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第56回全日本吹奏楽コンクール(2008)高校の部を聴いて《後編》

この記事は第56回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて《前編》と併せてお読み下さい。

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東京代表 東海大学菅生高等学校 銀賞 / 八王子高等学校 銀賞

東京勢は昨年金賞を受賞した高輪台都立片倉が共に3出休みだったため、今年は低調だった。

菅生の自由曲はホルスト/組曲「惑星」より木星。とにかくテンポが遅い。そもそもこの曲は吹奏楽に向いていないんじゃないかなぁ。本来弦楽器が聴く速いパッセージ(音符群)を無理やり木管に置き換えたために難易度が高くなり、テンポを上げられないのだろう。それからpやppで十分に音が落ちないので平板な演奏になった。

八王子の課題曲IIIは磨かれたサウンドでなかなか良かった。自由曲、R.シュトラウス/交響詩「ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は冒頭ホルンの事故が惜しかったが、これはホルン・パートが非常に難しい曲なので仕方ないだろう。シュトラウスの父フランツはミュンヘン宮廷歌劇場の首席ホルン奏者だった。だから彼の音楽はホルンが大活躍をする。八王子の演奏は全体におどけたユーモアがあり、僕は好感を持った。




西関東代表 埼玉県伊奈学園総合高等学校 金賞 / 春日部共栄高等学校(埼玉県) 銀賞 / 埼玉県松伏高等学校 銅賞

伊奈学園の楽器の搬入が終わり、ステージが明るくなって最初に感じたのは「宇畑先生、白髪が増えたなぁ!」ということであった。宇畑知樹 先生は伊奈学園'84開校時の第一期生だそうで、'91年に武蔵野音楽大学卒業と同時に音楽科教員として同校に赴任され、現在に至るとか。この前日、「中学校の部」でも伊奈学園生を引きつれ全国大会に出場され、さらに1週間後には大阪国際会議場で行われた「一般の部」でも伊奈学園OB吹奏楽団を指揮された(「職場・一般の部」も聴いたので、感想は後日アップします)。お疲れ様です。

伊奈学園の課題曲IIは優しく柔らかい響きが印象的だった。自由曲はJ.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番よりシャコンヌ(森田一浩 編)。そこにバッハの厳しさはなく、むしろ哀しみと慈愛で聴く人々を包み込むかのような感動的な演奏であった。文句なしの。しかし、コンクールの審査員に編曲者の森田一浩さんが入っているのは、些かフェアではない気もするのだが……。ちなみに今年、森田さんが編曲した自由曲を演奏したのは3校。そして2校、1校という結果であった。

吹奏楽の世界では一躍人気となった名曲、中橋愛生/科戸の鵲巣(しなとのじゃくそう)を2006年に全国大会初演し、金賞を受賞したのが春日部共栄である。クラシック音楽の編曲ものが席巻する「高校の部」において、邦人作曲家のオリジナル曲に積極的に取り組むこの学校(都賀城太郎 先生)の姿勢は高く評価したい。今年の自由曲は真島俊夫/鳳凰が舞う~印象、京都 石庭 金閣寺~。フランスで開催された国際作曲コンクールでグランプリを受賞した傑作だ(ちなみに真島さんは淀工の十八番「カーペンターズ・フォーエバー」の編曲者でもある)。2006年にこれを全国で初演した川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団も良かったが、春日部共栄もそれに引けをとらぬ演奏だった。竹林を抜ける風の音、清流の静けさをやぶりコーンと心地良く鳴る「鹿おどし」。日本情緒溢れる素晴らしい演奏だった。ここが銀賞という結果は全く理解に苦しむ。

松伏自由曲は三善 晃/「竹取物語」より(天野正道 編)。透明感があって、冴え冴えとした光を放つ月が目に浮かぶような演奏であり曲だった。ちなみに今年「高校の部」で天野さん編曲による自由曲を演奏したのは4校。結果は1校、3校だった。




東海代表 光ヶ丘女子高等学校(愛知県) 銀賞 / 安城学園高等学校(愛知県) 銀賞 / 長野県長野高等学校 銅賞

光ヶ丘女子の課題曲は思い切りのいい、豪快な演奏だった。自由曲はドアティ/ストコフスキーの鐘。2005年に川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団がコンクール初演した曲で、僕はとても好き。もともとオーケストラのために作曲された交響曲第3番「フィラデルフィア物語」第3楽章を作曲者自身が編曲したものだそうで、オリジナル全曲も是非聴いてみたい。どうです、下野竜也さん?

光ヶ丘はハープが最前列左右に配置され、銅鑼や鐘も後方で左右対称に配置されたのが面白かった。またコントラバスを弾く音が強烈でとても良かった。去年がで今年がという審査基準が僕にはさっぱり理解出来ない。

安城学園の自由曲はドヴォルザーク/序曲「謝肉祭」(鈴木英史 編)。軽やかでのびやか。音楽を奏でる歓びに満ちた、高校生らしい演奏だった。




中国代表 岡山学芸館高等学校 金賞 / おかやま山陽高等学校 銀賞 / 出雲北陵高等学校 銀賞

中国支部代表が金賞を受賞するのは2002年以来6年ぶり、 岡山学芸館としては初。しかし大変申し訳ないが、ここが金賞を受賞したのはとても意外だった。演奏を聴きながら取ったメモをそのまま以下に書く。ちなみに自由曲はコダーイ/ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲。編曲は森田一浩さんであった。

課題曲II - タンギングの歯切れが悪い。ホルンはよく鳴っている。
自由曲 - 緊張感が足りない。それぞれの変奏曲の特徴が出ていない。聴いていてダレる。

おかやま山陽の自由曲はマッキー/「翡翠(かわせみ)」より I.雨上がりに... II.焔の如く輝き。小気味よく格好いい曲。リズミカルで明るく、僕はコープランド(「ロデオ」、「エル・サロン・メヒコ」)に近いなと想った。「レッドライン・タンゴ」も最高だし、マッキーは凄い作曲家だ。現代作品の紹介に力を注ぐ指揮者・飯森範親さんも大絶賛→シェフ範親の窓へ。




四国代表 愛媛県立伊予高等学校 銅賞 / 愛媛県立北条高等学校 銅賞

四国地区は7年連続銅賞のみという不名誉な記録に昨年の代表校が終止符を打ち、1という結果であった。しかし今年は……。僕が聴いていても、この評価は致し方ない気がした。




九州代表 精華女子高等学校(福岡県) 金賞 / 原田学園鹿児島情報高等学校 銀賞 / 福岡県立嘉穂高等学校 銀賞

精華女子といえばマーチングの華。皆、日に焼けている。そして彼女たちは坐った姿勢がとても良く、しっかりした美意識が感じられる。課題曲 I は各々のフレーズが丁寧に歌われ、心が一つになっているのが伝わってきた。自由曲はC.T.スミス/フェスティバル・ヴァリエーションズ。初っ端からホルンが大活躍し、アクロバット的技巧を要求される曲として有名。作曲を委嘱した空軍バンドの首席ホルン奏者が大学時代スミスのライバルであったことから、いじわるで難しく書いたという伝説があるくらいである。昨年、精華を聴いた感想に僕は「特にホルンの咆哮が凄まじかった!」と書いたが、その表現がそのまま今年にも当てはまる。今年出場した全29校の中、精華のホルンは最強、6人が完璧に合っていた。また全体も生き生きしたリズムでその快刀乱麻の演奏にワクワクした!

昨年、高校の部で文句なしにNo.1の名演だったのは大滝 実/埼玉栄の「カヴァレリア・ルスティカーナ」であった。そして今年は前半の部が丸ちゃん/淀工の「大阪俗謡による幻想曲」、後半の部は藤重佳久/精華女子の「フェスティバル・バリエーションズ」に止めを刺す。

さて、いよいよ注目の初登場、鹿児島情報高である。屋比久勲 先生が福工大府からこちらに移られてたった2年。きっちり結果を出してこられたのはさすがだ。

まずステージが明るくなっての第一印象。「楽器がみな新品でピカピカ!」チューバなんかライトを反射してとても眩しかった。課題曲 I は中間部で音量がよく落ちていて、全体にカチッと決まった演奏。自由曲、R.W.スミス/交響曲第2番「オデッセイ」は金管の輝かしいファンファーレに「嗚呼、これぞ屋比久サウンド!」と快哉を叫びたくなった。途中、コーラスがあったりマウスピースだけで吹く箇所があったりとなかなか愉しい。聞くところによると1,2年生だけのバンドということで、まだまだ演奏に未熟な所も見受けられたが屋比久 先生とて最初から金賞は考えていらっしゃらないだろう。来年こそ勝負の年と見た。鹿児島情報高の演奏が終わると、僕の隣に坐っていた男性が、連れの女性に「う~ん、屋比久臭がした」と語っていたのがとても面白かった。

嘉穂の自由曲はR.シュトラウス/アルプス交響曲。もっとアルプスの明るい陽光とか、澄んだ空気感が欲しかったなぁ。それから嵐の場面でウィンド・マシーンが乾いた音がして違和感があったこと、全体の響きが混沌としていたのが残念であった。

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最後に表彰式の話。指揮者賞贈呈の場面ではそれぞれの学校の生徒たちが、「せーの」という合図と共に「~先生、大好き!」とか「愛してるぅ」とか「~先生、ありがとう!」とか一斉に声を掛ける。傍から見ていてとても微笑ましい光景だ。しかし淀工はこれをしない。

結果発表で「ゴールド、金賞」とアナウンスされても淀工の生徒たちは歓声を上げないし、卒業生や保護者も淡々と拍手をするのみ。きっと、そのような丸ちゃんの教育方針なんだろうなと僕は想った。

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コメント

雅哉さま こんにちわ!

レポート楽しみにしておりました。
詳しいレポートありがとうございます。
我が家もぜひDVDを手に入れ、各学校の演奏を聴いてみたいと思います!!(CDはダメなんですよね(笑))

淀工も行事が目白押しです。
11月1日は「ファミリーコンサート」、8日は滋賀県高島市民会館で演奏会、15、16日は文化祭、23日は「全日本マーチングコンテスト」
・・・グリコンのチケットの発売もありますね。
またどれかの演奏会でご一緒しているかもしれませんね。

投稿: らいまま | 2008年10月29日 (水) 09時50分

いつも楽しく拝見してます。
森田先生は、自分の編曲の団体には特に辛い点らしいので、かえって大変らしいですよ。

投稿: 柊 | 2008年10月29日 (水) 10時13分

アンサンブルリベルテは川口市ですよ。

投稿: 通りすがり | 2008年10月29日 (水) 12時19分

らいままさん、コメントありがとうございます。

いや、CDが悪いとは言いません。純粋に音楽を愉しむのならそれで十分でしょう。でもDVDなら当然《見る愉しさ》が加わり、それは感動を2倍にも3倍にもすることでしょう。

問題はブレーンミュージックがDVD-BOXセットの課題曲特典ディスクに、今年は何団体を収録してくれるかですね。去年、淀工の「ブルースカイ」は入りませんでした……。

投稿: 雅哉 | 2008年10月29日 (水) 17時22分

柊さん、コメントありがとうございます。

僕は森田一浩さんのアレンジャーとしての才能を高く評価しています。特に伊奈学園の宇畑先生と組んだ一連の仕事は本当に素晴らしいですね。DVD「伊奈学園ベストコレクション2001-2005」に収録された「ラピュタ~キャッスル・イン・ザ・スカイ」なんか、久石譲さんの編曲ものの最高傑作でしょう。

投稿: 雅哉 | 2008年10月29日 (水) 17時34分

通りすがりさん、ご指摘ありがとうございます。本文修正しました。

投稿: 雅哉 | 2008年10月29日 (水) 18時52分

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