クレメラータ・バルティカ&オーケストラ・アンサンブル金沢
井上道義/オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の大阪定期公演に足を運んだ。今回のゲストはギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ(KB)である。
世界的ヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルはラトヴィア生まれ。1969年にパガニーニ国際コンクールで優勝。70年にはチャイコフスキー国際コンクールでも優勝した。つまり、99年パガニーニで優勝した庄司紗矢香(史上最年少の16歳)、90年チャイコフスキーで優勝した諏訪内晶子(同コンクール史上最年少の18歳)や2007年優勝の神尾真由子らの大先輩ということになる。
クレメラータ・バルティカはクレーメルが1997年にバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)の若い弦楽奏者たちを集めて結成した室内オーケストラ。バルト三国はバルト海を挟んでスウェーデンやフィンランドなど北欧諸国と向かい合っている。故にこの地域は《環バルト海》と呼ばれている。地図で各々の国の位置関係を頭に入れておくとこれから書く話が分かりやすいだろう。こちらを参照まで。
プログラムはフィンランドの国民的作曲家シベリウスの作品が前半に、ノルウェーのグリーグが後半に配置された。
- シベリウス/カレリア組曲(OEK)
- シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 (OEK&KB)
- グリーグ/組曲「ホルベアの時代から」(KB)
- グリーグ/劇音楽「ペール・ギュント」(OEK&KB)
オーケストラ・アンサンブル金沢が単独でしたカレリア組曲は、あっけらかんとした凡演。もっと北欧のほの暗い音色が欲しかった。はっきり書こう。昨年、金 聖響さんとのブラームス・チクルス(全4回)を聴いた時も感じたが、ここの実力は明らかに大阪フィルハーモニー交響楽団より下。特に弦楽セクションは大フィルのほうが断然上手い。井上道義さんの指揮も、行進曲のリズムが重たくていただけない。
ところが、OEKの弦楽奏者とほぼ同数のクレメラータ・バルティカが加わったヴァイオリン協奏曲になると、俄然良くなった。鬼火のように青白く燃える、これぞ《環バルト海》の音!
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲は今年1月の大フィル定期で聴いた。この時の独奏はサラ・チャンだったのだが、これがまるでハリウッド映画のように明るく華やいだ音でシベリウスに全く相応しくない。「サラ・チャン、もう二度と日本に来なくていいよ」というのが正直な感想であった。
しかしクレーメルの独奏は素晴らしかった!もうこれ以上のシベリウスは生涯二度と聴けないだろうというくらいの名演。やや線が細いけれど精神がピンと張り、感覚が鋭く研ぎ澄まされた音色。曲を腑分けするような極めて知的な解釈でありながら、決して冷たくはなく、ヴァイオリンが縦横無尽に駆け巡る。
クレメラータ・バルティカ単独の「ホルベアの時代から」も良かった(クレーメルはアンサンブルに加わらず)。オルフェウス室内管弦楽団と同様に指揮者はおかず、それでも23人が一糸乱れぬ卓越した合奏力を発揮した。音楽に活き活きとして畳み込むような勢いがある。快刀乱麻の演奏に快哉を叫んだ。
アンコールの「海を越えた握手」はクレメラータ・バルティカとオーケストラ・アンサンブル金沢の弦楽群が交互に対話するように始まり、それが後半混じり合うことでがっちり握手するという粋な演出。聴きに往った甲斐があったと心から想える演奏会だった。
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コメント
雅哉さん
本当に素晴らしい演奏でしたね。
クレーメルの弾くヴァイオリンの音はとにかく澄んでますよね、
まさにおっしゃるバルト三国の厳しい寒さを彷彿とさせます。
ホルベルク組曲は大阪クラッシックでも聴いたところで、感動が蘇りました。
それだけに『ペール・ギュント』にはちょっと退屈してしまいました。
投稿: jupiter | 2008年9月28日 (日) 22時27分
jupiterさん、コメントありがとうございます。
「ペール・ギュント」は同感です。だから敢えて本文で言及していないという訳なのです。
投稿: 雅哉 | 2008年9月28日 (日) 22時49分