川工科高等学校(淀工)教諭の丸谷明夫 先生(丸ちゃん)。
チケットは完売で、高校生の比率がとても高かった。客席の雰囲気はなにわ《オーケストラル》ウィンズの演奏会に近いように感じられた。

プログラム最初は、
- ショスタコーヴィチ/祝典序曲
吹奏楽版はグリーンコンサートで丸ちゃん/淀工の演奏を2年連続聴いているが、考えてみればオーケストラ版を生で聴くのは初めてだった。
僕は以前から大フルのアキレス腱はトランペット・パートであると再三にわたり書いてきたが、またまたミスの連発をやらかしてくれた!もうはっきり言うが、淀工のトランペットは「祝典序曲」で大フィルみたいに音を外さない。高校生に負けるなんて実に情けないじゃないか。
トランペットのバンダ(金管別働隊)は大阪シンフォニカー交響楽団の徳田知希さん、松田貴之さんらが担当され、彼らの方が上手いのが聴いていて歴然としていた。こんな体たらくで来年の大植さんとの定期、マーラー/交響曲第5番は本当に大丈夫なのか?しっかりして貰いたい。
なお、公平を期すため書いておくがプログラム後半、トランペットのトップが秋月孝之さんに交代してからは目立ったミスはなくなった。
- アーノルド/ピータールー序曲
イギリスの作曲家アーノルドは9曲の交響曲を書いているが、日本のオケが彼の作品を取り上げることは皆無に等しい。むしろ、吹奏楽の世界で盛んに演奏されている作曲家である。僕は映画のために書かれ、2006年普門館での井田重芳/東海大付属第四高等学校(北海道)の名演も記憶に新しい「第六の幸福をもたらす宿」が特に好きだ。
今回の演奏会で非常に感銘を受けたのは下野さんの指揮の充実振りである。力強く、スケールの大きな音楽を展開し、ゆったりとした箇所でも堂々として、緊張した糸が緩むことが片時もない。下野/大フィルが2000年、NAXOSに録音したCD「大栗 裕 作品集」は退屈な凡演だと僕は想っているのだが、この8年間でマエストロは飛躍的進化を遂げられたのだなぁと感じ入った。是非、現在の下野/大フィルで大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲を生で聴いてみたいものだ。
- エレビー/ユーフォニアム協奏曲
ここでゲストの外囿祥一郎さん登場。実は下野さんと外囿さんはどちらも鹿児島県出身で同い年(1969年生まれ)。中学校の時は学校は異なれど、二人とも吹奏楽部でトランペットを吹いていて、お互いに面識はあったとか。そして外囿さんは福岡工業大学付属(現、城東)高等学校に進学し、鈴木孝佳 先生からの指示でユーフォに転向されたそうだ。
「厳しい先生だったでしょう!」と丸ちゃん。「でもだからこそ、貴方のような名手が育ったんでしょうね。あの当時、普門館で聴いていて福工大府のユーフォは凄く良い音を出してるなぁと感心してたんですよ」
帰宅して早速調べてみた。外囿さんが高校生だった頃、福工大府が全国大会で演奏した自由曲は86年レナード・バーンスタイン/ディベルティメント、そして87年ジョン・ウィリアムズ/カウボーイ序曲あたりのことかと想われる。
外囿さんの演奏は超絶技巧で流石、日本一の奏者だと感嘆した。先日、大阪市音楽団の定期で聴いたスティーヴン・ミードと互角の勝負。僕は特に、過剰にならず節度のあるビブラートのかけ方に感心した。2階サイド席の男子高校生たちも身を乗り出すようにして夢中になって聴いてた。
エレビーの曲自体も良かった。特に、丸ちゃんが一番好きだという第3楽章「ラプソディ」の美しさはこの協奏曲の白眉だろう。亡くなったユーフォニアム奏者ルイへ捧げられた音楽だそうで、むしろ「エレジー(悲歌)」と名付けたいくらい、愛惜の念に満ちた名曲である。
また第2楽章は常動曲(無窮動)と言うべき速いパッセージが続くのだが、途中外囿さんが装着したミュート(弱音器)をコンサートマスターの長原幸太さんが早業で抜き取るという場面もあり、エキサイティングだった。
丸ちゃんから長原さんへのインタビュー・コーナーもあった。何と中学生の時、彼は無理やり吹奏楽部に入部させられ、ユーフォを吹いたことが一瞬だけあったとか。「でも楽譜を移動ドで読まなければいけないのがとても違和感があって、すぐ辞めました」「(固定ドの)フルートだったら続いたかも知れませんね」と丸ちゃん。「いや~そもそも音が出ませんから」(場内笑い)……このような和やかな雰囲気で演奏会は進行した。
- リード/アルメニアン・ダンス・パート I
吹奏楽の名曲中の名曲。まあ言ってみればオーケストラにとってのベートーヴェンの交響曲みたいな存在である。この度、下野さんからの依頼でオーケストラ用に編曲されたのは中原達彦さん(→公式サイトへ)。途中、ヴァイオリン・ソロやチェロのソロ(名手:近藤浩志さん)もあり、これはこれでなかなか良かった。
考えてみればこの曲は元々、リードがアルメニアの民謡を採集したものであり、ブラームス/ハンガリー舞曲と成り立ちが似ている。ハンガリー舞曲は四手用のピアノ曲として書かれたものが管弦楽用に編曲されたわけだが、作曲者自身によるものは21曲中たった3曲しかない(有名な第5番は他者の編曲)。だからアルメニアン・ダンスが日本人の手でオーケストラ曲に生まれ変わってもそんなに違和感はなかった。
編曲者の中原さんも会場にいらしていたのだが、アルメニアン・ダンスが好きで好きで仕方がないという丸ちゃんが下野/大フィルの演奏に興奮して段取りを忘れてしまい、後になって慌てて中原さんを紹介するという微笑ましい一幕もあった。
- J.S.バッハ/コラール「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」(レーガー 編)
弦楽合奏用に編曲されたもの。つまり、吹奏楽ファンで今回初めてオーケストラを聴く人々に弦楽器の音色の魅力を知って欲しいという想いを込めた下野さんのしたたかな戦略である。弦楽器群に関する限り、大フィルの実力は日本でトップクラスであり、静かに心に響く気高き演奏であった。その意図は十分観客に伝わったのではないだろうか?
- レスピーギ/交響詩「ローマの祭り」
これはもう、下野/大フィルの真骨頂!情熱的で気迫に満ちた指揮、そしてそれに正面から応え、最大限に機動力を発揮するオケ。会場からは割れんばかりの拍手。僕は同曲をラモン・ガンバ指揮で昨年9月の定期でも聴いており、こちらも大変な感銘を受けたが、今回もそれに匹敵する名演だった。
また丸ちゃんの紹介「吹奏楽ファンにアンケートを実施したら、オケで演奏して欲しい曲の第1位となる……実際にした訳ではないのですが」には場内大爆笑となったことも付け加えておく。
アンコールは、
- ヴォーン=ウィリアムズ/イギリス民謡組曲からマーチ
ここで下野さんが「指揮は丸谷明夫先生です!」と宣言して会場はどよめいた。これは丸ちゃんも寝耳に水だったらしく、固辞しようとするが下野さんはスキップしながら舞台袖に引っ込まれた。実はこれ、なにわ《オーケストラル》ウィンズ2005で、丸ちゃんが振ったことのある曲なのだ。う〜むシモーノ、おぬし、中々策士じゃのう。しかし、マーチと言えば丸ちゃん。一旦指揮台に立てば見事に振り通したことは言うまでもない。
こうして夢のような演奏会は幕を閉じた。出来うることならば、この会場に集った高校生諸君が将来大フィルの観客として育っていってくれますように。そしてこの日、初めて吹奏楽の世界にふれたクラシック・ファンも、吹奏楽の演奏会に興味を持って足を運んでくれますように。それこそが、下野さんと丸ちゃんが心から願っていることなのだから。
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コメント
トラックバックありがとうございました。
このところ、リードばっかり聴いています(笑)。良い曲ですねえ。
思えば、ヴォーン・ウィリアムズもホルストも吹奏楽曲でなかなか良い曲を書いていますよね。イギリス近代音楽を聴く時、吹奏楽もはずせないジャンルなんだな、ということに初めて気づかされた次第です。
投稿: ぐすたふ | 2008年10月26日 (日) 12時38分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。
これを機会に是非、大阪市音楽団などの定期演奏会にも足をお運び下さいね。ヴォーン=ウィリアムズやホルストも良いですが、最新の吹奏楽曲にも傑作は沢山あります。むしろオーケストラ曲より多いと断言出来るでしょう。
投稿: 雅哉 | 2008年10月26日 (日) 19時57分
こんばんは。
コメントありがとうございました。
演奏会楽しかったですね。
また次回もあるといいな、と思っています。
投稿: ごいんきょ | 2008年10月27日 (月) 20時36分
ごいんきょ様、本当に良いコンサートでした。
チケット完売だし大成功、是非第2弾を期待したいですね!僕の希望は「大阪俗謡による幻想曲」、「プラハ1968年のための音楽」、そしてドアティ/交響曲第3番「フィラデルフィア物語」(その第3楽章が「ストコフスキーの鐘」)等です。
大阪、プラハ、フィラデルフィア……音楽で世界一周というのはどうでしょう?
投稿: 雅哉 | 2008年10月28日 (火) 00時52分
雅哉さん、こんにちは。
スペシャルコンサート、大変感動致しました。
音楽っていいなぁ。…と今更ながら再認識。
もっともっと色々聴きに行きたいと思います。
懐が許せば…なのですが。
息子は昨日いずみホールへSAXを聴きに行った
そうです。
投稿: おかん | 2008年10月28日 (火) 12時33分
吹奏楽のコンサートは改めて行ったことがないのですが
今年の星空コンサートで彼らの技術とバイタリティに圧倒されました。
1/18の淀工吹奏楽部のコンサートですが
アルメリアン・ダンス以外の詳細情報(曲名など)をご存知なら教えて下さい。
投稿: jupiter | 2008年10月28日 (火) 12時44分
おかんさん、コメントありがとうございます。
大阪府からの補助金カットで大フィルの台所事情は大変です。是非応援してあげて下さいね。まずお勧めなのは音楽監督の大植さんが指揮する演奏会。大植さんは大変陽気で、愛すべき人です。あ、でもブルックナーとベートーヴェンは避けられた方が無難でしょう。
投稿: 雅哉 | 2008年10月28日 (火) 13時12分
jupiterさん、こんにちは。
さてお訊ねの件ですが、恐らくまだ「アルメニアン・ダンス」以外、具体的には決まっていないのではないでしょうか?淀工グリーンコンサートについては前回僕が聴いたときのレポートを参照していただければ、大体どんな雰囲気かお分かり頂けるかと想います。
投稿: 雅哉 | 2008年10月28日 (火) 14時00分